プロの仕事
Title:リリシスト 〜山川啓介ソングブック
今回紹介するのは、2017年に72歳で亡くなった作詞家山川啓介が手掛けた作品をまとめたオムニバスアルバム。歌謡曲を中心に、数多くのヒット曲を手掛けてきた彼ですが、そのほかにも特撮モノの主題歌や、さらには井出隆夫名義でNHK教育テレビの「おかあさんといっしょ」や「みんなのうた」の曲も数多く手がけてきており、そのため、世代を超えて彼の曲に親しんだ方も少なくないのではないでしょうか。
今回のこのオムニバスアルバムでは、彼の作品がCD5枚にテーマ別にまとめられ、歌謡曲のヒット曲から、Eテレで慣れ親しんだ子供用の曲までが区別なく収録されています。そのため、私にとっても非常に聴きなじみのある曲も少なくありません。リアルタイムの世代とはちょっと異なるものの、歌謡曲のヒット曲でもおなじみの曲が多く「聖母たちのララバイ」や「銀河鉄道999」、中村雅俊の「ふれあい」などは私の世代でもよく知っている曲ですし、特になじみのあるのは青い三角定規が歌った「太陽がくれた季節」。確か中学生の教科書に載っていて、音楽の授業で歌ったナンバーで、ある意味、その当時でもベタベタに感じられた青春ソングが、逆に強く印象に残っていました。
ただ、やはり彼の曲で一番なじみがあるといえば、子供向けの曲の数々で、個人的には特に、懐かしいNHK教育テレビの教育番組「たんけんぼくのまち」の主題歌が収録されているのは、あまりに懐かしくて感涙もの・・・この番組、小学校三年生の時に、大好きな番組だったんだよなぁ。その他にも「北風小僧の寒太郎」や「ありがとう さようなら」「そうだったらいいのにな」「ちょんまげマーチ」や、さらには懐かしい「にこにこぷん」の主題歌も彼が手掛けていたのか、というのにも驚かされました。特に、「おかあさんといっしょ」で使用された曲や、同じくEテレの「にほんごであそぼ」で歌われている「恋そめし」などは自分の娘にもなじみのある曲で、彼の手掛けた音楽が、世代を超えて広く親しまれていることを感じさせる幅広さでした。
しかし、これだけ幅広く、様々なヒット曲を手掛けた彼ですが、実はその作詞家「山川啓介」という名前は、どこかで見た覚えがある・・・という程度で、はっきりとその存在を認識したのはこのオムニバスアルバムがはじめて。ほとんど彼について認識がありませんでした。これだけ多くのヒット曲を手掛けていながら・・・と不思議にも感じるのですが、今回のオムニバスアルバムを聴いて、なんとなくその理由がわかるような気がしました。
もちろん、Eテレ系の曲を中心に、井出隆夫名義で作詞を行っているから、という理由もあるのですが、いまひとつ彼の名前を認識しなかった理由のひとつが、彼が、作詞家として非常にスタンダードで癖のない作風が特徴的だから、と感じてしまいます。例えば有名な作詞家として、松本隆の場合は、ご存じの通り、「風街」という歌詞の大きな特徴がありますし、例えば「木綿のハンカチーフ」のように、特徴的な歌詞に「誰がこれを書いたんだろう」と感じるような曲も少なくありません。また、秋元康の場合には、いかにも今風な単語を選択するセンスが良くも悪くも独特。こちらも歌詞を読めば、なんとなく彼らしさを感じる曲が少なくありません。
一方で、山川啓介の場合は、そのような癖のあるような歌詞はほとんどありません。少なくとも、歌詞を見て「誰が書いたんだろう?」と気になるような曲はほとんどありません。しかし、それは必ずしも彼の書く歌詞が劣っているという訳ではないでしょう。実際に、「太陽がくれた季節」にしろ「北風小僧の寒太郎」にしろ、彼が作詞を手掛けた代表曲を口ずさむと、歌詞も自然に口から出てきます。それだけ歌詞は十分なインパクトを持っている訳です。
ある意味、曲を変に邪魔をしない、癖のない王道路線の歌詞を書いてくるという点、彼のプロとしての仕事ぶりを感じさせます。また、そういう変な癖のない歌詞を書いてくるからこそ、子供用の曲やEテレの曲に彼の歌詞が重宝されたようにも感じます。また、今回のオムニバスアルバムでは、外国曲の訳詞も多く手がけているため、それだけで1枚のCDとして収録されているのですが、外国曲の訳詞が多いのも、曲を下手に邪魔するような歌詞を書かない、彼のプロとしての仕事ぶりがあったからこそ、のような印象を受けました。
そんな彼のプロとしての仕事ぶりを十分に感じられるオムニバスアルバム。おそらく非常に広い世代に耳なじみのある名曲が揃っていますので、広い世代にお勧めできる作品。特にEテレ系の曲には懐かしさを覚える人も少なくないかも?個人的にもはじめて彼の仕事ぶりを触れたのですが、あらためて惜しい作詞家を亡くしたことに気が付かされました。あらためて、ご冥福をお祈りします。
評価:★★★★
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