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2022年6月21日 (火)

ブルースを現在の視点から捉えなおす

本日もまた、最近読んだ音楽系の書籍の紹介です。

ここでも時々、ブルースのアルバムを紹介したりしています。個人的に好きな分野で、いろいろと手を広げているのですが、ブルースが好きなら必ず手に取る、ある種のバイブル的なディスクガイドがあります。それが「ブルースCDガイド・ブック」。1995年に発売された後、2006年に「2.0」としてバージョンアップされていますが、全2,000枚という圧倒的な量のブルースのアルバムが紹介されている圧巻ともいえる1冊。ブルースが好きで、過去の名盤を紐解こうとする場合は、必ず手に取るであろう1冊です。

今回、その小出斉があらたなブルースのガイドブックを発売しました。それが今回紹介する「ブルース・ロールズ・オン!! 2020年代に読む、聴くブルース・ガイド エレクトリックの時代」です。

こちらはタイトル通り、2020年代という今の視点から、あらたにブルースを捉えなおし、厳選した名盤、約200枚を紹介したもの。過去のブルースの名盤を、楽曲の概ねのジャンル毎にカテゴライズ。ジャジーなブルース、ハーモニカ・ブルース、ピアノブルース、スライドギター、アグレッシヴ&ワイルド・・・などといったジャンルにわけた上で、それぞれの名盤を紹介。1ページに詰め込んだ「ブルースCDガイド・ブック」と異なり、こちらは基本的に1ページに1枚を紹介し、そのため純粋なディスクガイドというよりも、紹介するミュージシャンの略歴やアルバムリリースの背景なども紹介。この本を読めば、ブルースをめぐる人々の物語の概略もわかるような仕組みになっています。

そして本作の大きな特徴なのが、アルバムのセレクトをあえて戦後以降に絞った上で、今につながるアルバムをセレクトしているという点。焦点をあてられているのはあくまでも戦後のエレクトリックブルース以降になっているため、ブルースのディスクガイドに必ず登場する戦前ブルースの巨匠たち、例えばROBERT JOHNSONやBLIND LEMON JEFFERSON、CHARLIE PATTONといったメンバーは登場しません。戦後に再発見されてアルバムをリリースしているという点で、SLEEPY JOHN ESTESやSON HOUSEといった巨匠がギリギリ登場している程度。ここらへんは完全に割り切っています。

逆に、「現在」につながるような、ここ最近のブルースのアルバムは積極的に取り上げています。例えばSHERWOOD FLEMINGの「Blues Blues Blues」やCRYSTAL THOMASの「Don't Worry About The Blues」、Elvin Bishop&Charlie Musselwhiteの「100 Years of Blues」といった当サイトでも「新譜」として取り上げたアルバムも紹介していますし、「ブルースの新しい波」という章ではKEB'MO'やFANTASTIC NEGRITO、SHEMEKIA COPELANDといった、非常に「今」のミュージシャンたちも取り上げています。ブルースのディスクガイドといえば、ともすれば戦前から戦後すぐのミュージシャンたちがメイン。ともすればガイドだけ読んでいると、過去の存在ととらえられそうなブルースというジャンルを、積極的に現在とむすびつけ、ブルースというジャンルがしっかり現在進行形のジャンルであるということを、強く主張している、そんなディスクガイドとなっています。

一方で、純粋なブルースだけではなく、ゴスペルや、ブルースロック(のうちでも、ストレートにブルースから影響を受けているもの)も取り上げており、そういう意味でもブルースの周辺ジャンルまでの情報もしっかりと網羅した1枚。最近のミュージシャンやブルースロックのミュージシャンも紹介していることから、ブルース初心者にとっては取っつきやすさもあるかもしれませんし、逆にブルースリスナーからしてもれば、ブルース近辺のあらたなジャンルや、ともすればスルーしがちな最近のブルースミュージシャンに目を向けるには最適な1冊と言えるかもしれません。

ただ惜しむらくは、約200枚のアルバム、どのアルバムもほぼすべて1枚1ページで紹介されているため、例えば初心者が、特に最初に手に取るべき1枚、みたいなものがわかりにくい点が難点かもしれません。前述の「ブルースCDガイド・ブック2.0」では「BLUES HIGHWAY 49」と題して、特に最初に手に取るべき49枚のアルバムが紹介されていましたが、本書にはそういうガイドはありません。数枚、2ページにわたって紹介されているアルバムもありますが、そちらも紹介文の都合で2ページになってしまった、という感が強いですし・・・。そういう意味でも、特に最初に聴くべきアルバムには何かマークを付ける、みたいなガイドが欲しかったかもしれません。

そういう点はありつつも、ブルースを今の視点からとらえなおしたという意味では、さすがの仕事ぶりが目立つ、素晴らしいディスクガイドでした。ブルースのディスクガイドとしてのあらたな定番の登場と言っていいかもしれません。ブルース好きなら間違いなく要チェックの1冊です。

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