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2021年8月14日 (土)

清涼感あふれる歌声は魅力的だが

Title:Simple is best
Musician:手嶌葵

2006年に公開されたスタジオジブリ映画「ゲド戦記」のヒロイン、テルー役として抜擢され、主題歌「テルーの唄」も大ヒットを記録し、一躍注目を集めたシンガー手嶌葵。さらに2011年公開のジブリ映画「コクリコ坂」からでも主題歌を歌い、声優としても参加。すっかりスタジオジブリ御用達・・・というよりも宮崎吾郎監督御用達シンガーとなった彼女。ただ、その後はシングル「明日への手紙」「ただいま」がそれぞれドラマ主題歌にも抜擢されるなど、シンガーとして着実にその地位を固めています。

本作は、そんな彼女のオールタイムベスト。2016年及び2019年にもベスト盤をリリースしていますので、ベスト盤リリースの頻度がちょっと多いのが気になりますが、オールタイムベストという宣伝が功を奏したのか、彼女としては(意外なことに)アルバムとしては初のベスト10ヒットを記録しています。それだけシングルヒット以上に、手嶌葵のボーカリストとしての印象が強かった、ということもあるのでしょうか。

ただ、ベスト盤で彼女の曲をあらためてまとめて聴いてみると、確かにボーカリストとしては非常に清涼感ある声が魅力的ではあるものの、良くも悪くも癖のない声色はボーカリストとしてのひっかかりが弱く感じてしまいます。また、今回「Simple is best」というあまりにストレートなタイトルになっているのですが、楽曲のバリエーションとして似たようなタイプの曲が多く、ピアノとストリングスのアコースティックなサウンドでウィスパーボイス気味のボーカルを聴かせつつ、聴かせる曲がメイン。基本的に「テルーの唄」の延長線上といった雰囲気の曲は多く、もうちょっとバリエーションを増やした方がいいのでは??ということを強く感じてしまいました。

もっともそんな中、秀逸だったのがカバー曲で、おなじジブリ作品主題歌の「風の谷のナウシカ」も、ちょっとジャジーなアレンジをバックに、清涼感あるボーカルでしっかりと聴かせています。彼女の澄んだ美しいボーカルは、ジブリ作品のイメージにもピッタリマッチするんですね。ともすれば原曲以上の名カバーに仕上がっていました。また「瑠璃色の地球」も秀逸。ウィスパー気味のボーカルでしんみり聴かせるボーカルは松田聖子の歌う雰囲気とはちょっと異なるのですが、幻想的な雰囲気で仕上げられた曲調は、原曲のまた異なる良さを引き出しています。

正直なところ、手嶌葵はボーカリストとして一度聴いたら耳にこびりつくような癖のある声をしている訳ではないだけに、もうちょっと曲自体にパンチがないと厳しいのではないか、ということを今回のベスト盤から感じてしまいましたし、だからこそ、このベスト盤こそヒットはしたものの「テルーの唄」以降、それなりにスマッシュヒットは出しているものの、大きくブレイクすることが出来ていないのではないか、とも思ってしまいました。

もっとも今回、初回盤に収録されていた、さらに選りすぐったベストコレクションのDisc2では、キャバレー風の作品で、色っぽいボーカルを聴かせてくれる「Baritone」や、エキゾチックな雰囲気の「1000の国と旅した少年」など、本編よりもバリエーションに富んだ曲もあったりして、手嶌葵の異なる魅力も感じさせます。ひょっとしてオリジナルアルバムでは、こういう異なる雰囲気の曲も楽しめるのかもしれませんが、手嶌葵のボーカリストとしてのさらなる広がりも感じさせますし、異なる曲調の曲ももっと前面に出していった方がおもしろいのでは?「Simple is best」というタイトルですが、むしろシンプルではない曲調の曲も聴いてみたいかも・・・。そんなことすら感じてしまいました。

そんな訳でボーカリストとしての魅力を感じる一方、物足りなさも同時に感じてしまったベストアルバム。そういう意味では今後、あらたな一歩に踏み出すことを期待したいところなのですが。次もまた、ジブリ映画主題歌になるのかなぁ?

評価:★★★★

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