フォーキーな作風で奥深さも
Title:オオカミが現れた
Musician:イ・ラン
今回紹介するのは、韓国のミュージシャン。韓国と言えば、BTSをはじめK-POP勢が高い人気を獲得していますが、個人的には正直、K-POPと言われるジャンルには、ほとんど食指が動かされることはありません。ただ、もちろんJ-POPがジャニーズ系や秋元系だけではないように、韓国の音楽といってもK-POP勢だけありません。というわけで、彼女は韓国のシンガーソングライター。2017年に韓国大衆音楽賞で最優秀フォーク・ソング賞を受賞して話題になったほか、日本のシンガーソングライター柴田聡子とジョイントツアーで日本をまわったり、また折坂悠太の最新アルバムでも参加しているなど、日本ともつながりの強いミュージシャン。日本でも徐々に話題となっているようです。
柴田聡子や折坂悠太とつながりのあるミュージシャンということで、おそらく一般的に彼らと同じ方向性の、アコースティックなサウンドで聴かせるフォーキーな作風を予想されるかと思います。実際、このアルバムでも基本的にはシンプルなアコースティックなサウンドを主軸とするフォーキーな楽曲がメインとなっています。例えば「よく聞いていますよ」の冒頭など、完全に柴田聡子の作風と通じるものがありますし、「ある名前を持った人の一日を想像してみる」も同様に、アコースティックなサウンドをバックにフォーキーに聴かせる作品に仕上がっています。
そんな感じで、アコースティックなサウンドでシンプルなメロディーラインを聴かせる歌モノがメインとなっている本作。ただ、そんなシンプルなサウンドの中、単なるフォーキーなポップシンガーという単純な見方の出来ない、楽曲のバリエーションの多さが非常に特徴的に感じました。例えば「何気ない道」などはストリングスを入れてどこか懐かしさを感じさせるポップチューンとなっており、その暖かい雰囲気のメロディーラインが印象に残ります。さらに「意識的に眠らないと」はつぶやくようなボーカルを入れてドリーミーな作風に。どちらも基本的にはアコースティックでフォーキーな作風なのですが、そんな中でもバリエーションを感じる曲調になっています。
さらに「対話」ではアカペラを中心として楽曲を構成していますし、さらにタイトル曲「オオカミが現れた」では、コーラスラインにトライバルな要素を感じ、強く印象に残ります。ここらへんは単純なフォークソングとは異なる、彼女の音楽性の幅広さ、奥深さを感じられます。個人的には、これに韓国語という要素が加わり、よりトライバルな雰囲気が増しているようにすら感じられました。
そしてラストは「患難の世代(Choir Ver.)」と、タイトル通り、合唱が加わるメロディアスなポップスで締めくくり。最後はみんなの合唱で円満に・・・と思いきや、ラストは悲鳴のような叫び声と共に、不気味な雰囲気で唐突にエンディングを迎えます。なんとも言えない後味の悪さが加わる作風になっており、聴き終わった後、微妙な後味を感じつつ、ただ最後に強烈なインパクトを覚える締めくくりとなりました。
全体的にはフォーキーでメロディアスなポップが非常に印象的ながらも、楽曲のバリエーション、さらに奇妙なラストの締めくくりも加わり、強烈な個性とインパクトを持つアルバムに仕上がっていました。今回、はじめて彼女の作品を聴いたのですが、非常に個性的なシンガーソングライターの傑作だったと思います。今後も、さらに日本のミュージシャンともコラボを行い、その名前を聞く機会も増えてきそう。前述の柴田聡子や折坂悠太が好きなら文句なしでお勧めの1枚。韓国の音楽=K-POP・・・だけではないということをあらためて実感できる1枚です。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
Space 1.8/Nala Sinephro
新進気鋭のジャズミュージシャン、ナラ・シフロネのデビュー作。本作は、なんとあのWARPレコードからのデビューということでも大きな話題となっております。WARPからデビューということは、さぞかし実験的な・・・と思いきや、エレクトロサウンドを取り入れつつ、基本的にはスタンダードなジャズの音色も聴かせてくれ、いい意味で意外と聴きやすいという印象が。もちろん、サウンド的には一筋縄ではいかず、一方ではエレクトロサウンドにアバンギャルドなドラムの音色、エキゾチックなサウンドなども入って、独特な世界観を作り上げています。ムーディーなジャズのサウンドの中、緻密に作り上げた独自の音世界に耳を惹かれる作品でした。
評価:★★★★★
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