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2022年1月25日 (火)

2つの異なるスタイル

Title:KEYS
Musician:Alicia Keys

2020年にセルフタイトルアルバム「Alicia」をリリースしたAlicia Keys。それからわずか14ヶ月というスパンで早くもニューアルバムがリリースされました。アリシアといえば2001年にデビューしてから既に20年以上。ベテランとしての域に達しているシンガーですが、アルバムではミュージシャンとして様々な顔を見せています。前々作「Here」はブラックミュージック寄りにシフトした作品になっていたのに対して、セルフタイトルの前作「Alicia」はポップミュージック寄りにシフトした作品に仕上がっていました。

そして、前作「Alicia」に続いてのセルフタイトルのアルバムとなったのが本作「KEYS」。今回のアルバムでユニークなのは、1つの曲に対して「Originals ver.」と「Unlocked ver.」という2種類のバージョンが収録されているという点。2枚組のアルバムとなっており、1枚目に「Originals ver.」、2枚目の「Unlocked ver.」が収録されており、全26曲1時間半超というボリューミーな内容となっています。

この2種類のバージョンについて、アリシア本人は次のように語っているようです。

「<Originals ver.>は”帰郷”だと考えてます。自分がどこから来たのかを覚えていなければ、どこへ行くのかを真に理解することはできない。一方で<Unlocked ver.>では自分のルーツを理解した上で”磁気治療をうけたような、より充実した体験”をコンセプトに制作を進めたの。」

基本的に「Originals ver.」の方はシンプルなピアノのアレンジをベースとした、昔ながらのR&Bやソウルの影響を強く受けた楽曲。一方、「Unlocked ver.」はプロデューサーとしてBeyonceやケンドリック・ラマーなどの楽曲も手掛けるMike WiLL Made-Itが参加しており、エレクトロサウンドを入れつつ、今時のビートを強調したアレンジを聴かせてくれています。様々な音楽性を抱える彼女が、今回は意図的に、ルーツ志向の自分を見つめなおした方向性と、新たな挑戦を試みた方向性とに、明確に区分した構成となっています。

例えば事前にPVも公表された「Best Of Me」は伸びやかに彼女のボーカルを聴かせるミディアムチューン。「Originals」でもドラムのリズムを強調された楽曲となっているのですが、「Unlocked」ではベースラインがより強調された、今風のアレンジに仕上がっています。「Dead End Road」も、「Originals」ではピアノを主体としたシンプルなアレンジのゴスペルナンバーになっているに対して、「Unlocked」は重低音のビートがより強調されたアレンジとなっています。

今回、「Originals」に今風のアレンジを加えた「Unlocked」というバージョンを加えた構成になった影響でしょうか、楽曲自体については、シンプルなアレンジで「歌」を聴かせる、R&Bやソウルの要素を取り入れつつ、シンプルにまとめた作風が多かったように感じます。「Love When You Call My Name」なども伸びやかなボーカルを聴かせつつ、どこかかわいらしいポップチューンに仕上がっていますし、「Originals」の事実上のラストナンバーとなる「Like Water」もピアノをバックにしっかりと歌を聴かせるシンプルなナンバーに仕上がっています。「Unlocked」でアレンジ的な挑戦を試みた結果、原曲はよりシンプルに「歌」を聴かせる方向性となったのでしょう。

「歌」をしっかりと聴かせる構成なだけに楽曲的にもインパクトがあり、しっかりと心に残る名曲も多かった本作。純粋に曲の出来としては、ここ最近の作品の中で一番だったようにも思います。ただ一方で、「Originals」「Unlocked」共に、正直なところシンプルな方向性のため目新しさはありません。まあ「Originals」については原点回帰という意味のある方向性なだけに、目新しさがないのは当然と言えば当然でしょう。ただ問題なのは「Unlocked」の方。今風のアレンジには仕上げているのですが、こちらに関しても目新しさがほとんどなかったのは残念なところ。もっとも、無難と言えば無難なアレンジなだけに原曲を殺してはおらず、そういう意味では楽しめる作品にはなっていたのですが・・・。

そんな気になる部分もありつつも、ただ全体的にはやはり今風のアレンジという挑戦心は買いたいところですし、「Originals」とのバランスもよく出来ているように思います。かなりのボリューム感あるアルバムなのですが、それを気にせずに一気に楽しむことが出来ました。セルフタイトルが2作品続いただけに、今後は心機一転といった感じなのでしょうか。これからの活躍も楽しみです。

評価:★★★★★

Alicia Keys 過去の作品
As I Am
The Element Of Freedom
Girl On Fire
HERE
Alicia


ほかに聴いたアルバム

I'll Be Your Mirror: A Tribute to The Velvet Underground & Nico

タイトル通りのThe Velvet Undergroundの歴史的名盤「The Velvet Underground & Nico」の全曲カバーを試みたトリビュートアルバム。イギーポップや元R.E.M.のマイケル・スタイプといった大物ベテランミュージシャンから、St.Vincent、Kurt Vile、Courtney Barnettといった、最近注目のミュージシャンまで、かなり豪華なメンバーが名前を連ねたトリビュートアルバム。基本的にはノイジーなギターロックの作品が並んだ作品になっているのですが、曲によっては、ストリングスでエキゾチックな雰囲気を醸し出したり、ピアノでしんみり聴かせたり、フリーキーな作風になっていたりとミュージシャンによって多様な解釈が楽しい作品に。ただ、今聴いても楽曲自体の魅力は全く廃れておらず、名盤が名盤である理由のよくわかるトリビュートアルバムとなっていました。

評価:★★★★★

Meu Coco/Caetano Veloso

ブラジルを代表するシンガーソングライター、カエターノ・ヴェローゾの約9年ぶりとなるニューアルバム。60年代から活動を開始し、現在79歳になる彼。超がつくほどベテランシンガーなのですが、この年齢になっても、新作から現役感は全く失われていません。いまなお艶があるボーカルにアコースティックなサウンドを中心としたメランコリックなメロディーラインが魅力的。正直、80歳手前とは信じられない若々しさがあります。まだまだ引退には程遠い感じで、80歳になってもアルバムを作り続けそう・・・。

評価:★★★★

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