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2022年4月 9日 (土)

ボカロシーン集大成的なアルバム

Title:狂言
Musician:Ado

2020年10月に配信限定シングルとしてリリースした「うっせぇわ」が2021年にかけて大ヒットを記録し、一躍注目を集めた女性シンガー、Ado。一部では、子供がきたない言葉遣いをマネするという問題まで指摘されるほど社会的な現象となった、2021年を代表するヒット曲となりました。ただ、先日紹介した優里「ドライフラワー」と共に、なぜか年末の賞レースや紅白などではほとんど無視。私的生活のスキャンダルが理由と言われる優里に対して、「うっせぇわ」という言葉遣いの悪さが要因とすら言われていますが、逆に言えば、それだけインパクトのあるワードを用いたと言えるでしょう。彼女のデビューアルバムとなる本作は大ヒットを記録しており、彼女が「うっせぇわ」の一発屋ではないことを裏付けています。

さて、今回のこのアルバムの大きなポイントとなっているのは、全曲においてインターネットの動画サイトへの楽曲投稿で話題となった、ボーカロイドプロデューサー、いわゆるボカロPや、「歌い手」が参加しているという点でしょう。基本的に彼女はボーカリストであり作詞作曲には参加していないのですが、作詞作曲勢として、昨年の紅白に出場し話題となったまふまふをはじめとして、DECO*27、すりぃ、くじら、Neruなどといったボカロシーンで活躍する、ボカロPがズラリと並んでいます。Ado自体もそういうネットシーンから登場してきたシンガーですが、まさにボカロシーンの集大成とも言えるアルバムと言えるでしょう。もちろん、こういうボカロPが集まってつくられたようなアルバムは他にもありますが、そんな中でもお茶の間へアプローチできるレベルでヒットしているのはこのアルバムくらいではないでしょうか。

結果として非常にバラエティーに富んだ曲調に仕上がっているのも大きな特徴で、くすんだ雰囲気のキャバレーロックである「レディメイド」からスタートし、エレクトロダンスチューン「踊」、テンポよいギターロックの「FREEDOM」、ホーンセッションも入って分厚いサウンドを聴かせる「阿修羅ちゃん」、メロウなAOR風の「夜のピエロ」まで、曲調的にはよく言えばバラエティーに富んだ、悪く言えばバラバラな並びとなっています。

その中でもやはり楽曲としてよく出来ているのは、インパクト満点で、一度聴いたら忘れられないパワーを感じる、ご存じ大ヒットした「うっせぇわ」と、それに続くヒットを記録した「踊」だと思います。特に「踊」はTeddyLoidアレンジによるエレクトロサウンドが非常に秀逸で、複雑に展開されるサウンドは、このアルバムの中でも確実に頭ひとつ出ているように感じます。

ただ、それ以上にこのアルバムの最大の魅力は、間違いなくAdoの持つボーカリストとしての力ではないでしょうか。それなりのインパクトはあるものの、どこかで聴いたことあるような作風をなぞっただけのような曲が少なくなく、楽曲的には正直なところ「平凡」といった印象を受ける作品が少なくありません。そんな作品をグッと魅力的なものに引き上げ、かつ良くも悪くもバラバラな作風に統一感を与えているのは、非常にパワフルで、ドスの効いた声ですらあるAdoのボーカル。また、いわゆる陰キャの心の叫びのような歌詞の世界観も楽曲に統一性を与えており、かつ、この世界観も、どこか焦燥感を覚えるような彼女のボーカルにもピッタリとマッチ。このボーカルと歌詞の世界観がアルバムの大きな魅力となっています。

様々なボカロPが参加し、今のボカロシーンの集大成のようなアルバムになった本作ですが、それ以上にAdoのボーカリストとしての実力が強い魅力として感じられるアルバムになっていました。「うっせぇわ」のインパクトが強すぎたきらいのある彼女ですが、その強いインパクトも間違いなくAdoのボーカリストとしての力があってのこと。その事実をあらためて実感させられたアルバムだったと思います。それだけに、ボカロPに留まらず、様々な作家陣と組んだら面白いかも・・・とも思った今回のアルバム。ともかく、ボーカリストとしてのこれだけの力があれば、今後の活躍も期待できそうです。

評価:★★★★★

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