コロナ禍だからこそ、あえて
Title:The Lockdown Sessions
Musician:Elton John
昨年来、既に1年半以上が経過しているコロナ禍の現状。日本においては、現在、少々落ち着いてはいるものの、ヨーロッパにおいては再拡大の傾向が続くなど、まだまだ先の見えない厳しい状況が続いています。音楽業界に関してもその影響は大きく、ライブは徐々に開催されるようになってきているものの、大型のライブイベントなどは入場者の制限など、厳しい状況が続いています。
ただ、そんな中でも、コロナ禍の中だからこそ実施できるような新たな音楽的な試みを行ったり、アルバムをリリースしてきたりと、コロナ禍すら音楽の中に取り込んでしまうあたり、ミュージシャンとしてのたくましさ・・・という以上に人間としてのたくましさを感じさせる作品も少なくありません。約5年ぶりとなるエルトン・ジョンのニューアルバムも、まさにそんなたくましさを感じさせる1枚と言えるでしょう。
まず強いインパクトを受けるのがそのジャケット写真。顔の下半分をすっぽりと覆われたマスクをつけたエルトン・ジョンの姿は、まさにコロナ禍を象徴するもの。特に欧米人は顔全体で感情を表現するそうで、そのためマスクをつけるのにも抵抗感が強いという話を聴いています。そんな中でこのエルトン・ジョンのマスク姿は、おそらく日本人が感じる以上に、欧米人にとっては強いインパクトを受けるジャケット写真なのかもしれません。
そして肝心のアルバムの内容ですが、「The Lockdown Sessions」というタイトルの通り、コロナ禍の中、人と人の交流が制限されるロックダウン下だからこそあえて、多くのミュージシャンとのコラボ作をリリースしてくる、という試みに、コロナ禍の逆境を逆手に取った、エルトン・ジョンのミュージシャンとしてのたくましさを感じさせます。
まずとにかくセッション相手が非常に豪華かつジャンルレス。Gorillazにスティーヴィー・ワンダー、ニッキー・ミナージュやLil Nas X、さらにはRina Sawayamaもセッション相手として参加。既に、それぞれのミュージシャンのアルバムに収録されている既発表曲も少なくないのですが、これだけジャンルを問わず、豪華なメンバーとコラボを実施できるあたり、さすがエルトン・ジョン、と思ってしまいます。
さらにそれぞれのミュージシャンがしっかりとそれぞれの個性を発揮されています。その結果、いかにもエルトン・ジョンらしい曲を求めたとすると、若干肩透かしをくらってしまう部分もあるかもしれません。Pearl Jamのエディ・ヴェダーも参加した「E-Ticket」やスティーヴィー・ワンダーとのコラボ作「Finish Line」あたりは、エルトン・ジョンらしいポップな側面がよく出ている作品と言えるかもしれません。ただ一方、「Always Love You」などは、エルトンのパートは彼らしいポップソングを聴けるのですが、HIP HOPも加わっており、ここらへん、昔からのエルトンのファンにとってはちょっと違和感を覚える部分もあるかもしれません。
ただ、そういう昔ながらのエルトンという路線に留まらない「違和感」が、いまなお衰えることのない彼の挑戦心につながっており、かつ、彼のミュージシャンとしての現役感にもつながってもいえるように感じました。その後もGorillazが参加した「The Pink Phantom」はいかにもGoriilazらしい作品になっていますし(こちらはエルトンがむしろゲストの立ち位置なのですが)、Rina Sawayamaが参加した「Chosen Family」も伸びやかな彼女の歌声が魅力的な、幻想的な楽曲に。Lil Nas Xとのコラボ「One Of Me」ではトラップ風のリズムも登場するなど、ジャンルを問わず、最近の音楽的な傾向も取り入れる彼の挑戦心を感じさせる作品になっていました。
結果として、少々全体としてバラバラな作風なのは否めないのですが、ただ一方ではエルトンらしいメロディアスな歌は全体にしっかり貫かれており、それがアルバムの核にもなっていました。そのため、いかにもエルトン・ジョンらしい曲は少ないのかもしれませんが、アルバムに流れるメロディーラインには、間違いなくエルトン・ジョンとしての魅力も感じさせるアルバムになっていたと思います。
まさにコロナ禍の中だからこそ生まれた本作。でも、次のアルバムがリリースされる頃には、新型コロナなんて過去にこと・・・になってればいいんですけどね。そうなることを強く願います。
評価:★★★★★
Elton John 過去の作品
The Union(Elton John&Leon Russell)
Wonderful Crazy Night
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