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2022年4月

2022年4月30日 (土)

配信解禁83曲から抽出されたCDアルバム

Title:高音質のピチカート・ファイヴ
Musician:PIZZICATO FIVE

先日は、ORIGINAL LOVEのベスト盤を紹介しましたが、今回紹介するミュージシャンも同じ「シティポップ」という枠組みで紹介されることもあるという点では似たタイプのミュージシャンと言えるかもしれません。というよりも、ご存じの方も多いとは思いますが、ORIGINAL LOVEの田島貴男は、PIZZICATO FIVEの2代目ボーカリストでもあり、一時期、両バンドを同時並行で活動を行っていました。PIZZICATO FIVEもORIGINAL LOVEと同様に、間違いなくアーバンを感じられるミュージシャン。ただ一方、両者異なるのは、PIZZICATO FIVEからはメロウさをあまり強く感じない、という点でしょうか。

さて、そんな訳で今回紹介するのはPIZZICATO FIVEの新たなベストアルバム。といっても今回のベストアルバムは、もともと昨年9月から3か月連続で「配信向けのピチカート・ファイヴ」として配信が解禁された83曲の中からセレクトされた作品となります。PIZZICATO FIVEというと、1984年から2001年まで活動したユニット。結成当初は5人組で、ボーカルも3人変わったのですが、一般的には野宮真貴と小西康陽のユニットというイメージが強いのではないでしょうか。いわゆる渋谷系を代表するユニットであり、なおかつボーカルの野宮真貴のファッション性にも大きな注目が集まりました。解散から既に20年も経ているのが、ちょっと信じられないのですが・・・こういう形で今なおアイテムがリリースされる点でもわかるように、今でも音楽シーンに影響を与え続けているユニットです。

今回、もともと「配信向けのピチカート・ファイヴ」という形で一部配信が解禁になっているのですが、もともとは2019年にベスト盤「THE BAND OF 20TH CENTURY:NIPPON COLUMBIA YEARS 1991-2001」がリリースされており、それと同時に、同ベスト盤収録曲が配信解禁。日本コロンビア時代の作品としては、このベスト盤に続く形での配信解禁となります。そのため、今回、配信解禁となった83曲については、「THE BEST OF 20TH CENTURY」とはかぶりがなく、一部、重複している曲についてはバージョン違いという形となっています。(ちなみにソニー時代のアルバムについては、一部、サブスクでの配信が解禁されているようです)

そのため彼女たちの代表曲である「スウィート・ソウル・レビュー」「大都会交響曲」「ベイビィ・ポータブルロック」などといった曲は今回未収録。「東京は夜の七時」も2001年にリリースされたベストアルバム「Pizzicato Five R.I.P.〜Big Hits and Jet Lags 1998-2001」に収録された別バージョン「東京は夜の七時 the last episode」が、「ハッピー・サッド」も「ハッピー・サッド-TYO ヴァージョン」が収録されています。

そういう意味では、アナザーベスト的なアルバムという内容とも言えるかもしれませんが、それでも「新しい歌」「戦争は終わった」などなど、まだまだ名曲がたくさん並んでいます。特に「戦争は終わった」は、ピチカートとしては珍しい社会派な要素を感じさせる曲で、陽気な曲調の中「戦争はどうして/終わらないのかな」と無邪気さを装って歌われる内容が、特にウクライナが大変なことになっている今だからこそ、胸に響くような内容になっています。

その他にも松崎しげるのパワフルなボーカルにYOU THE ROCK★の軽快なラップが加わる「東京の合唱」やエレクトロアレンジの軽快なカバーとなっている「シェリーに口づけ」など、聴きどころはたくさん。特に今回のアルバムでは、クラフトワークの「電卓」をカバーした「TASCHENERECHNER(DENTAKU)」をCDでは初収録。こちらもピチカートとしては珍しい、テクノなアレンジに仕上がっているのですが、ところどころに加わる陽気なサウンドにピチカートらしさを感じます。

ちなみに今回、83曲が配信解禁となったのですが、配信はあくまでも「配信向けのピチカート・ファイヴ」というプレイリストの形でのリリースとなっており、アルバム単位での解禁はされていません。ここらへんは、あくまでもアルバムは、ブツ切れで聴かれるような配信という形ではなく、アルバム単位でまとめて聴いてほしい、というミュージシャン側からの強い意思を感じさせます。また、アルバムは、あくまでもブックレットなどを含めた「アイテム」として入手してほしい、というメッセージもあるかもしれません。ここらへん、陽気なポップソングを奏でるピチカートの聴いた感じの印象とは異なる、ミュージシャンとしての芯の強い意思も感じさせます。そして、おそらくここらへんのミュージシャンとしての芯の強さが、渋谷系の代表格としてシーンを切り開き、今なお多くのミュージシャンに影響を与え続けている大きな要素なのかもしれません。

ちょっと配信の話になってしまいましたが・・・さすがに83曲全部あらためて聴くのは難しいかもしれませんが、そういう方のためにもピチカートの入門盤としても最適なベスト盤と言えるかもしれません。あらためてピチカートの魅力を強く感じさせるアルバムでした。

評価:★★★★★

PIZZICATO FIVE 過去の作品
THE BAND OF 20TH CENTURY : NIPPON COLUMBIA YEARS 1991-2001


ほかに聴いたアルバム

DREAM/AI

NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」の主題歌で、昨年の紅白でも披露した「アルデバラン」を含むAIのニューアルバム。全体的には彼女の声量ある歌声でしっかりと聴かせるスケール感あるバラードナンバーがメイン。トラップ風のリズムを用いた「First Time」みたいな曲もありつつ、全体的には良くも悪くも彼女らしいバラードナンバー一本調子というイメージも。子供を持つ父親としては、父親への想いを綴った「パパへ」みたいな曲は、母親に対する曲に比べると数が少ないだけにうれしかったりもするのですが。AIの魅力はしっかり伝えている一方、個人的にはもうちょっといろんなタイプの曲への挑戦も聴きたいかも、とも思う作品でした。

評価:★★★★

AI 過去の作品
DON'T STOP A.I.
VIVA A.I.
BEST A.I.
The Last A.I.
INDEPENDENT
MORIAGARO
THE BEST
THE FEAT.BEST
和と洋
感謝!!!!! Thank you for 20 years NEW&BEST
IT'S ALL ME - Vol.1
IT'S ALL ME - Vol.2

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2022年4月29日 (金)

シティポップの代表格として

Title:Flowers bloom, Birds tweet, Wind blows & Moon shining
Musician:Original Love

2021年にデビュー30周年を迎えるOriginal Loveのオールタイムベストアルバム。デビュー30周年となった2021年には、7月に配信シングル「Dreams」がリリースされたのをはじめ、9月には様々なミュージシャンたちによるカバーアルバムがリリース。さらに12月には、このオールタイムベストアルバムがリリース。通常盤で3枚組となるこのアルバムでは、Disc1で「接吻」「プライマル」をはじめとする彼のシングル曲を中心とした選曲に、さらにDisc2、3ではアルバム曲を中心に、彼の代表曲が収録。初回限定盤では彼がカバーした曲や他のミュージシャンとのコラボ曲などの貴重な音源を収録したCDにPVを収録したBlu-rayもついた豪華内容になっています。今回は、通常盤のレビューとなります。

さて、Original Loveといえば、最近、世界的にも話題となって、一種のブームとなっているシティポップの代表的なミュージシャンとしてその名前があがることは少なくありません。先日、当サイトでも紹介した日本のシティポップの代表的なアルバムを紹介したディスクガイド「『シティポップの基本』がこの100枚でわかる」においても、Original Loveのメジャー2枚目の作品「結晶-SOUL LIBERATION-」が紹介されていました。

ただ、このシティポップという言葉の指す音楽が非常にあいまいなものであるというのは、同書の紹介の時も書いた通り。同書でもシティポップについては「メロウでアーバンでグルーヴを感じられる」という非常にあいまいなものにとどめています。ただ、Original Loveの音楽についてあらためて考えると、「メロウでアーバンでグルーヴを感じられる」という表現に非常にピッタリとマッチしています。ソウルミュージックの影響を多分に受けたOriginal Loveの音楽性は非常にメロウであり、かつロックの影響が加わることによりグルーヴ感があります。一方、Original Loveの奏でる音楽は、非常に都会的であか抜けたもの。アーバンという単語もOriginal Loveの音楽性にピッタリとはまります。

その上で、シティポップというジャンルの定義があいまいになる理由はOriginal Loveの楽曲を通じてもよくわかります。Original Loveの音楽は、確かに「シティポップ」という曖昧な言葉で一括りにできる一方で、その音楽性が非常に多岐に及んでいる点はこのベスト盤を通じてよくわかります。ご存じの大ヒット曲「接吻」や「プライマル」はジャパニーズソウルといっていい作品になっている一方で、「ムーンストーン」はボッサ風、「The Best Day Of My Life」はラテン、「Bird」にはレゲエの要素も感じられますし、「R&R」のようなタイトル通りのヘヴィーなロックナンバーも登場します。Original Loveといえばジャパニーズソウル、というイメージも強いのですが、決してそんな一言ではくくれないような音楽性をこのベストアルバムからは感じます。

しかし一方で、どの曲も間違いなく「メロウでアーバンでグルーヴィー」。そういう意味では、まさにシティポップという括りのふさわしいミュージシャンとも言えるのかもしれません。今回の3枚組のベストアルバムからは、そんなOriginal Loveの特徴を非常に強く感じることが出来ました。デビューから30年、すっかりベテランミュージシャンとなったOriginal Love田島貴男ですが、今後も「メロウでアーバンでグルーヴィー」な作品を作り続けてくれそう。今後の活躍も楽しみです。

評価:★★★★★

ORIGINAL LOVE 過去の作品
白熱
エレクトリックセクシー
ラヴァーマン
プラチナムベスト ORIGINAL LOVE~CANYON YEARS SINGLES&MORE
blesss you!


ほかに聴いたアルバム

Mellow Party -LIVE in TOKYO-/浅井健一&THE INTERCHANGE KILLS

2021年10月17日にBillboard Live TOKYOで行われたACOUSTIC & ELECTRICツアー 「MELLOW PARTY」ファイナル公演を収めたライブアルバム。この日のライブの選曲は、浅井健一の全キャリアを通じたベスト的なセレクトとなっており、ブランキ―解散後の曲はもちろんのこと、Blankey Jet Cityの曲も披露。タイトル通り、ギター片手にメロウなアレンジで聴かせるライブで、どうしても良くも悪くも浅井健一としての手癖のつよい曲が多いため、似たようなタイプの曲が多いのですが、それでもベスト的な選曲となると、浅井健一の魅力を存分に感じられるアルバムに。個人的にはソロ名義になってから、ベストの出来ではないか?とすら感じさせるアルバムでした。

評価:★★★★★

浅井健一 過去の作品
Sphinx Rose
PIL
Nancy
METRO(浅井健一&THE INTERCHANGE KILLS)
Sugar(浅井健一&THE INTERCHANGE KILLS)
BLOOD SHIFT
Caramel Guerrilla

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2022年4月28日 (木)

女性グループが1位2位に

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

女性グループが1位2位に並びました。

まず1位はハロプロ系女性アイドルグループJuice=Juice「terzo」が獲得。CD販売数及びダウンロード数で1位を獲得。PCによるCD読取数は14位でしたが、総合順位で1位獲得となりました。オリコン週間アルバムランキングでは初動売上1万9千枚で1位初登場。前作「Juice=Juice#2 -¡Una más!-」の初動1万5千枚(4位)からアップしています。

そして2位は女性コーラスグループLittle Glee Monster「Journey」が獲得。CD販売数2位、ダウンロード数5位、PCによるCD読取数25位。フルアルバムとしては6枚目となる作品。オリコンでは初動売上1万8千枚で2位初登場。直近作はミニアルバム「re-union」で同作の初動2万枚(4位)からダウン。オリジナルアルバムとしての前作「BRIGHT NEW WORLD」の4万2千枚(1位)からもダウンしてしまいました。

3位にはレキシ「レキシチ」が初登場。池田貴史によるソロプロジェクト。タイトル通り、日本史に造詣の深い彼が、日本史をコンセプトとした楽曲のみを扱っており、これが7枚目。毎回、タイトルに何枚目のアルバムかをあらわす数字を入れているので、今回はタイトルに「シチ」を織り込んでいます。でも8枚目はどうやって織り込むんだろう?オリコンでは初動売上1万1千枚で3位初登場。2作連続のベスト3ヒットとなりましたが、前作「ムキシ」の2万3千枚(3位)よりダウンとなっています。

続いて4位以下の初登場盤です。まず5位に羊文学「our hope」がランクイン。CD販売数5位、ダウンロード数6位、PCによるCD読取数51位。女性2人男性1人の3人組バンド。正直、いきなりのヒットにかなりビックリしてしまったのですが、本作に収録されている「光るとき」がアニメ「平家物語」のオープニングに起用されるなどのタイアップ効果でしょうか。オリコンでも初動売上4千枚で5位初登場。前作「POWERS」の2千枚(32位)よりアップ。

また今週はベスト10圏外からの返り咲き組も。まずAdo「狂言」が先週の14位から9位にランクアップ。4週ぶりのベスト10返り咲きに。通算9週目のベスト10ヒットとなっています。さらに韓国の女性アイドルグループTWICE「#TWICE4」が先週の38位から10位にアップ。4週ぶりのベスト10返り咲きとなっています。特にCD販売数が36位から7位に大幅アップ。東京ドーム来日公演の影響でしょうか?

そして先週ベスト10返り咲きとなった宇多田ヒカル「BADモード」は今週10位から8位にランクアップしています。これで通算8週目のベスト10ヒットとなりました。

今週のHot Albumsは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2022年4月27日 (水)

新たなロングヒットとなるか?

今週のHot100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

先週はHot100では珍しい新譜ラッシュとなりましたが、今週は逆に、初登場はゼロという結果となっています。

ただ、1位はベスト10圏外からの返り咲き曲。オーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN SEASONS2」から誕生した男性アイドルグループINI「CALL 119」が先週の15位からランクアップし、2週ぶりのベスト10返り咲き。今週、CDがリリースされ、その枚数が加算された影響。CD販売数、ラジオオンエア数、Twitterつぶやき数1位、ダウンロード数も先週の圏外から3位、ストリーミング数も6位から2位、PCによるCD読取数2位、You Tube再生回数34位で総合順位も1位となりました。

2位にはOfficial髭男dism「ミックスナッツ」が先週の6位からランクアップし、ベスト3入り。ダウンロード数が2位から1位、You Tube再生回数が16位から4位、ストリーミング数に至っては43位から1位に一気にアップしています。ダウンロード数、ストリーミング数、You Tube再生回数とネット系のチャートが軒並み上位となっており、ロングヒットも期待できそう。

3位はTani Yuuki「W/X/Y」が先週の10位から一気にランクアップしベスト3入り。ストリーミング数が1位から3位、ダウンロード数も20位から26位とダウンしているのですが、You Tube再生回数が30位から5位に大きくランクアップ。最高位を大きく更新し、初のベスト3ヒットとなりました。

今回、ベスト3入りしたこの2曲は、ネット系のチャートで大きく順位を伸ばしており、今後のロングヒットが期待できそう。さらにこの2曲に加えて、さらなるロングヒットが予想されるのが9位から4位にランクアップしたSaucy Dog「シンデレラボーイ」。先週は新譜におされて9位までダウンしたものの今週は再度盛り返し。最高位を更新しています。これで通算12週目のベスト10ヒットとなります。

さて、先週ランクインした新譜の多くは今週、大きく順位を落としています。その結果、ヒゲダンやTani Yuuki、Saucy Dogの曲がランクを大きく上げました。一方、先週ランクを大きく落としたロングヒット曲が、再び大きく順位を上げたかと言えばそうでもなく、何曲かベスト10に返り咲いたものの、思ったほど順位は伸びませんでした。

まずはAimer「残響散歌」。今週は7位から5位にランクアップし、ベスト10ヒットを20週連続に伸ばしたものの、ベスト3返り咲きはありませんでした。一方、Aimerとデッドヒートを繰り広げていたKing Gnu「カメレオン」は11位から6位にランクアップし、2週ぶりのベスト10返り咲き。今週は、再びこの2曲が並ぶチャートとなっています。

優里「ベテルギウス」も先週の12位から8位にランクアップ。これで通算24週目のベスト10ヒットとなりました。ただ一方、「ドライフラワー」は11位止まりとベスト10返り咲きならず。ただし、カラオケ歌唱回数1位は今週もキープしています。

そんな訳で、新旧ロングヒット曲の入れ替わりを感じる今週のチャート。ヒゲダン、Tani Yuuki、Saucy Dogはさらなる上位も狙えそう。それともAimer、King Gnu、優里の巻き返しもあるのでしょうか?明日はHot Albums!

