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2022年1月22日 (土)

Arcaの多彩な音楽性を4枚のアルバムで表現

バルセロナを拠点として活動するベネズエラ出身のプロデューサーArca。ビョークのアルバムへの参加により一気に注目を集め、その後も自らのアルバムが高い評価を受け、積極的な活動が続いています。そんな彼女は2020年にアルバム「Kick i」をリリースしましたが、昨年末に続く3枚のアルバムを同時にリリース。4部作として完結させています。

4枚同時リリースとなった今回のアルバム。1枚あたりは30分強という比較的、短めの構成となっています。とはいえ、それが4枚あつまるということで、まとまると全2時間強にも及ぶというかなりボリューミーな内容。聴きごたえ満点の作品となっています。

Title:KICK ii
Musician:Arca

ただ、今回のアルバムでユニークなのは、この4枚のアルバムがそれぞれ全く別の音楽性を持ったアルバムになっていたという点。まずこの2作目となる「KICK ii」では彼女らしい、アバンギャルドさを感じるエレクトロサウンドに加えて、トライバルな要素が加味されたという点が大きな特徴でしょう。

不気味な雰囲気のエレクトロビートの破壊音からスタートする1曲目「Dona」はいかにもArcaらしさを感じる楽曲と言えますが、続く「Prada」は軽快なトライバルビートが大きな特徴。どこか悲しげに感じられるメロディーが流れている点も強いインパクトを受けます。さらに前半はトライバルビートが載った作品が続く内容に。一方、後半はアバンギャルドなエレクトロサウンドが流れる「Confianza」「Born Yesterday」など、Arcaらしい独特のエレクトロビートがアルバム全体に炸裂するような作品になっていました。

Title:KicK iii
Musician:Arca

このアバンギャルドなエレクトロサウンドという路線をより推し進めたのはこの3作目でしょう。メタリックなビートを散発的なボーカルで構成される「Bruja」からスタートし、同じくメタリックなサウンドが耳を惹く「Incendio」「Morbo」など、強いエッジの効いたエレクトロビートが耳をつらぬくような作品が続いていきます。

ただ、この「iii」にしても「ii」にしても、アバンギャルドなサウンドが鳴っている割には、意外と聴きやすさを感じてしまうのも大きな特徴で、何気にポップなメロディーラインがしっかり流れていたりするのがユニークなところ。この「iii」でも、例えば「Ripples」では強いエレクトロビートの中に、意外とユーモラスやポピュラリティーを感じさせる作風になっていますし、前述の「Morbo」でもどこかメランコリックなメロが垣間見れたりします。

Title:kick iiii
Musician:Arca

そんなArcaの楽曲のメロディアスな側面が強調されたのが最後の2作で、本作では「Esuna」で郷愁感あふれるホーンのようなサウンドとメランコリックなファルセットボイスが大きな魅力に。「Hija」のようなアコースティックテイストのあるサウンドに、エフェクトをかかったボーカルながらも、メランコリックな歌を聴かせる作品もあったります。

一方、この「iiii」では、「Alien Inside」のようなダイナミックで分厚いサウンドのエレクトロナンバーもあったりと、バラエティーに富んだサウンドも楽しめます。ただ基本的にはメランコリックなメロが流れている作品がメインとなっており、Arcaのメロディーメイカー的な側面を味わえる作品になっています。

Title:kiCK iiiii
Musician:Arca

そして、メランコリックという側面をさらに推し進めたのがこの4作目。この作品ではArcaらしいエレクトロビートは鳴りを潜め、代わりにピアノの音色を主体としたサウンドでメランコリックなメロディーを聴かせるという作品になっています。彼らしいアバンギャルドなエレクトロビートが若干聴こえるのは「Musculos」と最後の「Crown」くらいでしょうか。ただ、その2作品についてもメランコリックなメロが前面に押し出されています。

むしろ「Ether」のような優しいピアノ曲が目立つ作品に。ピアノといっても、むろんエレクトロピアノが取り入れられており、いろいろなピアノの音色が流れてくるのですが、どの曲も優しい雰囲気のサウンドとなっており、特に、最初の2作との違いが顕著にあらわれた作品になっています。ただ、最初の2作のようなエレクトロビートが炸裂というイメージの強いArcaですが、後の2作では非常に美しいサウンドやメロが主体となっており、Arcaのまた異なった側面を楽しむことの出来る作品になっていました。

そんな訳で、全4作というボリューム感あふれる作品になった本作。全2時間以上に及ぶボリュームなのですが、ただ意外なことに、聴いていてそれだけの長さはほとんど感じられませんでした。1枚毎にバラエティーに富んだ作風と、意外にポップでメランコリックなメロが流れる作品が多い点、アバンギャルドさを感じる作風でありながらも同時に聴きやすさがあり、途中、まったくだれることなく一気に楽しめる作品になっていたように感じます。なによりもArcaというミュージシャンの様々な側面に触れることの出来る傑作アルバムになっていました。年末近くにリリースされた作品なのですが、4作あわせて2021年のベスト盤候補といってもいい作品ではないでしょうか。あらためて彼女のすごさを感じさせる作品群でした。

評価:いずれも★★★★★

Arca 過去の作品
Xen
Sheep(Hood By Air FW15)
Mutant
Arca
KiCk
Madre

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