最も勢いのあるミュージシャンの新作2作
先日の紅白にも出演し、大きな注目を集めた、ある意味、今、最も勢いのあるミュージシャンの一組ともいえるYOASOBI。ここ最近、2枚のEPをリリースしました。
Title:E-SIDE
Musician:YOASOBI
Title:THE BOOK 2
Musician:YOASOBI
このうち「E-SIDE」は、彼女たちのヒット曲の英語によるセルフカバー。大ヒットした「夜に駆ける」が「Into The Night」、「群青」が「Blue」、「怪物」が「The Monster」と名前を変えて全英語詞で収録されています。ちょっとユニークなのは一部英語の「空耳」を利用して、英語詞でありながらも原曲の日本語詞と全く同じように聴こえる部分をわざと作っている点。例えば「夜に駆ける」の冒頭の歌いだしは「沈むように」からスタートするのですが、「Into The Night」でも「Seize a move,you're on me」と歌い方によって「沈むように」と聴こえる英語になっています。この遊び心は他のところでも見受けられて、なかなかユニークに感じました(でもこれ、英語、合ってるの?)。
今回YOASOBIの曲を2作品聴いたのですが、その上で感じるのは非常にメロディーラインのインパクトが強いということでした。特に「E-SIDE」であらためて彼女たちのヒット曲を聴いてみると、英語詞のため、原曲の日本語を気にせずにあくまでも楽曲を楽しめるということもあって、メロディーラインの輪郭がよりクッキリと耳に飛び込んでくることを感じます。正直、マイナーコード主体のメランコリックなメロディーラインは、悪い意味でよくありがちなボカロ系という印象も受けてしまうのですが、ただ一方、メロディーラインは一発で耳に残る強いフックを持っています。「THE BOOK 2」でもちょっと和風な要素が印象的な「大正浪漫」やエレクトロの打ち込みに疾走感あるメロが印象的な「怪物」など、メロディーラインのインパクトが光る曲が並んでいます。
また、歌詞についても、世界の中でどこか孤独を感じつつ、前向きな未来を信じている歌詞が特徴的で、ここら辺は良くも悪くもネット住民との親和性がありそうな印象も。個人的にはちょっと抽象的すぎる感のある歌詞が、例えばもっと具体的な世界観を提示してくるthe pillowsなどと比べると、いまひとつはまりきれない感はあるのですが、確かに強すぎる自我を抑えきれなくなるような思春期を迎える10代には心にヒットする歌詞のように感じます。「三原色」などは、今のコロナ禍を反映させたように感じる歌詞も印象的で、この歌詞の世界観は彼らの大きな魅力と言えるでしょう。
ただちょっと・・・というよりもかなり気になるのがそのサウンド。以前、プリセット音源のみ使用している点を批判的に書いて炎上した音楽評論家がいました。正直、この程度の批判で炎上したりするあたり、今の社会の余裕のなさを感じてしまいます。まあ、YOASOBIのファン層が、この手の批判にほとんど免疫なさそうな中高生世代がメインなのが理由なのかもしれませんが。ただ、確かに聴いていて、サウンドに関しては悪い意味でのこだわりのなさのような感じを抱いてしまいます。プリセット音源のみを使用するという点に関しては、(プリセット音源のみを使用したわけではないのかもしれませんが)電気グルーヴがGarage Bandのみを使用してアルバムを作り上げたり、かつてデーモン・アルバーンがiPadのみでアルバムを作ったりと話題になるように、安い音源や機材だからといって必ずしも悪い音になるわけではありません。
しかし、そんな点を差し引いても、彼らのサウンドはちょっとあまりにもチープというか、メロと歌詞を重視するあまりにサウンドにあまりに力を入れていないというか・・・これは彼らが音楽の中でどこを重視するかによるかとは思うのですが、もうちょっとサウンドにも気を配ってほしいなぁ、とは正直なところ思ってしまいます。サウンドが歌の単なる伴奏になっているのは、歌謡曲やJ-POPでよくありがちな悪い点なのですが、聴いていて厳しいなぁ、と思う点は多々ありました。
そういう意味では良くも悪くも、歌詞と歌にあくまでも重点を置く、典型的な日本の売れ筋ミュージシャンと言えるのかもしれません。それだけに2022年以降も快進撃は続くのでしょうか?これからの彼女たちの活躍にも注目したいところです。
評価:どちらも★★★★
YOASOBI 過去の作品
THE BOOK
ほかに聴いたアルバム
Twilight/土岐麻子
途中、カバーアルバムのリリースはあったものの、純然たるオリジナルアルバムとしては約2年ぶりとなる新作。しんみりメランコリックに聴かせるシティポップ路線の楽曲が並ぶ本作。「Twilight」というタイトル通り、黄昏時に優雅に過ごせる楽曲を並べたというコンセプトらしい作品。全体的には落ち着いた「大人の」ポップスといった印象を受けるアルバムになっていました。その結果、全体的にはいつものシティポップ路線に落ち着いたといった感じの、安定感はあるものの目新しさのないポップスといった感も。安心して聴けるアルバムではありますが。
評価:★★★★
土岐麻子 過去のアルバム
TALKIN'
Summerin'
TOUCH
VOICE~WORKS BEST~
乱反射ガール
BEST! 2004-2011
CASSETTEFUL DAYS~Japanese Pops Covers~
HEARTBREAKIN'
STANDARDS in a sentimental mood ~土岐麻子ジャズを歌う~
Bittersweet
PINK
HIGHLIGHT-The Very Best of Toki Asako-
SAFARI
TOKI CHIC REMIX
PASSION BLUE
HOME TOWN~Cover Songs~
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