今時のサウンドにアップデート
Title:BADモード
Musician:宇多田ヒカル
途中、EP盤の「One Last Kiss」のリリースはあったものの、オリジナルアルバムとしては「初恋」から約3年7ヶ月ぶりとなるニューアルバム。今回のアルバムは英語と日本語の両方の歌詞を含む楽曲を収録した、初の「バイリンガルアルバム」という位置づけだそうです。ただ、以前、Utada名義での英語詞でのアルバムをリリースしているため、「バイリンガルアルバム」といっても、特に目新しい感じはしません・・・。
ここ最近の宇多田ヒカルは、デビュー当初のような海外と同レベルのR&Bをそのまま取り入れたような、邦楽洋楽の壁を取り除いたような作品、というよりも、むしろ「歌」という側面ですごみを感じさせるような作品が続いているような印象を受けます。特に、独特な歌詞の言い回しや、欧米と同時代性を感じさせるようなサウンドを取り入れながらも、一方ではむしろ歌謡曲的ですらある、日本人の琴線に触れそうなメロディーラインを歌いあげるスタイルは、もうシンガーソングライターとして他を寄せ付けない圧倒的な実力を感じさせます。
今回のアルバムでも、特に前半「君に夢中」などはまさにストレートなラブソングは歌謡曲的なウェットさを感じる一方、フランクリーな口語をそのまま取り入れつつ、自然にR&Bなサウンドになじませるその節回しには舌を巻きます。「One Last Kiss」の歌詞のすごさは、以前、このサイトでも紹介しましたり、続く「PINK BLOOD」の「私の価値がわからないような/人に大事にされても無駄」という、この曲の中でさらっと歌われる簡単な一文だけでも、宇多田ヒカルの強いメッセージ性を感じることが出来ます。
本作でも、そんな彼女の持つ歌の魅力を存分に味わえるのですが、一方で本作は、全体的にサウンドに重点を置かれたアルバムのように感じました。今風のエレクトロサウンドやあるいはジャズのテイストも積極的に取り込まれた楽曲も多い本作。そんな中でも特に話題になったのが、昨年、アルバム「Promises」が大きな話題となったイギリスのプロデューサー、Floating Pointsが共同プロデューサーとして参加している点でしょう。彼が参加した「気分じゃないの(Not In The Mood)」は気だるい雰囲気の歌をムーディーに聴かせつつ、ちょっとジャジーに聴かせるサウンドが大きな魅力に。同じくFloating Pointsが共同プロデューサーとして名を連ねる「Somewhere Near Marseilles-マルセイユ辺り-」もエレクトロビートが前面に押し出されているアシッド・ハウスの楽曲に仕上がっています。
その他にも「Find Love」はテクノの要素を全面的に取り入れた楽曲ですし、アメリカのミュージシャンSkrillexが全面的に参加した「Face My Fears(Japanse Version)」はトランスの要素を取り入れた作品に。前作「初恋」は歌に焦点をあてたような作品になりましたが、今回の作品は今時のクラブミュージックにグッと近寄り、彼女のサウンドを今時の音にアップデートさせた、そんなアルバムに仕上がりました。
アルバムではラスト4曲にボーナストラックが収録されているのですが、こちら、本編の曲のリミックスで、同じ曲を何度も聴かせるような構成になっていて、別CDへの収録にした方がよかったような。個人的には若干蛇足だったかな、という印象も受けてしまいました。そういうマイナスポイントもありつつも、アルバム自体としては文句なしの年間ベストクラスの傑作アルバムだったと思います。宇多田ヒカルのすごさをまたしても感じられた傑作でした。
評価:★★★★★
宇多田ヒカル 過去の作品
HEAT STATION
This Is The One(Utada)
Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.2
Fantome
初恋
One Last Kiss
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2022年」カテゴリの記事
- 未来を見据えた30周年の締めくくり(2022.12.27)
- YUKIの全てがつまた6時間(2022.12.25)
- タイアップ効果でよりポピュラリティーが増した作品(2022.12.26)
- 昭和のレア・グルーヴ企画拡大版 その3(2022.12.11)
- 昭和のレア・グルーヴ企画拡大版 その4(2022.12.12)
コメント