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2022年6月17日 (金)

一世を風靡したバンドの自叙伝的マンガ

今回は最近読んだ音楽系の書籍の紹介。今回はちょっと毛色の違う(?)マンガの紹介です。1980年代から2000年代初頭にかけて活躍したバンド「たま」のメンバー、石川浩司の自伝的小説「『たま』という船に乗っていた」をマンガ化した作品。「Webアクションコミック」連載中の漫画となります。

7月に単行本としてのリリースがアナウンスされたのをきっかけでこの本を知り、既に電子版として分冊版がリリースされていたので読んでみました。「たま」というと、おそらくある年代以上の方にとっては、その名前も聞いたことあれば、音楽も聴いたことある人が多いのではないでしょうか。1980年代終盤にバンドブームの波にのって放送されたオーディション番組「いかすバンド天国」、通称「イカ天」に出場し、「イカ天キング」を獲得。そのままメジャーデビューとなり、「さよなら人類」が大ヒットを記録。その年の紅白歌合戦にも出場し、「たま現象」なる流行語も生み出しました。

ただ、もともとアンダーグラウンドシーンで活躍していたバンドで、ブレイク後もアングラというスタンスを全く変えなかったため、人気面では下落し、「表」からは消えてしまいます。そのため、おそらく音楽に興味のない方にとっては彼らは「バンドブームの中で時代のあだ花的に登場したコミックバンド」という認識が一般的ではないでしょうか。ただ一方で音楽的な評価は非常に高く、例えば以前ここでも取り上げた「日本のロック名盤ベスト100」では彼らのアルバム「ひるね」が47位にランクイン。他に「Jポップを創ったアルバム―1966~1995 必聴disc徹底ガイド」でも「THE GROOVY 90's」でも「さんだる」が名盤として取り上げられているなど、間違いなく「たま」は日本のポップス史上に名前を残している実力派バンドとして認識されています。個人的に彼らとKANは、一般的な認識と音楽ファンの認識の乖離が大きいミュージシャンの代表格だと思っています。

そんな「たま」の、いわゆる「たまのランニング」と言われた石川浩司の自伝的小説だった本作は、単行本が絶版となった後、彼の個人サイト上でアップ。さらに今回のマンガ化につながったようです(マンガ化にあたり、Web上の公開は終了したようです)。作者は漫画家の原田高夕己。現在も連載中で、私が読んだ分冊版では有名なインディーレーベル、ナゴムレコードでのデビューが決まった時点まで進んでいます。

現時点ではバンドの出世譚のような展開となっているのですが、非常に自由に音楽活動を行っていたメンバーが徐々に集結していきバンドを結成する流れもおもしろいのですが、なにより80年代の日本のアンダーグラウンドシーンを垣間見れる感じがするのが非常に興味深く感じます。例えば、当時、飛び込みでライブに参加することが出来た両国のフォークロア・センターの話や、客が勝手に食事をとりわけ、お酒を飲む、名古屋のがらん屋のエピソードなど、今よりおおらかな時代を垣間見れる感じがあり、今となってはなくなってしまった風景をある種の憧憬を持って読み進めました。また、若いたまのメンバーが、仲間と連携しつつバンド活動を模索していく姿は一種の青春群像劇としても楽しむことが出来ました。

そして、そんな内容もさることながら個人的に読んでいて楽しかったのが、このマンガの作風。はっきりいって、完全に藤子不二雄A先生の作風をそのまま取り入れていた感じで、「まんが道」のパロディー的な作風になっています。画風や中に登場する効果音なども完全にA先生風ですし、ハイライトシーンが黒枠でかこまれていたり、人物紹介の時に、それまでの画風と全くそぐわない劇画調になるあたりもそのまんま。他にも水木しげるやつげ義春、楳図かずおのパロディー的なものを取り込んだ作風が非常にユニークでした。

特にA先生の作風は、かなり独特なものがあり、そのため、その作風を一種の「パロディー」として使っているマンガはよく見かけるのですが原田氏の場合、完全にA先生のフォロワーで自分のスタイルとして取り入れています。特にこの連載を進めるにあたって、初期は単なるパロディー的なものに過ぎなかったのが、徐々に自分のスタイルとして確立してきており、藤子不二雄ファンの私としては、素直にうれしく感じられました。

現在も連載中の作品で、おそらく今後、イカ天出場から大ブレイク、さらにその後は人気も落ち着いて、再びアンダーグラウンドシーンでマイペースに活動していく彼らの姿が描かれるのでしょう。今後の展開も楽しみ。また、あらためてたまのアルバムも聴いてみたくなりました。A先生フォロワーとして少年漫画風な画風もまた気軽に楽しめますし、たまというバンドを知らなくても、青春群像的な物語として楽しめるマンガだと思います。今後も読み進めていきたいマンガでした。

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