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2022年4月26日 (火)

目新しさはないかもしれませんが・・・

Title:LIFE ON EARTH
Musician:Hurray for The Riff Raff

ここ最近、ポップなメロディーを聴かせる女性シンガーソングライターの傑作が続いているように思います。先日紹介したMitskiやCate Le Bon、yeuleといった傑作アルバムが続いていますが、このアルバムもそんな作品に名前を連ねそう。アメリカはニューオリンズを拠点として活動を続ける女性シンガーソングライターAlynda Segarraによるソロプロジェクト、Hurray for The Riff Raffの新作。活動時代は2007年から続けており、既にキャリア15年を誇る中堅ミュージシャンですが、今回、はじめてアルバムを聴いてみました。

彼女が活動する拠点がニューオリンズという、アメリカ発祥のポピュラーミュージックのふるさととも言うべき町。さらに彼女自体、このHurray for The Riff Raffはアメリカーナ(=アメリカのルーツ音楽)のプロジェクトと位置付けているようで、そういう意味ではイメージとしては、ニューオリンズらしいジャズ、ブルース、あるいはカントリー志向の音楽を奏でている・・・というイメージを受けそうです。

しかし、実際に聴いてみると、彼女の奏でる音楽は、そういった予想からは少々異なる音楽を聴かせてくれます。ルーツ志向の音楽というよりは、今時の正統派なポップミュージックといったイメージ。1曲目「WOLVES」はいきなりシンセのサウンドでスケール感を持って聴かせるミディアムチューンになっていますし、続く「PIERCED ARROWS」は強いビートに乗せて聴かせるロック色も強い作品。さらに「POINTED AT THE SUN」はノイジーなギターを前面に押し出したバンドサウンドを主導としたオルタナ系ロックの色合いが強い作品に仕上がっています。

そんな感じで前半はロック色の強い楽曲が並んだ一方、後半は伸びやかな歌を聴かせるミディアムテンポのナンバーが並びます。シンセのサウンドを取り入れつつ、ゆっくりと歌いあげる「nightqueen」やメランコリックに聴かせる「ROSEMARY TEARS」などを聴かせつつ、事実上、ラストとなる「SAGA」はまたバンドサウンドをバックに軽快に聴かせるポップチューン。バックに楽しげなホーンのサウンドも流れており、この点はニューオリンズっぽさを感じる点でしょうか?

正直言うと、メロディー的にもサウンド的にも決して目新しさはないのですが、ほどよくバラエティーのあるサウンドとポップなメロディーラインが心地よく、素直に楽しめるポップアルバムと言えるでしょう。彼女の奏でるジャンルはアメリカーナ、といっても「古き良きアメリカ」というよりは、ちょっと前のアメリカのポップミュージックを体現化したイメージなのでしょうか?難しいこと抜きに、素直なポップアルバムとして楽しめた傑作でした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Heaux Tales, Mo'Tales: The Deluxe/Jazmine Sullivan

昨年1月にリリースされ、2021年の各種メディアの年間チャートで軒並み上位にランクインしたフィラデルフィア出身の女性ソウルシンガーによる4枚目のオリジナルアルバム「Heaux Tales」。この作品に「Mo'Tales」として、10曲が追加(とはいえ、半分は短いトークであるため、実質的には5曲)されて、デラックスバージョンとして早くも再リリースとなりました。

追加の曲も含めて、基本的には正統派なソウルミュージック。比較的シンプルなサウンドに、彼女の迫力あるボーカルが魅力的。追加の曲に関しても、基本的にはオリジナルの延長線のような曲で、オリジナルが気に入った方なら、まずはチェックすべき作品です。前作から、約1年程度のスパンで追加曲を収録し、再リリースという、最近よくありがちな手法は正直、どうかと思う点もありつつ、ストリーミングが主流の現在においては、追加曲だけ別途聴くというやり方もできるため、オリジナルアルバムを聴いている方は、追加曲だけ別途聴くというのがよいかと。

評価:★★★★★

Jazmine Sullivan 過去の作品
Heaux Tales

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2022年4月25日 (月)

圧巻のドリームポップが心地よい

Title:Glitch Princess
Musician:yeule

今回紹介するのはシンガポール出身の女性シンガーソングライター、ナット・チミエルのソロプロジェクトyeuleによる2枚目となるアルバム。現在はロンドンを拠点に活動を続けているようで、新進気鋭のミュージシャンながらも徐々に注目を集めているようで、このアルバムもピッチフォークはじめ、各種メディアで高い評価を得ているようです。

確かに本作は、ドリーミーでダイナミックなサウンドを用いつつも、ポップでキュートともいえるメロが印象に残る作品。まずアルバムの前半「Electric」「Flowers are Dead」はこれでもかというほど分厚くダイナミックなエレクトロノイズがバックを埋め尽くしつつ、ただ、ゆっくりと歌い上げる彼女の歌声は、清涼感がありつつ非常にキュート。ピアノの音色が荘厳さをかもし出す「Eyes」やダウナーなエレクトロポップ「Perfect Blue」ともども、幻想的なドリームポップが心地よい作品が並びます。

ちょっと雰囲気が変わるのは中盤の「Don't Be So Hard on Your Own Beauty」で、こちらはギターサウンドを前に押し出しつつポップにまとめたギターロックチューン。さらに「Fragments」はヘヴィーなギターノイズで埋め尽くした、シューゲイザーの影響を色濃く受けたナンバー。ここらへんは個人的にはかなり壺をつかれたような楽曲。ロックテイストの強い作風を心地よく楽しむことができました。

後半も、軽快で疾走感ある打ち込みでリズミカルにポップに聴かせる「Bites on My Neck」、ヘヴィーなエレクトロノイズが埋め尽くす「1<3U」、サイケなエレクトロサウンドが展開される「Friendly Machine」と最後までエレクトロサウンド主体のドリームポップが楽しめる作品に。かなり強烈なエレクトロノイズを繰り広げつつも、メロディーラインは至ってポップでキュートにまとめあげており、最後まで心地よく楽しむことが出来ます。シューゲイザー系やドリームポップ系が好きなら、間違いなく壺にはまり傑作に仕上がっていました。

ちなみに最後を飾る「The Things They Did for Me Out of Love」は約4時間40分という長さの、超長尺曲。全体的にドローン的な作品で、一種独特な実験的な作品。CDでは収録されておらず、配信オンリーの収録曲という点、長さに囚われない配信ならでは、といった感じもします。さすがに一気に聴き切るのは難しい作品ですが・・・。

なお、「Perfect Blue」では日本人ラッパーのTohjiが参加しているほか、このyeuleという名前もFFXIIIのキャラクターから取られているそうで、そういう意味でも日本ともなじみの深いミュージシャンと言えるでしょう。今後は日本でもさらに注目度が高まりそう。いまのうちに要チェックです。

評価:★★★★★

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2022年4月24日 (日)

トンコリの魅力をより伝える

Title:Tonkori In The Moonlight
Musician:OKI

アイヌに伝わる伝統的な弦楽器、トンコリ。その数少ない奏者として知られ、OKI DUB AINU BANDとしても活躍しているミュージシャンOKI。本作は、そんな彼の、デビューした1996年から約10年間に及ぶ活動を網羅したアンソロジー・アルバム。海外でもツアーを行うなど、活動を行う彼ですが、本作はイギリスのレーベル、MAIS UM DISCOSよりリリースされており、彼の海外での活躍ぶりが伺わせます。

彼のOKI DUB AINU BANDとしての活動は、先日もライブで触れたばかり。OKI DUB AINU BANDはその名前の通り、ダブ処理を施したアレンジのバンドサウンドが特徴的で、トンコリにもエフェクトが加えられ、どちらかというとロック的な要素も強いダイナミックなサウンドを聴かせてくれます。楽曲としてはアイヌ民謡の要素を強く取り入れた曲も少なくありませんが、全体的にはどちらかというとアイヌの民族楽器をロックやダブに融合させたサウンドというのが大きな特徴となっています。

そんな作品と比べると、こちらのアルバムに収録されている曲は、トンコリの音色を前面に押し出して、アイヌ民謡の要素を強く取り入れた楽曲がメイン。「Kai Kai As To(Rippling Lake)」は、トンコリのアルペジオに静かな男女コーラスが重なる楽曲ですし、アルバムタイトルにもなっている「Tonkori In The Moonlight」は、トンコリの音色をミニマルに聴かせるインストで、タイトル通り、月明かりの下を彷彿とさせるような幻想的な楽曲に。ラストを飾る「Wei Ne(Oh,My Heart)」もトンコリの音色と女性の歌声のみのシンプルなサウンドで幻想的に聴かせる曲に仕上げています。

ただ一方ではトンコリの音色のみならず、例えば「Drum Song」はタイトルの通り、トライバルなドラムが全体的に繰り広げられる曲になっていますし、「Afghan Herbal Garden」はエレピと打ち込みのリズムのエレクトロチューンに。また「Oroho Raha(Mokor Mokor)(Sleep,Sleep)」ではトンコリとバイオリンの共演が実現。西洋楽器であるバイオリンの優雅な音色とトライバルな感の強いトンコリの音色が対比されるユニークな構成の曲に仕上がっています。

また楽曲的にはトライバルな要素を強く押し出しつつ、ミニマル的な構成を取った作品が多く、前述の「Tonkori In The Moonlight」などもそんなミニマル的な作品ですし、盆踊りのような軽快なリズムを繰り出す「Battaki(Grasshopper Dance)」もミニマル的なサウンド構成が魅力的に。トライバルな要素と相まって、軽くトリップできそうな雰囲気の作品が多く見受けられ、それが大きな魅力となっていました。

OKI DUB AINU BANDとしての作品以上に、トンコリの音色を魅力的に感じられる本作。トライバルな要素を全面的に押し出し、トリップするような感覚を持つミニマル的なサウンドも大きな魅力の作品になっていました。アイヌ民謡をベースとしながら、エレクトロサウンドや西洋音楽、さらにはアフリカ的なリズムやダブの要素も取り込んだ音楽性も大きな魅力の作品。OKIの実力も存分に感じられる1枚です。

評価:★★★★★

OKI 過去の作品
SAKHALIN ROCK(OKI DUB AINU BAND)
北と南(OKI meets 大城美佐子)
UTARHYTHM(OKI DUB AINU BAND)


ほかに聴いたアルバム

Good News/蓮沼執太&U-zhaan

蓮沼執太&U-zhaan名義としては、「2 Tone」以来2枚目のアルバム。前作「2 Tone」は実験的な要素が強く、タブラの音色も少々後ろに下がってしまっていた感もありました。今回もエレクトロサウンド+タブラというスタイルは前作と同様。全編、インストの曲となっているのですが、今回は実験的要素は少なめ。全体的にドリーミーなサウンドを聴かせつつも、ポップという要素も強くなり、かつタブラの音色もより前に出てきた感もあります。前作に比べると、グッと聴きやすくなったアルバムでした。

評価:★★★★

U-zhaan 過去の作品
TABLA ROCK MOUNTAIN
2 Tone(蓮沼執太&U-zhaan)
HENCE(OREN AMBARCHI,JIM O'ROURKE AND U-ZHAAN)
たのしみ
(U-zhaan×環ROY×鎮座DOPENESS)

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2022年4月23日 (土)

今、流行のシティポップがわかる!

今回は、最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。

最近、日本のシティポップが世界的にちょっとしたブームとなっている、というのは音楽ファンならご存じの方も少なくないかもしれません。先日もアメリカの人気ミュージシャン、The Weekndのアルバム「Dawn FM」に収録されている「Sacrifice」で、日本のシティポップのミュージシャン、亜蘭知子の「Midnight Pretenders」がサンプリングされたということで大きな話題となっています。

今回紹介するのは、そんな日本のシティポップの名盤を100枚紹介するディスクガイド「『シティポップの基本』がこの100枚でわかる!」。シティポップを代表するアルバムを100枚ピックアップし、ミュージシャンも含めて詳しく紹介。音楽ライターの栗本斉による1冊。また、アルバム紹介の間にコラムを挟み、「シティポップ」について、より深く紹介しています。

「シティポップ」と一言で言っても、なかなかその定義は難しく、この本でも「ジャンルというよりは、その音楽から醸し出される印象を重視している」という視点の下で「メロウでアーバンでグルーヴを感じられる作品」と定義づけています。正直、「メロウ」も「アーバン」も「グルーヴ」もかなり抽象的とも言える定義なのですが、確かに単純にジャンルや音楽性から厳密に定義づけるのは難しいというのは理解できます。

本作では、そんな定義を下に、1974年にリリースされたSUGAR BABEの「SUGAR BABE」からスタート。荒井由実、大貫妙子、山下達郎、大滝詠一といった大御所のアルバムから、オリジナルラヴや小沢健二、キリンジ、土岐麻子といったミュージシャンを取り上げた上で、ラストはYogee New Wavesまでズラリ。松田聖子や郷ひろみといったアイドル勢にまで目を配りつつ、知る人ぞ知る的ミュージシャンも多く取り上げられており、特に私がリアルタイムで聴いていなかったような、「黎明期」「最盛期」(70年代、80年代)のミュージシャンについては、こんな知られざる名盤もあったのか・・・と、非常に食指が動かされるような作品も少なくありませんでした。

特にColumn1「編曲家とスタジオ・ミュージシャン」で紹介されている、初期シティポップを支えた編曲家やスタジオ・ミュージシャンたちについては、90年代以降の作品でもその名前を聞く人も多く、70年代や80年代のシティポップが、その後のJ-POPシーンに大きな影響を与えたことを伺わせます。

また、アルバム紹介の文章も、基本的に最初はそのミュージシャンの紹介から、アルバムの中の曲の紹介、さらにはミュージシャンのその後、という平易な構成に。比較的シンプルで事実関係をしっかりと綴るような書きぶりで、作者の変な思い入れのあるような文章は登場せず、いい意味で癖のない文章が読みやすさも感じました。

