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2022年3月13日 (日)

祈!一般流通!!

Title:METAATEM
Musician:METAFIVE

 Metaatem

昨年2020年に起きた音楽をめぐる残念な話題というと、コーネリアス小山田圭吾を巡る騒動でした。おそらく、当サイトに来てくださっている方なら間違いなくご存じの話とは思いますが、1994年1月号の「ROCKIN'ON JAPAN」と1995年8月発行の「Quick Japan」に掲載された、過去のいじめを告白するインタビュー記事が、東京オリンピック開会式で彼の音楽が使用されると報道されたことをきっかけに大炎上。国民的レベルでの大バッシングへと発展しました。その結果、彼が参加するMETAFIVEのアルバムも、当初8月11日のリリースを予定していたものが発売中止に。小山田圭吾自身も、事実上の音楽活動停止に追い込まれてしまっています。

ただその後、その余波をかって中止となっていた昨年7月26日のKZ Zepp Yokohamaでのライブが、無観客で実施されており、その模様が11月に配信ライブとして公表され、そのチケット購入者特典として、発売中止となっていたMETAFIVEのニューアルバムがリリースされました。私もその配信ライブに参加し、CDも入手。販売中止になったアルバムなのですが、普通にワーナーのロゴにバーコードも付いており、そのまま販売できる態勢となっており、ギリギリで販売中止になったという事実をジャケットからも感じてしまいます。

そのMETAFIVEですが、ご存じの通り、高橋幸宏を中心に結成され、小山田圭吾、砂原良徳、TOWA TEI、LEO今井、ゴンドウトモヒコという5人組によって結成されたバンド。もともと2014年に活動を開始し、2016年にはアルバムをリリースしたものの、その後、活動休止状態に。ただ2020年に突然、配信シングル「環境と心理」をリリースし、活動を再開しましたが、例の小山田騒動に巻き込まれる形となり、約4年9ヶ月ぶりにリリースされるはずだったニューアルバムも販売中止に追い込まれてしまいました。

ただ、そんな曰くつきのアルバムでしたが、肝心の内容については文句なしの傑作アルバムに仕上がっていました。METAFIVEのアルバムと言えば、高橋幸宏とYMOチルドレンの豪華なミュージシャンたちが緩く結び合ったバンド。アルバムは、メンバーそれぞれの個性を表に出しつつ、YMOチルドレンという共通項によって緩く連帯する作品というのが特徴的でした。

今回のアルバムもそんな特徴が反映された作品になっています。アルバム全体としてはエレクトロサウンドを入れたニューウェーヴ的なバンドサウンドが主軸。その一方でメンバーそれぞれの個性が楽曲にしっかりと反映されており、まず「The Paramedics」ではLEO今井らしいファンキーなボーカルに強烈なエレクトロビートがインパクトある作品。先行配信となった「環境と心理」はエレクトロなサウンドも含めて、完全に小山田圭吾の曲になっていますし、「May Day」は高橋幸宏らしいメロディーとサウンドが大きな特徴となっています。

今回、唯一、TOWA TEIが作曲を手掛けた「Wife」はユーモラスな歌詞も含めて、彼らしさを感じるエレクトロサウンドに。一方、砂原良徳が手掛ける「Snappy」は、彼らしい温度感の低いエレクトロサウンドに仕上がっています。ただ、アルバム全体としては全12曲中10曲までが、共作詞・共作曲含め、なんらかの形でLEO今井が関与しており、彼の歌うファンキーなボーカルがアルバムの中の一本の筋となっていました。

全体としてもバンドの一体感も覚える作品になっており、バンドとしての勢いすら感じさせます。2020年に脳腫瘍の手術を行った高橋幸宏の復帰作という意味合いもあるだけにメンバーの力の入れようもうかがえます。文句なしの傑作アルバムで、本作がいまだに一般の市場に流通していないのが残念になりません。せめて配信でリリースして、多くのリスナーの耳に入るようにしてほしいのですが・・・。

評価:★★★★★

METAFIVE 過去の作品
META
METAHALF

さて、このアルバムの紹介を機に、いまさらながら例の小山田騒動に関して思うことをちょっと記しておこうと思います。

個人的な感想としては、あの「小山田騒動」に関しては、少々怖いものを感じました。

「小山田騒動」の発端は、言わずと知れた「ROCKIN'ON JAPAN」と「Quick Japan」でのインタビュー記事。ただ、特に詳細に記載されたインタビュー記事である「Quick Japan」の全文を読んでみると、彼が主導したと思われる「いじめ」については小学生時代のおふざけとして、自分もこういう酷いことをクラスメイトにしたことが絶対ないといえるか、と言われると自身がありませんし、もうひとつの「いじめ」については、内容がかなり酷いものの、彼はどちらかというとリーダー的存在に従っただけ、という内容となっており、逆らえば自分がいじめの標的になりかねない状況の中で、自分がその現場にいていじめを止められるのか、自信はありません。むしろ、「いじめ」の内容自体よりも、当時26歳といういい大人が、自分が行った「いじめ」の事をわざわざメディアで臆面もなく語っているという当時の彼に対して大いなる疑問を抱いてしまいました。

ただ、それ以上に大きな問題だと感じたのが、この彼が雑誌で語っていた行為が、本当に行われたものであるかどうか、という検証がメディアでほとんどなされなかったということ。確か女性週刊誌1誌で、当時の同級生にインタビューを行い、「いじめ」のような話は聞いたことがないという言質を取っただけで、ともすれば一般紙を含めて、ろくに検証もされない雑誌インタビュー記事を事実だと決めつけた上で、あらゆるメディアやネットにおいて小山田バッシングが行われており、これは完全に私刑と言えると思います。はっきり言って、東京オリンピック辞退はまだしも、彼のミュージシャン生命が奪われかねないほどのバッシングは、明確に行き過ぎだと思います。今回の小山田バッシングは、「叩けるものはとことん叩く」という風潮に多くの国民がのっかかった状況ともいえ、非常にうすら寒いものを感じます。

もちろん、必要以上に彼を擁護するつもりもなく、上にも書いた通り、ある種の「ふかし」の可能性が高いとはいえ、20代後半にもなって自分の行った「いじめ」をメディアで語る行為は、やはり大きな問題だと思いますし、この雑誌記事については以前からネット上でくすぶり続けていた問題であるにも関わらず、いままで完全に無視をしてきた彼の自業自得と言える部分も間違いなくあるとは思います。ただ、そこらへんを差し引いても、個人的には今回のバッシングはあきらかに行き過ぎのように感じました。

個人的には小山田圭吾の音楽界への復帰を心から待ち望んでいます。彼の性格がどうであれ、彼が日本でも屈指の優れたミュージシャンである事実は変わりませんし、少なくとも、これで彼の音楽家生命が絶たれるべきではないと思っています。それよりも、事実かどうかわからない雑誌記事で完膚なきまでに追い詰める姿勢こそ、ある種の「いじめ」ではないのか??「叩けるところはとことん叩く」というネット的な風潮に、大手メディアまで載っかかってしまう、今の日本の怖さを、今回の騒動からは強く感じました。

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