コロナ禍での音楽表現
Title:アダプト
Musician:サカナクション
前作「834.194」以来、約2年9カ月ぶりとなるサカナクションのニューアルバム。今回のアルバムは、昨年11月に行われた無観客オンラインライブからその後の観客を入れてのライブツアー、そしてこのアルバムへと続くプロジェクトの一環としてリリースされた作品。コロナ禍で作品を表現する企画の第一章と位置付けられているそうで、第二章「アプライ」へと続くことがアナウンスされています。
前作「834.194」もコンセプチャルな作品でしたし、ちょっと理念先行的な「頭でっかち」な方向性を感じてしまうのは気になってしまうのですが、それを差し引いても、今回のアルバム、ポップ作品としても非常に優れた作品に仕上がっていました。今回のアルバムは全9曲入りのミニアルバム的な作品(ただし、うち1曲はCDのみの収録となっており、配信では全8曲)。また、1曲目「塔」はアルバムの中でイントロ的なインスト作でしたので、実質的に8曲入りなのですが、どの曲もしっかりとそれぞれの曲の個性を主張するような楽曲が並んでいました。
アルバム全体としては、マイナーコード主体のメロディーラインで、メランコリックな作風が特徴的。その中でミディアムファンクやダブの要素を取り入れて、湿度の高い音楽をねっとりと聴かせる「キャラバン」からスタートし、彼ららしいエレクトロダンスチューンに、歌謡曲的なメロと歌詞が印象的な「月の椀」、ダイナミックなバンドサウンドで疾走感があり、ロックテイストの強い「プラトー」と続いていきます。
アルバムの中である種の核となっているのが5曲目の「ショック!」で、ラテン調のリズミカルで、不穏な雰囲気の作風のサスペンス調の作風が強いインパクト。ここまでグッと盛り上げておいて、そのあとにチルアウト的な、ドリーミーなインストチューン「エウリュノメー」を入れてくる構成がまた見事。ピアノやストリングスのアコースティック主体のアレンジで切なく聴かせる「シャンディガフ」から、ラストの「フレンドリー」はけだるいAOR風のミディアムチューンとなっています。
そしてこの最後「フレンドリー」の歌詞が強く印象的。
「正しい
正しくないと
決めたくないな
そう
考える夜」
(「フレンドリー」より 作詞 Ichiro Yamaguchi)
という歌詞に、まず、いろいろな意見についてすぐに正否をつけてさわぎたてる最近のネットの風潮を憂慮している感がありますし、さらに隠喩的ながらストレートなのが
「左側に寄って歩いた
側溝に流れてる夢が
右側に寄って歩いた
そこには何があるんだ」
(「フレンドリー」より 作詞 Ichiro Yamaguchi)
と、いかにもネット上で顕著な左右の対立を皮肉ったような歌詞になっています。隠喩にとどめている歌詞やメランコリックな曲調から、決して激しい主張にはなっていないものの、コロナ禍の中でより顕在化した意見の対立について憂慮するような歌詞が印象的でした。
配信やサブスクではここで終了。メランコリックなサカナクションらしいメロディーを軸としつつ、バラエティー富んだ作風が並んだ内容は、「コロナ禍での音楽表現を模索」というコンセプトに沿った、いわばいろいろな音楽の方向性を試した、とも言える作品に仕上がっていました。
ただ一方で、ここまで8曲という短さと、彼ららしいといえ、ちょっとメランコリックに偏りすぎな曲調に若干の物足りなさを感じていた本作ですが、私の本作での感触をさらに一段階、良いものとしたのがラストを締めくくる「DocumentaRy of ADAPT」。ライブではメンバー5人並んでパソコンでの演奏となった作品だそうですが、8分に及ぶミニマルテクノの作品が、最後の盛り上がりを作り出しており、またアルバムの幅もグッと広げています。配信やサブスクで聴けないのが残念ですが、これは是非、CD版で聴いてほしい作品。この作品を含めてアルバムとして完成しているのでは、とも感じてしまいました。
もっとも、このアルバムだけで完成ではなく、次にリリースされる「アプライ」を含めて完成される今回のプロジェクト。次の作品も非常に楽しみになってきます。あと個人的にはサカナクションのボーカル、山口一郎が最近、ナゴヤ球場の外野フェンスの広告枠を自費で購入し、サカナクションの広告を出したというニュースがあり、もともとドラゴンズファンだとは知っていたのですが、ここまで熱心なファンだったのか・・・と衝撃を受けています(笑)。そういうこともあってますます応援したくなってしまったサカナクション。これからの活躍も期待です!
評価:★★★★★
サカナクション 過去の作品
シンシロ
kikUUiki
DocumentaLy
sakanaction
懐かしい月は新しい月~Coupling&Remix works~
魚図鑑
834.194
ほかに聴いたアルバム
Still Dreamin'/布袋寅泰
60歳の誕生日に発売された、20枚目となるオリジナルアルバム。「まだ夢を見ている」というタイトル通りの積極的な音楽活動を感じさせますが、アルバムの方は、全体的に90年代っぽさを強く感じさせるようなメロディアスでポップな作品が主体。新たな挑戦というよりも、あらためて過去を振り返っているような印象も受けました。良くも悪くも無難な印象もあるのですが、60歳を迎えて、あらためて自らの地盤を固めているという感もあるのかもしれません。初回盤では昨年10月に、地元群馬のGメッセ群馬で実施した「HOTEI 40th Anniversary ~Double Fantasy Tour~ "BLACK or WHITE ?"『Hometown GIGS』」のライブ盤がついてきます。自身のソロ曲のみならずBOOWYの曲もセルフカバー。ベスト盤的なセレクトが楽しいのですが、ただ、やはり氷室ボーカルの曲で彼がボーカルを取るのは、いろいろな意味で違和感も・・・。
評価:★★★★
布袋寅泰 過去の作品
51 Emotions -the best for the future-
Paradox
GUITARHYTHM VI
Soul to Soul
It's the moooonriders/ムーンライダーズ
1975年に結成し、日本を代表するロックバンドとして長らく活動を続けてきたものの、2011年に無期限の活動休止となったムーンライダーズ。その後、何度かの再結成ライブを経て、昨年8月に活動再開を発表。活動休止前ラストのアルバムだった「Ciao!」から実に約10年半ぶりとなるニューアルバムがリリースされました。
ムーンライダーズとして久々の新譜となったものの、久々ということを全く感じられない、いい意味でいままでのムーンライダーズらしい、ポップだけど様々なサウンドが入って挑戦的で、そしてユーモラスな楽曲が並びます。曲によっては、若干、いかにも「おじさん」なユーモアさがノイズとなっていたりするのですが、そこを差し引いても、エキゾチックなサウンドや正統派ギターロック、ラップ風のボーカルまでも入った自由度の高い音楽性は健在。新加入の夏秋文尚以外全員が70歳前後という超ベテランバンドの彼らですが、バンドとしての意欲は全く衰えていないよう。今後の活躍にも期待です。
評価:★★★★★
ムーンライダーズ 過去の作品
Ciao!
moonriders Final Banquet 2016 ~最後の饗宴~
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