さて、このアルバムで紹介されているミュージシャンですが、「黎明期」「最盛期」のミュージシャンは、私がリアルタイムで聴いていなかった時期ということもあり、正直、有名どころ以外はほとんど初耳のミュージシャンばかりでした。ただ一方、80年代終盤から2000年代くらいまでのミュージシャンにかけては、「知る人ぞ知る」的なミュージシャンを含めて、ほとんど知っているミュージシャンばかりで、具島直子やらbenzoやら「懐かしい~~」と感じてしまうミュージシャンが並んでいました。ただ一方、2010年代に入ってからの最近のミュージシャンについては、また知らないミュージシャンも多くなってしまい・・・最近のミュージシャンもしっかりとアンテナを張ってキャッチしていたつもりだったのですが、以前に比べると、ちょっとアンテナの感度が鈍っていたのかなぁ・・・なんてことを考えてしまいました・・・。

ちなみに今回、本書をKindleで読んだのですが、アルバムや曲にリンクが貼られており、クリックするとAmazon Musicが立ち上がり、音源を聴ける仕組みに。この仕組みには驚かされると同時に、電子書籍の強みを生かした仕組みとなっており、今後はこういうメディア同士のリンクが増えてきて、「本」や「音楽」「動画」の境目が、もっと曖昧になってくるのかな、なんてことを感じたりもしました。

そんな訳で、今、世界的な流行になっているシティポップの魅力を存分に感じられる1冊。文章も非常に読みやすく、読んでいて、いろいろと聴いてみたくなるアルバムも少なくありませんでした。シティポップというジャンルに興味のある方には無条件でお勧めできそうな1冊です。

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2022年4月22日 (金)

大橋トリオの魅力を再認識

Title:ohashiTrio best Too
Musician:大橋トリオ

デビュー15周年を記念してリリースされた大橋トリオの2作目となるベストアルバム。2014年にベストアルバムをリリースしており、それに続くベストアルバムとなります。本人監修・選曲によるベストアルバムで、彼の代表曲がズラリと並んだベスト盤に。オールタイムベストということで、15年のキャリアを通じた選曲になるのですが、前のベストアルバムとのかぶりが「Happy Trail」「HONEY」の2曲のみ。ちょっと意外な感もありますが、それだけ名曲が多い、ということも言えますし、逆にちょっとネガティブな言い方をしてしまうと、基本的にアルバムミュージシャンで、これといった目立ったヒット曲に乏しい・・・と言えるのかもしれません。

大橋トリオというと、「良質な大人のポップスを奏でるミュージシャン」というイメージが強くあります。彼の書くポップソングは派手さはないもののインパクトのあるメロディーライン、AORやジャズといった要素を取り入れた落ち着いた雰囲気のサウンド、ちょっとしゃれた感じのあるボーカルに歌詞と、よく出来た大人のポップスという表現が実にピッタリくるような楽曲を数多く手がけています。ただ、その結果としてメロディーラインの派手さはなく、サウンドも良くも悪くも無難にまとまってしまっている、という印象も受けていました。

それだけにオリジナルアルバムのレベルだと、良質ではあるが目新しさがないアルバム、という印象の作品が続き、良作ではあるものの傑作とは言えない、という印象のアルバムが続いていました。それだけにベスト盤としても正直、どうだろう、という印象を受けていたのですが、しかし、あらためて彼の代表曲を並べて聴くと、素直に名曲が続き、30曲2時間半弱というボリュームある内容でしたが、全く飽きることなく聴くことが出来ました。

まずあらためて彼の代表曲を並べて聴くと、意外なほど楽曲のバリエーションが多いことに気が付かされます。ファンクのリズムを入れた「THUNDERBIRD」、バンジョーが入ってカントリーテイストも感じる「Happy Tail」、ムーディーなスウィングナンバー「angle」、さらに打ち込みのリズムを入れて、大橋トリオ流のディスコチューンとも言える「GOLD FUNK」まで。もちろん楽曲全体としてはジャズ、AORを基調とした曲が並ぶものの、意外なほどのバリエーションの豊富さを感じます。

さらに斉藤和義、平井堅といった大物ゲストを迎えた曲も多く、これがインパクトとなっているのですが、特によかったのが上白石萌音とのボッサ風のデゥオとなる「ミルクとシュガー」。洒落た雰囲気が非常に良質なポップスに仕上がっていますし、清涼感あふれる上白石萌音のボーカルも素晴らしい。さらに手嶌葵との「真夜中のメリーゴーランド」も秀逸。ネオアコ風の軽快なポップスなのですが、こちらも手嶌葵のボーカルが耳に残ります。

あらためて聴くと、メロディーラインについてもインパクトあるものが要所要所に感じられ、特に耳に残ったのが「LOTUS」のサビ。アップテンポながらメランコリックなフレーズが胸にグッときます。「アネモネが鳴いた」の切ないメロディーラインも非常にインパクト大。こちらは先のベスト盤の前にリリースされた曲ですが、いまさらながら、なぜ前のベスト盤に収録されていなかったか、不思議です。

Disc1とDisc2で、1枚目は比較的明るくて軽快なナンバーが、2枚目は比較的ムーディーでメロウなナンバーが並ぶ構成。アルバム全体としても2枚通して聴いて楽しめるような構成となっており、2時間半というボリューム感でありながらも、最後までダレることなく聴くことが出来た大きな要因でしょう。あらためて大橋トリオというミュージシャンの魅力を認識できたベストアルバム。大橋トリオ入門盤としても最適な作品です。

評価:★★★★★

大橋トリオ 過去の作品
A BIRD
I Got Rhythm?
NEWOLD
FACEBOOKII
L
R

FAKE BOOK III
White
plugged
MAGIC
大橋トリオ
PARODY
10(TEN)
Blue
STEREO
植物男子ベランダー ENDING SONGS
植物男子ベランダーSEASON2 ENDING SONGS
THUNDERBIRD
This is music too
NEW WORLD


ほかに聴いたアルバム

visions/milet

フルアルバムとしては約1年8ヶ月ぶりとなるシンガーソングライターmiletによるニューアルバム。今回のアルバムにも収録されている「Who I Am」のEPの時の感想と同様、バンドサウンドにピアノ、ストリングスを入れて、さらには曲によってエレクトロサウンドも取り入れたサウンドがとにかく分厚く、メロディーラインにはインパクトはあるものの、正直、仰々しいといった印象を受けてしまいます。分厚いサウンドに負けないだけのボーカルの力量は持っているとは思いますが、個人的にはもうちょっと交通整理してほしいかも。

評価:★★★★

milet 過去の作品
eyes
Who I Am

悄気る街、⾆打ちのように歌がある。/竹原ピストル

竹原ピストルの新作は5曲入りとなるミニアルバム。厳しい世の中で、決してむくわれずも必死に生きている人たちの背中を押すようなスタイルの歌詞の世界観は相変わらず。そんな中で、ラップを取り入れつつバンドサウンドを聴かせる「初詣」に、ダブサウンドを取り入れた「せいぜい胸を張ってやるさ。」、分厚いバンドサウンドが特徴的な「笑顔でさよなら、跡形もなく。」のように、弾き語り主体だった前作から一転、サウンド的には挑戦心も感じさせるアルバムに。次のフルアルバムでどのような形態を聴かせてくれるのか、音楽的にも楽しみです。

評価:★★★★

竹原ピストル 過去の作品
PEACE OUT
GOOD LUCK TRACK
It's my Life
STILL GOING ON

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2022年4月21日 (木)

こちらも新譜ラッシュ

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

Hot100と同じく、Hot Albumsも新譜ラッシュとなりました。

まず今週1位を獲得したのはROF-MAOのミニアルバム「Crack Up!!!!」が獲得。CD販売数1位、ダウンロード数6位、PCによるCD読取数11位。バーチャルライバーグループにじさんじに所属するバーチャルライバーユニット。この作品がデビュー作となります。オリコン週間アルバムランキングでも初動売上4万9千枚で1位を獲得しています。

2位には香取慎吾「東京SNG」が初登場。CD販売数2位、ダウンロード数3位、PCによるCD読取数10位。2枚目のソロアルバムとなり、本作でも田島貴男やWONKなどの豪華ミュージシャンが参加。さらにタイトル曲の「東京SNG」では、なんと向井秀徳が作詞を手掛けています。オリコンでも2位初登場。初動売上2万7千枚は前作「20200101」(1位)から横バイ。2枚目のソロとしては、かなりの健闘といった感じです。

3位はamazarashi「七号線ロストボーイズ」が初登場でランクイン。CD販売数4位、ダウンロード数5位、PCによるCD読取数18位。独特の歌詞の世界観が人気のバンドによる約2年ぶりのニューアルバム。オリコンでは初動売上1万2千枚で4位初登場。直近のEP盤「令和二年、雨天決行」の1万3千枚(6位)からダウン。また、オリジナルアルバムとしての前作「ボイコット」の1万8千枚(2位)からもダウンしています。

続いて4位以下の初登場盤です。まず4位にロックバンドMy Hair is Bad「angels」がランクイン。CD販売数3位、ダウンロード数15位、PCによるCD読取数28位。オリコンでは初動売上1万2千枚で3位初登場。前作「boys」の3万枚(5位)からはダウンしています。

7位初登場も、こちらもロックバンドTHE YEWLLO MONKEY「THE NIGHT SNAILS AND PLASTIC BOOGIE(夜行性のかたつむり達とプラスチックのブギー)」がランクイン。CD販売数5位、PCによるCD読取数58位。彼らのデビュー30周年を記念してリリースされたアルバムで、1992年にリリースされたメジャーデビュー作のデラックス盤。同作を、Suchmosなどを手掛けるエンジニア藤井亮佑があらたにミックス。さらにリハーサルテイクなどの秘蔵音源を収録したDisc2に、デビュー当時の未公開ライブ映像を収録したDVD、さらに当時、メディア関係者にのみ配布した「嘆くなり我が夜のファンタジー」のデモカセットテープの復刻版も同封した豪華内容に。定価9,350円と高価ながらも、オリコンでも初動8千枚を売り上げ、5位に初登場しています。ただ、直近のリリースとなるライブ盤「Live Loud」の初動2万7千枚(1位)からはさすがに大きくダウンしています。

8位には韓国の男性アイドルグループSHINeeのメンバー、ONEWによるソロアルバム「DICE」がランクイン。輸入盤ということでCD販売数は圏外となっていますが、ダウンロード数で1位を獲得し、総合順位でもベスト10入りしてきました。ちなみにオリコンでは輸入盤がカウントされ、初動売上2千枚で21位にランクイン。前作「Voice」の5千枚(24位)からダウンしています。

初登場最後は9位にSUHO「Grey Suit」がランクイン。CD販売数6位。こちらも韓国の男性アイドルグループEXOのメンバーによるソロアルバム。オリコンでは初動売上5千枚で12位初登場。前作「Self-Portrait」の1千枚(26位)からアップ。こちらも輸入盤なのですが、なぜかビルボードでのCD販売数がカウントされています・・・。

さらに今週、ベスト10圏外からの返り咲きも。宇多田ヒカル「BADモード」が先週の13位からランクアップし、10位にランクイン。4週ぶりのベスト10返り咲きに。CD販売数も25位から14位、ダウンロード数も10位から7位にアップしています。

今週のHot Albumsは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2022年4月20日 (水)

珍しく新譜ラッシュ

今週のHot100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今週はHot100としては珍しく新譜ラッシュに。全10曲中7曲までが初登場という結果となっています。

そんな中で、まず1位を獲得したのがジャニーズ系アイドルグループ。King&Prince「Lovin'you」が獲得。コーセーコスメポート「ジュレームiP」CMソング。CD販売数及びPCによるCD読取数1位、ラジオオンエア数11位、Twitterつぶやき数16位、You Tube再生回数14位。オリコン週間シングルランキングでは初動売上46万5千枚で1位初登場。前作「恋降る月夜に君思ふ」の初動44万2千枚(1位)よりアップしています。

2位初登場はSTU48「花は誰のもの?」がランクイン。瀬戸内7県を拠点に活動するAKB48の姉妹グループ。CD販売数2位、PCによるCD読取数31位、Twitterつぶやき数44位。オリコンでは初動売上15万7千枚で2位初登場。前作「ヘタレたちよ」の18万5千枚(1位)からダウンしています。ちなみにこの曲、元チェッカーズの鶴久政治が担当。懐かしい・・・久しぶりに名前を聞いたような気がします。

3位にはBUMP OF CHICKEN「クロノスタシス」が初登場。ダウンロード数1位、ストリーミング数34位、ラジオオンエア数7位、Twitterつぶやき数27位、You Tube再生回数88位。配信限定シングルで、映画「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」主題歌となります。

続いて4位以下の初登場曲です。まず4位に星野源「喜劇」がランクイン。テレビ東京系アニメ「SPY×FAMILY」エンディングテーマ。こちらは先週の11位からランクアップで、2週目にしてベスト10入り。ダウンロード数は先週の1位から5位にダウンしたものの、ストリーミング数が59位から11位、さらにラジオオンエア数が13位から1位に大幅にアップ。珍しく、ラジオオンエア主導のヒットとなっています。

5位には女性アイドルグループNiziU「ASOBO」がランクイン。ダウンロード数3位、ストリーミング数19位、ラジオオンエア数38位、Twitterつぶやき数26位、You Tube再生回数1位。韓国製日本人アイドルグループといった感じの彼女たち。一時期に比べると、勢いがかなり落ちてしまった感もあるのですが、新曲の今後の動向も気になります。

6位初登場はOfficial髭男dism「ミックスナッツ」。ダウンロード数2位、ストリーミング数43位、ラジオオンエア数2位、Twitterつぶやき数37位、You Tube再生回数16位。テレビ東京系アニメ「SPY×FAMILY」オープニングテーマ・・・ということは、この番組、オープニングがヒゲダンでエンディングが星野源なんですか・・・豪華な組み合わせだなぁ。ヒゲダンとしてはストリーミング数もYou Tube再生回数も低調気味。今後、盛り上がってロングヒットにつながるのでしょうか?

初登場の最後、8位には韓国の女性アイドルグループIVE「LOVE DIVE」がランクイン。ダウンロード数24位、ストリーミング数2位、PCによるCD読取数38位、Twitterつぶやき数67位、You Tube再生回数3位。

さて、今週はこれだけ初登場が多かった影響で、ロングヒット組が軒並み苦戦しています。まず先週までベスト3を維持してきたAimer「残響散歌」が2位から7位に一気にダウンしています。ただ、ヒットの主な要因となるストリーミング数は先週と同じく5位をキープしており、来週以降は巻き返しそう。これで19週連続のベスト10ヒットとなりました。ちなみにデッドヒートを繰り広げていたKing Gnu「カメレオン」は11位にダウンしています。

また、Saucy Dog「シンデレラボーイ」は6位から9位と3ランクダウンながらもベスト10をキープ。こちらもストリーミング数の3位、You Tube再生回数の9位は先週と変わらず。これで通算11週目のベスト10ヒットとなり、今後、さらなる上位に狙えそうです。

一方、苦戦したロングヒット勢の中で、なによりも大きなニュースが、優里「ドライフラワー」が今週、14位にダウン。2020年11月25日付チャート以来、1年半近くにわたり維持してきたベスト10ヒットが73週連続でついにストップです。ちなみに「ベテルギウス」も12位にダウンし、こちらもベスト10ヒットは23週連続でストップ。ただし、ストリーミング数で「ドライフラワー」が9位、「ベテルギウス」も4位と上位にランクインしてきており、来週以降、ベスト10返り咲きの可能性も。ちなみに「ドライフラワー」のカラオケ歌唱回数1位は今週もキープしており、これで63週連続1位となっています。

今週のHot100は以上。明日はHot Albums!

