困難を乗り越えて
Title:マリアンヌの密会
Musician:キノコホテル
前作から約2年、コロナ禍以降においてはじめて作成されたキノコホテルのニューアルバムは、完成まで困難の道のりだったそうです。実演会(=ライブ)の機会が奪われただけではなく、ベーシストのジュリエッタ霧島が長年の蓄積疲労による頚椎症性神経根症の発症により無期限休職という事態に。さらにギターのイザベル=ケメ鴨川が左手首のTFCC損傷という事態となり、まさに大きな困難がのりかかってくる事態となりました。
そんな困難を乗り越えてリリースされた本作は、支配人マリアンヌ東雲のセルフプロデュースという、キノコホテル本来の姿に立ち返ったアルバム。さらにタイトルも「マリアンヌの密会」というタイトルも、このコロナ禍の中で人と会うこともままならない状態を逆手にとったようなタイトルがユニーク。まずこの段階で、キノコホテルらしい魅力をしっかりと感じることが出来る内容となっています。
また、楽曲自体も、ここ最近のキノコホテルのアルバムの中では、よりアグレッシブな内容が目立ったように感じました。ダイナミックなイントロナンバー「海へ…」に続く事実上の1曲目「愛してあげない」は、公式サイトでも「初期キノコホテルを彷彿」と書かれているようなオルガンを中心にアグレッシブなバンドサウンドで押してくる、哀愁感たっぷりの、まさにキノコホテルの王道とも言えるようなガレージナンバーに。「キマイラ」も、歌謡曲テイストの強いメランコリックな楽曲ですが、ワウワウギターを前面に押し出したガレージサウンドが大きな魅力に仕上がっています。
中盤に入るナレーションで、より楽曲の怪しげな雰囲気に磨きがかかっている「断罪ヴィーナス」も魅力的ですし、さらに「カモミール」はアルバム随一のポップチューン。アップテンポで軽快なバンドサウンドをバックに、シングルカットされても違和感ないようなポピュラリティーある作風に、楽曲に対するアグレッシブな姿勢を見て取れます。さらに、ヘヴィーなバンドサウンドという意味で耳を惹くのが「莫連注意報」でしょう。かなりヘヴィーなギターサウンドを前に押し出した楽曲となっており、ロックバンドとして迫力ある演奏が大きな魅力となっています。
終盤の「エレクトロ・デリケイト」もタイトル通り、レトロなガレージサウンドの中にエレクトロサウンドを取り込んだという、非常にアグレッシブな作風の曲になっていますし、さらにラストの「麗しの醜聞」も、ダイナミックなバンドサウンドを聴かせるインストナンバー。このような曲をラストに配することにより、キノコホテルが紛うことなきロックバンドである、ということを非常に強く主張しているように感じました。
コロナ禍やメンバーの無期限活動休止という危機的自体を乗り越えてきたからこそ、バンドとしての原点に帰ったような作品や、ロックバンドとしてのキノコホテルをあらためて強調したような作品も目立ち、非常にバンドとして前向きな姿勢を感じさせる傑作アルバムに仕上がっていました。この危機を乗り越えてきた彼女たち。これからの活躍も楽しみです。
評価:★★★★★
キノコホテル 過去の作品
マリアンヌの憂鬱
マリアンヌの休日
クラダ・シ・キノコ
マリアンヌの恍惚
マリアンヌの誘惑
キノコホテルの逆襲
マリアンヌの呪縛
マリアンヌの革命
プレイガール大魔境
マリアンヌの奥義
ほかに聴いたアルバム
SHISHAMO 7/SHISHAMO
タイトル通り、7枚目となるガールズロックバンドSHISHAMOの新作。前作「SHISHAMO 6」はギターロックバンドとしてのいい意味で安定感を覚えつつ、ロックリスナーの壺をしっかりとついた傑作に仕上がっていましたが、今回のアルバムは、良くも悪くもシンプルなギターロックといったイメージで、ロック寄りだった前作からポップ寄りにシフトした印象が。ただその結果、アルバム全体としては若干薄味になってしまった感も。安定感はしっかりと覚えるのですが。
評価:★★★★
SHISHAMO 過去の作品
SHISHAMO 3
SHISHAMO 4
SHISHAMO 5
SHISHAMO BEST
SHISHAMO 6
HEY/ビッケブランカ
9月リリース予定のアルバムに先行してリリースされた4曲入りのEP。ただし、表題曲「HEY」はアルバム未収録となる模様。「出会い/高揚感」をテーマに制作されたアルバムのようで、アップテンポなエレクトロチューン4曲が並ぶ構成に。いずれも爽やかなポップチューンながらも、ただビッケブランカとしては楽曲のインパクトはちょっと弱め。悪くはないけど、彼にしてはちょっとフックが足らないな、というのが率直な感想。アルバムは楽しみにしているのですが。
評価:★★★★
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