「混沌」とした世の中で
Title:Kong Tong Recordings
Musician:安藤裕子
「コントン・レコーディングス」というタイトルのついた、約2年3ヶ月ぶりとなる安藤裕子のニューアルバム。このちょっと妙なアルバムタイトルですが、もちろん「混沌」から来ているそうです。ただ、それだけにアバンギャルド風の作品が並ぶアルバム・・・と想像しつつ本作を聴き始めたのですが、1曲目「All the little things」は軽快で非常にポップな楽曲に仕上がっており、逆に驚かされました。続く「ReadyReady」も同じくちょっとメランコリックさは感じるものの、基本的に軽快でポップなナンバー。ただ、このコロナ禍で世の中が混沌とした中で、あえてポップな曲が生まれている点に混沌さを感じており、そこからこのアルバムタイトルがついたそうで、そういう意味ではユニークな発想のアルバムに感じます。
ただし、アルバムとして明るくポップという印象を受けたのは冒頭の2曲程度。その後の曲は、大人のポップスらしい落ち着いた雰囲気を醸し出しつつも、ちょっとダウナーでドリーミーな雰囲気のある作風が印象に残りました。ちょうどモノトーンで安藤裕子の2つの写真を重ねたようなちょっと不思議なジャケットにマッチしたような、そんな音楽といった感じでしょうか。
特にアルバムのもうひとつの核となっているのがラストの「衝撃」。テレビアニメ「『進撃の巨人』The Final Season」のエンディングテーマというタイアップがついたこの曲ですが、本作がアルバムのスタートとなったとか。ちょっとドリーミーな雰囲気にアバンギャルドな要素も加味されたような楽曲になっており、不思議な作風になっているこの曲であるが、ポップな1曲目から、ラストのこの曲に向かって、アルバムが徐々に変化して展開している構成、とも言えるかもしれません。
中盤からは落ち着いて聴かせる「恋を守って」から、「森の子ら」はタイトル通り、森の中をイメージさせるようなファンタジックな内容に。さらに悲しげなメロディーラインを聴かせる「少女小咄」から、「Toiki」ではムード感たっぷりの作風をしんみり聴かせる大人な雰囲気の楽曲に、と中盤にかけては大人な雰囲気を感じさせつつ、ちょっとドリーミーな要素も取り入れたポップスが並びます。
ピアノに静かな打ち込みのリズムで静かにしんみり聴かせる「僕を打つ雨」から、「Goodbye Halo」はちょっとアバンギャルドさを感じさせるサウンドが加わり、ラストの「衝撃」へとすんなりと展開していきます。このポップな作風の冒頭から、ラストへと、安藤裕子の様々な魅力を見せつつ、上手く展開していく構成は見事。バラエティーある作風ながらもアルバム全体に統一感を持たせる内容に仕上げています。
比較的ドリーミーな作品も目立つ点は、前作「Barometz」からの流れを感じさせつつも、様々な彼女の側面をしっかりと聴かせてくれた傑作アルバム。あらためて彼女の魅力を強く感じた作品でした。
評価:★★★★★
安藤裕子 過去の作品
クロニクル
THE BEST '03~'09
JAPANESE POP
大人のまじめなカバーシリーズ
勘違い
グッド・バイ
Acoustic Tempo Magic
あなたが寝てる間に
頂き物
ITALAN
Barometz
ほかに聴いたアルバム
The GARDEN/the peggies
3ピースガールズバンドによる約2年半ぶりのニューアルバム。全10曲中、3曲にアニメのタイアップがつくなど、明らかに「売り」を狙った感がするアルバムになっています。ただ、その影響か、比較的ヘヴィーなバンドサウンドを聴かせてくれていた前作に比べると、ポップ寄りにシフト。3ピースのバンドサウンドだけではなく、様々な音も加わり、いかにもJ-POP的なサウンド構成になっています。直近のEP「アネモネEP」もその傾向があったので、基本的にその路線を踏襲した感じでしょうか。ポップ路線になって楽曲のインパクトは増したのですが、バンドとしての魅力が後ろに下がってしまった感があるのが、ちょっと残念でした。
評価:★★★★
the peggies 過去の作品
super boy! super girl!!
なつめきサマーEP
Hell like Heaven
アネモネEP
SKYE/SKYE
鈴木茂、小原礼、林立夫に、松任谷正隆を加えた4人組バンドのメジャーデビュー作。既に音楽業界の中で「レジェンド」の位置にいるようなメンバーによるスーパーグループ。もともと、松任谷正隆以外の3人が高校時代に組んでいたバンドだったそうで、佐野史郎のレコーディングに参加したことから、再結成となったそうです。高校時代はヤードバーズやクリームのカバーを手掛けていたバンドだったそうで、基本的にはその路線を踏襲したような60年代の空気感の強いブルースロックがメイン。高校時代を懐かしんだノスタルジックな要素も強い感じでしょうか。「レジェンド」4人のバンドなだけに、クオリティー的には申し分ない一方、目新しさはなかった感も。まあ、昔を懐かしんで、自由に音を鳴らしたバンドといった感じでしょうか。今後、コンスタントに活動を続ければ、なかなかおもしろくなりそう。
評価:★★★★
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