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2022年6月25日 (土)

勢いを感じる2作目

Title:LOVE ALL SERVE ALL
Musician:藤井風

おそらく今、最も勢いのあるシンガーソングライターの一人といえる藤井風のニューアルバム。You Tube動画で注目を集める中、おととしリリースしたデビューアルバム「HELP EVER HURT NEVER」が大ヒットを記録。昨年の紅白歌合戦にも出場を果たした・・・という成功譚は、いまさらここで記すまでもないと思います。

今回のアルバムでも大ヒットした「きらり」をいきなり1曲目に配置。さらに2曲目も先行配信曲でヒットした「まつり」と配置。アルバムの中で最も注目を集めそうな曲を1曲目、2曲目に続けて配置しているあたりにアルバムに対する強い自信を感じます。そして、その自信を裏付けるように、今回のアルバムは前作を易々を上回るような勢いを感じさせる作品に仕上がっていました。

基本的には、エレクトロサウンドとピアノの音色をベースとしたサウンドに、ジャズの要素を多分に取り入れたAORという方向性は前作と同様。特に「やば。」のようなAOR色の強い作風については、どこか80年代的な雰囲気を感じますし、また「それでは」のような曲は、ストリングスを入れていてスケール感を出しているのですが、良くも悪くもこのベタさには90年代J-POP的な雰囲気も感じさせます。

逆に「へでもねーよ」は強いビートのエレクトロサウンドはかなり今風でHIP HOPの要素も感じられますし、全体的に低音部を強調するようなアレンジのバランスはいかにも今時といった印象が。また、「まつり」や「へでもねーよ」は和風なサウンドを取り入れていますし、「damn」は疾走感あるリズミカルな曲ですが、ギターサウンドが目立つロッキンな要素も強い作風に。バラエティーに富んだ、という以上に自由度の高い作風になっています。

ただ、それ以上に特徴的だったのは、「口語」を自在に歌詞に取り込んでいるそのセンス。彼の口癖をそのままタイトルにした「やば。」や「へでもねーよ」みたいに、普通だったら歌詞に使わないような言葉をそのまま上手く取り入れていますし、「damn」にしても「媚びてまうとは」「そいでこんなに」のように、スラング的な表現をそのまま取り入れつつも、楽曲としては違和感なくまとめています。ここらへんのセンスの良さも見事というほかありません。

このサウンドの面も歌詞の面も、ある意味非常に自由度が高く、いい意味でのこだわりのなさを感じさせるのがいかにも「今どき」といった印象を受けます。もっとも一方で、ジャズやAORのようなアルバムの根底に流れる共通したサウンドの方向性に、逆に一種のこだわりを感じさせ、このバランスが非常に絶妙に機能しているように感じました。

また今回、CD版では初回盤で今回もカバーアルバム「LOVE ALL COVER ALL」がセットとなっているのですが、こちらが非常に素晴らしい内容。ボビー・ヘブやクローヴァー・ワシントン・ジュニアといったミュージシャンから、ブリトニー・スピアーズやジャスティン・ビーバーといったポップ系まで幅広いセレクトもさることながら、基本、ピアノ1本でジャジーにアレンジし、しっかりと聴かせる内容は、藤井風のシンガーとしての才能を感じさせます。おそらく、前回と同様、ある程度のタイミングで配信リリースもされると思いますので、初回盤を手に入れていない方は、それを機に、是非とも聴いてほしい逸品です。

個人的には前作よりぐっと良くなり、勢いも感じさせた傑作アルバム。今、日本で最も人気のあるシンガーソングライターの一人というのは、まさに納得といった感のあるアルバムでした。藤井風の勢いは、まだまだ続きそうです。

評価:★★★★★

藤井風 過去の作品
HELP EVER HURT NEVER
HELP EVER HURT COVER
Kirari Remixes(Asia Edition)


ほかに聴いたアルバム

中島みゆき 2020 ラスト・ツアー「結果オーライ」/中島みゆき

2020年1月からスタートした中島みゆきのライブツアー「中島みゆき 2020ラスト・ツアー『結果オーライ』」。タイトル通り、彼女の最後のコンサートツアーとなるべくスタートしたツアーでしたが、新型コロナウィルスの流行により、24公演中8公演のみで中止。その後も再開されることもありませんでした。しかし、同ツアーの模様がマルチトラックレコーディングとしての記録が残っていたことから急遽ライブアルバムが制作され、リリースされたのがこのライブアルバム。良くも悪くも、コロナ禍の副産物として誕生したライブ盤となります。

今回のライブ盤では、当日のセットリスト全曲が収録。まるで一つのライブを体験しているような構成になっています。また収録曲もまさにベスト盤的な内容になっており聴きごたえ十分。彼女のライブは、以前実施していた音楽劇「夜会」を見たことはあるのですが、純粋な音楽ライブは見たことがありません。当たり前ですが、CD音源と全く変わらない、いやむしろ力強さがさらにましたそのボーカルに圧倒。そのライブの魅力を十分に感じられるライブ盤になっていました。

コンサートツアーがラストということですが、ツアーではない形でのライブは今後も続けていくということ。そういう意味では今後もライブを経験できる可能性は十分にあるだけに、機会があれば彼女のライブに足を運びたいなぁ。そういうことをあらためて感じるライブアルバムでした。

評価:★★★★★

中島みゆき 過去の作品
DRAMA!
真夜中の動物園
荒野より
常夜灯
十二単~Singles4~
問題集
組曲(Suite)

中島みゆき・21世紀ベストセレクション『前途』
中島みゆきConcert「一会」(いちえ)2015~2016-LIVE SELECTION-

相聞
中島みゆき ライブ リクエスト -歌旅・縁会・一会-
CONTRALTO
ここにいるよ

Journey/Little Glee Monster

ベスト盤などを挟みつつ、フルでのオリジナルアルバムとしては約2年2ヶ月ぶりとなるLittle Glee Monsterの新作。メンバーのうち芹奈が長期休養。さらにmanakaも突発性難聴のため、当面、休養に入るなど、グループとして困難な状況を迎えている彼女たち。事実上、芹奈を除いた4人での録音となった本作ですが、「SING」では芹奈を含めた5人での録音になるなど、メンバー全員で乗り越えていこうとする決意も感じさせます。楽曲的には、そんな困難な状況を感じさせないような爽快で明るいポップチューンがメイン。全員の心地よいハーモニーを聴かせてくれます。しばらくは3人での活動になりそうな彼女たちですが、必ずこの困難を乗り越えてくれると信じて、今後に期待したいところです。

評価:★★★★

Little Glee Monster 過去の作品
Joyful Monster
juice
FLAVA
I Feel The Light
BRIGHT NEW WORLD
GRADTI∞N

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