トンネルの向こうの光を目指して
Title:Dawn FM
Musician:The Weeknd
前作「After Hours」から約2年ぶりとなるカナダ出身のシンガーソングライターThe Weekndのニューアルバム。今回「Dawn FM」というタイトルがつけられたアルバムとなっていますが、タイトル通り、アルバム1枚を「FMラジオ」にみたてた作品に仕上がっています。そのため、1曲目は、DJのナレーションからFMのジングルが入ってスタートしたり、途中にDJのナレーションが入ったりして、アルバムを聴いているとFMラジオを聴いているような感覚となる作品です。ちなみに冒頭のFMのジングル、日本のFM局で聴きなじみのあるジングルと全く同じで、あのジングルって、アメリカでも共通なんだ(というか、日本のFM局がアメリカのFM局のジングルをパクったのでしょうが)という感覚に陥ります。
そして今回のアルバムにテーマがあって、それが「煉獄」だとか。日本人にとってはなじみのない言葉ですが、「カトリック教会の教義で、この世のいのちの終わりと天国との間に多くの人が経ると教えられる清めの期間」だそうです。いわば「トンネルの終わりの光」に向けての旅と途中というイメージだそうで、前作「After Hours」の続編的な位置づけのアルバムになっているとか。今のコロナ禍の状況は、まさに暗いトンネルにいるような状況。そんな中、その向こうに見える光を強く望んでいる、そんなアルバムと言えるかもしれません。
ただ、そんなイメージのアルバムだからでしょうか、メランコリックな雰囲気を醸し出しつつ、今回のアルバムはトンネルの向こうの光を見据えたかのような、いままでのThe Weeknd以上にポップで明るいアルバムになっています。まず前半は80年代の明るいポップチューンを彷彿とさせるようなエレクトロポップの楽曲が並びます。「Take My Breath」はまさに80年代ポップスそのままな明るいエレクトロチューン。続く「Sacrifice」も同じくエレクトロサウンドがスペーシーで近未来的な雰囲気を醸し出す、明るく軽快なエレクトロポップスに仕上がっています。
そして今回のアルバムで、特に日本において話題になっているのが中盤の「Out of Time」。メロウなシティポップ風の楽曲なのですが、この曲、亜蘭知子の「Midnight Pretenders」がサンプリングされています。最近、日本のシティポップが海外でも高く評価されているそうですが、それがよくわかるサンプリングに。続くTyler,the Creatorが参加した「Here We Go…Again」も同じくメロウに聴かせる作品。中盤は、よりメランコリックに聴かせる楽曲が並んでいます。
さらに後半で特にポップでインパクトがあったのが事実上のラストチューンとなる「Less Than Zero」でしょうか。爽やかなエレクトロサウンドとメロディーラインの軽快なポップチューン。爽やかな中にちょっと切なさを感じさせるメロディーもインパクトがあり、印象に残ります。
全編にわたる軽快なエレクトロポップチューンを素直に楽しめる傑作アルバム。内容的には哲学的なテーマがあったり、歌詞の側面では「死」を彷彿させる内容があったりと、いろいろと考察できる要素も多いアルバムのようで、英語詞ゆえに歌詞の内容がストレートにわからないのは残念なのですが、楽曲自体のポピュラリティーと相反して、いろいろと聴きどころの要素も多いアルバムのようです。そういう奥深さも感じられる作品ながらも、そこを考慮せずとも良質なポップアルバムとして難しいこと抜きに楽しめる作品に仕上がっていました。彼らしさが詰まった、素直で素敵なポップス作でした。
評価:★★★★★
The Weeknd 過去の作品
Kiss Land
Beauty Behind The Madness
STARBOY
My Dear Melancholy,
The Weeknd In Japan
After Hours
The Highlights
ほかに聴いたアルバム
JAPANESE SINGLE COLLECTION-GREATEST HITS-/KENNY LOGGINS
ソニーミュージックから企画盤としてリリースされている、日本でリリースされた洋楽シングルをまとめた「JAPANESE SINGLE COLLECTION」シリーズ。本作は主に80年代に一世を風靡したシンガーソングライター、KENNY LOGGINSのシングルを集めた作品。KENNY LOGGINSについては「名前くらいは聞いたことあるけど・・・」程度の認識だったのですが、あの渡辺美里のデビューシングル「I'm Free」はもともと彼の楽曲だったんですね(!)。もちろん、同作も収録。全体的にはいかにも80年代的なポップでキャッチーな曲調の中、AORやロック、また楽曲によってはファンクなどの要素を取り入れて、良くも悪くも雑多な印象を受けるのがオールラウンドなヒットを目指す80年代らしい感のある曲調。「I'm Free」以外にも「この曲も彼の曲だったんだ」と聴いたことある曲も何曲かあり、知らず知らずのうちに彼の曲に触れたことがあったことを認識するとともに、80年代はもっと洋楽が私たちの身近で流れていたんだ、ということを実感させられるアルバムでした。
評価:★★★★
Toy:Box/David Bowie
David Bowieが2001年のリリースを予定しておきながら、諸般の事情によりリリースされず、「幻の作品」と言われていたアルバム「Toy」。それが20年以上の月日を経て、ようやく日の目を見ました。今回はこの「Toy」の別バージョンやアコースティックバージョンを加えたCD3枚組の「Toy:Box」としてリリース。「Toy」の方は、ギターロックをメインとしつつ、中盤以降はメランコリックに聴かせるナンバーも目立つ、全体的に落ち着いた印象を受けるアルバム。派手さはないのですが、じっくりと聴けば、そのメロディーの妙にはまってしまうアルバムになっています。2枚目3枚目の別バージョンも魅力的な作品が多く、特に3枚目のアコースティックバージョンでは「Toy」の本質に迫るようなアレンジに。どれも「幻の作品」とは思えないほどの完成度で、これがいままで未リリースだったのが不思議に感じてしまいます。David Bowieの実力をあらためて実感した作品でした。
評価:★★★★★
David Bowie 過去の作品
The Next Day
Black Star
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