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2022年4月19日 (火)

生々しい録音そのままに

Title:Get Back (Rooftop Performance)
Musician:The Beatles

解散から50年以上が経過し、今なお多くの音楽ファンを魅了し続けている伝説のバンドThe Beatles。いまでも毎年のように新たなアイテムがリリースされ続けていますが、ここに来て、配信限定で新たなライブアルバムがリリースされました。1969年1月30日に、イギリスはロンドン、サヴィル・ロウにあったアップル・コアの本社屋上で40分にわたって行ったライブパフォーマンス、ルーフトップ・コンサート。既にバンドとして活動末期に行われたこのパフォーマンスは、The Beatlesのラストライブということもあって、いまでも伝説のパフォーマンスとして語り継がれています。ここからの音源は、アルバム「Let It Be」に使用されているほか、いろいろな形で発表されていたようですが、このたび、そのパフォーマンスがほぼ完全な形で収録された音源がリリースされました。

もともと、昨年動画配信にて公開された映画「ザ・ビートルズ: Get Back」内で、このルーフトップコンサートの全貌が映像作品として公開されており話題となっていたのですが、今回のライブアルバムリリースもその流れの中に沿ったもの。また、このルーフトップ・コンサートの映像だけピックアップし、劇場公開もされたようです。

さて、そのライブ音源なのですが、まず何より感じるのが非常に生々しいなぁ、という点でした。今回のライブアルバム、曲の間のおしゃべりだとか、演奏の準備の模様などもそのまま収録されています。映像ならともかく、音源のみでは正直なところ、何をしているのかわからなかったり、おしゃべりも、何を話しているのかわからなかったりする部分も大きいのですが(聞き取れたところで英語がわからないのですが・・・)、それを差し引いても、そこでビートルズのメンバーが演奏している!という生々しさを感じられます。

例えば1曲目「Get Back/Take 1」では、誰かが床を蹴るような音がするのですが、これはポールが床の強度を確かめるために、足で蹴っているのだとか。「I've Got A Feeling/Take 1」の最後でもメンバー同士のやり取りがそのまま収録されています。「Dig A Pony」の最初と最後には「All I Want Is You」のフレーズが入ったり、「God Save The Queen」の短いジャムセッションが入ったりと、自由なライブパフォーマンスならではの聴きどころがたくさんあり、それがまた自由に演奏を楽しんでいる彼らの姿がそのまま伝わってくるようです。

バンドの状況としては解散直前ということもあって最悪な状況であり、このパフォーマンスの前にはポールとジョージが喧嘩をして、ジョージが一時的に脱退するなどの事態もあったそうです。そのような事態にも関わらず、このパフォーマンスからは終焉を迎えるようなバンドとしての悲壮感はほとんど感じません。逆にバンドとしてしっかり一体感もあり、メンバーもパフォーマンスを楽しんでいるような感じが伝わってきます。普段はバラバラでも楽器を持ってパフォーマンスをはじめると、バンドとして一体感を発揮する・・・4人の間には、外部の人間にはわからない絆があるのでしょうか。これこそバンドマジックと言えるのかもしれません。

ただ一方では、これが最後だ、と知っている今聴くと、やはりどこか物悲しくも感じられてしまいます。「Get Back」にしても、シャウトするように歌うポールの曲に込めた意味を考えると・・・と感じてしまいます。そういう点を含めて、どこかThe Beatlesのバンドとしての最後の輝きを感じてしまうパフォーマンス。メンバーの背中を映したジャケット写真も印象的ですが、どこか終わっていく時代を感じてしまいます。

聴きどころに関してはマニアックな部分も大きいのですが、そんな部分を差し引いても、The Beatlesの最後のパフォーマンスとして聴き応えのある作品だったと思います。マニアならずとも広い層にお勧めできるアルバムです。

評価:★★★★★

The Beatles 過去の作品
LOVE
On Air~Live At The BBC Volume2
1+ (邦題 ザ・ビートルズ 1+)
LIVE AT THE HOLLYWOOD BOWL


ほかに聴いたアルバム

Pompeii/Cate Le Bon

前作「Reward」がマーキュリー・プライズにノミネートされたことでも注目を集めたイギリス・ウェールズの女性シンガーソングライターによる新作。前作ではフォーキーな作風が特徴的だったのですが、今回の作品はエレクトロなサウンドをベースに、幻想的なポップスを聴かせるアルバムになっており、楽曲によっては80年代的なサウンドを聴かせてくれており、妙に人なつっこさも感じれらます。一方では、メロディーラインには一癖加えられており、聴いていて、妙な感覚を覚えるようなポップもユニーク。前作に引き続き、大きな評判を呼びそうな作品です。

評価:★★★★★

Cate Le Bon 過去の作品
Reward

DFTK/Yung Kayo

これがデビューアルバムとなる注目のラッパー、Yung Kayo。メランコリックで、ある種の焦燥感すら感じられるサウンドやラップに、トラップ的なリズムが特徴的な作風で、トラップの派生ジャンルであるRage Beatと呼ばれるジャンルにカテゴライズされる作品だとか。まだまだこれからといった感じのラッパーですが、メランコリックな作風が耳に残り、今後、さらなるヒットを飛ばしそう。

評価:★★★★

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2022年4月18日 (月)

生音重視でよりポップに

Title:Ants From Up There
Musician:Black Country,New Road

デビュー作でもある前作「For the first time」が大きな評判を集めたイギリスの7人組ロックバンド、Black Country,New Road。売上の側面でもチャート最高位4位を記録しブレイクしたのみならず、年末の各種メディアの年間ベストにもランクイン。さらに、イギリス最大の音楽賞であるマーキュリー・プライズにもノミネートされるなど、デビューアルバムで大きな飛躍を果たしました。

彼らの大きな特徴といえば、なんといっても7人組という大所帯バンドから繰り広げられる賑やかな音の世界。通常のバンドメンバーに加えてキーボードにサックス、バイオリンというパートのメンバーが入ったこのバンドは、分厚いバンドサウンドにキーボード、サックス、バイオリンをこれでもかというほと加えたダイナミックなバンドサウンドが魅力的。このアルバムでもイントロを挟んだ2曲目「Chaos Space Marine」から、まず迫力あるバンドサウンドをバックに、サックス、バイオリンというメロディー楽器をユニゾンで重ねるという賑やかでダイナミックなサウンドを披露。7人組というこのバンドの特色を最大限に生かしたスタートとなっています。

その後も「Good Will Hunting」のように、シンセのサウンドを潜ませつつ、バンドサウンドにピアノでダイナミックに聴かせるナンバーや、「Snow Globes」のように、メランコリックなメロをバックに、フリーキーさを感じさせるサックス、さらにはこれでもかというほどダイナミックなリズムを刻むドラムでスケール感あるフリーキーなサウンドの世界を作り上げています。

その集大成的なのがラストの「Basketball Shoes」で、最初は静かなサウンドからスタートするのですが、中盤にメランコリックな歌が登場。さらに中盤以降はメンバー総動員のダイナミックなサウンドを聴かせつつ、終盤はノイジーなギターサウンドを押し出し、よりダイナミックで迫力ある演奏を聴かせるという、複雑に構成された、12分にも及ぶ大作を作り上げています。

ただ、今回の作品は前作「For the first time」より、若干方向性の異なる作品となっています。まず、インディーロック的なギターサウンドを前に押し出していた前作に比べると、今回の作品は、サックスやストリングスといった生のサウンドをより前面に押し出した作風へとチェンジしています。前作のようなギターロックの色合いの強かった作品もよかったのですが、本作ではサックスやバイオリンのメンバーをより生かした、よりBlack Country,New Roadというバンドの特色を生かした楽曲に仕上がっていると言えるでしょう。

またその結果として、なのですが、前作よりもよりポップで明るい作風の曲が目立ったように感じます。基本的にメランコリックなメロディーの曲も多いのですが、サックスとバイオリンで鮮やかな色合いの作風が増えたことによって、楽曲全体がポップに感じられました。良くも悪くもインディー色も強かった前作と比べると、いい意味でより「マス」を意識したような作風が増えたようにも感じます。

その影響でしょうか、前作で感じたエキゾチックな要素がちょっと薄れて、どちらかというとヨーロッパトラッド的な雰囲気が強まったようにも思えます。ここらへんはひょっとして、日本人のミュージシャンがえてして洋楽的な方向を目指していても、歌謡曲的な方向に流されがちなのと一緒で、イギリス人にとってはDNAのレベルまで染みついた音楽的な感覚なのでしょうか?ただもちろん、それはそれで魅力的な印象を受けます。

ちなみに本作を最後に、メインボーカルで作詞を担当していたメンバーのアイザック・ウッドが脱退したとか。そういう意味ではバンドにとって非常に転機となるアルバムと言えるのかもしれません。また、方向性の違う1枚目と2枚目で、バンドとしてやれることをある程度やってしまった、ということもあるのかもしれません。今後の彼らの方向性がどのようにシフトしていくのか気になるところなのですが・・・とりあえずは素直なポップで楽しめる本作をしばらくは愛聴したいところでしょう。

評価:★★★★★

Black Country,New Road 過去の作品
For the first time

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2022年4月17日 (日)

フォークロックを軸に、挑戦心あふれる傑作

Title:Dragon New Warm Mountain I Believe in You
Musician:Big Thief

現代のフォーク・ロックの旗手として注目を集めているアメリカはブルックリン出身のフォークロックバンド、Big Thiefのニューアルバム。2019年にリリースされた2枚のアルバム「U.F.O.F.」「Two Hands」がいずれも高い評価を得て、各種メディアの年間ベストアルバムとして軒並みランクイン。その上、「U.F.O.F.」はグラミー賞のオルタナティヴ・ミュージック・アルバム部門にノミネートされるなど、大きな話題を呼び、一気に知名度もアップさせました。

そんな彼女たちの新作は、なんと2枚組全20曲入り全1時間20分というボリューミーな内容に。前回も1年のうち2枚ものアルバムを同時リリースしているだけに、その勢いのほどを伺わせます。そして、そんなボリューミーなアルバムながらも最後まで一気に聴き切れてしまう、傑作アルバムに仕上がっていました。

まずやはり大きな魅力なのは、彼女たちのアコースティックベースのフォーキーでメロディアスな楽曲でしょう。1曲目の「Change」は、まさにそんなフォーキーな彼女たちの魅力を存分に感じられる曲。アコギを中心としたアコースティックなサウンドに、切なさを感じるボーカルとメロディーラインが非常に耳に残る傑作に仕上がっています。

その後も、バンドサウンドをバックとしつつ、70年代的な雰囲気も感じられるフォークロックの王道とも言うべき「Certainty」に、ソプラノボイスの清涼感あふれるボーカルと幻想的なサウンドが美しく展開されるタイトルチューン「Dragon New Warm Mountain I Believe in You」、フィドルも入ってカントリー色強く軽快に楽しませてくれる「Red Moon」、ゆっくり暖かく聴かせるフォーキーなサウンドとメロが胸をうつ「12,000 Lines」、アコギのテンポよいアルペジオが美しい「The Only Place」と、魅力的なフォークロックの曲がズラリと並びます。

ただ、もちろんアコースティックなサウンドのフォークロックを聴かせるだけ・・・なら、これだけのボリュームのある作品、途中で飽きてしまうかもしれません。彼女たちの大きな特徴は、そんな暖かく聴かせるフォーキーな楽曲の間に、様々なサウンドを取り入れた挑戦的な作品を聴かせてくれるという点。1曲目のフォーキーな「Change」に続くのは、アバンギャルドなギターとリズムを聴かせる「Time Escaping」。その後も「Little Things」ではフォークロックのナンバーながらもノイジーなギターを加えた分厚いサウンドでダイナミックに聴かせてくれますし、「Flower of Blood」もヘヴィーなギターロックの作品に。それに続く「Blurred View」もノイジーなギターとドラムスをバックにダウナーな作品に仕上げています。

その後も「Wake Me up to a Drive」ではチープな打ち込みのリズムを取り入れたり、「Love Love Love」ではサイケなギターサウンドを入れてきたりと、実にバラエティー豊富に、様々なサウンドに挑戦しています。思えば2019年にリリースした2枚のアルバムも、アコースティック色の強い「U.F.O.F」とバンド色の強い「Two Hands」にわかれていました。今回、2枚組のフルボリュームのアルバムになっていましたが、彼女たちはやりたいことがいろいろとありすぎて、どうしてもアルバムを作ると、これだけのボリュームになってしまうのでしょうか。

ただ、そうなるとえてしてアルバム全体がバラバラになってしまいがち。しかし彼女たちの場合、根底にしっかりとしたフォーキーなメロディーラインが流れており、それがアルバム全体の一体感を作り出しています。そのため、1時間20分というフルボリュームながらも、アルバムとして最後まで破綻することなく、かつバラエティー富んだ作風で最後まで飽きさせない、という理想的な構成の傑作アルバムに仕上がっていました。

ラストもフォーキーな「Blue Lightning」という、アルバムをまとめるにはピッタリのフォークロックナンバーで暖かい雰囲気で締めくくり。最後まで見事な構成でアルバムを締めくくっていました。2019年にリリースされた2枚のアルバムも文句なしの傑作でしたが、今回のアルバムも、間違いなく年間ベストクラスの傑作アルバムだったと思います。売上的にも、ベスト100にも入れなかった前作に比べて、本作はアメリカビルボードチャートで31位にランクインするなど人気面でも大きな飛躍を遂げています。彼女たちの活躍はまだまだ続きそうです。

評価:★★★★★

Big Thief 過去の作品
U.F.O.F.
Two Hands

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2022年4月16日 (土)

多彩なミュージシャンが参加した多彩なアルバム

Title:BIG WORLD
Musician:MONDO GROSSO

昨年はベスト盤をリリースした大沢伸一のソロプロジェクト、MONDO GROSSOの、オリジナルアルバムとしては約4年ぶりとなるニューアルバム。今回のアルバムは「変わってしまった世界、さらに変わっていく世界の中で、心の在処を探し続ける音楽の旅」をコンセプトに、様々なミュージシャンとのコラボ作がつまったアルバムになっています。ちなみにMONDO GROSSOとはイタリア語で「大きな世界」という意味だそうですので、ある種の「セルフタイトル」のアルバムと言えるかもしれません。

MONDO GROSSOについては昨年リリースしたベストアルバムを含め、基本的にはアルバム毎に聴いています。ただ、クラブ系の良質なポップソングというイメージはあるのですが、サウンドについては正直、決して先端を行くようなものではありませんし、良くも悪くも「無難」という印象を受けてしまっている、というのが率直な感想。それだけに今回のアルバムについても、それなりに良質なポップソングは聴けるものの、多大な期待はしていませんでした。

しかし今回のアルバムに関しては、そんな事前の印象を覆すような傑作に仕上がっていました。まずその最大の要因としては、様々なミュージシャンとのコラボによって、様々なユニークな音楽性を聴かせてくれていたという点。オープニングに続く「IN THIS WORLD」では満島ひかりがボーカルで、坂本龍一がピアノで参加。幻想的なボーカルとピアノの音色が耳に残るハウスチューンに仕上がっていますし、どんぐりずが参加した「B.S.M.F.」はファンキーなリズムをバックに軽快なラップが展開されるHIP HOP風のナンバー。さらに前半で耳を惹いたのはCHAIが参加した「OH NO!」でしょう。CHAIらしさを感じるエッジの効いたサウンドも魅力的。CHAIっぽさと大沢伸一っぽさが見事に同居させた、理想的なコラボになっています。

