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2021年12月11日 (土)

スタジアムバンド?

Title:I Don't Live Here Anymore
Musician:The War on Drugs

アメリカはフィラデルフィア出身のインディーロックバンド、The War on Drugsのニューアルバム。ここ数作、毎回高い評価を受けており、各種メディアの年間ベストの常連的な存在になっている彼らですが、前作「A Deeper Understanding」ではなんとグラミー賞も受賞。さらにアメリカのビルボードで10位、イギリスのナショナルチャートでは3位と、名実ともに、人気バンドに仲間入りしています。

さて、そんな彼らですが、アルバムをリリースする毎に少々毛色の異なる作品を出してくる点も特色となっています。私がはじめて聴いた前々作「Lost in the Dream」はシューゲイザー色の濃い作風。続く前作「A Deeper Understainding」はエレクトロポップの色合いが強い作品になっています。そして今回のアルバム、聴き始めるといきなり1曲目「Living Proof」はアコギのアルペジオと静かなピアノで聴かせる、アコースティックテイストの強いフォーキーな作風に。前作までのイメージとは少々タイプの異なる曲で若干驚かされます。

さらに驚かされるのは続く「Harmonia's Dream」で、バンドサウンドにシンセの音も加わったサウンドをバックとしたこの曲は、伸びやかでインパクトあるポップなメロディーラインと重なり、非常にスケール感のある作品に。ともすればスタジアムバンドの感すらあるこの曲は、「インディーロック」という彼らのイメージを覆す内容になっているのではないでしょうか。

続く「Change」も、若干カントリーロック色もある作風とポップなメロディーラインが、大物バンド然とした雰囲気を醸し出している作品に。タイトルチューンである「I Don't Live Here Anymore」もシンセのサウンドとバンドサウンドという組み合わせが90年代ポップのような、どこか懐かしさと、スタジアムバンド然としたスケール感を覚えさせる作品。「Old Skin」も静かにスタートしつつ、バンドサウンドで徐々に盛り上がるスタイルも、いかにも売れ線バンドといった様相の楽曲になっています。

いままでの作品も、インディーバンドという少々マニア向けというイメージを覆すような、意外とポップなメロディーラインを書いてきている点が彼らの大きな魅力ではあったのですが、今回のアルバムに関しては、そのポップなメロディーという路線がさらに突き進んでおり、非常にポピュラリティーの強い作風に仕上がっていました。結果として、「U2かよ?」とすら思うようなスタジアムロック色の強い作品も目立ち、インディーバンドというイメージからかけ離れた感もあります。ただ、ポップなメロディーラインは素直に魅力的。スケール感を推し進めた結果、陥りがちな「大味」な感じはなく、メロディーラインはしっかりと聴かせるものに仕上がっていたのはさすが。ちゃんとThe War on Drugsとして魅力的な作品に仕上がっていたと思います。もっとも、ビルボードでもイギリスのナショナルチャートでもチャート上位に食い込んでくるような人気バンドになっている彼らにとって、こういう作風は自然といえば自然なのかもしれませんが・・・。インディーバンドという枠組みに留まらず、広いリスナー層にお勧めできそうな作品でした。

評価:★★★★★

The War On Drugs 過去の作品
Lost in the Dream
A Deeper Understanding

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