« 今週は男性アイドル勢が1位2位 | トップページ | ポップでインパクトもある5枚目 »

2021年10月 8日 (金)

奥深いブルースの歌詞の世界へ

今日も最近読んだ、音楽系の書籍の紹介です。

今回紹介するのは、ブルースの歌詞を通じて、その奥深い世界を案内する1冊「黒い蛇はどこへ~名曲の歌詞から入るブルースの世界」。大阪府立大学及び関西大学名誉教授でもある中河伸俊による著作であり、現在でもBlues&Soul Records誌で連載中のコラムを1冊にまとめた内容になっています。

本書ではブルースのスタンダードナンバーを中心に35曲を取り上げ、その歌詞を紹介。歌詞から浮かび上がるブルースの世界の背景を紹介するとともに、その曲を歌ったミュージシャンについての紹介も加えています。ブルースの歌詞といえば、比較的シンプルな歌詞ながらも、当時の文化的背景が色濃く紐づいた歌詞がゆえに、直訳するだけではなかなかその意味がわからず、また、当時の黒人のスラングや、はたまた固有名詞なども飛び出すだけに、単純に英語を直訳したり、和訳を読んだりしても、その意味するところはなかなかわからなかったりします。

本作では、そんなブルースの歌詞を1曲ずつ丁寧に解説。注釈なども用いつつ、歌詞に登場する黒人特有の言い回しや、当時の黒人らしいダブルミーニングの歌詞の意味、さらにはスラングや固有名詞の意味などもしっかりと解説がなされており、単純のようで実は奥深い、ブルースの歌詞の世界をしっかりと理解することが出来る1冊となっています。しっかり原著にあたっていたり、歌詞の内容についても時代背景に基づいた分析までしっかり行われているのは、さすが大学教授の著者らしい仕事ぶりといった感じではないでしょうか。特にエルヴィス・プレスリーがカバーし、ロックのスタンダードナンバーともなった「HOUND DOG」が、ビッグ・ママ・ソーントンが歌うブルースの原曲と比べて、どのような変化を遂げているか、という第10章の解説などは非常に興味深かったですし、p55で書かれている、専業のソングライターによるブルース曲(1曲3分で単線的な筋を持っている歌詞)と、伝統的なカントリーブルースの曲(歌詞とメロディーの組み合わせが固定化されておらず、他作・自作の歌詞のストックから、いくらでも長く演奏できる)の区分は非常に興味深く感じました。特に後者に関しては、その視点から今後、ブルースを聴くことにより、ブルースに対する見方も変わりそうな、新たな知見を得ることが出来ました。

さらに本編ラストには付録として「黒人英語とライム」として、非常に短い構成ながらも、黒人英語の特徴について簡単な記載があります。さすがに非常に簡単なさわりの部分だけの紹介だけでしたので、既知の事項がほとんどだったのですが、ブルースの歌詞解説に合わせて読むと、よりブルースの歌詞の世界が広がるような内容になっています。

さて、ブルースを歌詞の世界から紹介した1冊という意味では、音楽評論家の小出斉の書いた「意味を知らずにブルースを歌うな!」という本を以前、紹介したことがあります。ただ、「意味を知らずに~」は比較的ブルースの入門書という位置づけ。登場するミュージシャンもシーンの流れに沿って初心者でもわかるように紹介されているので、ブルースを聴いたことがないという方でも違和感なく読める1冊になっています。

一方、本書に関しては、入門としていきなりこの本を読むと、ちょっとヘヴィーかもしれません。ミュージシャンの紹介もしっかりと書いてあるので、最初の1冊としても丁寧に読み込めば、おそらく本書をきっかけにブルースの世界に入っていけるとは思うのですが、登場するミュージシャンがブルースの中でどのような位置づけなのか、わからずに読んでいくと、さすがに最後まで読み切るのは難しいかも。ただ一方で、「意味を知らずに~」では入門書であるがゆえに、歌詞の背後にある黒人社会への言及がほとんどなく、それが物足りなさを覚えたのですが、本書では、前述のとおり、そういった文化・社会的背景の記述もしっかりと記載されています。

また入門書ではない、といっても決してマニアックな1冊でもないため、「手に取りずらい1冊」でもありません。ブルースを聴き始めて、有名どころをそれなりに一通り聴いて、この本の目次を読めば、大抵のミュージシャンまたは曲を知っている(登場するミュージシャンや曲は有名どころばかりなので、ある程度ブルースを聴きかじった方ならば、おそらくご存じの方ばかりです)という方でしたら、すんなり読んで楽しめる内容だと思います。奥深いブルースの歌詞の世界が楽しめる1冊。それなりのボリュームのある内容ですが、それに見合うだけのズッシリとしたブルースの歌詞の奥深さを知ることが出来る作品でした。

|

« 今週は男性アイドル勢が1位2位 | トップページ | ポップでインパクトもある5枚目 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 今週は男性アイドル勢が1位2位 | トップページ | ポップでインパクトもある5枚目 »