モーサム寄りにシフト?
Title:OVERHEAT 49
Musician:百々和宏
MO'SOME TONEBENDERのボーカリスト、百々和宏による、約5年ぶり4枚目となるソロアルバム。モーサムと並行してのソロ活動ということで、ソロアルバムは明確に、モーサムの楽曲と一線を画するような内容になっていました。具体的には、ゴリゴリのガレージロックを前面に押し出したモーサムの作品と異なり、ソロアルバムでは比較的シンプルなサウンドに、メロディーラインを聴かせるようなポップな作品が目立ちます。歌詞にしてもパーソナルな部分を押し出したような歌詞が多く、いわばバンドとは明らかに異なるソロらしい作品を聴かせてくれています。
今回のアルバムに関しても、そんなモーサムとは異なるソロらしさを感じる作品も目立ちます。1曲目「鬼退治」はウォール・オブ・サウンドを彷彿とさせるような分厚い音に美しいメロディーラインを聴かせるミディアムテンポのポップチューン。「ハルノハクチ」もドリーミーなサウンドにメランコリックなメロディーラインが美しい楽曲。軽快でコミカルな「コロちゃん」やラストの「サルベージ」もギター弾き語りでしんみり聴かせるメランコリックなメロディーラインが耳を惹きます。
ここらへんの美しいメロディーラインは、モーサムでもよくよく聴くと感じられる部分ではあるのですが、あらためて百々和宏のメロディーメイカーとしての才能を感じさせられる部分。ゴリゴリのガレージロックが特徴的なモーサムのサウンドですが、実は、そこを裏から支えているメロディーラインの良さことがモーサムの魅力の大きなポイントだったんだな、ということをあらためて感じさせられます。
歌詞にしてもロックンロールへの愛情を素直に綴った「ロックンロールハート(ア・ゴーゴー)」、出身地の博多弁で歌詞を綴った「H・A・K・A・T・A・BEN」、さらにコロナ禍をユニークに歌った「コロちゃん」など、ユーモラスかつよりパーソナルな視点に立った歌詞が目立ちます。そういう意味でもソロらしい作品と言えるでしょう。
ただ今回の作品はその上で、MO'SOME TONEBEDERを彷彿とさせる作風の曲も目立ちました。例えば「H・A・K・A・T・A・BEN」などは歌詞はともかく、サウンドはヘヴィーなギターリフがメインのガレージサウンドになっていますし、タイトルチューン「オーバーヒート49」もパンキッシュな作風でバンド色の強い楽曲になっています。特に顕著だったのが「ジャグリNUパー」で、トランペットにモーサムの武井靖典が参加していることもあり、後半なフリーキーなサウンドといい、モーサムらしさが顕著。率直な感想としてモーサムでも出来たのでは?とも思ってしまいました。
モーサムはライブ活動を中心に継続的な活動は行っているものの、音源のリリースは久しく途絶えており、ライブでは披露されているのかもしれませんが、新曲も聴けていません。そのような状況だからこそ、ソロでの作品がモーサム寄りにシフトしてしまったように今回のアルバムでは感じてしまいました。結果としては音楽的なバリエーションが増し、内容的にいままで以上の傑作に仕上がったとは思うのですが。ただ、これだけの内容ならば、次はそろそろ久しぶりにモーサムの新作を聴きたいところ。百々和宏の実力を感じるとともに、モーサムを懐かしく感じてしまった作品でした。
評価:★★★★★
百々和宏 過去の作品
窓
ゆめとうつつとまぼろしと
スカイ イズ ブルー
ほかに聴いたアルバム
廻人/Eve
ネット発シンガーソングライターの中でも、ネットという媒介を超えて人気を博しているミュージシャンの一人、Eve。本作にも収録されている「廻廻奇譚」がアニメ「呪術廻戦」主題歌に採用し、ロングヒットを記録しました。その同作も含め、全体的には疾走感あるギターロックのアレンジに、メランコリックなマイナーコード主体のメロディーラインがメイン。ただ、ほぼ全曲、マイナーコードのメロディーラインになっており、切なさを感じるメロディーラインはインパクトがあって耳を惹くものの、ちょっと一本調子かなという印象も受けてしまいます。前作「Smile」同様、前々作までのようないかにもボカロ系的な曲は減り、いい意味で一般性は増している感じもするのですが、もうちょっと曲のバリエーションが欲しい感じも。
評価:★★★★
Eve 過去の作品
おとぎ
Smile
廻廻奇譚 / 蒼のワルツ
1 OR 8/瑛人
ご存じ「香水」で一躍ブレイクした瑛人のニューアルバム。タイトルは「一か八か」という慣用句と、自身の名前(エイト=8)を掛けたものでしょう。基本的にアコースティックなサウンドをベースに、日常を暖かい視線から描く歌詞は確かにちょっと地味な感じもしますが、なかなか魅力的。このアルバムも含めて売上はいまひとつのようで、「香水」の一発屋になってしまいそうな感も強い彼ですが、正直、それにはちょっと惜しい感じがします。同じバラードナンバーでブレイクした優里がアルバムを含めてあれだけ売れていることを考えると、もうちょっと彼も売れていいような感じもするのですが、甘いルックスとそれに合った甘いラブソングを聴かせる優里は、確かに女性受けしそうだよなぁ・・・と感じたりもするのですが・・・。無骨な感のある彼にももうちょっと期待したいところです。
評価:★★★★
瑛人 過去の作品
すっからかん
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