「音楽の百科事典」リニューアル
今回は、最近読んだ音楽関連の書籍に関しての感想です。
今回紹介するのは、「コモンズ:スコラ vol.18 ピアノへの旅 (commmons:schola〈音楽の学校〉)」。もともと、この「commons:schola(音楽の学校)」というのは、坂本龍一監修のもと、「音楽の百科事典」を目指して2008年から刊行が開始されたシリーズ。全30巻の予定で、第1回目は「バッハ」からスタートしたものの、その後は音楽のジャンルにこだわらず、クラシックからポピュラーミュージック、さらには伝統音楽まで幅広く取り上げたシリーズとなり、さらには2010年からはNHK教育テレビでも、このシリーズに準拠した音楽番組が放送されるなど、一時期話題となりました。
私も発刊時期から非常に興味を持っており、テレビ番組は見ていたのですが、肝心の書籍の方は購入していませんでした。というのも、1巻あたり非常に高い!百科事典を模したようなハードカバーの書籍にCD1枚付で、9,000円近い値段がつけられており、当時は独身の社会人という、もっとも金銭的に余裕がある時期であったにも関わらず、さすがにこれを30巻=30万円近い出費には踏み切れませんでした。
その高すぎる値段設定が原因なのか、テレビシリーズもシーズン4まで行う力の入れぶりながらも、2018年に17巻が刊行された時点でストップ。全30巻は残念ながら途中でストップしてしまいました。しかし、やはり坂本龍一自身、この企画にかなりの力を入れていたのでしょう、このたび、企画がリニューアル。無事、18巻がリリースされました。
ちなみに今回のリニューアルにあたり、ストリーミングというリスニング環境の変化に伴うものでしょうか、CDは取りやめ、書籍のみというスタイルに。ただし、書籍中のQRコードを読み取ると、SpotifyもしくはApple Musicのプレイリストが聴ける仕様になっていました。その結果、値段も2,200円と大幅に値下がり。以前は躊躇していた私も、ようやく購入に踏み切ることが出来ました。さすがに高いお金を払ってCD付で買う時代ではなくなったということなのでしょう。また、以前のシリーズの刊行がストップしていたのは、やはり値段設定が高すぎたのでしょうか?
さて、待望の18巻ですが、今回は「ピアノへの旅」と題してピアノをテーマとした一冊。前半はこの鍵盤楽器が出来るまでの歴史を追った内容に。今回はプレイリストに沿って、ピアノという楽器の特質を語っていく構成となっています。個人的に特に興味深かったのがこの前半で、いままでさほど深く考えたことはなかったのですが、確かに、昔からピアノという楽器があったわけではなく、徐々に進化してきたという点。特に、今となってはピアノで演奏している昔のクラシックも、当時はピアノではなく、ピアノの祖先の楽器で弾かれていた、というのは、あらたか「気づき」であり、非常に興味深く、読むことが出来ました。
後半は、坂本龍一と音楽学者の伊東信宏が、ピアノという楽器を語ります。ただ、坂本龍一は、メロディーというものよりも音の響き、そのものに昔から興味があるようで、決まった音しか出せないピアノという楽器をいろいろと腐しています。もっとも、とはいっても一方では昔から最もなじみ親しんだ楽器ということもあり、同時にピアノに対する思い入れも感じられる対談となっており、プレイリストの音楽を聴きながら、ピアノという楽器のおもしろさについてもあらためて楽しむことが出来る内容になっていました。
そんな訳で、全体的に非常に興味深い内容になっていた本作。ただ、文章については、終始対談形式となっているため、読みやすい反面、ボリュームの割りには情報量はさほど多くなかったように感じます。内容的には十分楽しめたのですが、2,200円という価格を考えると、若干高めかも、という印象も受けました。一部、坂本龍一による対談を載せるほかは、専門家による論文形式のようにした方が、内容のボリュームがより出て、よかったようにも思います。
とはいえ、2,200円程度なら、それなりに躊躇なく買うことが出来ますし、以前は見送っていたこのシリーズですが、今後は是非、読み進めていきたいと感じました。リニューアル後は、30巻まで徐々に発刊されるのでしょうか。以前は坂本龍一のcommonsレーベルの中に、同シリーズの紹介サイトがあったのですが、リニューアルにあたり発刊元が、commonsレーベル(=avex)からアルテス・パブリッシングに変わったことから、18巻以降はフォローされていません。アルテスのサイトでも19巻以降についての発刊予定の記載はなく、ちゃんとコンスタントにリリースされるのか気になるところなのですが・・・ただ、おそらく坂本龍一も相当力を入れていると思われる企画なだけに、次も楽しみ。今後は30巻まで、リアルタイムに追いかけていきたいと思う、そんな1冊でした。
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