意外性といえば、なんといっても乃木坂46の齊藤飛鳥が参加した「STRANGER」でしょう。ノイジーなギターが鳴り響くシューゲイザーロックになっており、MONDO GROSSOのイメージからすると、かなり意外な感のある方向性の楽曲になっています。「迷い人」も、EGO-WRAPPIN'の中納良恵の感情たっぷりのボーカルが大きな魅力に。ラストのタイトルチューン「BIG WORLD」はちょっと気だるいボーカルでメロウに聴かせるAORな楽曲で締めくくられています。

サウンドの先駆性という意味では今回の作品についても決して先駆的というイメージはありません。むしろちょっとひと昔前のサウンドというイメージもあり、「B.S.M.F.」で展開しているHIP HOPなんかについても、スタイル的にはむしろ90年代的です。そういう意味では、いままでのMONDO GROSSOの延長と言えるでしょう。

ただ、多彩なボーカリストと、それによって生み出された多彩な音楽性は非常に魅力的。シューゲイザーサウンドのようなMONDO GROSSOの意外な音楽性も垣間見れたりもして、最後まで全く飽きることなく楽しめたアルバムでした。いままでの彼のイメージが大きく変わった・・・という感じではないものの、彼のミュージシャンとしての魅力を存分に感じることの出来た傑作アルバム。参加しているミュージシャンのファンの方も楽しめるのではないでしょうか。とても楽しい作品でした。

評価:★★★★★

MONDO GROSSO 過去の作品
何度でも新しく生まれる
Attune/Detune
MONDO GROSSO OFFICIAL BEST


ほかに聴いたアルバム

Actor/緑黄色社会

4人組ロックバンドによる約1年4か月ぶりとなるニューアルバム。バンドサウンドを軸に、ピアノやストリングス、ホーンセッションを入れて分厚くしたものの、ルーツレスな感のあるサウンドにインパクトあるポップなメロという意味で、前作同様、J-POPの王道を行くようなサウンドを奏でています。メンバー全員が作曲に関与するスタイルなのですが、それぞれの個性までは感じられず、ここらへん、作曲メンバーによる方向性の違いが顕著になれば、バンドとして非常におもしろくなる感じもします(もちろん、その分、バンド存続が難しくなるリスクもありますが)。前作「SINGALONG」で初のチャートベスト10入りを記録し、本作ではビルボード、オリコン共に最高位4位を記録するなど人気上昇中の彼女たち。メロディーラインのインパクトも前作よりも増し、出来栄えとしては前作を上回った感もあります。今後の成長に期待。

評価:★★★★

緑黄色社会 過去の作品
SINGALONG

Humanity/Koji Nakamura+食品まつりa.k.a foodman+沼澤尚

ご存じ、ナカコーことKoji Nakamuraと、名古屋在住のエレクトロミュージシャン食品まつり、様々なミュージシャンと共演しているドラマーの沼澤尚(そういえば、先日、OKI DUB AINU BANDで目撃したばかり・・・)のコラボ作。アンビエントテキストのエレクロトサウンドをしっかり聴かせるナンバー。時にはドリーミーに、時には不気味に、サイケな要素やメタリックなサウンドなど、繰り広げられます。全体的には軽快さもありつつ、どこかコミカルさも感じられる点がユニークな作品に仕上がっていました。

評価:★★★★

Koji Nakamura 過去の作品
Masterpeace
Epitaph
Texture Web

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2022年4月15日 (金)

忘れられたフェスの貴重な音源

Title:Summer Of Soul (...Or, When The Revolution Could Not Be Televised) Original Motion Picture Soundtrack
(邦題:「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」オリジナル・サウンドトラック)

昨年公開され、大きな話題を呼んだ映画「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」。伝説のロックフェス「ウッドストック」と同年に実施されたものの、いままでほとんど忘れ去られた存在であった「ハーレム・カルチュラル・フェスティヴァル」の模様をドキュメンタリー化した映画。その後、アカデミー賞で「長編ドキュメンタリー賞」を、グラミー賞でも「最優秀ミュージック・フィルム賞」を受賞するな、高い評価を受けています。そして、当然のように待ち望まれていた映画のサントラ盤が、映画公開より遅ればせながらリリースとなっています。

私もリアルタイムで映画を見に行き、次から次へと登場する魅力的なミュージシャンの数々にワクワクしながら楽しみました。その時の詳しい感想はこちらに書いたのですが、各種賞レースで高い評価を受けるのも納得の傑作だったと思います。そして、なによりも映画で魅力的だったのは、当たり前ですがライブパフォーマンスそれ自体。このアルバムでも1曲目The Chamber Brothersの「Uptown」からスタートしているのですが、これでもかというほどのファンキーなリズムと力強いボーカルに一気に惹きつけられます。

その後もB.B.KINGやThe Staple Singers、Sly&The Family Stoneなどといった豪華ミュージシャンたちの楽曲がズラリと並んでいる今回のサントラ。まだまだ脂ののっているB.B.KINGのブルージーな演奏や、原曲以上にソウルフルなボーカルを聴かせてくれるDavid Ruffinの「My Girl」など聴きどころはたくさん。そしてなんといっても今回のサントラ盤の大きな魅力は、当たり前ですがフル演奏で収録されているという点でしょう。ドキュメンタリー映画の方は、ドキュメンタリーという特質上もありますし、また映画自体、このフェスを通じて、当時の黒人社会の状況を映し出したいという意図もあったため、パフォーマンスの方はフル演奏ではなく、途中でカットされていたりして、その点が唯一、不満点として感じられました。

しかし、今回のアルバムでは彼らのライブパフォーマンスがフル演奏で収録されており、その魅力を存分に味わえる内容になっています。どの演奏も素晴らしかったのですが、特に素晴らしかったのは、マヘリア・ジャクソンによる「Precious Lord,Take My Hand」でしょう。映画本編でも素晴らしいパフォーマンスで印象的だったのですが、ここでもマヘリアの歌唱力がいかんなく発揮されたパワフルなボーカルが胸をうちます。「ゴスペルの女王」と呼ばれている彼女ですが、その理由が文句なしに理解できるパフォーマンスです。

さらにSly&The Family Stoneの「Sing a Simple Song」も印象的な1曲。ファンキーなリズムにのせたにぎやかなパフォーマンスが印象に残り、ライブでの盛り上がりが音源を通じても伝わってくるような内容に。こちらも映画でも印象に残ったパフォーマンスでしたが、このサントラでも、その時の記憶が蘇ってきました。

そんな訳で、収録されている音源については文句なしの作品だったのですが、一方残念な部分もあり、それは映画の全てのパフォーマンスが収録されているわけではない点。例えばスティーヴィー・ワンダーのパフォーマンスについては未収録となっています。ここらへんはやはり権利の関係でしょうか?それだけでこのサントラの魅力が大きく落ちる訳ではないのですが、ちょっと残念に感じました。

そんなマイナス点はありつつも、サントラ盤としては申し分ない傑作である本作。あらためて映画も見直したくなりました。1969年というとソウルミュージック全盛期であり、ほとんどのミュージシャンが最も脂ののった時期のパフォーマンスでもあり、そういう意味でも貴重なライブ音源とも言えるでしょう。文句なしに、全ブラックミュージック好きには要チェックのアルバムです。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Requiem/KORN

約3年ぶりとなる新作。もともと昨年の4月の段階で完成されていたものの、コロナ禍によるツアーキャンセルでアルバムをアレンジできる時間的余裕が生まれ、さらなるアレンジが加えられた作品だそうです。とはいっても、いままでの彼らとは異なる・・・といった感じではなく、ヘヴィーなサウンドとメランコリックなメロといういつものスタイルはいつも通り。むしろポップなメロが前作以上に全面に出た印象も。目新しさはないものの、いい意味で聴きやすく、ヘヴィーなサウンドにロックを聴いたという満足感を覚える1枚でした。

評価:★★★★

KORN 過去の作品
Untitled
KORNIII:REMEMBER WHO YOU ARE
THE PASS OF TOTALITY
The Serenity of Suffering
The Nothing

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2022年4月14日 (木)

マクロス人気で見事1位

今週のHot Albums

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日本において長らく圧倒的な人気を誇るロボットアニメといえばご存じガンダムですが、そのガンダムに負けず劣らず人気を保ち続けるロボットアニメといえばマクロスシリーズ。特に最近は、マクロスシリーズに登場する架空のアイドルによる作品がチャート上位にあがってきますが、今回はそのマクロスシリーズのアルバムが見事1位獲得です。

今週1位を獲得したのはシェリル・ランカ・ワルキューレ「マクロス40周年記念超時空コラボアルバム デカルチャー!!ミクスチャー!!!!!」。CD販売数、ダウンロード数、PCによるCD読取数のいずれでも1位を獲得。「マクロスF」シリーズに登場する架空のアイドル、シェリル・ノームとランカ・リー、さらに「マクロスΔ」シリーズに登場する架空のアイドルグループ。「劇場版マクロスΔ 絶対LIVE!!!!!!/劇場短編マクロスF ~時の迷宮~」公開にあわせてリリースされたコラボアルバムとなります。オリコン週間アルバムランキングでも初動売上7万7千枚を売り上げて1位初登場。ワルキューレの前作「Walküre Reborn!」の初動2万8千枚(3位)からアップ。シェリル・ノーム及びランカ・リー名義ですと、前作「マクロスF cosmic cuune」の2万8千枚(6位)からアップ。またマクロス関連でも「『劇場版マクロスΔ 絶対LIVE!!!!!!』オリジナルサウンドトラック」の初動9千枚(5位)から大きくアップしています。

2位には韓国の女性アイドルグループRed Velvetの日本盤アルバム「Bloom」がランクイン。CD販売数2位、ダウンロード数41位。また彼女たちの韓国盤ミニアルバム「The ReVe Festival 2022 - Feel My Rhythm」も4位にランクイン。こちらはCD販売数3位、そのほかは圏外という結果に。オリコンでは「Bloom」が初動1万6千枚で5位、「The ReVe Festival 2022」が8千枚で6位という結果に。前作「SARRY」の1万4千枚(4位)より、「Bloom」の方は若干のアップとなっています。

3位には25時、ナイトコードで。「25時、ナイトコードで。 SEKAI ALBUM vol.1」がランクイン。CD販売数4位、ダウンロード数2位、PCによるCD読取数14位。スマートフォン向けリズムゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」に登場するアイドルグループによるデビューアルバム。オリコンでは初動売上1万9千枚で3位初登場です。

続いて4位以下の初登場盤ですが、今週は初登場は少な目で、2枚のみがランクインしています。まず9位に女性2人組アイドルユニットClariS「Parfaitone」がランクイン。CD販売数7位、ダウンロード数15位、PCによるCD読取数36位。オリコンでは初動売上7千枚で8位初登場。直近作は2枚同時リリースとなったベスト盤「ClariS 10th Anniversary BEST - Pink Moon -」「ClariS 10th Anniversary BEST - Green Star -」で、それぞれの初動9千枚(10位)、1万枚(9位)からはダウン。オリジナルアルバムとしては前作の「Fairy Party」の1万1千枚(8位)からダウンしています。

最後10位には男性アイドルグループDISH//「再」が初登場。CD販売数9位、ダウンロード数42位、PCによるCD読取数95位。「再青プロジェクト」と題し、今年1月から毎月1日に2曲づつリリースしてきた、過去作のリテイクバージョンをまとめた企画盤。オリコンでは初動6千枚で10位初登場。直近のオリジナルアルバム「X」の初動3万6千枚(4位)から大きくダウンしています。

今週のHot Albumsは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2022年4月13日 (水)

再びAimerがリード

今週のHot100

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先週までAimer「残響散歌」King Gnu「カメレオン」がデッドヒートを繰り広げてきたHot100でしたが、今週「カメレオン」は5位と大幅ダウン。一方「残響散歌」は3位から2位にアップ。今回も「残響散歌」に軍配が上がりそうです。これで「残響散歌」は18週連続のベスト10ヒット&通算17週目のベスト3ヒット。ただ、ダウンロード数は4位から9位、ストリーミング数3位から5位、You Tube再生回数2位から3位といずれもダウンしており、今後の動向が注目されます。

一方、今週1位を獲得したのは秋元康系のアイドルグループ櫻坂46「五月雨よ」がランクイン。CD販売数1位、ダウンロード数19位、ストリーミング数27位、ラジオオンエア数18位、PCによるCD読取数2位、Twitterつぶやき回数6位。オリコン週間シングルランキングでは初動売上39万3千枚で1位初登場。前作「流れ弾」の37万5千枚(1位)よりアップ。

3位は先週1位Snow Man「ブラザービート」が2ランクダウンながらもベスト3をキープ。特にPCによるCD読取数及びYou Tube再生回数は今週も1位を記録しています。

続いては4位以下の初登場曲です。まず7位に韓国の男性アイドルグループBIGBANG「Still Life」がランクイン。ダウンロード数2位、You Tube再生回数4位を獲得した一方、ストリーミング数17位、ラジオオンエア数87位、Twitterつぶやき数68位を獲得。メンバーの徴兵に加えて、メンバーの一人、V.I.が「バーニング・サン事件」と呼ばれる暴行事件などの関与のため実刑判決をうけ、グループからも脱退するなどトラブルに見舞われた彼ら。本作は約4年ぶりとなる復帰作となります。

さらに今週9位にTani Yuuki「W/X/Y」が先週の12位からランクアップし、ベスト10初登場。ダウンロード数20位、ストリーミング数2位、You Tube再生回数63位、カラオケ歌唱回数71位。Tani Yuukiは本作が5曲目の配信シングルとなる男性シンガーソングライター。2020年7月に配信した「Myra」がTikTokで大ヒットを記録。本作は昨年5月にリリースしたシングルですが、こちらもTikTokで爆発的な人気を獲得し、徐々にランクを上昇し、ついにベスト10入りを果たしました。今後のロングヒットが期待できそう。ただストリーミング数以外のチャートはいずれも下位となっており、今後のストリーミング数以外のランキングのヒットがロングヒットの鍵となりそうです。

続いてロングヒット曲ですが、まずSaucy Dog「シンデレラボーイ」は先週と変わらず6位をキープ。ストリーミング数が5位から3位に、You Tube再生回数も12位から9位にアップ。ここに来て、上り調子となってきています。来週以降、さらに上位も狙えそう。これで通算10週目のベスト10ヒットとなりました。

一方、優里「ベテルギウス」が5位から8位に、「ドライフラワー」も7位から10位にダウン。こちらはついにどちらも後がなくなってきました。これで「ベテルギウス」は23週連続、「ドライフラワー」は73週連続のベスト10ヒットとなりましたが、来週以降の動向が注目されます。

またマカロニえんぴつ「なんでもないよ、」は今週12位に再びダウン。ベスト10返り咲きは1週のみに留まりました。

今週のHot100は以上。明日はHot Albums!

