逆にマッキーらしい
Title:Bespoke
Musician:槇原敬之
槇原敬之の初となるセルフカバーアルバム。ご存じの通り、稀代のメロディーメイカーであり作詞家でもある彼は、様々なシンガーに楽曲を提供してきています。一番有名なのは、なんといっても「世界に一つだけの花」でしょう。SMAPに提供したこの曲は、本人のどのシングル曲よりも大ヒットを記録しました。また、それらの提供曲のセルフカバーも比較的多く、オリジナルアルバムにもよくセルフカバーが収録されています。そういう意味ではセルフカバーアルバムがこれがはじめて、というのは逆に意外な印象も受けます。ちなみにファンならご存じかと思いますが、本作、ちょっと曰くつきのアルバムで、もともとは彼のデビュー30周年企画の一端として2020年3月4日にリリースが予定されていたアルバム。それが同年の2月に、彼の覚せい剤所持容疑で逮捕されたことを受け発売が中止になりました。このまま幻のアルバムになることも危惧していたのですが、当初リリース予定日から2年の月日を経て、無事リリースとなりました。
そんなセルフカバーのタイトルとなっているのが「Bespoke」という名前。あまり聴きなれない名前ですが、「テーラーが顧客とコミュニケーションをとりつつ服を仕立てていく」で、まさに他のシンガーへの楽曲提供というスタイルにピッタリという名前に感じます。とはいうものの、この収録曲を聴いて感じるのは、作詞も彼が担当している影響も大きいのでしょうが、実に槇原敬之っぽい作品が並んだアルバムだな、ということを感じました。
CHEMISTRYに提供した「約束の場所」も、盗作騒動もあった、こちらも曰くつきの作品の初セルフカバーですが、いわゆる人生訓を歌うような「ライフソング」的な歌詞も含めて実に彼らしい感じ。続く「かみさまでもえらべない。」も、仏教的な人生訓を描いた歌詞が、ちょっとお説教じみている部分も含めて、良くも悪くも槇原敬之らしい感じがします。
「着メロ」などは、タイトル自体ちょっと時代を感じさせるのですが、暖かい雰囲気の恋人同士のやり取りを描いた歌詞が槇原敬之らしい作品。藤井フミヤへの楽曲提供曲のカバーになるのですが、こういう曲を藤井フミヤが歌っていたことが逆に意外に感じます。また、このアルバムの中でも槇原敬之らしさがもっとも炸裂しているのが「一番初めての恋人」でしょう。タイトル通り、最初の恋人を思い出すちょっと切ない歌詞に風景描写もピッタリとマッチしており、槇原敬之ファンなら間違いなく壺にはまりそうな作品。こちら、平井堅への提供曲になっているのですが、平井堅もこういうタイプの曲をよく歌うだけに、彼の曲としても違和感ありまえん。もともと平井堅自体、槇原敬之からの影響を感じさせるミュージシャンですので、平井堅への提供曲ということで、槇原敬之自身、より遠慮なしに彼らしさを表に出せた、ということなのかもしれません。
逆に彼のセルフカバーとして違和感ありまくりだったのが浜田雅功と槇原敬之名義でリリースされた「チキンライス」のセルフカバー。この曲に関しては、作詞が松本人志が手掛けています。ある意味、松本の癖が出まくっている歌詞の世界観だけに、槇原敬之の世界観とはかなりギャップが生じており、その点、さすが松本人志とも言えるのですが、マッキーが歌うと、かなり違和感を覚えてしまいます。具体的には、歌詞に出てくる主人公が、典型的な成りあがった田舎のヤンキーといった感じで、槇原敬之の曲には、まず登場しないタイプ。この曲自体、「LIFE IN DOWNTOWN」でも一度セルフカバーしており、今回2度目となるのですが、自身ではまず書かないタイプの歌詞なだけに、逆に気持ちよくカバーできるのでしょうか?
基本的に、「顧客とコミュニケーションしていきながら服を仕立てていく」というタイトルのアルバムでしたが、楽曲自体は、むしろオリジナル曲以上に槇原敬之らしさを感じさせる曲の並ぶアルバムになっていました。逆にマッキーに楽曲提供を希望している時点で、相手がマッキーらしい曲を求めてきている、ということはあるのかもしれません。時折、挑戦的な曲が入り、それが失敗していくケースも少なくないオリジナルアルバムよりもむしろ、ファンとしては安心して聴けるアルバムですらあるかもしれません。メロディーメイカーとしての、あるいは優れた作詞家としての才能をあらためて感じることが出来る作品でした。
評価:★★★★★
槇原敬之 過去の作品
悲しみなんて何の役に立たないと思っていた
Personal Soundtracks
Best LOVE
Best LIFE
不安の中に手を突っ込んで
NORIYUKI MAKIHARA SYMPHONY ORCHESTRA CONCERT CELEBRATION 2010~SING OUT GLEEFULLY!~
Heart to Heart
秋うた、冬うた。
Dawn Over the Clover Field
春うた、夏うた。
Listen To The Music 3
Lovable People
Believer
Design&Reason
The Best of Listen To The Music
宜候
ほかに聴いたアルバム
ONE MORE SHABON/秋山黄色
最近、男性シンガーソングライターの活躍が目立ちますが、秋山黄色のそのうちの1人。AORのテイストを感じさせる伸びやかに聴かせる曲が目立つ反面、パンキッシュなギターロックナンバーもあり、そういう意味では最近の流行り的な路線を取り入れつつ、ロックリスナーにもアピールできそうな作風が特徴的。ただ、その結果、若干中途半端さを感じる部分もあり、全体的に耳を惹かれるインパクトある曲が少ないのは残念。もう一皮むければ大化けしそうな感じはするのですが・・・惜しさを感じる1枚です。
評価:★★★★
秋山黄色 過去の作品
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