彼女のスタイルを貫いたカバー
Title:うたの木 彼のすきな歌
Musician:渡辺美里
以前から「うたの木」シリーズとして続いている渡辺美里のカバーアルバム。今回の作品では「彼のすきな歌」と題して、女性ボーカルの彼女があえて男性ボーカルの歌を取り上げてカバーしています。ただ、この「異性ボーカルの曲をカバーする」というスタイル、正直企画として最近ありふれた企画になってしまっており、ご存じの通り、嚆矢になったのが徳永英明のカバーアルバム「VOCALIST」シリーズ。その後も似たような企画が次々と登場し、ここ最近ではエレカシ宮本浩次も女性ボーカルの曲をカバーしたアルバムをリリースし、ヒットを記録しました。
そういう意味では今回のこのカバーアルバム、企画の方向性自体は若干ありふれていて陳腐・・・とも言ってもいいかもしれません。ただし、そのセレクションはなかなかユニーク。スピッツの「チェリー」や斉藤和義の「歩いて帰ろう」のようなJ-POPのヒット曲から、彼女の盟友ともいえる大江千里の「Rain」に、布施明の「積木の部屋」のような歌謡曲。さらには水原弘の「黄昏のビギン」のような、昭和30年代のヒット曲まで、かなり幅広い作品が取り上げられています。
その中でも特にユニークなのは「冷たいアイスティー」。こちら宮本浩次の楽曲のカバーなのですが、前述のエレカシのボーカル、宮本浩次(ひろじ)ではなく、1996年にシングル「タイトでキュートなヒップがシュールなジョークとムードでテレフォンナンバー」でデビューしたシンガーソングライターの宮本浩次(こうじ)の方。「タイトで~」は若干話題になったので、ひょっとして知っている方もいるかもしれませんが、正直、知る人ぞ知る的なミュージシャン。ただ渡辺美里に楽曲提供を行っている縁もあり、美里ファンなら知っている人も少なくないかもしれません。そんな彼の、まさに知る人ぞ知る的な名曲をあえて取り上げるあたり、非常にユニークさと、ある種の彼女の「義理堅さ」も感じます。
また個人的にはソウルフラワーユニオンの「満月の夕」のカバーもうれしいところ。SFUの奥野真哉が最近、渡辺美里のライブのバンドリーダーを務めている縁もあるのでしょう。基本的に原曲に忠実なカバーなのですが、彼女の力強く包容力ある歌声も曲にマッチしており、とても良いカバーに仕上がっていました。
ただ一方、アルバム全体としては率直なところ、彼女のボーカルが合っていたカバーと若干合わなかったカバーにわかれていたように感じます。彼女のボーカルスタイルは、彼女のこれでもかといったボリュームあるボーカルで歌い上げるスタイル。あえていえば、彼女の色で楽曲を分厚く塗りたくるようなスタイルになっており、良く言えば迫力あるボーカルが耳に残り、悪く言えば、ちょっと平坦な印象も受けてしまうカバーが少なくありません。
その結果、特に歌謡曲系の曲は彼女のボーカルスタイルが合っていたように感じます。特に「積木の部屋」は、原曲の布施明も同じようなパワーあふれる歌声を聴かせるボーカルスタイルなだけに、渡辺美里との相性が抜群。同じく歌謡曲系の堺正章「街の灯り」なども彼女のボーカルとマッチしており、非常に良くできたカバーに仕上がっていたように思います。
また印象に残るのは大江千里の「Rain」のカバー。ご存じの通り、大江千里といえば数多くの楽曲を渡辺美里に提供してきたミュージシャンなだけに、美里ファンにとってはおなじみのミュージシャン。彼女が歌うと完全に渡辺美里の曲になってしまっており、全く違和感のないカバーに仕上がっていました。
逆に今一つだったのが、スピッツの「チェリー」や斉藤和義の「歩いて帰ろう」のカバー。元のミュージシャン自体があまり歌い上げるタイプではなく、自然体で歌うスタイルのボーカリストなだけに、彼女があまりにパワフルに歌い上げると、かなり違和感を覚えてしまいます。特にスピッツの場合、その淡々とした自然体のスタイルがシンプルな曲にマッチしているだけに、彼女のボーカルスタイルを当てはめると、かなり違和感を覚えてしまいました。
良くも悪くもボーカルスタイルを確立したミュージシャンなだけに、どの曲も同じような歌い方になってしまっていたのが若干残念な感じもしますし、結果、曲によって良し悪しのわかればカバーになったように感じます。ただ、選曲自体は非常に素晴らしいものでしたし、もちろん声量や音程などは全く問題ないのは言うまでもありません。そういう意味で安心して聴けるカバーアルバムだったのは間違いないと思います。収録曲に興味のある方や美里のファンなら文句なしに聴いて損のない1枚。次は、この選曲スタイルで女性ボーカリストのカバーも聴きたいかも。
