戦時下でも明るいジャズソングを
Title:世紀の楽団 唄う映画スタア 岸井明
Musician:岸井明
今回紹介するのは、当サイトでもたびたび取り上げている、戦前日本のSP盤の復刻専用レーベル「ぐらもくらぶ」プロデュースによる、戦前日本のエンターテイメント紹介企画「ザッツ・ニッポン・エンタテインメント」シリーズの第5弾。今回は、戦前において古川ロッパと組んで、数多くの喜劇や映画にも出演した、タイトル通りの「映画スタア」、岸井明のアルバム。戦後の紅白歌合戦にも一度出場経験があるなど、まさに歌手としても一世を風靡した彼。本作は、そんな岸井明の業績を網羅的に取り上げたアルバムとなります。
ちなみに彼の曲に関しては、以前もアルバムを1枚、当サイトで紹介しているほか、「戦前SP盤」のオムニバスアルバムではよく登場する、個人的にも「おなじみ」なミュージシャン。いままでも彼のコミカルな曲を何度か紹介してきましたが、このアルバムであらためて彼の楽曲を網羅的に聴くことが出来ました。
今回のアルバムでは全2枚組で、彼が本格的に活動を開始した1935年の作品から、戦時中を挟み、戦後1951年の作品まで、時系列順に彼の作品が並んでいます。特にDisc1は1935年から1937年(昭和10年~12年)という、既に戦争は始まっていたものの、おそらく本土では、まだ戦争の影響が本格化する前の時代。洋楽のジャズのカバー曲も多く、「懐しの我が家」のようなアメリカのトラッドソングにも挑戦しているなど、ジャズのテイストがより強い曲が並んでいます。取り上げている題材も明るく陽気。「僕の彼女」「ほんとに困りもの」のような、恋人同士の軽妙なやり取りを描いている曲も多く、世の中全体が自由奔放で明るかったんだろうな、ということを感じさせてくれます。
一方、その雰囲気が変わるのがDisc2で、徐々に戦争の足跡が忍び寄り、曲も時局を反映した作品が目立ちはじめます。「野球選手の兵隊さん」「進軍スヰング」みたいに露骨に戦争が組み込まれているネタや「姑娘可愛いや」のような、当時の日中関係を反映させたような曲、「代用品時代」のような戦時下での庶民の生活を、ある意味シニカルな視点から描いたような曲だったりと、戦時下という時代性を反映した曲が目立ちます。
ただそれでも、そんな曲を含めて、全体的にはコミカルで明るいという路線を貫いており、戦時下の暗い世相の中でも、懸命に音楽の明るさで人々を楽しませようとしたその姿を感じられます。また、そんな戦時下の曲でも「理想の夫婦」みたいな、趣味が全く異なる夫婦の話をコミカルに描いた曲なんかもあったりして(って、これってドリカムが似たようなネタの曲を書いていたような)、戦時下を感じさせない明るい作風の曲も目立ちます。
庶民の、というよりも、その当時の都市部のちょっとモダンな人たちの暮らしを描いた歌詞は、なにげに今の私たちの心境にも共通するところもあったりして、洒落たジャズ風の曲調も合わせて、今の私たちでも十分楽しむことが出来るノベルティーソングが並んでいます。全2枚組のアルバムでしたが、最後までコミカルな作風を一気に楽しむことが出来る作品。戦前の日本の世相を覗き見ることもできる、そんなアルバムでした。
評価:★★★★★
岸井明 過去の作品
唄の世の中~岸井明ジャズ・ソングス
ほかに聴いたアルバム
キャンディーレーサー/きゃりーぱみゅぱみゅ
約3年ぶりとなるきゃりーぱみゅぱみゅのニューアルバム。早くもデビュー10周年を迎えた彼女ですが、正直なところ、一時期に比べて人気の面では若干下火になっているのは否めませんし、楽曲についても以前のように話題にならなくなりました。ただ今回のアルバム、特に序盤がすごい!「DE.BA.YA.SHI.2021」「キャンディーレーサー」ともに強いエレクトロビートでテクノ色を前面に押し出した楽曲に。さらに「どどんぱ」はリズムをそのまま歌詞にしたユニークな曲なのですが、強烈なビートに強く惹かれる名曲に仕上がっており、以前ほど楽曲が注目を集めなくなったがゆえに、楽曲の自由度がグッと上がった印象を受ける作品になっていました。
・・・が、残念ながらそれだけのインパクトの強い曲はここまで。それ以降は、以前のようにキュートなエレクトロポップが並ぶのですが、ただ、インパクトはいまひとつ。悪くはないのですが、序盤に比べると失速感が否めません。どうせなら、序盤3曲のようなタイプの曲で吹っ切れたら、非常におもしろい傑作アルバムになったと思うんですが、さすがにそこまで吹っ切れることは出来なかったということでしょうか。非常に惜しさを感じさせるアルバムでした。
評価:★★★★
きゃりーぱみゅぱみゅ 過去の作品
なんだこれくしょん
ピカピカふぁんたじん
KPP BEST
じゃぱみゅ
ベルカント号のSONGBOOKⅢ/ムジカ・ピッコリーノ
以前もこちらで紹介したEテレの子供向け音楽番組「ムジカ・ピッコリーノ」。ジャンルを問わない数多くの音楽を取り上げ、番組の中のバンド「ハッチェル楽団」がカバーしており、そのカバー曲をまとめたアルバムの第3弾。SMAPの「ダイナマイト」にダフトパンク「Around The World」、くるりの「ばらの花」や民謡「会津磐梯山」まで、実にバラエティー富んだジャンルの広い楽曲を取り上げており、音楽の楽しさを伝えてくれています。ラストに番組中で使われたモンストロの鳴き声が収録されており、これはちょっと微妙といえば微妙だけど、純粋に「番組のファン」としては、やはりうれしいのかなぁ。前作同様、収録曲は音楽ファンとして抑えておきたい作品ばかりなので、子供向け番組のサントラ、という枠にとらわれず、広い層にお勧めできる作品です。
評価:★★★★★
ムジカ・ピッコリーノ 過去の作品
ベルカント号のSONGBOOKⅠ
ベルカント号のSONGBOOKⅡ
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