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2022年4月12日 (火)

このアルバムで大ブレイク

Title:LAUREL HILL
Musician:Mitski

前作「Be the Cowboy」が高い評価を集め、大きな話題となった女性シンガーソングライターMitski。次回作が非常に待たれるシンガーの一人でしたが、前作から約3年半ぶりとなるニューアルバムがリリースされました。また、前作で「近いうちに大ブレイクしそう」と書いたのですが、本作はアメリカビルボードチャートで最高位5位を記録。いままで、インディーシーンにその人気がとどまっていた感もありますが、本作で一気に花開いた感があります。

その前作「Be the Cowboy」はポップなメロディーを主軸にしつつ雑食性の高い音楽性が魅力的でしたが、今回のアルバムもバラエティーに富んだポップアルバムに仕上がっています。ダウナーな雰囲気のオープニングナンバー「Valentine,Texas」に続く「Working for the Knife」は分厚いギターノイズで埋め尽くされたダイナミックな楽曲。さらに次の「Stay Soft」は軽快な打ち込みのリズムと分厚いサウンドに爽やかなピアノの音色が加わるエレクトロポップチューンと続いていきます。

さらに中盤の「Heat Lightning」はメランコリックな雰囲気が漂わせつつ、ストリングスやピアノで壮大なスケール感を覚える楽曲になっていますし、そこから一転、「The Only Heartbreaker」「Love Me More」は軽快でリズミカルな打ち込みを前面に押し出した、80年代的なエレクトロポップチューンに仕上がっています。

終盤はエレクトロサウンドでドリーミーな雰囲気を醸し出している「There's Nothing Left You」「I Guess」と続き、最後の「That's Our Lamp」ではホーンセッションまで飛び出す祝祭色豊かな楽曲となっており、まさに大団円という表現がふさわしいラストになっています。

全体的にはエレクトロサウンドをベースにしつつ、今風のサウンドから80年代ポップス、さらにはロック色の強い作風までバラエティー富んだサウンドを聴かせてくれています。そして、そんなバラエティー富んだサウンド以上に魅力的かつ本作の大きな特徴と言えるのは、フックの効いた心地よいメロディーライン。前作「Be the Cowboy」でもポップなメロが大きな魅力の彼女でしたが、本作でもその魅力をいかんなく発揮しています。

今回のアルバムでも、例えば80年代風ポップにまとめている「The Only Heartbreaker」や「Love Me More」ではフックの効いたメロディーが魅力的ですし、最後の「That's Our Lamp」も祝祭色のあるサウンドと呼応する形の明るいテンポのよいメロが魅力的。いままでインディーシーンの支持をメインに活躍してきた彼女ですが、楽曲的には十分コアにアピールする力を持っており、それが本作での大ブレイクにつながったともいえるでしょう。

ちなみに日系アメリカ人で幼少期は三重県で育ったという彼女。やはり心境的には応援したくなりますし、また、邦楽からの影響も少なくないようで、そういうい意味でもメロディーライン的には日本人にもなじみのあるものではないでしょうか。これから一層の活躍が期待される彼女ですが、このアルバムを聴く限り、さらなる人気ミュージシャンに成長していきそうです。

評価:★★★★★

Mitski 過去の作品
Be the Cowboy

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2022年4月11日 (月)

ポップ路線と実験路線がほどよくバランス

Title:Time Skiffs
Musician:Animal Collective

ニューヨークを拠点に活動している4人組インディーロックバンドの新作。アルバムをリリースする毎に高い評価を受けている彼らですが、今回は2018年にリリースした「Tangerine Reef」以来の新作。同作は映像作品を前提とした企画モノ的な作品でしたので、純然たるオリジナルアルバムとしては「Painting With」以来、ちょうど6年ぶりとなる新作となります。

Animal Collectiveというと、ポップな作風を軸としつつ、作品の中にエレクトロやポストロック、サイケなどの要素を混ぜて、実験的な曲調を展開する、インディーロックバンドとしての典型的なバンド。ただ、それだけに実験的な作風に走った時とポップ志向に走った時の振れ幅が比較的大きいバンドという印象を受けていました。正直なところ、直近作の「Tangerine Reef」も、オリジナルアルバムとしての前作「Painting With」も実験的な要素の強いアルバムで、あまりピンと来ないアルバムになっていました。

それだけに今回のアルバムの方向性も気にかかっていたのですが、今回のアルバムは、結果としてポップなメロディーが前面に出ており、いい意味で非常に聴きやすいアルバムに仕上がっていたと思います。

1曲目の「Dragon Slayer」からして、「竜退治」というそのタイトルとは裏腹に、様々なサウンドこそサンプリングしているものの、牧歌的な雰囲気すら感じさせるフォーキーなメロディーが流れてきており、某RPGを彷彿とさせるようなタイトルですが、途中、勇者が休憩している最中といった感じでしょうか。「Prester John」もファルセット気味のボーカルで歌われるメロが爽快で心地よい感じ。そして、前半で最も心地よかったのが「Strung With Everything」でしょう。序盤は静かでドリーミーなサウンドが流れつつ登場するメロディーラインは、60年代のギターポップを彷彿とさせるような心地よく懐かしい歌が流れてきます。

中盤以降もマリンバの音で清涼感あるリズムをバンドサウンドの中に潜ませつつ、ミディアムテンポのポップチューンを聴かせる「Walker」や、サイケでドリーミーなサウンドをバックに伸びやかなメロが「Cherokee」。ラストの「Royal and Desire」も伸びやかでドリーミーなエレクトロサウンドをバックに、しんみりと夢見心地の歌を聴かせる曲で、心地よい余韻と共に、アルバムは幕を下ろします。

ここ最近、実験的な路線にシフトしていた作風から一転し、ポップなメロを楽しめる作品に仕上がった本作。ただ、だからといって、前作までのサイケやポストロック的な路線が大きく切り替わった訳ではなく、様々な音を取り入れつつ、分厚いドリーミーなサウンドを聴かせてくれており、そういう意味では彼らの実験的な要素とポップな要素がほどよくバランスされた作品になっていたと思います。彼ららしさが最大限に発揮されたドリームポップの傑作。聴いていてとにかく心地よくなる作品でした。

評価:★★★★★

Animal Collective 過去の作品
Merriweather Post Pavilion
CENTIPEDE HZ
Painting With
The Paniters EP
Tangerine Reef


ほかに聴いたアルバム

Good To Be.../Keb' Mo'

現在のブルース界の第一人者、Keb' Mo'のニューアルバム。ブルースのアルバム・・・なのですが、所々にブルージーなギターを聴かせるものの、全体的にはむしろAORのテイストの強いアルバムに。曲によってはフォークやカントリーの色合いの強い曲もあったりと、いかにもなブルースを聴きたい、となると若干物足りなさも感じてしまう部分は否定できないのですが、全体的にはアメリカのルーツミュージックの影響を強く感じさせる良質なポップソングを聴かせてくれるアルバムでした。

評価:★★★★

Keb' Mo' 過去の作品
Bluesamericana

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2022年4月10日 (日)

名古屋では10年ぶりのワンマン

OKI DUB AINU BAND 東名京ワンマンツアー2022

会場 TOKUZO 日時 2022年4月4日(月)19:00~

Okiainudub_live正月あたりから蔓延したオミクロン株が、ようやく落ち着いてきた・・・・・・のかどうかはかなり微妙な状況なのですが、1月のCHAI以来、ちょっと久しぶりにライブに足を運んできました。アイヌ民族の楽器、トンコリの奏者として活躍するOKI率いるOKI DUB AINU BANDのワンマンライブ。名古屋では、なんと10年ぶりとなるワンマンライブだそうです。場所は、これまた久しぶりとなる今池のTOKUZOまで足を運んできました。

ライブは、コロナ禍の中で入場制限がかかっているものの、ソールドアウトという状況。会場の中は、椅子席はあるものの、満員という印象を受けるのような会場でした。まず19時20分ちょっと前のライブはスタート。メンバーのうち、OKと居壁太はアイヌの衣装といういで立ちでした。最初はトンコリのみの演奏で静かにスタート。しかし、すぐにバンドサウンドが入り、ガツンと迫力ある演奏がスタートします。

曲名は詳しくはわからなかったのですが・・・バンドサウンドを前面に押し出された、かなり迫力満点の演奏で、エフェクトのおもいっきりかかった演奏で、まさにバンド名のごとく、ダビーなサウンドが展開されます。まずは大迫力のそのサウンドの中で、ダビーな演奏に心地よく身を委ねます。

その後の簡単なMCでは「コロナが明けたような盛り上がり」というMCから、彼らの楽曲「サハリンロック」が、このロシア情勢の中で放送禁止になったという話に。そこから曲にのせてメンバー紹介になります。しかしサポートメンバーに沼澤尚、内田直之、HASASE-SANと、あらためてメンバーの豪華さに感嘆してしまいます。

その後は、トンコリをギターのように弾き、むしろロックという色合いの強いハードな楽曲で迫力ある演奏を聴かせてくれます。途中、OKIと同じくトンコリ奏者の居壁太が、弓矢を持ち出して、アイヌの踊りを披露するようなシーンもあり、会場を盛り上げます。ライブの前半戦はまず1時間弱で終了。休憩に入りました。

この休憩も意外と長く、20分程度の休憩をはさんだ後、ようやく後半戦にスタート。後半戦では、OKIは相変わらずアイヌの衣装を着ていましたが、居壁太は今回のツアーのTシャツに着替えての登場となりました。最初は分厚いサウンドを聴かせつつ、幻想的な雰囲気の曲からスタート。会場をドリーミーな雰囲気で包み込みます。楽曲は、ミニマルな構成を持った作品が続き、その点でも軽くトリップするような感覚を覚えるステージになっていました。

途中、ムックリというアイヌに伝わる竹製の楽器を演奏。竹の薄い板に紐がついており、これを息を使って鳴らすことにより演奏する楽器なのですが、この楽器の演奏で「ナゴヤ」「トクゾウ」と言葉を作り出して盛り上げます。

その後は、スキー場でスキーを滑っていたら、OKIの曲が流れてきたというエピソードも。それで予定より長くすべっていたら、筋を違えたそうです・・・痛そう・・・。さらに、序盤に言っていた「サハリンロック」が放送禁止となった話の詳細も。もともと「北の絵コンテ大賞」という道主催のコンテストがあり、そこの大賞作の音楽に「サハリンロック」を使ったところ、ロシア情勢によりお蔵入りになったという話ということ。こんなところにまでロシアの影響が出てきてしまっているのですね。

そして、その後はその「サハリンロック」へ。もちろん彼らの代表曲でもあるロッキンなナンバーだけに会場は大盛り上がり。迫力ある演奏を存分に聴かせてくれ、第2部は約40分程度でとりあえずは幕を下ろします。

その後はもちろんアンコールへ。アンコールでは比較的早くメンバーが戻ってきて、「カラスの行水」という名前のアイヌ民謡を、トンコリ1本の演奏でまずは静かに聴かせてくれます。そこからその曲にそのまま続く形でバンドメンバーが加わり、最後も再び迫力あるダビーでサイケな演奏を披露。その圧倒的な音の洪水で会場を埋め尽くし、ライブは終了。終了時間は9時半。休憩などを挟んだため、正味2時間のステージでした。

そんな訳で久しぶりのライブ。会場がほぼ満員で、若干コロナ対策で気になった部分もあったものの・・・やはり生でのステージは楽しいですね。OKI DUB AINU BANDの迫力ある演奏に終始、身をゆだねた楽しいステージでした。トンコリを使った演奏で、アイヌ民謡からの影響も強いのですが、ステージ自体はむしろダブやサイケ、ロックの影響をストレートに感じられるステージで、そのバンドサウンドの力強さに終始、惹きつけられるステージでした。フェス以外のワンマンライブはなかなか最近は行えていないそうですが、また、ワンマンライブが実施されたら、是非とも見に行きたいです。迫力満点のステージでした。

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2022年4月 9日 (土)

ボカロシーン集大成的なアルバム

Title:狂言
Musician:Ado

2020年10月に配信限定シングルとしてリリースした「うっせぇわ」が2021年にかけて大ヒットを記録し、一躍注目を集めた女性シンガー、Ado。一部では、子供がきたない言葉遣いをマネするという問題まで指摘されるほど社会的な現象となった、2021年を代表するヒット曲となりました。ただ、先日紹介した優里「ドライフラワー」と共に、なぜか年末の賞レースや紅白などではほとんど無視。私的生活のスキャンダルが理由と言われる優里に対して、「うっせぇわ」という言葉遣いの悪さが要因とすら言われていますが、逆に言えば、それだけインパクトのあるワードを用いたと言えるでしょう。彼女のデビューアルバムとなる本作は大ヒットを記録しており、彼女が「うっせぇわ」の一発屋ではないことを裏付けています。

さて、今回のこのアルバムの大きなポイントとなっているのは、全曲においてインターネットの動画サイトへの楽曲投稿で話題となった、ボーカロイドプロデューサー、いわゆるボカロPや、「歌い手」が参加しているという点でしょう。基本的に彼女はボーカリストであり作詞作曲には参加していないのですが、作詞作曲勢として、昨年の紅白に出場し話題となったまふまふをはじめとして、DECO*27、すりぃ、くじら、Neruなどといったボカロシーンで活躍する、ボカロPがズラリと並んでいます。Ado自体もそういうネットシーンから登場してきたシンガーですが、まさにボカロシーンの集大成とも言えるアルバムと言えるでしょう。もちろん、こういうボカロPが集まってつくられたようなアルバムは他にもありますが、そんな中でもお茶の間へアプローチできるレベルでヒットしているのはこのアルバムくらいではないでしょうか。

結果として非常にバラエティーに富んだ曲調に仕上がっているのも大きな特徴で、くすんだ雰囲気のキャバレーロックである「レディメイド」からスタートし、エレクトロダンスチューン「踊」、テンポよいギターロックの「FREEDOM」、ホーンセッションも入って分厚いサウンドを聴かせる「阿修羅ちゃん」、メロウなAOR風の「夜のピエロ」まで、曲調的にはよく言えばバラエティーに富んだ、悪く言えばバラバラな並びとなっています。

その中でもやはり楽曲としてよく出来ているのは、インパクト満点で、一度聴いたら忘れられないパワーを感じる、ご存じ大ヒットした「うっせぇわ」と、それに続くヒットを記録した「踊」だと思います。特に「踊」はTeddyLoidアレンジによるエレクトロサウンドが非常に秀逸で、複雑に展開されるサウンドは、このアルバムの中でも確実に頭ひとつ出ているように感じます。

ただ、それ以上にこのアルバムの最大の魅力は、間違いなくAdoの持つボーカリストとしての力ではないでしょうか。それなりのインパクトはあるものの、どこかで聴いたことあるような作風をなぞっただけのような曲が少なくなく、楽曲的には正直なところ「平凡」といった印象を受ける作品が少なくありません。そんな作品をグッと魅力的なものに引き上げ、かつ良くも悪くもバラバラな作風に統一感を与えているのは、非常にパワフルで、ドスの効いた声ですらあるAdoのボーカル。また、いわゆる陰キャの心の叫びのような歌詞の世界観も楽曲に統一性を与えており、かつ、この世界観も、どこか焦燥感を覚えるような彼女のボーカルにもピッタリとマッチ。このボーカルと歌詞の世界観がアルバムの大きな魅力となっています。

様々なボカロPが参加し、今のボカロシーンの集大成のようなアルバムになった本作ですが、それ以上にAdoのボーカリストとしての実力が強い魅力として感じられるアルバムになっていました。「うっせぇわ」のインパクトが強すぎたきらいのある彼女ですが、その強いインパクトも間違いなくAdoのボーカリストとしての力があってのこと。その事実をあらためて実感させられたアルバムだったと思います。それだけに、ボカロPに留まらず、様々な作家陣と組んだら面白いかも・・・とも思った今回のアルバム。ともかく、ボーカリストとしてのこれだけの力があれば、今後の活躍も期待できそうです。

評価:★★★★★

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2022年4月 8日 (金)

アイスランドの大自然をバックに

Title:AE-30
Musician:Sam Gendel

Ae30

ロサンジェルスを拠点に活動を続ける新進気鋭のマルチインストゥルメンタル奏者、Sam Gendelのニューアルバム。今回のアルバムは非常にコンセプチュアルなアルバムで、アイスランドにおいて映像作家Marcella Cytrynowiczによるドキュメンタリーフィルム作品を制作。アイスランドの壮大な自然をバックに、Sam Gendelがインスパイアされるがままに、電子管楽器のAE-30をプレイする模様を撮影したフィルムを同時にリリース。その映像作品はYou Tubeでも閲覧可能です。

