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2022年5月22日 (日)

WEEZERで四季を感じる

Title:SZNZ:SPRING
Musician:WEEZER

アメリカのパワーポップバンドWEEZERの新作。ここ最近、かなり積極的なアルバムリリースが続いている彼ら。昨年には2枚のアルバム、さらに2019年にも2枚のアルバムをリリースしています。一方で、ここ最近はちょっと異色作とも言えるアルバムが続いており、前作「Van Weezer」はHR/HM路線、その前の「OK Human」はギターを取り除いたアレンジ、さらに2019年にリリースしたBlack Albumもポップ調の強いアルバムになっており、さらにTeal Albumもカバーアルバムと、彼ららしい正統派のパワーポップのアルバムは、ともすれば2017年の「Pacific Daydream」以来ということになってしまいます。

ただ、一方で正統派パワーポップアルバムのリリースはないものの、アルバムの出来としてはむしろかなり充実した内容の作品が続いているように感じます。特にポップなメロディーラインという彼らの持ち味については、冴えわたっている作品が続いており、バンドとしては脂がのった状況であることを伺うことが出来ます。異色作が続いているとはいえ、高い頻度でのアルバムリリースが、彼らの状況の良さを伺わせてくれます。

今回のアルバムに関しても異色作と言えるでしょう。今年は四季の節目に合わせて4枚のEPシリーズ「SZNZ」をリリースすることになり、春分の日である3月20日に、第1弾のEPである本作がリリースされました。今後は「SZNZ:Summer」「SZNZ:Autumn」「SZNZ:Winter」が順次リリースされるということ。今回も「異色的」な形でのリリースとなっています。

そんな本作は、本人たち曰く、「異教の神話、宗教儀式、魔法、シェイクスピア、ヴィヴァルディの『四季』などがインスピレーションの源」となっているということ。ここらへん、特に神話や宗教儀式、魔法などといった要素は、特に日本のバンドにとってはあまり取り上げられることのない素材。ジャケット写真も、どこかファンタジックなものとなっており、ユニークさを感じさせます。

実際、1曲目「Opening Night」もいきなり、ご存じヴィヴァルディの「四季」のフレーズを楽曲の中に用いており、春らしい爽やかさが演出されています。このクラシックのフレーズを楽曲の中に用いるという手法は日本でもよくあるのですが、得てして強度の強いクラシックのメロディーラインが楽曲の中で不自然に浮いてしまう形になることが少なくありません。しかし、そこはいままで数多くの名ポップチューンを作り出していたWEEZER。彼らのオリジナルのメロディーパートも「四季」のフレーズに全く負けることなく、「四季」の有名なフレーズがしっかりと曲の中に溶け込んでいました。

全7曲20分程度という短い楽曲構成なのですが、どの曲も爽やかな雰囲気の曲になっており、まさにタイトル通り「春」のイメージを持った楽曲が並びます。そんな中、爽やかながらもちょっと切なさを感じるメロディーラインが実にWEEZERらしく秀逸。例えば「A Little Bit of Love」もアコースティックベースのシンプルなサウンドからスタートしつつ、途中から展開される分厚いバンドサウンドが心地よい楽曲。「The Sound Of Drums」も分厚いバンドサウンドとメランコリックなメロがインパクトのある楽曲で耳に残りますが、特に耳に残るのが「All This Love」。非常にポップながらも切ないメロディーラインで胸が締めつけられそうになるポップソング。特にサビに入る前に転調するという、ちょっとJ-POPっぽい展開もインパクトとなり、WEEZERのポップスセンスが光る作品になっています。

今回のアルバムは、リリース形態こそ挑戦的であるのですが、楽曲としてはむしろWEEZERの王道とも言えるメランコリックなメロディーラインと分厚いバンドサウンドのパワーポップ路線。楽曲としてのインパクトも十分にあり、ある意味、WEEZERらしさを待ち望んでいたファンにはたまらない作品だったのではないでしょうか。ちなみに今後、夏、秋、冬のリリースも予定されているのですが、それぞれの季節を感じるものをリアルタイムで追求するために、現時点では制作されていないということ(ただ、そろそろ「夏」の制作は開始されているのかな?)。この調子だと、次回作以降も期待できそう。今年は1年間、WEEZERの新曲で楽しめそうです。

評価:★★★★★

WEEZER 過去の作品
WEEZER(Red Album)
RADITUDE
HURLEY
DEATH TO FALSE METAL
Everything Will Be Alright in the End
WEEZER(White Album)
Pacific Daydream
Weezer(Teal Album)
Weezer(Black Album)
OK HUMAN
Van Weezer

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