趣味性の強いソロデビュー作
Title:犬は吠えるがキャラバンは進む
Musician:小沢健二
今回紹介するのは、シンガーソングライター小沢健二が1993年にリリースしたソロデビュー作の再発盤となります。小沢健二は1989年に、フリッパーズ・ギターとしてデビュー。その後、1990年代にはソロミュージシャンとして活躍し、特に1995年、1996年には「紅白歌合戦」に2年連続の出場を果たし、お茶の間レベルでの人気を確保するようになりました。ただ、2000年に入るころから事実上の引退状態となり、断片的にその現状が話題になる程度となってしまいました。しかし、2010年代後半から徐々にミュージシャンとして活動を再開。2019年には実に13年ぶりのフルアルバム「So kakkoii 宇宙」がリリースされて大きな話題となりました。
その後もコンスタントにシングルのリリースを続けている彼ですが、このたび、デビューアルバムが再発されました。もともと、1993年にリリースされた後、1997年には「dogs」と改題されて再発。ただ、2000年代に同作に使用されていたカラープラスチック版が製造中止となったため、アルバムの製造中止に。本作はオザケンの意向もあって配信やサブクスでのリリースもされていないということもあり、現在では「幻の名盤」と呼ばれているとか・・・・・・という風にメディアの紹介文には書かれているのですが、実際はリアルタイムにそれなりに売れたこともあって、中古盤としての入手は比較的容易ですので、少なくとも入手困難な「幻のアルバム」ではありません。
ただ、実は私、本作を聴くのは今回がはじめて。オザケンのアルバムは、大ヒットした「LIFE」以降は前作聴いているものの、いままでなぜか、本作は聴き逃していました。正直言うと、今回のアルバム、基本的にはその「LIFE」と同系統のアルバム、と期待して聴き始めたのですが、そのイメージと全く異なる内容に、まずは驚きました。1曲目「昨日と今日」は、オザケンの歌うメロディアスな歌は流れるものの、ソウルなベースラインとファンキーなギターが重なるソウルテイストの強い楽曲。続くソロデビューシングル「天気読み」もミディアムテンポのちょっと切なさを感じるポップなメロが魅力的ながらも、ヘヴィーなベースラインにホーンセッションはソウルミュージックのテイストが強く感じられます。
オザケンらしいポップなメロディーラインは流れているものの、全体的にはソウルやブラックミュージックの要素を強く感じさせる、彼らしい趣味性の高い音楽性が特徴的。もちろん、その次の作品「LIFE」もブラックミュージックの要素をかなり取り入れた作品になっていますが、こちらはもっとポップの要素が強い作品になっており、本作は、よりソウル的なグルーヴ感がアルバム全体を流れており、突き抜けた明るさのあった「LIFE」と比べると本作のメロディーラインはちょっと地味目。ただ、ファンキーなリズムが楽しい「暗闇から手を伸ばせ」は明確に90年代のオザケンのヒット曲と密接に結びつくようなポピュラリティーがありますし、ムーディーなサックスの入りAORテイストも強い「天使たちのシーン」の切ないメロディーラインは胸に響きます。間違いなくオザケンの優れたポピュラーセンスを感じさせるアルバムになっています。
しかし、今となってはオザケンのブラックミュージックからの影響は明確なので、こういうアルバムをリリースしてきても驚きはしないのですが、当時「フリッパーズ・ギター」のイメージでアルバムを聴き始めたファンは驚いただろうなぁ・・・と思います。もっとも、先行シングル「天気読み」は、明確にソウルミュージックからの影響を感じさせる曲なだけに、ある程度の予想はついたのかもしれませんが。
正直なところ、私も最初は、全体的にちょっと地味かな、という印象を受け、期待していたほどでは・・・と思ったのですが、そのグルーヴ感のあるサウンドと、オザケンらしいポップで、時としてキュートとも言えるメロディーラインのマッチングにはまり、知らず知らずにはまってしまったアルバムになりました。はっきりいって、「LIFE」のようなわかりやすい派手さがない分、逆に中毒性の高いアルバムに感じます。
ただ、今回のアルバム、CD2枚組となり、特典CDには1995年に発売された映像作品「VILLAGE "the video"」に収録されている「天使たちのシーン」のライブ音源が収録されています。ただ、特典CDはこの1曲のみ。18分に及ぶ音源とはいえ、決して充実した内容とは言えません。それにも関わらず、定価6,050円というのはちょっとぼったくり過ぎでは??さらに「完全生産限定盤」のため、また再び廃盤となってしまうようです。ひょっとしたら、もうちょっとしたらCD1枚で3,000円くらいでの「通常盤」がリリースされるのかもしれませんが・・・。
下記の評価はあくまでもアルバム自体の評価。ただ、この再発盤の企画自体は、値段の高さもあり、ちょっと納得できない部分も。このアルバムに興味を持った方は、オリジナルの中古盤を買った方がよいかも。本人の意思ということもあって、ダウンロード販売や配信は期待できないのですが、せめて3,000円の通常盤をリリースしてほしいなぁ。もちろん、アルバム自体は文句なしの傑作アルバム。オザケンを知らない世代にも是非聴いてほしいポップスの名盤です。
評価:★★★★★
小沢健二 過去の作品
我ら、時
So Kakkoii 宇宙
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