音楽性の幅を広げる意欲的な「ミックステープ」
Title:CAPRISONGS
Musician:FKA Twigs
2014年のデビューアルバム「LP1」、2019年のアルバム「Magdalence」と、アルバムが毎作、高い評価を受ける、注目のシンガーソングライター、FKA Twigs。彼女が今年、突如リリースした新作は「ミックステープ」という形態でのリリースとなりました。そんな彼女の新作の大きな特徴は、様々なミュージシャンたちとのコラボ作が目立つという点。Pa Salieu、Shygirl、DYSTOPIA、Remaといったミュージシャンとのコラボ曲が並んでいます。
そんな中でもダントツのビックネームがThe Weeknd。「tears in the club」では彼とのコラボを実現。彼女とThe Weekndの、どちらもハイトーンの優しいソプラノボイスでのデゥオ作となっており、メランコリックなメロディーラインが耳を惹く歌モノとなっています。
また、今回のコラボ相手として目立つのはHIP HOP系のミュージシャンたち。Pa Salieu、Unknown T、Shygirlといったラッパーとのコラボも目立ちます。実際、今回のアルバムで大きな特徴となっているのはトラックにHIP HOPからの影響が目立つという点で、例えばアルバムの冒頭を飾る「ride the dragon」はトラップからの影響を感じさせますし、remaとのコラボとなる「jealousy」のトライバルなリズムのエレクトロトラックといい、Daniel Caesarとのコラボとなる「careless」での静かでリズミカルなトラックといい、いずれもHIP HOP的なトラックとなっており、HIP HOPからの影響が目立つ作品となっています。
特に今回のアルバムは「ミックステープ」と名乗っていますが、これはHIP HOPのミュージシャンがよく取るリリースの手法。名前の通り、カセットテープのスタイルで配布されるリリース形態から「テープ」と名付けられており、近年ではネットを通じてのフリーダウンロードの手法でリリースすることが少なくありません。無許可で様々なミュージシャンの曲をサンプリングするケースも多く、良く言えば自由、悪く言えばイリーガルなイメージもあるリリース手法。ただ、今回のアルバムはメジャーレーベルからのCDリリースも行われており、なぜ彼女があえて「ミックステープ」と名乗ったのかは不明です。HIP HOPカルチャーの中での「ミックステープ」というリリース手法のポジティブなイメージ、自由な音楽性をイメージさせるからでしょうか。
実際に豪華なミュージシャンたちとのコラボにより、HIP HOPをベースとしつつもバラエティーある音楽性も本作の特徴で、トライバルなリズムの「honda」からスタートし、The Weekndとのコラボ「tears in the club」ではレゲトン、「papi bones」ではレゲエといった要素も垣間見れます。全17曲という構成となった今回のアルバムでは、様々なミュージシャンとのコラボによる様々な音楽性の導入により、いままで以上に自由度の高い、彼女の音楽性の幅を広げるアルバムとなっていました。
もっともそんな中で最大の魅力となっているのが彼女のソプラノボイスで歌われる美しいその歌でしょう。いままでの作品でもその美しくも、どこか「憂い」を帯びたようなその歌が大きな魅力となっていましたが、それは今回のアルバムでも同様。「papi bones」でもリズミカルなレゲエのリズムの中で歌われるメランコリックなボーカルが耳を惹きますし、「minds of men」などもピアノを取り入れた美しいサウンドの中、幻想的とも感じられる彼女の歌声が大きな魅力。ラストの「thank you song」も、分厚いエレクトロトラックをバックに、ゆっくりとその美しい歌声でメランコリックに歌い上げられています。
今回のしっかりと彼女の魅力を感じさせつつ、その音楽的な幅を広げた傑作アルバムに仕上がっていたと思います。1作目、2作目と傑作アルバムが続いていましたが、今回のアルバムもその期待にしっかりと応えた作品と言えるでしょう。今回も間違いなく年間ベストクラスの傑作。今回広がった音楽性を今後、どのように展開していくのかも非常に楽しみです。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
GREATEST HITS-Japanese Single Collection-/Cheap Trick
最近、ここで続けざまに紹介している「JAPANESE SINGLE COLLECTION」シリーズ。今回はロックバンド、チープトリック。彼らについてはもちろん以前から知っていたのですが、本作を聴く前は、ハードロックのバンドだと思っていました。確かにハードロック的な作品は少なくないのですが、その一方、もうちょっとポップにまとまっている曲も少なくなく、チープトリックについてはパワーポップとしてカテゴライズしている記事も見かけたのですが、確かにパワーポップの色合いが強い印象を受けます。そのため、ゴリゴリのハードロックというよりも、もっとポップ好きに受け入れられやすいバンドのような印象を受けました。聴く前はバリバリのハードロックバンドとして、ちょっと好みからははずれるかな?とも思っていたのですが、聴いてみると思った以上に個人的な壺にはまるような曲も多く、十二分に楽しめたベスト盤でした。
評価:★★★★★
GREATEST HITS-Japanese Single Collection-/Boz Scaggs
こちらも上記と同様、日本のシングル曲を集めた「JAPANESE SINGLE COLLECTION」シリーズの、本作はボズ・スキャッグス編。ボズ・スギャッグスといえば、個人的にはAORの代表的なミュージシャンで、いかにも大人な雰囲気を醸し出したミディアムテンポの楽曲がメイン・・・というイメージを持っていたのですが、実際に聴いてみると、確かにいかにもAOR然としたバラードチューンも目立つ反面、意外と明るく爽やかなポップソングも少なくなく、彼に持っていたイメージも大きく変わりました。基本的にはシンプルなポップチューンがメインで、最後まで楽しめたアルバムでした。
評価:★★★★
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