フォークロックを軸に、挑戦心あふれる傑作
Title:Dragon New Warm Mountain I Believe in You
Musician:Big Thief
現代のフォーク・ロックの旗手として注目を集めているアメリカはブルックリン出身のフォークロックバンド、Big Thiefのニューアルバム。2019年にリリースされた2枚のアルバム「U.F.O.F.」「Two Hands」がいずれも高い評価を得て、各種メディアの年間ベストアルバムとして軒並みランクイン。その上、「U.F.O.F.」はグラミー賞のオルタナティヴ・ミュージック・アルバム部門にノミネートされるなど、大きな話題を呼び、一気に知名度もアップさせました。
そんな彼女たちの新作は、なんと2枚組全20曲入り全1時間20分というボリューミーな内容に。前回も1年のうち2枚ものアルバムを同時リリースしているだけに、その勢いのほどを伺わせます。そして、そんなボリューミーなアルバムながらも最後まで一気に聴き切れてしまう、傑作アルバムに仕上がっていました。
まずやはり大きな魅力なのは、彼女たちのアコースティックベースのフォーキーでメロディアスな楽曲でしょう。1曲目の「Change」は、まさにそんなフォーキーな彼女たちの魅力を存分に感じられる曲。アコギを中心としたアコースティックなサウンドに、切なさを感じるボーカルとメロディーラインが非常に耳に残る傑作に仕上がっています。
その後も、バンドサウンドをバックとしつつ、70年代的な雰囲気も感じられるフォークロックの王道とも言うべき「Certainty」に、ソプラノボイスの清涼感あふれるボーカルと幻想的なサウンドが美しく展開されるタイトルチューン「Dragon New Warm Mountain I Believe in You」、フィドルも入ってカントリー色強く軽快に楽しませてくれる「Red Moon」、ゆっくり暖かく聴かせるフォーキーなサウンドとメロが胸をうつ「12,000 Lines」、アコギのテンポよいアルペジオが美しい「The Only Place」と、魅力的なフォークロックの曲がズラリと並びます。
ただ、もちろんアコースティックなサウンドのフォークロックを聴かせるだけ・・・なら、これだけのボリュームのある作品、途中で飽きてしまうかもしれません。彼女たちの大きな特徴は、そんな暖かく聴かせるフォーキーな楽曲の間に、様々なサウンドを取り入れた挑戦的な作品を聴かせてくれるという点。1曲目のフォーキーな「Change」に続くのは、アバンギャルドなギターとリズムを聴かせる「Time Escaping」。その後も「Little Things」ではフォークロックのナンバーながらもノイジーなギターを加えた分厚いサウンドでダイナミックに聴かせてくれますし、「Flower of Blood」もヘヴィーなギターロックの作品に。それに続く「Blurred View」もノイジーなギターとドラムスをバックにダウナーな作品に仕上げています。
その後も「Wake Me up to a Drive」ではチープな打ち込みのリズムを取り入れたり、「Love Love Love」ではサイケなギターサウンドを入れてきたりと、実にバラエティー豊富に、様々なサウンドに挑戦しています。思えば2019年にリリースした2枚のアルバムも、アコースティック色の強い「U.F.O.F」とバンド色の強い「Two Hands」にわかれていました。今回、2枚組のフルボリュームのアルバムになっていましたが、彼女たちはやりたいことがいろいろとありすぎて、どうしてもアルバムを作ると、これだけのボリュームになってしまうのでしょうか。
ただ、そうなるとえてしてアルバム全体がバラバラになってしまいがち。しかし彼女たちの場合、根底にしっかりとしたフォーキーなメロディーラインが流れており、それがアルバム全体の一体感を作り出しています。そのため、1時間20分というフルボリュームながらも、アルバムとして最後まで破綻することなく、かつバラエティー富んだ作風で最後まで飽きさせない、という理想的な構成の傑作アルバムに仕上がっていました。
ラストもフォーキーな「Blue Lightning」という、アルバムをまとめるにはピッタリのフォークロックナンバーで暖かい雰囲気で締めくくり。最後まで見事な構成でアルバムを締めくくっていました。2019年にリリースされた2枚のアルバムも文句なしの傑作でしたが、今回のアルバムも、間違いなく年間ベストクラスの傑作アルバムだったと思います。売上的にも、ベスト100にも入れなかった前作に比べて、本作はアメリカビルボードチャートで31位にランクインするなど人気面でも大きな飛躍を遂げています。彼女たちの活躍はまだまだ続きそうです。
評価:★★★★★
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