評価:★★★★
渡辺美里 過去の作品
Dear My Songs
Song is Beautiful
Serendipity
My Favorite Songs~うたの木シネマ~
美里うたGolden BEST
Live Love Life 2013 at 日比谷野音~美里祭り 春のハッピーアワー~
オーディナリー・ライフ
eyes-30th Anniversary Edition-
Lovin'you -30th Anniversary Edition-
ribbon-30th Anniversary Edition-
ID
harvest
tokyo-30th Anniversary Edition-
ほかに聴いたアルバム
KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2020 "202020" 幻のセットリストで2日間開催!~万事休すも起死回生~ Live at 中野サンプラザホール 2021.4.28/斉藤和義
恒例となる斉藤和義のライブアルバム。今回は、今年4月に中野サンプラザで行われた、無観客での配信ライブの模様を収録したライブ盤。無観客ライブということもあって、印象としては元となるCD音源に近い演奏だったように感じました。ただ、このライブツアーの元となったアルバム「202020」が傑作だっただけあって、ライブ盤も名曲揃いで最初から最後まで楽しめる内容に。次のライブ盤は、ちゃんと客を入れた状態で、とも思ってしまうのですが。
評価:★★★★★
斉藤和義 過去の作品
I (LOVE) ME
歌うたい15 SINGLES BEST 1993~2007
Collection "B" 1993~2007
月が昇れば
斉藤“弾き語り”和義 ライブツアー2009≫2010 十二月 in 大阪城ホール ~月が昇れば 弾き語る~
ARE YOU READY?
45 STONES
ONE NIGHT ACOUSTIC RECORDING SESSION at NHK CR-509 Studio
斉藤
和義
Kazuyoshi Saito 20th Anniversary Live 1993-2013 “20<21" ~これからもヨロチクビ~ at 神戸ワールド記念ホール2013.8.25
KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2014"RUMBLE HORSES"Live at ZEPP TOKYO 2014.12.12
風の果てまで
KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016“風の果てまで” Live at 日本武道館 2016.5.22
斉藤和義 弾き語りツアー2017 雨に歌えば Live at 中野サンプラザ 2017.06.21
Toys Blood Music
歌うたい25 SINGLES BEST 2008~2017
Kazuyoshi Saito LIVE TOUR 2018 Toys Blood Music Live at 山梨コラニー文化ホール2018.06.02
KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 25<26 〜これからもヨロチクビーチク〜 Live at 日本武道館 2018.09.07
小さな夜~映画「アイネクライネナハトムジーク」オリジナルサウンドトラック~
弾き語りツアー2019 "Time in the Garage" Live at 中野サンプラザ 2019.06.13
202020
55 STONES
MONDO GROSSO OFFICIAL BEST/MONDO GROSSO
非常にそっけないタイトルなのですが・・・DJやプロデューサーとしても活躍する大沢伸一のソロプロジェクト、MONDO GROSSOのベスト盤。いわゆるクラブ系ミュージックで、R&B、ソウルなどの要素を取り入れつつ、全体的にはラテン色も強い内容。かなり豪華なゲスト陣がボーカルを務めるのも特徴的なのですが、全体的には女性ボーカルによるメロウな作風が特徴。良質なポップスという印象を受けるのですが、全体として良くも悪くも卒がないという印象を受ける内容でした。
評価:★★★★
MONDO GROSSO 過去の作品
何度でも新しく生まれる
Attune/Detune
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