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2022年4月18日 (月)

生音重視でよりポップに

Title:Ants From Up There
Musician:Black Country,New Road

デビュー作でもある前作「For the first time」が大きな評判を集めたイギリスの7人組ロックバンド、Black Country,New Road。売上の側面でもチャート最高位4位を記録しブレイクしたのみならず、年末の各種メディアの年間ベストにもランクイン。さらに、イギリス最大の音楽賞であるマーキュリー・プライズにもノミネートされるなど、デビューアルバムで大きな飛躍を果たしました。

彼らの大きな特徴といえば、なんといっても7人組という大所帯バンドから繰り広げられる賑やかな音の世界。通常のバンドメンバーに加えてキーボードにサックス、バイオリンというパートのメンバーが入ったこのバンドは、分厚いバンドサウンドにキーボード、サックス、バイオリンをこれでもかというほと加えたダイナミックなバンドサウンドが魅力的。このアルバムでもイントロを挟んだ2曲目「Chaos Space Marine」から、まず迫力あるバンドサウンドをバックに、サックス、バイオリンというメロディー楽器をユニゾンで重ねるという賑やかでダイナミックなサウンドを披露。7人組というこのバンドの特色を最大限に生かしたスタートとなっています。

その後も「Good Will Hunting」のように、シンセのサウンドを潜ませつつ、バンドサウンドにピアノでダイナミックに聴かせるナンバーや、「Snow Globes」のように、メランコリックなメロをバックに、フリーキーさを感じさせるサックス、さらにはこれでもかというほどダイナミックなリズムを刻むドラムでスケール感あるフリーキーなサウンドの世界を作り上げています。

その集大成的なのがラストの「Basketball Shoes」で、最初は静かなサウンドからスタートするのですが、中盤にメランコリックな歌が登場。さらに中盤以降はメンバー総動員のダイナミックなサウンドを聴かせつつ、終盤はノイジーなギターサウンドを押し出し、よりダイナミックで迫力ある演奏を聴かせるという、複雑に構成された、12分にも及ぶ大作を作り上げています。

ただ、今回の作品は前作「For the first time」より、若干方向性の異なる作品となっています。まず、インディーロック的なギターサウンドを前に押し出していた前作に比べると、今回の作品は、サックスやストリングスといった生のサウンドをより前面に押し出した作風へとチェンジしています。前作のようなギターロックの色合いの強かった作品もよかったのですが、本作ではサックスやバイオリンのメンバーをより生かした、よりBlack Country,New Roadというバンドの特色を生かした楽曲に仕上がっていると言えるでしょう。

またその結果として、なのですが、前作よりもよりポップで明るい作風の曲が目立ったように感じます。基本的にメランコリックなメロディーの曲も多いのですが、サックスとバイオリンで鮮やかな色合いの作風が増えたことによって、楽曲全体がポップに感じられました。良くも悪くもインディー色も強かった前作と比べると、いい意味でより「マス」を意識したような作風が増えたようにも感じます。

その影響でしょうか、前作で感じたエキゾチックな要素がちょっと薄れて、どちらかというとヨーロッパトラッド的な雰囲気が強まったようにも思えます。ここらへんはひょっとして、日本人のミュージシャンがえてして洋楽的な方向を目指していても、歌謡曲的な方向に流されがちなのと一緒で、イギリス人にとってはDNAのレベルまで染みついた音楽的な感覚なのでしょうか?ただもちろん、それはそれで魅力的な印象を受けます。

ちなみに本作を最後に、メインボーカルで作詞を担当していたメンバーのアイザック・ウッドが脱退したとか。そういう意味ではバンドにとって非常に転機となるアルバムと言えるのかもしれません。また、方向性の違う1枚目と2枚目で、バンドとしてやれることをある程度やってしまった、ということもあるのかもしれません。今後の彼らの方向性がどのようにシフトしていくのか気になるところなのですが・・・とりあえずは素直なポップで楽しめる本作をしばらくは愛聴したいところでしょう。

評価:★★★★★

Black Country,New Road 過去の作品
For the first time

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