セルフカバーゆえに狂気は抑え気味?
Title:PERSONA#1
Musician:大森靖子
特にデビュー当初は「激情派」と称されるほど、女性の本音を生々しく描いた歌詞が大きな特徴となっているシンガーソングライター大森靖子。ただ、自らがシンガーとして活動を続けるほか、数多くのシンガーへの楽曲提供を手掛ける彼女。本作は、そんな彼女が、他のシンガーに提供した楽曲を自らがカバーしたセルフカバーアルバムとなります。
自らハロプロ系をはじめとするアイドルのファンであることを公言している彼女ですが、そのこともあって、基本的に楽曲提供の相手先はアイドル勢がメイン。そのこともあって、個人的にオリジナルの音源の方は聴いたことなく、全曲、今回が初耳の楽曲となります。ただ、アイドルへの提供曲といっても、よくありがちな「アイドルポップ」的な楽曲は皆無。彼女のボーカルが載っていることもあるのですが、基本路線はいつもの大森靖子の曲と同様のパンキッシュな曲調のポップソングがメインであり、完全に大森靖子の曲として成立している曲ばかりとなっています。
とはいえ、やはり他人に提供している曲ということになるからでしょうか、いつもの大森靖子の作品に比べると、よりポップな曲調の楽曲が並んでいました。例えば「LADY BABY BLUE」は、サビの部分にインパクトがあるJ-POP的なナンバーとなっており、ある意味、「売れ線」的な様相のあるポップチューンに。「゜*。:゜(*'∀'*)゜:。*ぴかりんFUTURE゜*。:゜(*'∀'*)゜:。*」はタイトルこそ異質ですが、楽曲自体はいたってポップなトランスチューンになっていますし、「夢幻クライマックス」も、怪しげな雰囲気のゴシック調の曲調に仕上がっていますが、ある意味、その「怪しげな雰囲気」も含めてわかりやすさのあるポップスに仕上がっています。
歌詞の世界にしても、大森靖子らしい狂気に秘めた世界観が随所に感じられるものの、どこか表現的には抑えがち。もっとも前述のJ-POP的なメロディーの「LADY BABY BLUE」にしても、いきなり
「生命線 剃刀で描き伸ばした
運命は私だけが傷だからで決める」
(「LADY BABY BLUE」より 作詞 大森靖子)
なんていう、よくアイドルに、というか、他のシンガーに歌わせたな、という歌詞もあったりもして、大森靖子の世界観はしっかりと健在。抑えがちな表現の中でも、表ににじみ出てくるような狂気は様々なところで感じられ、そこらへんのバランス感覚もまた、ユニークだったりします。
アレンジは全体的にトランシーなサウンドを取り入れた曲がメイン。この部分に関しては、正直なところ若干安直では?と感じる点はなきにしもあらず。オリジナルを聴いたことがないのでよくわからないのですが、オリジナルの曲調に準拠しているんだとしたら、ここらへんは悪い意味で、いかにも安直なアイドルポップ的、とも感じてしまいます。一方で、そんなトランシーなアレンジの中でもパンキッシュな要素を強く感じる曲も少なくなく、特に印象的だったのは「瞬間最大me」。こちら神聖かまってちゃんのの子が参加しているのですが、パンキッシュな曲調といい、歌詞の雰囲気といい、の子のボーカルにピッタリとマッチ。なにげに神聖かまってちゃんとの相性の良さも感じます。この両者、タイプ的にはかなり近いよなぁ・・・。
他のシンガーへの提供楽曲ということもあり、彼女がその魅力を最大限に発揮できない、という部分はありつつも、一方、そんな抑えめの作風だからこそ、逆により大森靖子の「ポップ」な側面が強調された感のあるセルフカバー。若干過剰気味かつトランスというわかりやすい表現に安易に走りがちなのも、良くも悪くも彼女らしいといった感じもあるのですが。その点は気になりつつも、よりポップな大森靖子の魅力を楽しめた作品でした。
評価:★★★★
大森靖子 過去の作品
洗脳
トカレフ(大森靖子&THEピンクトカレフ)
TOKYO BLACK HOLE
kitixxxgaia
MUTEKI
クソカワPARTY
大森靖子
Kintsugi
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2021年」カテゴリの記事
- コンセプト異なる2枚同時作(2021.12.27)
- 彼女のスタイルを貫いたカバー(2021.12.18)
- メランコリックなメロが良くも悪くも(2021.12.13)
- リスタート(2021.12.06)
- 戦時下でも明るいジャズソングを(2021.12.05)
コメント