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2022年6月24日 (金)

アイルランド人としてのアイデンティティ

Title:Skinty Fia
Musician:Fontaines D.C.

デビュー作「Dogrel」がイギリスの代表的な音楽賞であるマーキュリー・プライズにノミネートされ、大きな注目をあつめた、アイルランドはダブリン出身のバンド、Fontaines D.C.。前作「A Hero's Death」も大きな注目を集め、イギリスの公式チャートでは最高位2位を獲得。さらに3枚目となる本作では、初となる全英チャート1位を獲得(ちなみに出身地であるアイルランドのチャートでも1位を獲得したようです)。人気バンドとして確固たる地位を築いてきました。

楽曲としては、基本的にヘヴィーでノイジーなバンドサウンドをダウナーな雰囲気で聴かせる作風。ボーカルも淡々とした歌い方をしており、ローファイ気味のインディーロックを奏でるバンド、という紹介は前作と同様。特に今回のアルバムに関して特徴的なのが「Bloomsday」で、思いっきり歪んだギターノイズで埋め尽くされるようなローファイ気味のサウンドに、湿度の低いような淡々としたボーカルで奏でられる楽曲は、いかにもFontaines D.C.らしい作風と言えるでしょう。タイトルチューンでもある「Skinty Fia」もテンポよいリズムにのせられて淡々としたボーカルで展開していくローファイ気味な作風が特徴的で、バンドの特色がよく出ている作風となっています。

ただ、今回のアルバムで言えば、前作「A Hero's Death」以上に、彼らのもうひとつの特徴であったメランコリックなメロディーラインが前面に出て展開されている作風になっていたように感じます。1曲目「In ar gCroithe go deo」は、メランコリックな聖歌のようなコーラスが美しく流れるメロディアスな作風になっていますし、続く「Big Shot」もダイナミックなバンドサウンドにのせてメランコリックなメロをしっかりと聴かせる楽曲に仕上げています。

「Jackie Down The Line」もテンポ良いギターロックなのですが、郷愁感を覚える哀しげなメロディーラインが大きなインパクトに。「I Love You」も哀愁感漂うメロディーが耳に残りますし、「The Couple Across The Way」では、アコーディオンの音色のみをバックにして、しんみりと歌を聴かせる楽曲に。前作以上に、哀愁感、あるいは郷愁感のあるメロディーラインをしっかりと聴かせるスタイルが特徴的でした。

そして今回のアルバムでもうひとつ大きな特徴となったのは、彼らのアイルランド人としてアイデンティティの影響が大きく表れているそうで、アルバムタイトルである「Skinty Fia」は「鹿の天罰」というアイルランド特有の罵り言葉から来ているとか。さらにアイルランド語のタイトルになっている1曲目「In ar gCroithe go deo」は、イングランドに住んでいたアイルランド人の女性が亡くなった時、アイルランド人としての誇りを讃える意味で墓標に刻もうとした言葉。「あなたを決して忘れはしない」という大意のある言葉なのですが、イングランドの協会が政治的スローガンとして解釈される可能性があるとしてアイルランド語を刻むのを認めなかったという話が、わずか2年前にニュースとして流れてきたのにショッキングを受けて、タイトルにしたそうです。

全体的にロンドンに暮らす多くのアイルランド人が経験する差別的な扱いに対する苦悩がアルバムにも反映されているそうで、ダウナーで物悲しいメロディーやサウンドは、そんなアイルランド人の苦悩を反映されたものになっているそうです。日本人として漠然を聴いているだけでは、その内実まですぐにアルバムから読み取ることは困難ですが、そんな思いがつまったアルバムだからこそ、例えストレートにわからなくても私たちの胸に響いてくるのかもしれません。

前作に引き続き今回のアルバムも文句なしに今年を代表する傑作アルバムになったと思う本作。前作同様、ダウナーでノイジーなバンドサウンドに、意外とポップなメロということでPixiesあたりの影響も強く感じます(Pixiesからの影響は本人たちも公言しているようです)。ロックリスナー、特にオルタナ系ギターロック好きなら、間違いなく要チェックのアルバム。今年のフジロックへの来日も予定されており、日本でもさらに注目度が高まりそうです。

評価:★★★★★

Fontaines D.C. 過去の作品
A Hero's Death


ほかに聴いたアルバム

Everything Was Beautiful/Spiritualized

約3年ぶりとなるSpiritualizedのニューアルバム。前作「And Nothing Hurt」ではサイケなサウンドを展開していた彼らでしたが、今回は、コロナ禍の中での作品でありつつ、逆に明るさを感じさせる作風に。祝祭色を感じる「Always Together With You」からスタートし、ホーンセッションも入ってメロディアスに聴かせる「Let It Bleed (For Iggy)」、フォーキーな「Crazy」、賑やかなサウンドでメロディアスな「The A Song (Laid In Your Arms)」と、明るい雰囲気の作品が続いていきます。ラストの「I’m Coming Home Again」こそサイケでダウナーな作品になっているものの、全体的に明るい「歌」を聴かせてくれる作品。ポップなアルバムとして存分に楽しめた1枚でした。

評価:★★★★★

Spiritualized 過去の作品
Songs in A&E
Sweet Heart Sweet Light
And Nothing Hurt

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