かなり力の入った大作だが
Title:Donda
Musician:Kanye West
いつもアルバムをリリースするたびに大きな話題となり、今や、すっかり時代を代表するミュージシャンとなったKanye West。今回のアルバムに関しても、何度かリリースがアナウンスされつつ延期となり、ファンをやきもきさせていました。しかし、8月29日に突然のリリース。そしてその期待の高さを反映するかのように、Apple Musicでは世界152か国で1位という歴代最高記録を樹立。全世界の初日のストリーミング回数が1億8千万回という桁違いな記録を生み出し、その期待の高さをうかがわせます。
そしてKanye West自身、このアルバムに非常に強い力を入れていることを感じさせます。まずアルバム自体、全27曲1時間48分というフルボリューム。そもそも「Donda」というアルバムタイトル自体、母子家庭の中でカニエを育て上げた母親の名前で、2007年に急逝した彼女に捧げるアルバムともなっています。アメリカの大学教授まで務め、晩年はカニエのマネージャーともなった彼女ですが、今回のアルバムでも「Praise God」とタイトルチューンの「Donda」では彼女の演説が曲の中で使用されています。さらに参加したゲストミュージシャンは30組を数え、まさに力を入れまくって、満を持して発表したアルバムと言えるでしょう。
さて、Kanye Westといえば、ここ最近、キリスト教への帰依が目立っています。特に前作「JESUS IS KING」はゴスペル色の強い作品になっており、ビルボードのゴスペルチャートでも1位を獲得していますし、本作でも、聖書からの引用も目立ち、さらに子供に聴かせられないようなワードは使われていないため、HIP HOPでよくリリースされる、いわゆるFワードを排除した「クリーンバージョン」は作成されていません。ある意味、お子様でも安心して聴けるアルバムと言えるでしょう。
今回のアルバムはさすがにゴスペルな作品はほとんどないのですが、ただその宗教音楽を彷彿とさせるかのような、荘厳な作品も目立ちます。「Hurricane」でも荘厳なエレクトロサウンドの中で、ソウルフルに歌い上げるボーカルが印象的ですし、タイトルそのまま「Lord I Need You」でも荘厳な雰囲気のサウンドの中で、丁寧につづられるラップと歌が印象的な作品に仕上がっています。
全体的にはスケール感を覚えるサウンドとメランコリックなメロディーラインの「歌」が印象に残る作品で、エレクトロビートにダイナミックさを感じる「Jail」に、トラップ風のリズムが印象的な「Off The Grid」やメランコリックな歌モノ「Ok Ok」など、1曲1曲にかなり力を入れており、しっかりと聴かせる佳作が続いていきます。
ただ、そのよく出来た作品にはまってしまうのは前半だけ。正直言うと、聴き進めるうちにちょっとずつ疲れてしまい、最後はさすがに飽きが来てしまいました。全体的によくできた力作が並んでいるとはいえ、楽曲は似たようなパターンが多く、このボリューム感の割には、バリエーションが多いわけではありません。中盤くらいまでは、そのよく出来た作品にグイグイと惹きこまれていったのですが、さすがに中盤を超えたあたりで、聴いていて、その熱がスッと醒めてしまったのを感じました。
力を入れすぎて空回り・・・とまでは思いませんが、正直、ちょっと本人だけが暴走気味なのでは?とすら思ってしまったアルバム。このアルバムから曲をセレクトして、1時間程度にまとめあげれば、かなりの、年間ベストクラスの傑作にもなりえたのでは?とも思えてしまうだけに非常に残念にも感じます。ま、ここらへんの変な暴走しちゃうあたりも、カニエらしいといえばカニエらしいのですが。ただ、いろいろな意味で今年を代表するアルバムになりそうなのは間違いありません。一度はチェックしても損はないかも。その上で、お気に入りの曲だけピックアップするのが良いのかも。
評価:★★★★
KANYE WEST 過去の作品
GRADUATION
808s&Heartbreak
MY BEAUTIFUL DARK TWISTED FANTASY
YEEZUS
The Life Of Pablo
Ye
Jesus Is King
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