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2022年5月14日 (土)

日本をモチーフにした部分がたくさん

Title:MOTOMAMI
Musician:ROSALIA

前作「El Mal Querer」が大きな話題となったスペインのシンガーソングライターROSALIAの新作。もともとはスペインの伝統音楽であるフラメンコの歌手として活躍していたそうですが、前作でグッとポップス寄りにシフトし、各種メディアにおいても高い評価を得ました。続く本作は、レゲトンに大きな影響を受けつつも、自由度の高いポップソングを楽しめる作品に。ビルボードチャートやイギリスの公式チャートにもランクインするなど、世界的な飛躍を感じさせる作品になっています。

そして今回のアルバムで大きな特徴となっているのは、なぜか日本をモチーフにした曲が多く収録されている点でしょう。まずアルバムタイトルの「MOTOMAMI」ですが、「”Moto”はアルバムの中で最も神聖で、実験的、摩擦的で強い部分であり、”Mami”は最も現実的で、個人的で、告白的で傷つきやすい部分とのこと」と言っており、このうち「Moto」は日本語の「もっと」から来ているそうです。さらにアルバムの中で日本人にとってもっとも耳を惹くのが「HENTAI」。こちら、日本語の「変態」から来ているのですが、楽曲自体は「変態」というイメージからかけ離れた、ピアノのシンプルなアレンジで静かに聴かせる切ないバラードナンバー。ただ、全く笑う要素のない名バラードなのですが、最後は静かに「HENTAI」という歌詞で締めくくられると、日本人的には思わず笑ってしまいそう・・・なんとなく、テレビ番組「タモリ倶楽部」の名物コーナー「空耳アワー」に登場してきそうな歌詞になっています。

さらには「Chicken Teriyaki」なる曲があったり、最後に「Sakura」という曲が登場したり、日本をイメージさせるような曲が並びます。また「CANDY」のPVは渋谷で撮影され、ある意味、日本的なものを象徴するカラオケで彼女が歌うシーンなんかも登場したりと、日本的な部分が目立ちます。(ちなみに1曲目の「SAOKO」は日本人女性の名前ではなくアフリカの言葉だそうです)

ただ、日本的な部分はこういうタイトルやPVの部分だけ。残念ながらメロディーラインやサウンドには日本的な部分は皆無。今回のアルバム、彼女は「2つのパートにわかれる」という発言をしているそうですが、おそらく、レゲトンでリズミカルに聴かせる楽曲と、それ以外の楽曲を指しているのでしょう。実際、アルバムを聴くと、レゲトンで軽快なリズムを聴かせる曲とポップなメロディーをしっかり聴かせる曲ではっきりとわかれた作品になっていました。

ただし、単純に楽曲が2種類にわかれている作品、といったイメージはありません。むしろレゲトンやポップスを中心に、実に幅広い音楽性を感じさせるアルバムになっています。軽快なレゲトンの「SAOKO」からスタートし、続く「CANDY」はしんみり聴かせるバラード。さらに3曲目「LA FAMA」ではThe Weekndが参加。レゲエ的な要素を入れつつ哀愁感たっぷりのバラードに仕上げています。

さらには「BULERIAS」ではアフリカ音楽の要素を入れたようなトライバルな作風になっていますし、再び軽快なレゲトンナンバーである「Chichen Teriyaki」からピアノバラード「HENTAI」を経て、「BIZCOCHITO」はチープさも感じるエレクトロチューンで軽快で楽しく聴かせるチップチューン的な楽曲に。レゲエのリズムを入れつつ、ファルセット気味で聴かせるボーカルが幻想的な「DIABLO」やホーンセッションを入れて、レトロな雰囲気も漂う哀愁たっぷりのラテンナンバー「DELIRIO DE GRANDEZA」、そして最後を締めくくる「SAKURA」は荘厳さを感じさせるサウンドで静かに歌う上げるメランコリックなバラードナンバー。レゲトンな強いビートを主軸にまとめつつも、アルバム全体としては実にバラエティー豊かな作品に仕上がっており、様々な音楽性を行ったり来たりする、彼女の自由さに舌を巻く内容になっていました。

傑作だった前作を易々と上回る内容となっていた本作。強いレゲトンのビートに身体を揺らしつつ、かと思えばしんみりバラードナンバーに耳を惹かれる、そんな展開で最後まで全く飽きることなく一気に楽しむことが出来る作品でした。スペイン出身の彼女らしく、どこかエキゾチックな雰囲気も感じさせるもの魅力的。文句なしに年間ベストクラスの傑作だったと思います。世界レベルのミュージシャンに、さらに一歩進化したそんな作品でした。

評価:★★★★★

ROSALIA 過去の作品
El Mal Querer

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