« アルバムチャートもジャニ系が1位2位 | トップページ | 本格的な活動再開か? »

2021年11月26日 (金)

「普通」でない今だからこそ

Title:WE GO
Musician:TOMOVSKY

新型コロナが流行りだし、世の中が大きく変貌してから、既に1年半以上が経過しようとしています。その中で、コロナ禍の前の「普通」は大きく変化してしまいました。友人とみんなで集まるのも難しくなり、満員のライブ会場というのもなくなりました。そんな「普通」が「普通」でなくなった中でも人々は営みをつづけ、なんとかやりくりしつつ、今を過ごしています。

ただ、もともとそんな世の中の「常識」に対して斜めから観察し、ユニークでシニカルな視点を描いていたTOMOVSKYにとっては、むしろこの「普通」ではない現在を描くことは、お手の物といった感じではないでしょうか。前作「LIFE RECORDERS」はコロナ禍から半年あまりでのリリースということもあり、あまりコロナ禍が反映された内容ではありませんでした。そして、その前作からわずか1年というスパンでリリースされた本作は、まさにコロナ禍を存分に発揮させた内容。コロナ禍を曲に読み込んだミュージシャンは少なくありませんが、これほどユニークな視点で、なおかつ冴えわたった歌詞を書きまくっているアルバムは本作くらいではないでしょうか。

まず非常にユニークなのはタイトルチューンの「WE GO」

「前みたいな日々に
前みたいなカンジに
戻りたいなんて
思ってないんだよ」
(「WE GO」より 作詞 大木知之)

個人的にはコロナウイルスごときで、前の日常が崩されてたまるか、と思っているだけに、この歌詞には最初、疑問も感じました。ただ、聴きすすめていくと

「せっかく休んだんだからさ
全然ちがう事しなきゃだよ」

と、いわゆるコロナ禍の中で言われる「ニューノーマル」とも異なる、これはこれで新たな一歩を進もうという非常に前向きな内容。最後まで聴けば、思わず「なるほど」と思わされる、TOMOVSKYらしい歌詞になっていました。

もともとTOMOVSKY自体、「現場は部屋。作業は単独。外に出るのは誰もいない真夜中早朝。アルコールは部屋飲みか散歩飲み。何十年もソーシャルディスタンスな生活を送ってきた男。」(コメントより)だったそうで、このコロナ禍も自然に受け止めたらしく、「世界が止まっているあいだ」もまさに「世界が止まっているあいだは/世界が近くなった気がした」と、この状況の中での心境を素直に吐露していますし、「いちいちコロナのせいにしない」と歌う「コロナ関係なし」「一番怖いのは生きてる人間」と身も蓋もない歌詞を披露する「いちばん怖いのは」などなど、今までのTOMOVSKYの中でも、もっとも素直な感情をそのままストレートに歌った歌詞が目立ちました。

ただ、そんな中でちょっとほろりとさせてくれるのが最後から2曲目の「無事で」という曲。「何をしてでも/何て言われても/キミは生きててね」とコロナ禍の中で苦しい状況の世相も反映したような、メッセージソング。「生活保護とか/遠慮せず/もぎ取ってるといい」と彼にしては珍しく、社会性ある歌詞まで登場するなど、今だからこそ伝えられる非常に強い、彼らしいメッセージと言えるでしょう。

さらにユニークなのはここでガラッと雰囲気が変わり、ラストの「52」では「52歳」と「ご自由に」を書けたユニークなメッセージ。52歳まで生きれれば自由に生きれるんだよ!と実体験を踏まえたのか、その前の「無事で」からつながる、ユニークながらも前向きでメッセージ性の強い曲になっていました。

楽曲の方は、いつもながらの宅録スタイル。ピアノを中心とした比較的シンプルなアレンジの曲が並びます。「オトナになりたい」ではThe Beatlesの「Hello Goodbye」を楽曲に組み込むというユニークな試みも。とにかく最初から最後までTOMOVSKYだからこその歌える、コロナ禍を彼なりの視点で描写した1枚。最初はコロナの中でのソーシャルディスタンスな現状を肯定しているかのような歌詞に若干違和感を覚えたのですが、最後はみんなが明るく笑顔になれる、そんなTOMOVSKY流コロナ禍の過ごし方を歌った傑作でした。

評価:★★★★★

TOMOVSKY 過去の作品
幻想
秒針
いい星じゃんか!
終わらない映画
BEST3
SHAAA!!!
FUJIMI
SHINJUKU TIME 2018-1
SHINJUKU TIME 2018-2
LIFE RECORDER

|

« アルバムチャートもジャニ系が1位2位 | トップページ | 本格的な活動再開か? »

アルバムレビュー(邦楽)2021年」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« アルバムチャートもジャニ系が1位2位 | トップページ | 本格的な活動再開か? »