トンコリの魅力をより伝える
Title:Tonkori In The Moonlight
Musician:OKI
アイヌに伝わる伝統的な弦楽器、トンコリ。その数少ない奏者として知られ、OKI DUB AINU BANDとしても活躍しているミュージシャンOKI。本作は、そんな彼の、デビューした1996年から約10年間に及ぶ活動を網羅したアンソロジー・アルバム。海外でもツアーを行うなど、活動を行う彼ですが、本作はイギリスのレーベル、MAIS UM DISCOSよりリリースされており、彼の海外での活躍ぶりが伺わせます。
彼のOKI DUB AINU BANDとしての活動は、先日もライブで触れたばかり。OKI DUB AINU BANDはその名前の通り、ダブ処理を施したアレンジのバンドサウンドが特徴的で、トンコリにもエフェクトが加えられ、どちらかというとロック的な要素も強いダイナミックなサウンドを聴かせてくれます。楽曲としてはアイヌ民謡の要素を強く取り入れた曲も少なくありませんが、全体的にはどちらかというとアイヌの民族楽器をロックやダブに融合させたサウンドというのが大きな特徴となっています。
そんな作品と比べると、こちらのアルバムに収録されている曲は、トンコリの音色を前面に押し出して、アイヌ民謡の要素を強く取り入れた楽曲がメイン。「Kai Kai As To(Rippling Lake)」は、トンコリのアルペジオに静かな男女コーラスが重なる楽曲ですし、アルバムタイトルにもなっている「Tonkori In The Moonlight」は、トンコリの音色をミニマルに聴かせるインストで、タイトル通り、月明かりの下を彷彿とさせるような幻想的な楽曲に。ラストを飾る「Wei Ne(Oh,My Heart)」もトンコリの音色と女性の歌声のみのシンプルなサウンドで幻想的に聴かせる曲に仕上げています。
ただ一方ではトンコリの音色のみならず、例えば「Drum Song」はタイトルの通り、トライバルなドラムが全体的に繰り広げられる曲になっていますし、「Afghan Herbal Garden」はエレピと打ち込みのリズムのエレクトロチューンに。また「Oroho Raha(Mokor Mokor)(Sleep,Sleep)」ではトンコリとバイオリンの共演が実現。西洋楽器であるバイオリンの優雅な音色とトライバルな感の強いトンコリの音色が対比されるユニークな構成の曲に仕上がっています。
また楽曲的にはトライバルな要素を強く押し出しつつ、ミニマル的な構成を取った作品が多く、前述の「Tonkori In The Moonlight」などもそんなミニマル的な作品ですし、盆踊りのような軽快なリズムを繰り出す「Battaki(Grasshopper Dance)」もミニマル的なサウンド構成が魅力的に。トライバルな要素と相まって、軽くトリップできそうな雰囲気の作品が多く見受けられ、それが大きな魅力となっていました。
OKI DUB AINU BANDとしての作品以上に、トンコリの音色を魅力的に感じられる本作。トライバルな要素を全面的に押し出し、トリップするような感覚を持つミニマル的なサウンドも大きな魅力の作品になっていました。アイヌ民謡をベースとしながら、エレクトロサウンドや西洋音楽、さらにはアフリカ的なリズムやダブの要素も取り込んだ音楽性も大きな魅力の作品。OKIの実力も存分に感じられる1枚です。
評価:★★★★★
OKI 過去の作品
SAKHALIN ROCK(OKI DUB AINU BAND)
北と南(OKI meets 大城美佐子)
UTARHYTHM(OKI DUB AINU BAND)
ほかに聴いたアルバム
Good News/蓮沼執太&U-zhaan
蓮沼執太&U-zhaan名義としては、「2 Tone」以来2枚目のアルバム。前作「2 Tone」は実験的な要素が強く、タブラの音色も少々後ろに下がってしまっていた感もありました。今回もエレクトロサウンド+タブラというスタイルは前作と同様。全編、インストの曲となっているのですが、今回は実験的要素は少なめ。全体的にドリーミーなサウンドを聴かせつつも、ポップという要素も強くなり、かつタブラの音色もより前に出てきた感もあります。前作に比べると、グッと聴きやすくなったアルバムでした。
評価:★★★★
U-zhaan 過去の作品
TABLA ROCK MOUNTAIN
2 Tone(蓮沼執太&U-zhaan)
HENCE(OREN AMBARCHI,JIM O'ROURKE AND U-ZHAAN)
たのしみ(U-zhaan×環ROY×鎮座DOPENESS)
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