無国籍なアルバム
Title:Topical Dancer
Musician:Charlotte Adigery&Bolis Pupul
男女の怪しげなポーズのモノトーンのジャケット写真が印象的な本作は、マカオ出身のプロデューサー、Bolis Pupulとベルギーのシンガー、Charlotte Adigeryとのユニットによる1stアルバム。プロデュースや作曲にベルギーのダンスロックバンドSoulwaxが参加し、彼らが主宰するレーベルDEEWEEからのリリースとなりました。
2人でのコンビでは初となる今回の作品は、まず特徴的なのは、シンプルでエッジの効いたエレクトロビートと、メロウさとポップさを兼ね備えた女性ボーカルによる「歌」の組み合わせというスタイル。サウンドは、基本的には非常にシンプルな強いビートが主軸となっているのですが、流れてくるのは必要最小限のサウンドのみ。様々なものをそぎ落としたサウンドはとても印象的で、そのバックに広がる空間を感じさせるのと同時に、Charlotte Adigeryによる歌を最大限聴かせつつ、強いビートでしっかりとサウンドもアピールしているような、そんな構成に仕上がっています。
そしてもうひとつ大きな特徴となっているのがCharlotte Adigeryによる歌。ちょっと気だるさを感じさせるボーカルスタイルでメロウに聴かせつつ、基本的にはポップでしっかりとインパクトを持ったメロディーが流れているという点が大きな魅力。イントロを挟んで事実上の1曲目「Esperanto」や「Reappropriate」ではメロウで伸びやかなボーカルを聴かせてくれますし、一方、「Mantra」のようなメロディアスでインパクトもあるダンスポップチューンも非常に印象的。全体的にはシンプルなリズムトラックと合わせて、いい意味で耳障りのよいポップな感触のある作品がメインで、軽快なダンスポップの楽曲を楽しめる作品になっています。
また、ポップという点ではどこかコミカルさも感じさせる点も大きな魅力。オープニングの「Bel DEEWEE」から、どこかコントっぽい?電話のやり取りでスタートしていますし、続く「Esperanto」も軽快なエレクトロのサウンドにどこかコミカルさも感じます。コミカルといって最も特徴的なのは終盤の「HA HA」で、タイトル通り、笑い声をそのままサンプリングしてエレクトロサウンドをバックにコミカルに聴かせる楽曲。最初は単なる笑い声がちょっと不気味にすら感じられるのですが、後半はこちらまで笑ってしまいそうになります。
そんなポップで聴きやすさを感じさせるこのアルバムなのですが、もう一つ、特徴に感じるポイントがあります。それは彼らの楽曲から感じる無国籍な要素。もともと、メンバー自体、Bois Pupulはマカオ出身、Charlotte Adigeryはベルギー人ですがフランス出身で、さらにカリビアンの血が流れているシンガー。楽曲のタイトルも英語はもちろん「Ich Mwen」はおそらくドイツ語ですし、「Ceci n'est pas un cliche」とフランス語。楽曲的にはワールドミュージック的な要素はあまり感じないものの、西洋的なスクエアな四つ打ちのリズムと、ブラックミュージック的な要素を感じるメロウなボーカルの組み合わせという意味では無国籍的、と言えるかもしれません。
ポップでインパクトのあるメロディーラインと、エッジの聴いたシンプルなエレクトロサウンドが聴いていてとても気持ちよく、個人的にはかなり壺にはまった、年間ベストクラスの傑作アルバムに仕上がっていました。意外と幅広いリスナー層に受け入れられそうな傑作。文句なしにお勧めな1枚です。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
The Motown Anthology/Mary Wilson
昨年2月に亡くなった、かのThe Supremesのオリジナルメンバーであり、ソロとしても活躍したシンガーのモータウン時代の楽曲をまとめたベストアルバム。The Supremesの前身、The Primettesの作品から、ソロ時代の作品まで彼女の楽曲を網羅的に収録。彼女の魅力的な歌声が楽しめるのですが、ソロになってからは、ファンキーな作品だったり、80年代ポップスな作品だったり、時代に応じて柔軟にそのスタイルを対応してきた彼女の活動がよくわかる内容になっています。あらためて彼女が偉大なシンガーだったことを実感できる作品でした。
評価:★★★★★
PAINLESS/Nilüfer Yanya
前作「Miss Universe」も話題となったイギリスのシンガーソングライターによる2枚目のアルバム。ちなみに読みにくい名前ですが、「ニルファー・ヤンヤ」と読むそうです。UKソウルにカテゴライズされるシンガーで、清涼感あるボーカルによる、メロウさを感じる歌い方が大きな魅力ではあるのですが、分厚いギターサウンドを取り入れた作品が多く、楽曲によってはダイナミックなアレンジの曲やサイケな曲調の作品も多く、前作と同様、比較的ロックと親和性のある作風が特徴的。メロディーは至ってポップにまとまっていますし、今後、日本でも話題になりそうな予感もします。今のうちにチェックしておきたいシンガーかと。
評価:★★★★★
Nilüfer Yanya 過去の作品
Miss Universe
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