南フランス文化圏のアグレッシブな楽曲
Title:La Grande Folie
Musician:San Salvador
今回も、2021年ベストアルバムの後追いが続きます。今回もMusic Magazine誌ワールドミュージック部門で第7位を獲得したアルバム。南フランス出身の男女6人組グループ、San Salvadorの作品。まずこのアルバムで大きな特徴となっているのは、その歌われている言語にあります。このアルバムで歌われているのは、オック語というフランス南部において、今でも一部で使われている言語だそうです。同じフランスといっても、北フランスと南フランスではその文化圏が大きく異なるとか。彼らの奏でる音楽も、そんな南フランス、オック語文化圏のフォークミュージックの影響を強く受けている音楽だそうです。メンバーはオック語は話せないそうなのですが、音楽ではあえてオック語を使うことによって、出自の文化を広く伝えていこうとする強い意志を感じられます。
フランスの音楽、というと一般的にシャンソンやフレンチポップのような、「おしゃれ」感のある楽曲を想像されるかもしれません。しかし、ここで奏でられる音楽は、一般的なイメージとしてのフランスの音楽とはかなり異なります。まず大きな特徴としてはトライバルな要素の強いパーカッシブな音楽を繰り広げているという点。メンバー6人それぞれ打楽器を抱えての演奏となっており、終始パーカッションのリズミカルなサウンドが軸となっています。アルバムの冒頭「Fai Sautar」も、まずは力強いパーカッションのリズムからスタートしますし、タイトルチューンである「La Grande Folie」も、冒頭は伸びやかな力強いアカペラからスタートしますが、中盤以降はアグレッシブなパーカッションが印象に残る力強いナンバーとなっています。
そしてサウンドの主軸がパーカッションである一方、もうひとつの大きな特徴となっているのがアカペラ。男女6人によるアカペラが歌の主軸となっており、重厚なコーラスラインを聴かせてくれます。特に「La Fin de la Guerra」は、ちょっと荘厳な雰囲気すらある女性ボーカルによる力強いボーカルと、そのバックのコーラスが印象に残る作品。「San Josep」も、基本的にはメランコリックなアカペラを伸びやかに聴かせるナンバー。ラストの「Quau te Mena」も男女ボーカルによる重厚なアカペラが大きな魅力となっています。
さらにこの男女の掛け合い的なアカペラにパーカッションのリズムが入ると非常にスリリングになっています。前述も「Quau te Mana」も、中盤以降、パーカッションが加わり、スリリングな展開を見せますし、特に「La Grande Folie」は11分にも及ぶ作品なのですが、後半は疾走感あるトライバルなリズムに男女のコーラスが重なり、非常に迫力ある緊迫感ある展開を聴かせてくれ、長丁場の作品なのですが、最後まで耳を離せない作品になっています。
トライバルなサウンドもそうなのですが、ちょっとコールアンドレスポンス的な要素も感じられるボーカルといい、イメージ的にはアフリカ圏の音楽に通じるものと感じる作品で、フランスというイメージからは大きく異なるアルバムになっていました。ただ、彼らのような音楽も間違いなくフランス文化の一つなのでしょう。文化の広がりと奥深さを感じさせます。
とにかくコーラスの掛け合いとアグレッシブなパーカッションが非常に楽しいアルバム。ライブなら文句なしに盛り上がりそうな作品で、彼らも是非、コロナ禍の後には来日してライブを聴きたいなぁ、と感じさせる作品でした。最初から最後までスリリングなパーカッションとコーラスから耳を離せない傑作アルバムでした。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
BLK2LIFE || A FUTURE PAST/Theo Croker
なんかP-FUNK的なド派手なジャケが印象的ですが、ファンクのアルバム、ではなく、新進気鋭のジャズトランぺッターとして活躍しているTheo Crokerの新作。こちらも2021年のベストアルバムの後追いとして聴いた作品で、Music Magazine誌ジャズ部門第1位の作品。ただ、ジャズ、というよりはソウルの要素が強かったり、シティポップ風だったり、トライバルなリズムが入ったりと、ジャズというよりもむしろブラックミュージック全般からの影響を感じさせるアルバムに。強いビートを聴かせるリズムも印象的で、この点もいかにも今風といった印象も。ジャズというジャンルにこだわらない作風で、意外と広いリスナー層が楽しめそうな作品になっていました。
評価:★★★★★
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