待望(?)のニューアルバム
Title:Welcome 2 America
Musician:PRINCE
2016年にわずか57歳という若さでプリンスがこの世を去ってから、早くも5年の月日が経過しました。もともと生前から非常に多作であった彼ですが、その逝去直後に金庫からアルバム約100枚分という未発表音源が発見されるなど、大きな話題となり、当然、未発表曲のリリースも期待されていました。そんな中、ついにリリースされた未発表曲集からなるニューアルバムが本作。もともと本作は2010年のリリースが予定されており、同タイトルのツアーまで行ったものの、なぜかリリースされることのなかった作品。The Beach Boysの「Smile」しかり、この手の「幻のアルバム」は少なくありませんが、本作はそんな「幻のアルバム」がついにリリースされた作品と言えるかもしれません。
本作はそんな表題曲が1曲目に収録されています。タイトルとは異なり、ダウナーにスタートするその作品は、「アメリカへようこそ」というタイトルが、むしろ皮肉として使用されていることは、歌詞の内容がわからなくても容易に想像できます。本作ではアメリカの教育、雇用、社会問題が皮肉たっぷりに語られており、さらにはGoogleに対して批判する一節すら登場します。
さらに続く「Running Game(Son Of A Slave Master)」では音楽業界にはびこる黒人差別を取り上げた作品。1曲目に続き、アメリカの現状の問題を全面的に取り上げた作品となっています。しかし、これらの曲は、リリース予定だった2010年から10年以上の月日が経過した現在でも残念ながら間違いなく有効な題材。なぜ、彼が2010年にこのアルバムのリリースを取りやめたのか、今となってはわかりません。ひょっとしたらその主張の切り込みが甘すぎると感じたのかもしれません。しかし、それから10年以上たった現在においても、いやむしろ今だからこそ、彼の主張はより私たちの心に響いていきます。
そんな作風の曲が続くため、序盤は比較的ダウナーに、ちょっと暗い雰囲気でスタートする本作。ただ、中盤以降はファンキーでポップな、明るい作風の曲も目立ちます。「Hot Summer」などはまさにテンポよく、タイトル通り、明るい爽快な夏場を彷彿とさせる楽曲。「Check The Record」もファンキーなギターサウンドが軽快で印象に残りますし、「Same Page,Different Book」も明るくファンキーでポップな作品。終盤の「Yes」もライブなら盛り上がっただろうなぁ・・・ということを感じさせる陽気な楽曲ですし、ラストの「One Day We Will All B Free」も爽快なポップチューンで締めくくられています。
冒頭こそ、若干暗い雰囲気でスタートするものの、アルバム全体としては明るいポップな作品が目立ち、最後も爽快な雰囲気で締めくくる本作。正直、作品としては目新しさはなかったのですが、プリンスらしさは随所に感じられる、非常に良くできたアルバムになっており、これが発表されず「幻のアルバム」となっていたのは不思議に感じられます。
もっとも一方、このようなミュージシャン本人が封印した未発表音源を世に出すという方針には、反対意見も少なくありません。確かに発表できずにボツした音源を後の人が勝手にリリースしていいのか、というのは難しい問題ではあります。ただ一方、未発表音源を大量に倉庫に保存していたということは、今後、どのような形かで、世に出そうとは考えていた、ということも言えなくはないので・・・そういう意味では難しい問題ではあるのですが・・・。ただ、やはり純粋にリスナーとしては、プリンスの未発表曲が聴ける、というのは素直にうれしい、というのが正直なところ。「未発表曲がアルバム100枚分」ということが発表されている以上、今後もプリンスのアルバムはコンスタントに続きそうな予感もします。もちろん、ある程度厳選してほしいのですが、ここは素直に今後のリリースも期待したいところでしょうか。プリンスはまだまだ私たちの心の中で生き続けてくれそうです。
評価:★★★★★
PRINCE 過去の作品
PLANET EARTH
ART OFFICIAL AGE
PLECTRUMELECTRUM
HITnRUN Phase One
HITnRUN Phase Two
4EVER
Piano&A Microphone 1983
Originals
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