映像作品は、文字通り、アイスランドの大自然の中で、Sam Gendelが淡々と演奏する模様をおさめたもの。Sam Gendelの演奏自体よりも、手つかずのアイスランドの大自然に目を惹かれる内容になっています。そんな大自然の中で、電子楽器を淡々とプレイする彼の姿は、若干シュールに感じたりするような部分もあったりします・・・。

そんな彼の作品も、決して単純に「アイスランドの自然をサウンドとして織り込んだ」といった感じではありません。確かに「VIKTOR'S BLUES」では、自然の風の音を織り込んだような音色になっていますし、続く「SOME MEADOW」では水の流れる音を取り込んでいたりと、アイスランドの自然を彷彿とさせるような部分は少なくありません。

ただ一方では、「BLKSND」「PORSMORK」などトライバルなビートを織り込んだような曲もあったり、どこかエキゾチックさを感じさせる部分も少なくありません。アイスランドという彼にとって遠い異国でインスパイアされたサウンドだからでしょうか、それともアイスランドの自然のエネルギーが、彼にそのようなサウンドを彷彿とさせるのでしょうか。

さらに今回のアルバムで、ちょっと和風な要素も感じられました。例えば「1% BATTERY」の管楽器の音はどこか尺八みたいですし、「PIPA1」もストリングスの音色が、どこか和風な雰囲気が漂います。そんな「和」っぽい雰囲気も含めてエキゾチックさを感じさせるのが今回の作品なのですが、そもそも今回のアルバム、日本とのつながりが明確な部分があり、それが、今回のアルバムで全体的にフューチャーされ、アルバムのタイトルにもなっている電子管楽器AE-30は、日本のメーカー、ローランド製ものも。日本メーカーの楽器がこのように活躍するあたり、うれしくなってきます。ローランドといえば、「やおや」の愛称で知られるリズムマシーンTR-808も、海外のポップスシーンに大きな影響を与えています。規模的には同じ浜松に本社を置くヤマハの後塵を拝している印象も強いローランドですが、ポピュラーミュージックに与える影響はヤマハをしのぐ感じすらします。

アルバムからのサウンド自体は、決してアイスランドの自然が・・・といった感じではないのですが、映像作品とあわせることにより、アイスランドの自然と、そこからインスパイアされたSam Gendelのサウンドを楽しみたい、そんなアルバム。エキゾチックなサウンドが魅力的な1枚でした。

評価:★★★★★

Sam Gendel 過去の作品
Satin Doll

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2022年4月 7日 (木)

男性アイドル勢がズラリ

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今週は男性アイドル勢がズラリと並ぶチャートとなりました。

まず1位にはジャニーズ系男性アイドルグループKAT-TUN「Honey」がランクイン。CD販売数及びPCによるCD読取数1位、ダウンロード数4位。オリコン週間アルバムランキングでも初動売上10万3千枚で1位獲得。前作「IGNITE」の初動10万4千枚(1位)から微減。

2位はNCT DREAM「Glitch Mode」が初登場。CD販売数2位、ダウンロード数5位。韓国の男性アイドルグループNCTからの派生グループ。オリコンでは初動売上4万枚で3位初登場。前作「Hot Sauce」の5千枚(6位)からアップ。

3位にはTREASURE「THE SECOND STEP:CHAPTER ONE」がランクイン。CD販売数3位、ダウンロード数11位、PCによるCD読取数44位。こちらも韓国の男性アイドルグループによる、タイトル通り、2枚目となるアルバム。オリコンでは初動売上5万5千枚で2位初登場。

4位以下の初登場も男性アイドルが目立ちます。まず8位には韓国の人気俳優、チャン・グンソク「Blooming」がランクイン。CD販売数9位、ダウンロード数6位、PCによるCD読取数30位。オリコンでは初動売上1万6千枚で7位初登場。直近作はベスト盤「Jang Keun Suk BEST Works 2011-2017~JKS SELECT~」「Jang Keun Suk BEST Works 2011-2017~FAN SELECT~」で、初動売上は「JKS SELECT」が1万1千枚(9位)、「FAN SELECT」が9千枚(14位)ですので、いずれからもアップ。またオリジナルアルバムとしての前作は、BIG BROTHERと組んだユニットTEAM Hの「Mature」で、同作の2万1千枚(4位)からダウン。チャン・グンソク名義のオリジナルアルバムとしてのは、前作「Voyage」の3万3千枚(2位)からダウンしています。

さらに9位にはMoonbin&Sanha「REFUGE」がランクイン。CD販売数7位。こちらも韓国の男性アイドルグループAstroから、メンバーのムンビン、ユンサナによって結成された派生ユニット。オリコンでは初動売上9千枚で11位にランクイン。前作「In-Out」(9位)から横バイ。

その他のベスト10初登場としては、まず4位にロックバンドサカナクション「アダプト」がランクイン。CD販売数4位、ダウンロード数1位、PCによるCD読取数5位。昨年11月から展開している、無観客及び有観客でのライブ、このアルバムのリリースを含めた一連の音楽プロジェクト「アダプト」の一環としてリリースされたアルバム。第二章「アプライ」へ続くことがアナウンスされており、近日中に次回作「アプライ」のリリースが予定されています。ちなみにサカナクションといえば、ボーカルの山口一郎が熱心な中日ドラゴンズのファンとして知られており、ナゴヤ球場の宣伝枠を自費で購入したことがニュースとなっています。オリコンでは初動売上3万枚で4位初登場。前作「834.194」の8万1千枚(2位)からダウンしています。

5位には「まふまふ トリビュートアルバム~転生~」がランクイン。CD販売数5位、ダウンロード数20位、PCによるCD読取数13位。動画サイトへの歌唱動画投稿で人気を博し、昨年末の紅白にも出演したボーカリスト、まふまふに対するトリビュートアルバム。Ado、そらる、浦島坂田船など、同じくネットコミュニティー発のミュージシャンが中心となっていますが、T.M.Revolution西川貴教も参加しています。オリコンでは初動売上2万9千枚で5位初登場。

7位にはRED HOT CHILI PEPPERS「Unlimited Love」が初登場でランクイン。CD販売数10位、ダウンロード数3位、PCによるCD読取数18位。レッチリの略称で日本でも高い人気を誇るアメリカのロックバンドによる新作。メンバーの、特にギタリストの入れ替えが激しいバンドですが、本作は、ジョン・フルシアンテが2度目の復帰を果たした後、初となるアルバムとなります。オリコンでは初動売上1万3千枚で9位初登場。前作「The Getaway」の2万6千枚(4位)からダウンしています。

最後10位には「Paradox Live Opening Show-Road to Legend-」がランクイン。CD販売数8位、ダウンロード数21位、PCによるCD読取数31位。HIP HOPをテーマとしたメディアミックスプロジェクト。要するに、ヒプノシスマイクの2匹目のどじょう狙いのプロジェクトということでしょう。オリコンでは初動売上1万枚で10位初登場。同プロジェクトのアルバムの前作「Paradox Live 2nd album "LIVE"」の5千枚(15位)からダウンしています。

今週のHot Albumsは以上。なお、先週ベスト10に返り咲き、ベスト10ヒットを通算8週としたAdo「狂言」は今週、残念ながら12位にダウンしています。ヒットチャートはまた来週の水曜日に!

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2022年4月 6日 (水)

Aimer vs King Gnu再び

今週のHot100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今年年初は、Aimer「残響散歌」とKing Gnu「一途」「逆夢」のデッドヒートが続きました。両者、ロングヒットは記録したものの、ここ最近、「一途」と「逆夢」は残念ながら失速してしまいました。ただ一方King Gnuは新曲「カメレオン」がランクインし、両者、再びデッドヒートを繰り広げています。今週は「残響散歌」が先週から変わらず3位、「カメレオン」も同じく先週と変わらず2位という結果に。ダウンロード数は「カメレオン」2位に対して「残響散歌」が4位、ストリーミング数も「カメレオン」2位に対して「残響散歌」が3位とどちらもKing Gnuがリード。ただYou Tube再生回数は「残響散歌」2位、「カメレオン」4位と逆転しています。これで「残響散歌」は17週連続のベスト10ヒット&通算16週目のベスト3ヒットとなっています。

さて、一方、今週1位を獲得したのはジャニーズ系アイドルグループSnow Man「ブラザービート」。メンバー全員が主演を務める映画「おそ松さん」の主題歌。CD販売数、ラジオオンエア数、PCによるCD読取数1位、Twitterつぶやき数で26位を獲得したほか、ジャニーズ系としては珍しく、You Tube再生回数でも1位を獲得しています。オリコン週間シングルランキングでは初動売上78万7千枚で1位初登場。前作「Secret Touch」の73万4千枚からアップしています。

続いて4位以下の初登場曲ですが、まず4位にINI「CALL 119」がランクイン。オーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN SEASON2」から誕生した男性アイドルグループ。配信限定シングルで、ストリーミング数で1位、Twitterつぶやき数2位、You Tube再生回数17位で、総合順位は4位となっています。

9位には男性アイドルグループAXXX1S「Special Force」がランクイン。テレビ朝日系アニメ「怪人開発部の黒井津さん」主題歌。CD販売数で2位にランクインしたものの、その他のチャートはすべて圏外となり、総合順位もこの位置に留まりました。オリコンでは初動売上3万8千枚で2位初登場。前作「SUPER HERO」の初動3万1千枚からアップしています。

また今週、ベスト10圏外からの返り咲きも。マカロニえんぴつ「なんでもないよ、」が先週の11位から10位にランクアップ。2週ぶりのベスト10返り咲きとなりました。特にダウンロード数が78位から44位と大幅にアップ。ただ、ストリーミング数は6位から7位と若干ダウンしていますので、来週以降のヒットは厳しいかもしれません。

続いてロングヒット曲ですが、まずは優里。先週、「ドライフラワー」と「ベテルギウス」の順位が逆転しましたが、今週、再び順位が入れ替わり「ベテルギウス」が7位から5位にアップ。一方、「ドライフラワー」は6位から7位にダウンしています。これで「ベテルギウス」は連続22週、「ドライフラワー」は連続72週目のベスト10ヒット。また「ドライフラワー」はカラオケ歌唱回数1位も連続61週に伸ばしています。

また、Saucy Dog「シンデレラボーイ」が先週の9位から6位にアップ。ベスト10ヒットを通算9週に伸ばしています。先週まで7位→7位→9位と順位を落としていましたが、ここに来て再びランクアップ。ストリーミング数が7位から5位にアップ。またYou Tube再生回数も21位から12位に大幅にアップしています。

今週のHot100は以上。明日はHot Albums!

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2022年4月 5日 (火)

結婚・出産・育児を経ての久々の新作

Title:HELLO WOMAN
Musician:つじあやの

なんと、純然たるオリジナルアルバムとしては2010年の「虹色の花咲きほこるとき」以来、実に約11年4か月ぶり。その後、リリースされた「Oh!SHIGOTO Special」からも約9年2ヶ月ぶりというインターバルを経てリリースされたつじあやののニューアルバム。その前作「Oh!SHIGOTO Special」リリース後、2015年には結婚、2017年には出産という大きなイベントを経た彼女。2017年に産まれた子供ももうすぐ5歳ということで、ようやくミュージシャン活動を再開させることが出来た、ということなのでしょう。無事、ミュージシャン活動に復帰、ということでホッとしました。

さて、つじあやのといえばウクレレによる弾き語りで、シンプルで暖かみのあるポップソング、というのが大きな特徴。アコースティックベースのシンプルな作風というのが彼女の特色でした。ただ、今回のアルバムに関しては、そんな印象がグッと変わります。1曲目「アンティーク」から、シンセも加わった分厚いサウンドが特徴的。続く「明日きっと」は暖かみのあるポップソングはつじあやのらしいメロディーなのですが、ストリングスやホーンセッションも加わった賑やかなサウンドになっています。

後半も「朝が来るまで」など疾走感あるバンドサウンドのギターロック路線になっていますし、「にじ」にしてもストリングスやサックスも入った分厚いサウンドに。オリジナルアルバムとしての前作「虹色の花咲きほこるとき」もバンドサウンドなどを取り入れて、比較的分厚いサウンド構成になっていた作品でしたが、今回のアルバムは、その傾向がより強く表れた作品になっています。

もっとも一方ではQueenのカバー「Killer Queen」はウクレレ弾き語りでシンプルに聴かせる作品になっていますし、「お別れの時間」もウクレレを聴かせつつ、比較的シンプルなサウンドの曲に。ウクレレの音がほとんど入っていなかった「虹色の花~」に比べると、そういう意味ではつじあやの=ウクレレのイメージに沿った作品は少なくありませんでした。

また、結婚・出産・育児を経た、今の彼女らしさを反映させた曲もあり、特にそれが顕著だったのが「にじ」でしょう。

「そう君が生まれてから
毎日がジェットコースター
穏やかで静かな一時なんて
夢のまた夢の話」
(「にじ」より 作詞 つじあやの)

なんて、まさに育児を経験した方にとっては、かなり共感を得ることが出来そうな歌詞ではないでしょうか。

メロディーラインにしろ、所々に流れてくるウクレレにしろ、つじあやのらしさは強く感じる一方、個人的にサウンドに関しては若干トゥーマッチだったような印象を受ける作品。ただ、何よりも、久しぶりにつじあやのの歌声が聴けたことが非常にうれしくなるアルバムでした。今後はコンスタントに活動を続けてくれるのでしょうか。これからの活躍も楽しみです。

評価:★★★★

つじあやの 過去の作品
Sweet,Sweet Happy Birthday
COVER GIRL2
つじギフト~10th Anniversary BEST~
虹色の花咲きほこるとき
Oh!SHIGOTO Special

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2022年4月 4日 (月)

今時のサウンドにアップデート

Title:BADモード
Musician:宇多田ヒカル

途中、EP盤の「One Last Kiss」のリリースはあったものの、オリジナルアルバムとしては「初恋」から約3年7ヶ月ぶりとなるニューアルバム。今回のアルバムは英語と日本語の両方の歌詞を含む楽曲を収録した、初の「バイリンガルアルバム」という位置づけだそうです。ただ、以前、Utada名義での英語詞でのアルバムをリリースしているため、「バイリンガルアルバム」といっても、特に目新しい感じはしません・・・。

ここ最近の宇多田ヒカルは、デビュー当初のような海外と同レベルのR&Bをそのまま取り入れたような、邦楽洋楽の壁を取り除いたような作品、というよりも、むしろ「歌」という側面ですごみを感じさせるような作品が続いているような印象を受けます。特に、独特な歌詞の言い回しや、欧米と同時代性を感じさせるようなサウンドを取り入れながらも、一方ではむしろ歌謡曲的ですらある、日本人の琴線に触れそうなメロディーラインを歌いあげるスタイルは、もうシンガーソングライターとして他を寄せ付けない圧倒的な実力を感じさせます。

今回のアルバムでも、特に前半「君に夢中」などはまさにストレートなラブソングは歌謡曲的なウェットさを感じる一方、フランクリーな口語をそのまま取り入れつつ、自然にR&Bなサウンドになじませるその節回しには舌を巻きます。「One Last Kiss」の歌詞のすごさは、以前、このサイトでも紹介しましたり、続く「PINK BLOOD」「私の価値がわからないような/人に大事にされても無駄」という、この曲の中でさらっと歌われる簡単な一文だけでも、宇多田ヒカルの強いメッセージ性を感じることが出来ます。

