「カセットテープ」も付いたボリューミーなベスト盤
Title:総合
Musician:東京事変
椎名林檎が2003年に結成したロックバンド、東京事変。2012年に一度活動を休止するものの、その後2020年に再度活動を始動。その年には「紅白歌合戦」に東京事変として初出場を果たした後、2021年には約10年ぶりとなるオリジナルアルバム「音楽」をリリース。さらに今年、初となるオールタイムベストである本作「総合」がリリースされました。この「総合」というある種、そっけなさを感じるタイトルも東京事変らしい感じがしますが、この「総合」というタイトルは、何よりも東京事変の音楽性を示すにはピッタリの表現かもしれません。
東京事変といえば、椎名林檎のバンドというイメージが強いですし、実際、そうやって「売っている」ものの、どのメンバーもそれぞれ十分ソロで活躍できるほどの実力を持ったメンバーが揃っています。そんなスーパーバンドである彼らは非常に多彩な音楽性を聴かせてくれます。ロック、ポップスはもちろん、ファンク、ラテン、サイケなどの要素も垣間見れます。もっとも、椎名林檎のソロでもこの多様な音楽性を感じることが出来ますので、バンドメンバーの意向以上に椎名林檎の意向も強いのでしょうが。
ただ、そんな中でこのバンドの大きな軸となっている点として、今回のベストアルバムではジャズの要素を強く感じました。特にメンバーチェンジにより伊澤一葉が加入してからその傾向が強くなるのですが、Disc1でも「秘密」はそのジャジーなピアノが強く印象付けられた作品。特にジャズの要素が強くなるのはDisc2以降の作品で、椎名林檎が色っぽくムーディーに聴かせる「天国へようこそ」や、スウィング調で軽快な「女の子は誰でも」など、いかにもジャズ的な側面を前に出している曲もありますし、「ドーパミント!」のように、基本的に軽快でリズミカルなロックチューンでも、ジャズ的なリズムが入っている曲もあったりします。
そもそも椎名林檎のソロ曲でもジャズ的な志向を感じる曲は少なくありませんし、特に彼女の歌う「歌謡曲」的な要素が入った曲は、ベタな浪花節な節回しというよりも、ムーディーでジャジーなあか抜けた感のある曲調がメイン。彼女の好みとしても、このジャズの要素が強いのかもしれません。今回のベスト盤を聴いて、そんな椎名林檎の、そして東京事変のひとつのベクトルを強く感じることが出来ました。
一方、東京事変のベスト盤を聴いて、もうひとつ感じるのはこの多様な音楽性を個性あふれるバンドメンバーによって奏でることにより、良くも悪くもバラバラな感があるという点でした。正直、いままでの東京事変のアルバムに関しても、1曲1曲は強いインパクトを抱き印象に残るものの、アルバム全体の印象としては椎名林檎のソロ作の方がインパクトを強く感じてしまったところがあります。今回のアルバムであらためて東京事変の代表曲を聴くと、椎名林檎の歌詞とボーカルによって、それなりの統一感は保たれているものの、やはり全体的にはバラバラな印象を抱きます。もっとも、このバラバラ感はひとつの魅力でもあるとは思うのですが、アルバム全体としての印象を若干薄くしてしまっている感は否めませんでした。
さて今回のベストアルバム、基本的にはCD2枚組なのですが、初回限定盤がかなり豪華。DVD2枚組のオールタイムPV集「Prime Time」に、砂原良徳リミックスによる音源がカセットテープに収録された「噂のミックステープ」がついてきます。このMVの方は、かなり凝った映像によるものが多く、彼女たちのこだわりを感じさせる内容になっており、見ごたえも十分。合計2時間半というかなりボリューミーな内容ですが、最後までほとんどダレずに楽しむことが出来ます。ただ、最後の特典映像「『2020・7・24閏visions特番ニュースフラッシュ』スクリーン映像」は、さすがにスクリーン映像だけ切り取って流されても、さすがにちょっと退屈でしたが・・・。
ただ、この初回限定盤、CD2枚組+DVD2枚組+カセットテープというボリューム感ながらも、11,000円というかなりお高いお値段となっていました。さらに「UNIVERSAL MUSIC STORE限定版」として、オリジナルデザインのポータブルカセットテーププレイヤーがついて19,800円というお値段設定のものも・・・(ちなみにポータブルカセットプレイヤーは現在でも普通に販売されており、通常3,000円~5,000円程度なので、「限定版」の事実上8,800円というのはかなりの高額です)。最近は、コアなファン向けとしてリリースされる「初回盤」の値段設定がどんどん高価になっているケースが目立つのですが、それにしても高いなぁ・・・。
そんなことを考えつつも、やはりベスト盤として魅力的な作品が揃っていましたし、MV集も見ごたえ十分な内容。ボリューミーな内容でしたが、文句なしに最後まで楽しめる内容でしたし、あらためて東京事変の魅力を再認識できたベスト盤でした。今後、さらに活動を本格化していくのでしょうか。これからの活動も楽しみです。
評価:★★★★★
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