ソロらしい挑戦心あふれる意欲作
Title:crepuscular
Musician:KIRINJI
2013年に、キリンジの堀込泰行脱退後、まさかのバンド編成にシフト。その後はバンド「KIRINJI」として活動を続けるものの、2020年には今度はそのバンド体制を解除し、堀込高樹のソロプロジェクトとなったKIRINJI。本作は、ソロプロジェクトとなってから初のアルバムとなります。キリンジといえば兄弟デゥオとして続いていく・・・とかつては思っていただけに、2013年以降の変化の目まぐるしさについては、ちょっと驚いてしまう感もあります。ただ、兄弟デゥオでは、堀込兄弟が対等に楽曲制作に参加していた感があったのに対して、KIRINJIとなってからは、バンド活動にしても堀込高樹主導という点が強く感じられました。そういう意味ではバンドとしての活動をある程度やりつくして、あらたな音楽的な方向性に興味を持った堀込高樹が、もっと動きやすいソロプロジェクトにシフトする、というのは自然の流れだったのでしょう。
さて、そんなKIRINJIの最新作ですが、予想はしていたことですが、前作までに比べるとバンド色がグッと薄れて、音楽的な自由度が増して、ソロとしての色合いが強い作風になりました。まあ、バンドからソロプロジェクトに変化したので当たり前といえば当たり前なのですが。その結果、いままでのKIRINJI同様のシティポップを主軸としつつも、新たな挑戦心にあふれた意欲作になっているように感じます。
アルバムの1曲目はエレクトロサウンドを主軸にメロウに聴かせる「ただの風邪」からスタート。この「ただの風邪」という表現、新型コロナに対して・・・特にマスクやワクチンを否定するようなタイプの人たちが良く新型コロナに対しての物言いとして述べられることが多いだけに、タイトルにはちょっとドキリとさせられるのですが、内容的にはコロナと全く関係なし(ひょっとして、コロナに対するこの手の物言いにインスパイアされたのかもしれまえんが)。風邪をひいたかのような気だるさを感じるドリーミーな雰囲気の曲調が特徴的なナンバーになっています。
特に前半に関してソロプロジェクトらしい意欲作に感じるのは「薄明」でしょうか。女性シンガーソングライターのMaika Loubtéがボーカリストとして参加している同作は、メランコリックさがあふれる作品。ちょっと昔の歌謡曲のように、エキゾチックな雰囲気が流れる哀愁感ただようメロディーラインで、どこか懐かしさ、郷愁感を覚えるような作品になっています。
「曖昧me」もトライバルなビートにエキゾチックさを感じさせるギターが印象的なナンバー。続く「気化猫」と同様、現実をあいまいに捉える、ちょっと幻想的な雰囲気の歌詞が印象に残るナンバーで、どこか感じるユーモラスセンス共々、堀込高樹らしい楽曲と言えるでしょう。マリンバを取り入れたインスト「ブロッコロロマネスコ」も合わせて、様々なサウンド的要素を取り入れているあたりもソロプロジェクトならではといった感じでしょう。
さらにアルバムの目玉ともいうべきなのが「爆ぜる心臓」でしょう。いきなりヘヴィーなエレクトロサウンドからスタートしたかと思うと、まさの女性ラッパーが登場。かなりダイナミックなサウンドも耳に残るナンバー。もともと堀込高樹名義でリリースされた映画「鳩の撃退法」のサントラ盤に収録されていた曲なのですが、あきらかに2人組ユニットだったキリンジとも、バンドKIRINJIとも異なる方向性の作風。ラップも大胆に取り入れた意欲的な音楽性が特徴的で、これからのソロ活動を象徴するような曲になっていました。
もちろん「再会」のようなキリンジ時代から続くようなシティポップ路線は健在。ラストはピアノバラードの「知らない人」で締めくくり。楽曲としてのインパクトも申し分なく、KIRINJI堀込高樹の本領が存分に発揮された傑作アルバムに仕上がっていました。KIRINJI時代も傑作のリリースが相次いでいましたが、その勢いが続いているように感じる作品で、2021年の年間ベスト候補といって間違いないでしょう。あらためて堀込高樹の実力を強く感じさせる作品でした。
評価:★★★★★
キリンジ(KIRINJI) 過去の作品
KIRINJI 19982008 10th Anniversary Celebration
7-seven-
BUOYANCY
SONGBOOK
SUPERVIEW
Ten
フリーソウル・キリンジ
11
EXTRA11
ネオ
愛をあるだけ、すべて
Melancholy Mellow-甘い憂鬱-19982002
Melancholy Mellow II -甘い憂鬱- 20032013
cherish
KIRINJI 20132020
ほかに聴いたアルバム
LITTLE CHANGES/中田裕二
途中ベスト盤を挟みつつ、オリジナルアルバムとしてはちょうど1年ぶりとなる新作。ソロデビュー10周年という区切りのベスト盤リリース後の最初のオリジナルアルバムで、彼にとっては新たな一歩とも言えるのでしょう。ただ、方向性としては、今までの中田裕二の作風をさらに洗練化させたような作風。日本の歌謡曲や、それに連なるJ-POPのメランコリックでメロディアスな路線をさらに突き進んだような作品で、哀愁感たっぷりのメロディーがさらに突き進んだ感じも。正直、目新しさは感じないのですが、一方で今後もこの路線を突き進むという彼の力強い決意も感じさせる新作でした。
評価:★★★★
中田裕二 過去の作品
ecole de romantisme
SONG COMPOSITE
BACK TO MELLOW
LIBERTY
thickness
NOBODY KNOWS
Sanctuary
DOUBLE STANDARD
PORTAS
TWILIGHT WANDERERS -BEST OF YUJI NAKADA 2011-2020 -
GRAN ESPOIR/高橋幸宏
高橋幸宏がソロとしてもっとも充実した活躍ぶりをみせていた80年代前半の代表曲を集めたコンピレーションアルバム。自らの代表曲を並べたDisc1と、同時期の提供曲やプロデュース曲などを収録したDisc2の2枚組となります。楽曲的にはいかにも80年代的な空気を覚えるニューウェーヴなのですが、今なお続き、最近ではMETAFIVEなどにも引き継がれている、高橋幸宏らしいちょっと淡々とした雰囲気のメロやサウンドはこの時期から健在。いい意味で聴きやすい軽快なポップチューンも多く、高橋幸宏の入門盤としてもピッタリなコンピになっていました。
評価:★★★★★
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