「奴隷」時代の歴史から脈々と・・・
今回紹介するのは、最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。
今回紹介するのはポール・オリヴァー著"The Story Of The Blues"の翻訳版、「ブルースの歴史」。ポール・オリヴァーはイギリスのブルース研究家で、以前、紹介した「ブルースと話し込む」の作者でもあります。本作は、もともと1969年に刊行した1冊。その後、1978年に翻訳出版されました。同作はブルースの名著として知られ、その後も版を重ねていったようですが、その後絶版。今回、その名著が再販され、話題となりました。
同誌の大きな特徴として、まず大判での印刷ということ。29.7cm×21.5cmと、ずっしりと大きな内容は、原著に準じた大きさとなっており、まず手に取ると大きなインパクトがあります。索引等も含めて全208ページからなる内容も重量感があり、中身もずっしり。かなり読み応えのある内容になっていました。
さらに本誌で目立つのは、かなりの枚数の写真が豊富に載せられているという点。全編白黒ということもあって、画質な決してよくないのですが、決して枚数の多くない戦前のブルースミュージシャンたちの貴重な写真が数多く載せられています。もっとも、戦前のブルースミュージシャンたちの写真は枚数も限られるため、見たことある写真も多いのですが、そのほかに当時の黒人社会の状況がわかるような写真も数多く載せられており、それらの写真を眺めるだけで、ブルースが奏でられた当時の状況が目に浮かぶような内容になっていました。
さて、肝心の内容の方ですが、大きな特徴としてもともと1969年に刊行した作品ということもあり、戦前のブルースシーンの描写が主となっています。そのような中で、「ブルースの歴史」のスタートとして、まだ奴隷制度がアメリカに残っていた頃の話からはじめている点が大きな特徴。その時代の記録に残っている黒人たちの歌から「歴史」をスタートさせており、その後、徐々にブルースというジャンルが確立してくるまでを、かなり丁寧に描いているのが印象的です。
普通、「ブルースの歴史」を描く場合は、W.C.ハンディが1903年に、駅のホームで黒人の男が歌う聴いたことのないような音楽と出会ったという有名なエピソードからスタートしていることがほとんどです。しかし、この本では、この有名なエピソードが登場するのは第3章になってから。さらにブルースを紹介する本で、しばしば最初に登場してくる戦前ブルースの代表的なミュージシャン、ロバート・ジョンソンの登場に至っては、134ページと、全体の3分の2程度近くになってようやく登場してきます。
その分、そこに至るまでの数多くのブルースの変遷が丁寧に描かれており、特に戦前のミュージシャンについては、名前を聴くのもはじめてなミュージシャンが数多く登場してきます。調べてみると、録音が残されているのが数曲だけだったり、あるいは録音が残されていないミュージシャンだったり・・・今、数多くの本で紹介される戦前のブルースシンガーというと、ロバート・ジョンソンをはじめ、ブラインド・レモン・ジェファスンやリロイ・カー、チャーリー・パットン、サンハウスといったミュージシャンたちで、そういうミュージシャンももちろん同書では登場し、かなり丁寧に語られているのですが、戦前のブルースシーン、ひいてはその後のミュージックシーンを形作ってきたのは、そんな著名なブルースシンガーだけではなく、彼らに影響を与えた数多くのミュージシャンたちが戦前には存在したんだ、ということをあらためて実感させられる内容になっていました。
非常に興味深い内容になっていた同書。ブルースの成り立ちが奴隷制度の時代から紐解かれており、しっかりと理解できる1冊に。かなり重い本ではあるため、ちょっと手を出しずらい部分もあるかもしれませんが、ブルース、特に戦前ブルースに興味がある方なら必読の1冊です。
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