« CDリリースで見事1位獲得 | トップページ | デビュー20年を前に、脂ののった傑作 »

2022年3月 4日 (金)

偉大なSSWの全シングル+MVを網羅

Title:JAPANSESE SINGLES COLLECTION-GREATEST HITS-
Musician:Billy Joel

今回紹介するのは、日本でも高い人気を誇るシンガーソングライター、Billy Joelのデビュー45周年を記念してリリースされたベストアルバム。日本でリリースされた全シングル曲とこれまでに発表されたすべてのミュージックビデオを網羅したシングルコレクション。もっとも、Billy joelのために企画されたアルバムではなく、主に80年代に人気を博したミュージシャンについて企画されたシリーズものの一環としてリリースされたもの。なかなかおもしろそうな企画のため、私も他のアルバムも聴いているのですが、もともとこの企画を知ったきっかけはこのビリーのベストアルバム。この手の企画モノのベストアルバムは、洋楽邦楽問わず様々な形でリリースされ、正直なところほとんどは話題にならず終わっていくのですが、ただ、このビリーのベストアルバムに関しては、音楽雑誌などでも比較的大きく取り上げられ、なおかつオリコンでもランクインしてくるなど、「ヒット」を記録しています。現在もライブ活動は断続的に実施しているBilly Joelですが、「現役のミュージシャン」からの引退は宣言しており、2001年のアルバム「Fantasies & Delusions」以来、アルバムのリリースはありません。今回のこのベスト盤のヒットは、そんなビリーへの根強い人気と、やはり新曲を聴くことが出来ない渇望によるものではないでしょうか。

さて今回のベストアルバム、「日本でのシングル曲」という縛りはあるものの、彼の代表曲は網羅しており、実質的に「オールタイムベスト」と言っていいような内容になっています。そんな彼の代表曲を今回あらためて聴いてみた訳ですが、月並みな言い方ですが、非常にインパクトあるメロディーラインが耳に残り、何度聴いても彼の書いたポップソングは色あせないな、ということをあらためて感じました。

そんな中で今回聴いていて感じたのは、特に彼の初期のヒット曲について、胸の中で懐かしい気持ちがこみあげてくるような感情でした。彼の初期のヒット曲がリリースされたのは、ともすれば私が赤ちゃんの頃でしたので、リアルタイムに聴いた記憶はありません。ただ、彼の楽曲のメロディーラインがもともとも持っているメランコリックなフレーズ、さらにいかにも80年代を象徴するようなサウンドが、懐かしい気持ちが沸きあげてくる大きな要因でしょうし、またひょっとしたら、親が見ていたテレビ、聴いていた音楽の中で、知らず知らずのうちに彼の曲をリアルタイムで聴いており、その時の記憶が懐かしさとして蘇ってきたのかもしれません。

また楽曲自体もそうですし、MVを見ていても感じるのは、楽曲全体を流れる底抜けともいえる明るさでした。これはBilly Joelの曲に限らず、80年代のポップミュージックに共通して言える話なのですが、世間の風潮として全体的に明るい空気が漂っていたということなのでしょうか?まだ80年代だった私が小学生の頃は、東西冷戦も終結しておらず、決して脳天気に世界が明るい雰囲気で漂っている、という感じではなかったようにも思うのですが。ただ、ポピュラーミュージックというジャンルにおいては、どんどん市場が広がり、全体的にイケイケドンドンという空気だったのかもしれません。そんな流れからはみ出たミュージシャンたちが、90年代のグランジへのつながっていくのでしょうが。

そのように80年代という時代のなつかしさを感じつつ、Billy Joelの楽曲自体についてあらためて感じるのは、キャッチ―なポップソングを主軸にしつつ、意外と様々な音楽性を取り入れており、その音楽的な貪欲さを強く感じます。特に初期の作品については、ポップスにロックの要素を加えているだけなのですが、「This Night」ではドゥーワップを取り入れ、同じく「The Longest Time」でもボイスパーカッションにアカペラを取り入れています。「A Matter of Trust」ではハードロックなギターを取り入れていますし、「This Is The Time」やレイ・チャールズも参加した「Baby Grand」ではジャズやAOR的な要素を強く感じます。さらに「The Downeaster"Alexa"」ではエキゾチックな要素も加えるなど、特に中盤から後半にかけては、様々な音楽への挑戦を感じさせます。

結果として現時点でのラストアルバムとなった「Fantasies & Delusions」はクラシックのアルバムになるなど、若干「行きすぎちゃった感」もありますし、ひょっとしてポピュラーミュージックのミュージシャンとして「芸術音楽」に対する後ろめたさみたいなものがあったのかもしれませんが、ただ、そういった彼の幅広い音楽的な興味はこのベスト盤の中でも存分に感じられます。

さらにそのような中でも彼のすばらしさは、様々な音楽的な要素を取り入れつつも、基本的にはあくまでもポップでキャッチーなメロディーラインを最後まで貫き通していたという点でしょう。件のラストアルバムはともかくとして、基本的にポップスとして作成した曲に関しては、変なスノッブに陥ることなく、最後までメロディアスで魅力的なポピュラーミュージックを作り続けています。今回のベストアルバムは全39曲というボリューム感ある内容でしたが、最後まで全く飽きることなく、その魅力的なポップソングを楽しむことが出来ました。

あらためてBilly Joelというポピュラーミュージシャンの素晴らしさを実感することが出来たベストアルバム。MV集も魅力的でしたし、ファンとしては間違いなく「買い」の作品でしょう。現在、齢72歳の御方。昔ならともかく、現在ではまだまだ現役で活躍を続けているミュージシャンも少なくありません。是非また、ポップスの「新曲」を聴きたいところですが・・・まあ、こればかりはファンの身勝手な要望ということで。今は彼の珠玉のポップソングに魅了され続けたいと思います。

評価:★★★★★

BILLY JOEL 過去の作品
LIVE AT SHEA STADIUM
She's Always a Woman to Me:Lovesongs
A Matter of Trust: The Bridge to Russia
Live Through the Years

|

« CDリリースで見事1位獲得 | トップページ | デビュー20年を前に、脂ののった傑作 »

アルバムレビュー(洋楽)2022年」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« CDリリースで見事1位獲得 | トップページ | デビュー20年を前に、脂ののった傑作 »