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2021年8月22日 (日)

これを「教養」というのはちょっと厳しいような・・・

今回は最近読んだ音楽関連の書籍の感想

音楽評論家の川﨑大助氏によるロック名曲集「教養としてのロック名曲ベスト100」。彼はいままでもこの手の書籍を何点か記しており、「日本のロック名盤ベスト100」「教養としてのロック名盤ベスト100」をこのサイトでも紹介してきました。今回はそのリリースの第3弾・・・というより、「教養としてのロック名盤ベスト100」に連なる作品となります。この「ロック名盤」ではアメリカの音楽雑誌、ローリング・ストーン誌と、イギリスの音楽雑誌NMEの「Greatest Albums」にランクインしたアルバムをピックアップし、集計した結果を紹介していますが今回も同様。ローリング・ストーン誌が2010年に発表した"The 500 Greatest Songs of All Time"と、NMEが2014年に発表した"The 500 Greatest Songs of All Time"を使用。両者に共通してランクインした曲をピックアップした上で、順位に従ったポイントを付け、両者を合計した結果を並べた結果を紹介しています。

その前作「ロック名盤」でも、ローリング・ストーン誌及びNMEでそれぞれ主張のあるリストになっていたために、結果は少々いびつな結果になっていますが、正直言って、今回の「ロック名曲」については、そのいびつさがさらに際立った結果となっています。それについては川﨑氏もかなり自覚しているようで、その旨のコメントは本誌に繰り返し登場してきています。

ただ、そういう「偏り」をわかった上で、単純合算の結果を単なるベスト100に並べるというスタイルは、さすがにちょっと無理があるようにも思いました。これを例えばブログ記事とかで紹介するのならおもしろいといえばおもしろいのですが、新書として発刊し、かつこれをロックの「教養」と言い切るのはかなり辛いのでは・・・?まあ、確かに基本的には並んだ100曲は、偏りがあるとはいえ「スタンダードナンバー」として通用する曲がほとんどなので、おそらくほぼ全曲、SpotifyやApple Musicなどのストリーミングサービスで聴けると思うので、このリストを頼りに聴いていってみるのもおもしろいとは思うのですが・・・ただそれをやるのなら、単純にローリング・ストーン誌の上位50曲と、NMEの上位50曲を聴けばいいだけのような気もします・・・。

また今回「ロック名曲」と書いているのですが、原題を見ればわかるように、両者とも必ずしもロックのベスト500を選んでいるわけではありません。確かにここ50年以上、最近はHIP HOPにとってかわられつつあるものの、基本的にロックミュージックがヒットの中心として君臨してきただけに、結果として上位にランクインしてきたのはロックがメインとなっています。ただ、特にローリング・ストーン誌ではR&B/Soulの名曲もロックと同じくらいランクインしているなど、必ずしもロックのみの名曲集ではありません。

以前の川﨑氏の著書の感想でも書いた通り、彼はどうも、今となっては若干時代遅れになった感もある「ロック至上主義」的な史観の持ち主のようで、それなりの割合でR&B/Soulの曲が混じっているにも関わらず「ロック名曲」という題名になったのもその表れでしょう。また、前作「ロック名盤」でも感じたのですが、ロックとそれ以外の曲に、記述の熱量にかなりの差が見られます。

ロックの名曲に関しては、これでもかというほどの熱量を感じる記述が目立つのに対して、R&B/Soulの曲に関しては、それなりの熱量のある曲もあるものの、Wikipediaあたりから引っ張れる情報を羅列しただけでは?という程度の記述も少なくなく、ここらへんは以前の彼の著書と同様、癖のある記述も目立ちました。

そういう点からも、偏りのあるランキングからも、若干癖のある1冊であり、「ロック名盤」同様、これを「教養」として盲信するにはかなり危険な感のある1冊のようにも思います。ただ、そこらへんの要素を加味しつつ読む分には、ある意味、アメリカとイギリスのそれぞれのポピュラーミュージック観もわかり、興味深いといえば興味深いランキングと言えるかもしれません。もろ手をあげてお勧めできるような名曲集ではありませんが、興味ある方は手にとって損はない1冊です。

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