ニューヨークへの手紙
Title:Letter to N.Y.
Musician:大江千里
80年代後半から90年代初頭に一世を風靡したシンガーソングライター、大江千里。一時期は、ミュージシャンのみならず、トレンディードラマに出演し、アイドル的な人気も確保していました。イメージとしては、今で言うと、星野源に近い感じかな?ただ、なんと2000年代にはジャズピアニストに本格的に転向を図り、ニューヨークに移住。現在はニューヨークに居住した上でジャズピアニストとして活動を続けています。
昨今ではコロナ禍の中でのニューヨークの模様をレポートした記事がネット上にアップされるなど、少々意外な活動も見せており、アラフォー、アラフィフあたりの世代の方にとっては懐かしさを感じられた方も多いのではないでしょうか。正直、ニューヨーク在住ということもあり、音楽的な活動のニュースは日本ではあまり入ってこないものの、ジャズピアニストとしての活動はコンスタントに続け、今回、約2年ぶりとなるニューアルバムがリリースされました。
今回のアルバムはコロナ禍の中で作成されたアルバムということもあり、全曲、ニューヨークの自宅にてセルフレコーディングに挑戦した作品。エレクトロピアノを中心として、打ち込みによる構成になっている楽曲になっており、いろいろなサウンドも取り入れているあたりが、いかにも宅録といった感じの作品になっています。
そんな宅録で編成された作品なのですが、彼なりに挑戦心も感じさせる作風になっています。「Good Morning」ではトライバルなパーカッションを取り入れていたり、さらに「Out of Chaos」ではタイトル通り、アバンギャルド風な作品でフリーキーな要素も感じたりと、ジャズピアニストとしての挑戦心も垣間見れる作品になっています。
ただ一方、今回のアルバム、ジャズというよりもポップスミュージシャンとしての大江千里の魅力がにじみ出てきちゃったアルバムかな、という印象も受けました。要所要所にメロディーメイカーとしてのポピュラリティーがキラリと光るアルバムになっており、「The Kindness of Strangers」は、まさにミディアムテンポのメロが心地よい作品。さらにメロディーラインが光るのが「Staying at Ed's Place」で、爽やかなメロディーラインに、そのまま心地よい歌声が聴こえてきそうな作品に仕上がっています。
彼のジャズピアニストへの挑戦は、決してポップスシンガーとして、一時期ほどの人気が確保できなくなったことによる逃げなどではなく、かつてからの憧れであり、10年以上、ニューヨークに在住し、その活動を続けているあたりにその本気度は伺わせます。ただ、やはりこのようなアルバムを聴くと、ポップスシンガーとしての才能を感じてしまいますし、正直、ジャズアルバムの間に、たまにはでいいので、ポップスのアルバムも聴いてみたいなぁ・・・なんてことも感じてしまいました。
もちろん、ジャズピアニストとしての軽快なエレピの演奏も魅力的。ただ一方で、メロディーメイカーとしての大江千里の才能を感じる作品でした。
評価:★★★★
大江千里 過去の作品
GOLDEN☆BEST
Boys&Girls
ほかに聴いたアルバム
潮騒/遊佐未森
遊佐未森の、実に5年ぶりとなるニューアルバムは、ピアノと弦楽カルテットの演奏を軸としたアルバム。前作「せせらぎ」もアコースティックなサウンドを基調としていましたが、今回のアルバムも同じくアコースティックなサウンドでありつつ、弦楽カルテットとピアノのコラボという新たな試みとなる作品となっています・・・が、基本的にはファンタジックな様相のサウンドはいつもの遊佐未森サウンド。さらに今回、なんと17年ぶりに外間隆史が共同プロデューサーとして参加し、ある意味、実に「彼女らしい」作品に仕上がっています。ここらへん、完全に彼女の色に染まってしまうあたり、遊佐未森の圧倒的な個性を感じさせる反面、良くも悪くもマンネリ的な部分も感じてしまいます。まあ、彼女への期待にはしっかり応えているアルバムであることは間違いないのですが。
評価:★★★★
遊佐未森 過去の作品
銀河手帖
Do-Re-Mimo~the singles collection~
淡雪
VIOLETTA THE BEST OF 25 YEARS
せせらぎ
PEACHTREE
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