懐かしいバンドのメンバー2名によるアコースティックユニット
Title:Treasure Chest
Musician:オサム&ヒロノリ from MOON CHILD
ロックバンドMOON CHILDのメンバー、佐々木収と秋山浩徳によるアコースティックデュオ、オサム&ヒロノリによる2枚目のアルバム。MOON CHILDというバンド、アラフォー以上の世代なら記憶にあるでしょう。1997年にシングル「ESCAPE」が「FiVE」の主題歌となり大ヒットを記録したロックバンド。当時、小室系の大ヒットで一世を風靡していたavex初のロックバンドとしても話題になっていたバンドでした。今となってはavexといってもロックバンドが所属しているケースも珍しくはなくなりましたが、とはいえ、今でも「ダンス系ミュージシャン」のレコード会社というイメージの強い同社。当時は、そのイメージは今よりもさらに強く、そういう意味でもMOON CHILDはブレイク前から一部では注目を集めていました。
ただ残念ながらMOON CHILDは「ESCAPE」で大ヒットを記録したものの、その後は続かず。シングル単位はこの曲が唯一のベスト10ヒットに。アルバムでも「ESCAPE」を収録した「MY LITTLE RED BOOK」が唯一、ベスト10入りしたアルバムになるなど、一発屋というイメージの強いグループとなってしまいました。今でも残念ながら一発屋という枠組みで語られることも少なくないバンドになってしまっています。
今回紹介するのは、そんなMOON CHILDのメンバーが2020年に結成したユニット。MOON CHILD自体は1999年に解散。その後、2013年に再結成後するものの、単発のライブを何回が行ったのみで、現在は「開店休業」的な状態になっています。ただ、この「オサム&ヒロノリ」での活動は2020年にアルバムをリリース。さらにそこから1年3か月というインターバルで早くもニューアルバムをリリースしてきました。
本作は全7曲入りのミニアルバムとなるのですが、そのうち3曲がMOON CHILDのセルフカバーとなります。前作「The Artifacts,Unplugged Music」もMOON CHILDのセルフカバーが収録されていましたので、MOON CHILDの曲を歌い継ぐという意図も強いのかもしれません。
このうち1曲「アネモネ」は、大ヒットした「ESCAPE」に続くシングル曲。彼らにとってはある意味、勝負曲であったはずですし、花王のCMソングというタイアップもしっかりつけて「売り」に来た曲でしたが、ただ残念ながら最高位13位という結果に終わっています。今回はその曲をアコギのみのアレンジによりセルフカバーされているのですが、爽やかなポップソングにフックの効いたメロディーラインも心地よく、正直なところ、なんでこの曲が「ESCAPE」のヒットに続けなかったのか不思議に感じてしまいます。
他にも「ポータブルロック」「朝焼けの唄」といったMOON CHILDの曲のカバーもいずれも魅力的。他はオサム&ヒロノリとしての新曲となっているのですが、MOON CHILDの曲と同様、ほどよくソウルやファンクの要素を取り込みつつも、基本的にはポップスの路線にまとめあげている作品に。メロディーラインには十分なインパクトもあり、メロディーセンスの良さも感じます。2本のアコギがからみあうサウンドも魅力的です。
アコギのみの演奏ながらも「Nightmare before dawn」はより哀愁感のつよい歌謡曲風路線に、「welcome back to the mad world」はファンキーな路線に、と、バリエーションを感じさせる曲調も聴かせます。「welcome back to the mad world」は現在のコロナ禍の中での意見の分断をある意味、皮肉った社会派的な作品になっており、歌詞の内容にはドキリとさせられる部分もありました。
個人的にMOON CHILDはリアルタイムで聴いていて、結構好きなバンドだっただけに、メンバー2人がこのようにMOON CHILDの曲をセルフカバーしてくれたり、新曲をリリースしてくれたりするのは非常にうれしく感じます。ただ、アコギのみの演奏というのも魅力的な反面、ここらへんの曲をバンドとしても聴きたかったり・・・2人でコンスタントに活動しているのなら、MOON CHILD、本格的に復活してくれないかなぁ。そんなことも感じてしまうミニアルバム。この2人のユニットとしての活動もうれしいけど、やはりMOON CHILDとしてのアルバムリリースを期待してしまったりもして・・・。
評価:★★★★★
オサム&ヒロノリ from MOON CHILD 過去の作品
THE ARTIFACTS,UNPLUGGED MUSIC
ほかに聴いたアルバム
上出来/tricot
女性3+男性1のロックバンドによるメジャー3枚目のフルアルバム。変拍子を取り入れたり、サイケの要素を取り入れたりと、かなり凝ったバンドサウンドを聴かせてくれるバンドで、今回は2枚組のアルバムのうち1枚はインスト版というあたりに、その力の入れようがわかります。ただ、以前から凝ったサウンドを聴かせつつも、ポップにまとめたメロディーラインはフックが物足りなく、サウンドも、それだけで聴かせるには迫力的に物足りなさが・・・もうちょっとで傑作が生まれそうな惜しいバンドなんですが。
評価:★★★★
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2022年」カテゴリの記事
- 未来を見据えた30周年の締めくくり(2022.12.27)
- YUKIの全てがつまた6時間(2022.12.25)
- タイアップ効果でよりポピュラリティーが増した作品(2022.12.26)
- 昭和のレア・グルーヴ企画拡大版 その3(2022.12.11)
- 昭和のレア・グルーヴ企画拡大版 その4(2022.12.12)
コメント