折坂悠太独自の音楽性を確立した傑作
Title:心理
Musician:折坂悠太
前作「平成」が各所で大絶賛を受け、一躍注目のミュージシャンの仲間入りを果たしたシンガーソングライター、折坂悠太。「ミュージックマガジン誌」の日本ロック部門で年間1位を獲得したり、「CDショップ大賞」で大賞を受賞したりと大きな話題となり、さらにその後に発表された「朝顔」がドラマ主題歌に採用されたりと、活躍を続けています。個人的にも「平成」は2018年の私的年間ベストアルバムで3位にランクインさせるなど、かなりはまった1枚でもありました。
ただ一方、おなじく「ミュージックマガジン誌」の2010年代邦楽ベストアルバム100で1位を獲得したりしているのに関しては、さすがにそれは過大評価が過ぎるのでは?という印象も受けていました。前作「平成」は、一方では全体的に地味な作品という印象もぬぐえず、2010年代に傑作をリリースし続けてきた水曜日のカンパネラやCHAIの作品群に比べると、物足りなさも感じられていたからです。
そんな中、リリースされた前作「平成」以来、フルアルバムとしてはちょうど3年ぶりとなる。もちろん、期待を持って聴いてみた1枚ではあるのですが、その期待を大きく上回る文句なしの傑作アルバムに仕上がっていました。前作「平成」で彼の特徴として感じたのは、民謡やジャズといった音楽をジャンルレスに取り入れて、それらを等距離に扱っているスタイルでしたが、今回のアルバムでも同じくジャズをベースとした洋楽的な要素に、民謡、歌謡曲といった邦楽の音楽性を加えた方向性は変わりません。今回のアルバムはさらに楽曲に折坂悠太独自のグルーヴ感が加わり、彼の独特のサウンドが確立された、そんなアルバムになっていました。
ジャズの要素を取り入れつつ独特のグルーヴ感という点でまずは印象的だったのが「荼毘」でしょう。そのタイトルとは異なり、前向きに生きるというメッセージ性を感じる歌詞も特徴的ですが、ジャジーなピアノの音色を爽やかに聴かせつつ、こぶしを効かせたボーカルも印象的で、洋楽的な要素と邦楽的な要素を混在させた楽曲が非常に印象に残ります。
独自のグルーヴ感という意味では「悪魔」も強い印象に残ります。トライバルな要素も感じさせるミディアムテンポで力強いリズムが印象に残る作品。ノイジーなギターサウンドも印象的なこの曲もまた、洋楽的な要素と邦楽的な要素のほどよいバランスを感じます。民謡的な要素という意味では「春」ののびやかでこぶしを利かせたボーカルも印象的。ピアノも取り入れて郷愁感あるメロディーラインやサウンドも耳を惹きますし、ゆっくりとしたドラムやベースラインが奏でるグルーヴ感も大きな魅力になっています。
さらに今回のアルバムでは「炎」ではサックス奏者のSam Gendalが、「ユンスル」では先日もこのサイトで紹介した韓国のシンガーソングライター、イ・ランがゲストで参加。「ユンスル」では暖かいフォーキーなサウンドが特徴的なのですが、途中からイ・ランによる韓国語の語りが入ってきています。ほかにも「鯱」ではラテン的なホーンセッションも入ってきたりと、さらに邦楽、洋楽にとらわれない無国籍的な要素も感じることが出来たりと、彼の幅広い包容力ある音楽性を感じることが出来ました。
フルアルバム3枚目にして、折坂悠太としての音楽性を確立させた傑作アルバム。前作「平成」ではそこまで感じられなかった彼のすごみを否応なしに感じさせてくれました。確かに前作同様、派手でポップなメロディーラインはないものの、ただ「トーチ」のような印象に残るメロディーラインも聴かせてくれますし(作曲は彼ではないのですが)、なによりも独特なサウンドとグルーヴ感により、楽曲にインパクトがしっかりと加わり、前作のような「地味」という印象はこのアルバムにはもはやありません。文句なしに今年を代表する傑作アルバムだと思います。前作からさらなる進化を遂げた本作。まだまだ彼の実力は計り知れません。これから日本を代表するSSWになりそうな、そんな予感すらした1枚でした。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
Imaginary/MIYAVI
ギタリストMIYAVIのニューアルバム。ここ最近、エレクトロ主体のアルバムのリリースが続いているのですが本作も同様。ポップ寄りだった前作とは異なり、ダイナミックな作風で強いビートも取り入れており、それなりにロックな作品にまとめてはいるのですが、ギターサウンドは本作も薄め。最近の彼の音楽的な興味がこの方向性なんだろうなぁ、とは思いつつ、やはりもうちょっとギターを聴きたい感が否めないのですが・・・。
評価:★★★
MIYAVI 過去の作品
WHAT'S MY NAME?(雅-MIYAVI-)
SAMURAI SESSIONS vol.1(雅-MIYAVI-)
MIYAVI
THE OTHERS
FIRE BIRD
ALL TIME BEST "DAY2"
SAMURAI SESSION vol.2
SAMURAI SESSIONS vol.3- Worlds Collide -
NO SLEEP TILL TOKYO
Holy Nights
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