「革命」が起きた時
今回もまた、先日見てきた映画の感想です。
今回見てきたのは、特にブラックミュージックのリスナーで話題となっているドキュメンタリー映画「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」でした。この映画は、1969年の6月から8月にかけて、ニューヨークはハーレムにあるマウント・モリス公園で行われた「ハーレム・カルチュラル・フェスティヴァル」という野外イベントの模様を映画化したもの。監督は、かのHIP HOPグループTHE ROOTSのドラマーであり、プロデューサーでもあるクエストラヴことアミール・トンプソンが手掛けたもの。彼にとっては映画初監督作品だそうです。もともと映像化を予定し、ライブの模様は収録されていたのですが、結局商品化されることなくお蔵入りされていました。そのライブ映像はかなり膨大に及ぶものだったそうですが、そんな貴重な映像をあらためて掘り起こし、再編集。今回、映画として約2時間の作品にまとまりました。
このライブ映像、とにかく豪華な出演者陣が魅力的で、若き日の、どころかある種の「幼さ」すら残しているスティーヴィー・ワンダーをはじめ、脂ののりきったB.B.キング、マヘリア・ジャクソンにステイプル・シンガーズ、ニーナ・シモンやグラヴィス・ナイト&ザ・ヒップス、さらにはスライ&ザ・ファミリーストーンなどなど。まさにその当時を代表するヒットメイカーたちが揃った超豪華なラインナップ。さらにはアフリカ系やラテン系のグループまで加わり、R&B、ソウルに留まらない、幅広いミュージシャンたちが参加していました。
時代的にも多くのミュージシャンたちにとって脂ののった時期のパフォーマンスですから、ただただその迫力ある演奏に見入ってしまいます。特に印象的だったのはスライ&ザ・ファミリーストーンで、まさにのりののっている彼らのファンキーなパフォーマンスは、以前聴いたことある彼らのCD音源とは全く比較にならないくらい迫力にあふれているもの。ゴスペルの女王と言われるマヘリア・ジャクソンのパフォーマンスも、既にこの時期は晩年にさしかかっている彼女ですが、ステイプル・シンガーズのメイヴィス・ステイプルズの力を借りつつ、そのパワフルなボーカルに全く衰えはなく、その歌唱力には圧倒されます。
非常に興味深いのは、この日のステージ、比較的ポップ寄りと目されているミュージシャンたちも登場するのですが、オリジナル音源よりもソウルフルなパフォーマンスを聴かせてくれます。フィフス・ディメンションは白人グループに間違われるほどのポップ寄りの路線を普段は取っていながらも、この日のパフォーマンスではよりソウルフルな彼女たちの演奏が楽しめますし、テンプテーションから独立したばかりのデイヴィッド・ラフィンはスタンダードナンバー「My Girl」を聴かせてくれるのですが、こちらもオリジナルよりもソウルなアレンジに。どちらもブラックミュージシャンとしての矜持を感じさせるパフォーマンスを聴かせてくれます。
また、映画として見ていて楽しかったのはブラック系のミュージシャンたちはみんな、非常におしゃれに着飾って、パフォーマンスを含めてしっかりと「魅せる」ステージを演じており、そういう意味で音楽それ自体以上に、見ていてとても楽しめるパフォーマンスだったということでした。
途中にはラテン系やアフリカ系のミュージシャンも加わり、そんな魅力的なパフォーマンスが次から次へと登場してくるわけで、パフォーマンスに魅了されつつ、「次はどんなミュージシャンが出てくるんだろう?」とドキドキワクワクしながら見ることが出来た、あっという間の2時間でした。
ただ一方、純粋にライブ映像のみを期待して見に来たとしたら、少々違和感を覚える構成だったかもしれません。というのも本作は、ライブ映像がメインというよりも、むしろこのライブの成り立ちやライブの背景にある当時のアメリカの黒人社会をめぐる状況などが、関係者のインタビューなどを中心に構成され、その合間にライブ映像が挟まるような構成になっており、映画としては「ライブ映画」というよりは、むしろ「ドキュメンタリー映画」と言える内容になっているからです。
そのためライブ映像が他の映像や関係者の証言と重なるように入っていたり、1曲のパフォーマンスが途中で切れたりと、「ライブ自体をしっかりと見せてくれよ!」と思うこともあるかもしれません。しかし、これはおそらく、そういう音楽ファンの欲求を理解した上で、この野外ライブの意味を考えた時に、しっかりとその背景にある、1969年当時のアメリカの黒人をめぐる状況について解説しないといけない、という考えがあった上での構成だったのではないでしょうか。このライブは、その当時、公民権運動で黒人の社会的意識が変化していく中、彼らが「ブラック」として誇りを持つ中で、自分たちの音楽を演奏する場所を自分たちの手で開催した、まさにサブタイトルの通り、「革命」であった、ということを強く訴えかけてきます。
しかし残念ながら今日、このライブイベントはほとんど「忘れられたイベント」になりつつあります。実際、「ポップス史」を書いた本でこのライブのことが取り上げられたのを読んだ記憶はありませんし、私も今回、この映画になってはじめてこのライブイベントのことを知りました。クロージングの中で「このライブは歴史的に重要なものではないとされた。本当に歴史的に重要なものだからだ」という逆説的かつ皮肉的な言及がされましたが、確かに、こういうイベントが完全に無視されている時点で、ポピュラーミュージックの歴史においても、まだまだ白人視点からの歴史観が強いことを実感させられました。ライブパフォーマンスを心から楽しめた一方、様々なことを考えさせられる映画でもありました。
そんな訳で、ブラックミュージックが好きならば、間違いなくチェックしてほしい映画。ただ、この映画を通じてクエストラヴが訴えたいことは重々理解できたのですが、一方やはりライブパフォーマンスだけをもっと見てみたい!!ここらへん、DVDになった時に、ライブパフォーマンスだけをボリュームたっぷりに収録したボーナスディスクとか発売されないかなぁ。そんな期待もしたくなる、素晴らしいライブ映像の連続でした。
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