本作でも、そんな彼女の持つ歌の魅力を存分に味わえるのですが、一方で本作は、全体的にサウンドに重点を置かれたアルバムのように感じました。今風のエレクトロサウンドやあるいはジャズのテイストも積極的に取り込まれた楽曲も多い本作。そんな中でも特に話題になったのが、昨年、アルバム「Promises」が大きな話題となったイギリスのプロデューサー、Floating Pointsが共同プロデューサーとして参加している点でしょう。彼が参加した「気分じゃないの(Not In The Mood)」は気だるい雰囲気の歌をムーディーに聴かせつつ、ちょっとジャジーに聴かせるサウンドが大きな魅力に。同じくFloating Pointsが共同プロデューサーとして名を連ねる「Somewhere Near Marseilles-マルセイユ辺り-」もエレクトロビートが前面に押し出されているアシッド・ハウスの楽曲に仕上がっています。

その他にも「Find Love」はテクノの要素を全面的に取り入れた楽曲ですし、アメリカのミュージシャンSkrillexが全面的に参加した「Face My Fears(Japanse Version)」はトランスの要素を取り入れた作品に。前作「初恋」は歌に焦点をあてたような作品になりましたが、今回の作品は今時のクラブミュージックにグッと近寄り、彼女のサウンドを今時の音にアップデートさせた、そんなアルバムに仕上がりました。

アルバムではラスト4曲にボーナストラックが収録されているのですが、こちら、本編の曲のリミックスで、同じ曲を何度も聴かせるような構成になっていて、別CDへの収録にした方がよかったような。個人的には若干蛇足だったかな、という印象も受けてしまいました。そういうマイナスポイントもありつつも、アルバム自体としては文句なしの年間ベストクラスの傑作アルバムだったと思います。宇多田ヒカルのすごさをまたしても感じられた傑作でした。

評価:★★★★★

宇多田ヒカル 過去の作品
HEAT STATION
This Is The One(Utada)
Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.2
Fantome
初恋
One Last Kiss

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2022年4月 3日 (日)

より強靭なバンドサウンドに

Title:THEガガガSP
Musician:ガガガSP

前作から約2年弱ぶりのガガガSPのニューアルバム。2022年に結成から25年が経過した彼らのリリースする記念すべきオリジナルアルバムとなります。今回の作品は「THEガガガSP」と、ほぼセルフタイトルのアルバムになっている点からも彼らの力の入れようが伺うことが出来ます。

ある意味、勢い重視のパンクロックバンドが、25年も活動を続けているという点が驚き。さらにデビュー当初の彼らは、どちらかというと勢い一辺倒な部分もあり、マンネリ感も強いバンドだっただけに、これだけ長い期間、活動を続けられるというのは少々驚きでもあります。もっとも、2012年にはメンバーである桑原康伸の病気もあり、活動休止。前作「ストレンジピッチャー」と、その前の「ミッドナイト in ジャパン」の間は(途中、ベスト盤のリリースはあったものの)約4年半のインターバルがあるなど、ここ最近は桑原の病気というアクシデントもあり、若干リリースペースが落ちている感もあります。

もともと「元祖青春パンクバンド」的な立ち位置の彼らの以前の彼らは、青臭い青春のストレートで痛々しいラブソングが大きな特徴でもあり魅力でもありました。ある意味、楽曲的にも一本調子なところもあり、良くも悪くもガガガSPらしさという若干マンネリ気味な作風の曲が初期から最近の曲に関してまで感じられました。

ただ、ここ最近、その方向性が若干シフトしつつあります。まず大きな変化を感じさせるのが歌詞の世界。いまでも確かに「イケてない男性の内省的な歌詞」という歌詞の方向性は大きくは変りません。ただ、今回のアルバムにしても、そういうイケてない男性の心境を綴った「oiの中の蛙」にしても「ニートザンス」にしても、以前の作品のような妄想全開のイタタな要素はあまり感じさせません。さらに、これは前作「ストレンジピッチャー」でも強く感じられたのですが、「やはり素晴らしきこの人生」「遠い遠い」のような、昔を振り返るノスタルジックあふれる歌詞も目立ちます。やはりこれはメンバー全員が40歳を超えて、いい意味で大人に成長した結果と言えるのでしょう。

また今回のアルバムで特に感じたのはバンドサウンド的にも、初期のようなフォークを基調にしつつもいかにも日本的な「青春パンク」という路線から若干シフトチェンジ。以前に比べてグッとサウンドの分厚さとタフさが増した感じもします。今回のアルバムでも「これでいいのだ」もかなり分厚いサウンドになっていますし、「oiの中の蛙」にしても「妄想天国」にしてもバンドサウンド的にはハードコアにも近寄ったようなハードなサウンドを聴かせてくれます。

あえていえばサウンド面で初期の作風を感じさせるのは、いかにもガガガSPらしいパンクの「奮闘努力節」と、フォークソングからの影響が強い「遠い遠い」くらいでしょうか。ガガガSPらしさは要所要所に感じらせるものの、バンドサウンドの分厚さがグッと増して、ロックバンドとしての体力が非常にアップした印象を強く受けました。

そもそも、ガガガSPは、初期の作品をほぼすべて、ボーカルのコザック前田が務めてきましたが、2013年の「日常アナキズム」以来、山本聡と桑原康伸も共に作詞作曲を手掛けるようになりました。基本的には3人共、似たような方向性の作風が多いのですが、ここ最近の作品は、作詞作曲を3人で手掛けることによるバリエーションが徐々に発揮されつつあるように感じられます。ただ、そうといってもやはりコザック前田の書く作品が、一番インパクトがある点は否めないのですが・・・。

正直言うと、以前のようなインパクトの塊のような「これ」といった曲はないのですが、特にバンドサウンドに関しては、ここに来てバンドとしての成長を感じられるアルバムになっていたと思います。結成25年を経た彼らですが、まだまだその活躍は続きそうです。

評価:★★★★

ガガガSP 過去の作品
くだまき男の飽き足らん生活
自信満々良曲集

ガガガを聴いたらサヨウナラ
ミッドナイト in ジャパン
ガガガSPオールタイムベスト~勘違いで20年!~
ストレンジピッチャー

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2022年4月 2日 (土)

初期コステロを彷彿させるロックンロールなアルバム

Title:The Boy Named If
Musician:Elvis Costello&The Imposters

現在67歳というベテランミュージシャンながらも、1977年のデビューアルバム「My Aim Is True」以降、ほぼ2、3年に1枚というペースでアルバムをリリースし続けているコステロ。既に「レジェンド」の域に到達していながら、これだけ積極的なリリースペースを維持しているミュージシャンも珍しいのではないでしょうか。デビューから45年の間も、ずっと第一線で活躍し続けるというのは驚異的ですらあります。

ただ一方、デビュー当初の軽快なロックンロールを聴かせてくれたコステロに比べて、ここ最近の彼は、ミディアムテンポの聴かせるタイプの作品が続いており、良くも悪くも「大人になった」という印象を受けるアルバムが続いていました。確かにアルバムの中には初期の作風を彷彿させる軽快なロックンロールも紛れ込んでおり、またコステロのメロディーセンスを感じさせる曲も少なくないのですが、アルバム全体としてはやはりおとなしいアルバムといった印象を受けるアルバムが続いており、良くも悪くも落ち着いた感が否めませんでした。

しかし、今回のコステロのニューアルバムは、初期の彼を彷彿とさせるような陽気で軽快なロックンロールナンバーが並んでいました。1曲目「Farewell,OK」のイントロのギターのノイズから、おそらく多くのロックンロールリスナーは気持ちをワクワクさせるのではないでしょうか。まさにロックンロールやパブロックの影響を強く感じさせるこの曲に続くタイトルチューン「The Boy Named If」も力強いバンドサウンドを聴かせてくれるロックチューン。エレピが入って軽快な「Penelope Halfpenny」から、ポップなメロの中にアバンギャルドさが混じる「The Difference」とロックリスナーにとっては前半のワクワク感が止まりません。

中盤のバラードナンバー「Paint The Red Rose Blue」で、やはりここからは「大人の」コステロに戻ってしまうのか??と危惧を抱いたところに、続く「Mistook Me For A Friend」はエレピも入って再び軽快なロックンロールに。後半も「My Most Beautiful Mistake」のようにメランコリックなナンバーは混じるものの、軽快なロックンロールナンバーが続いていきます。

そしてラストを締めくくるのは、まるでチルアウトのようなナンバーの「Mr.Crescent」に。伸びやかでメロディアスに歌う、コステロのメロディーセンスが光るミディアムテンポ楽曲で、しっかりと聴かせてしまくくります。序盤や後半のアップテンポなロックンロールチューンに、中盤のミディアムテンポのナンバー、さらに最後の締めくくりまで、まさに完璧とも言える構成のアルバム。全13曲52分という長さもちょうどよく、一気に楽しめる傑作アルバムになっていました。

初期のコステロを彷彿とさせる勢いあるロックンロールナンバーがメインに、一方では所々にメロディーや歌をしっかり聴かせるミディアムテンポの「大人な」コステロも垣間見れる、デビューから45年を経て、大ベテランになった彼だからこそ作りえる傑作だったと思います。また、67歳になりながらも、この初期を彷彿とさせる勢いのあるロックンロールナンバーをいまだに奏でられるというのは驚きですらありました。あらためてロックンローラーとしてのコステロの魅力を満喫できた作品。まだまだ彼の勢いは止まらなさそうです。

評価:★★★★★

Elvis Costello 過去の作品
Momofuku(Elvis Costello&the Imposters)
Secret,Profane&Sugarcane
National Ransom
Wise Up Ghost(Elvis Costello&The Roots)
LOOK UP(Elvis Costello&the Imposters)
Purse(Elvis Costello&The Imposters)
Hey Clockface
La Face de Pendule à Coucou

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2022年4月 1日 (金)

音楽性の幅を広げる意欲的な「ミックステープ」

Title:CAPRISONGS
Musician:FKA Twigs

2014年のデビューアルバム「LP1」、2019年のアルバム「Magdalence」と、アルバムが毎作、高い評価を受ける、注目のシンガーソングライター、FKA Twigs。彼女が今年、突如リリースした新作は「ミックステープ」という形態でのリリースとなりました。そんな彼女の新作の大きな特徴は、様々なミュージシャンたちとのコラボ作が目立つという点。Pa Salieu、Shygirl、DYSTOPIA、Remaといったミュージシャンとのコラボ曲が並んでいます。

そんな中でもダントツのビックネームがThe Weeknd。「tears in the club」では彼とのコラボを実現。彼女とThe Weekndの、どちらもハイトーンの優しいソプラノボイスでのデゥオ作となっており、メランコリックなメロディーラインが耳を惹く歌モノとなっています。

また、今回のコラボ相手として目立つのはHIP HOP系のミュージシャンたち。Pa Salieu、Unknown T、Shygirlといったラッパーとのコラボも目立ちます。実際、今回のアルバムで大きな特徴となっているのはトラックにHIP HOPからの影響が目立つという点で、例えばアルバムの冒頭を飾る「ride the dragon」はトラップからの影響を感じさせますし、remaとのコラボとなる「jealousy」のトライバルなリズムのエレクトロトラックといい、Daniel Caesarとのコラボとなる「careless」での静かでリズミカルなトラックといい、いずれもHIP HOP的なトラックとなっており、HIP HOPからの影響が目立つ作品となっています。

特に今回のアルバムは「ミックステープ」と名乗っていますが、これはHIP HOPのミュージシャンがよく取るリリースの手法。名前の通り、カセットテープのスタイルで配布されるリリース形態から「テープ」と名付けられており、近年ではネットを通じてのフリーダウンロードの手法でリリースすることが少なくありません。無許可で様々なミュージシャンの曲をサンプリングするケースも多く、良く言えば自由、悪く言えばイリーガルなイメージもあるリリース手法。ただ、今回のアルバムはメジャーレーベルからのCDリリースも行われており、なぜ彼女があえて「ミックステープ」と名乗ったのかは不明です。HIP HOPカルチャーの中での「ミックステープ」というリリース手法のポジティブなイメージ、自由な音楽性をイメージさせるからでしょうか。

実際に豪華なミュージシャンたちとのコラボにより、HIP HOPをベースとしつつもバラエティーある音楽性も本作の特徴で、トライバルなリズムの「honda」からスタートし、The Weekndとのコラボ「tears in the club」ではレゲトン、「papi bones」ではレゲエといった要素も垣間見れます。全17曲という構成となった今回のアルバムでは、様々なミュージシャンとのコラボによる様々な音楽性の導入により、いままで以上に自由度の高い、彼女の音楽性の幅を広げるアルバムとなっていました。

もっともそんな中で最大の魅力となっているのが彼女のソプラノボイスで歌われる美しいその歌でしょう。いままでの作品でもその美しくも、どこか「憂い」を帯びたようなその歌が大きな魅力となっていましたが、それは今回のアルバムでも同様。「papi bones」でもリズミカルなレゲエのリズムの中で歌われるメランコリックなボーカルが耳を惹きますし、「minds of men」などもピアノを取り入れた美しいサウンドの中、幻想的とも感じられる彼女の歌声が大きな魅力。ラストの「thank you song」も、分厚いエレクトロトラックをバックに、ゆっくりとその美しい歌声でメランコリックに歌い上げられています。

今回のしっかりと彼女の魅力を感じさせつつ、その音楽的な幅を広げた傑作アルバムに仕上がっていたと思います。1作目、2作目と傑作アルバムが続いていましたが、今回のアルバムもその期待にしっかりと応えた作品と言えるでしょう。今回も間違いなく年間ベストクラスの傑作。今回広がった音楽性を今後、どのように展開していくのかも非常に楽しみです。

評価:★★★★★

FKA Twigs 過去の作品
LP1
MAGDALENE


ほかに聴いたアルバム

GREATEST HITS-Japanese Single Collection-/Cheap Trick

最近、ここで続けざまに紹介している「JAPANESE SINGLE COLLECTION」シリーズ。今回はロックバンド、チープトリック。彼らについてはもちろん以前から知っていたのですが、本作を聴く前は、ハードロックのバンドだと思っていました。確かにハードロック的な作品は少なくないのですが、その一方、もうちょっとポップにまとまっている曲も少なくなく、チープトリックについてはパワーポップとしてカテゴライズしている記事も見かけたのですが、確かにパワーポップの色合いが強い印象を受けます。そのため、ゴリゴリのハードロックというよりも、もっとポップ好きに受け入れられやすいバンドのような印象を受けました。聴く前はバリバリのハードロックバンドとして、ちょっと好みからははずれるかな?とも思っていたのですが、聴いてみると思った以上に個人的な壺にはまるような曲も多く、十二分に楽しめたベスト盤でした。

評価:★★★★★

GREATEST HITS-Japanese Single Collection-/Boz Scaggs

こちらも上記と同様、日本のシングル曲を集めた「JAPANESE SINGLE COLLECTION」シリーズの、本作はボズ・スキャッグス編。ボズ・スギャッグスといえば、個人的にはAORの代表的なミュージシャンで、いかにも大人な雰囲気を醸し出したミディアムテンポの楽曲がメイン・・・というイメージを持っていたのですが、実際に聴いてみると、確かにいかにもAOR然としたバラードチューンも目立つ反面、意外と明るく爽やかなポップソングも少なくなく、彼に持っていたイメージも大きく変わりました。基本的にはシンプルなポップチューンがメインで、最後まで楽しめたアルバムでした。

評価:★★★★

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