人気ミュージシャンとしての余裕と勢いを感じる
Title:Editorial
Musician:Official髭男dism
「Pretender」の大ヒットにより、一躍、人気ミュージシャンの仲間入りを果たしたヒゲダンことOfficial髭男dism。その後も「宿命」「イエスタディ」とヒットを飛ばし、本作にも収録されている「I LOVE...」も大ヒット。ここに来て「Cry Baby」もヒットを果たしており、その勢いは止まりません。名実ともに、米津玄師と並び2020年代を代表するミュージシャンになりそう・・・そんな予感がする彼ら。大ヒットとなった前作「Traveler」から約1年10ヶ月。待望のニューアルバムがリリースされました。
「時代の寵児」となり勢いにのる彼らの新作ですが、まさにそんな彼らの今の立場を反映するような、人気ミュージシャンとしての余裕と勢いを感じさせるアルバムになっていました。なんといってもアルバムの「顔」とも言うべき冒頭の1曲目、タイトルチューンでもある「Editorial」からいきなりアカペラという挑戦的な試みをしているあたり、まずは一種の余裕のようなものを感じさせます。そしてそれに続く「アポトーシス」はまさに、ヒゲダンの大物ミュージシャンとしてのスケール感を覚える作品。シンセを中心とする分厚いサウンドでスケール感を醸し出している作品に。そしてそこから一気に大ヒット曲「I LOVE...」になだれ込み、まさに勢いある曲を連続して聴かせる展開となっています。
その後の「フィラメント」や先行EPとなった「HELLO」も同じくシンセの分厚いサウンドでスケール感を覚える作品に続き、さらに現在ヒット中の「Cry Baby」へ。目くるめく展開で、複雑な構成となっているメロディーラインながらも、聴いていてサラッとポップにまとめあげられているヒゲダンのメロディーメイカーとしての実力を感じさせる傑作。前半はこのように、圧巻なスケール感を持って聴かせる曲が並び、まさに人気ミュージシャンとして大物然とした雰囲気を備えてきたな、ということが感じられる展開になっており、特にブレイク前から彼らのことを知っている身としては、感慨深さも覚える構成になっています。
中盤は一転、比較的シンプルな「Shower」にアコースティックな「みどりの雨避け」と新たなバリエーションを展開。再びインパクトあるメロでポップに聴かせる「パラボラ」を挟んで「ペンディング・マシーン」はシティポップ風の作品に、さらに「Bedroom Talk」はメロウな作風に、と、バラエティーに富む構成になっており、彼らの音楽性の広さを感じさせます。特に「ペンディング・マシーン」「Bedroom Talk」はソウル、R&Bの影響も強く、もともとブラックミュージックからの影響を強く感じるヒゲダンらしいと言える作品になっていました。
そして終盤は、再びインパクトあるメロディーラインを聴かせるミディアムチューン「Laughter」「Universe」へと続き、ラストの「Lost In My Room」もファルセットボーカルを入れつつ、分厚いシンセでスケール感を持って聴かせるナンバー。人気ミュージシャンとしての余裕や勢いを最後まで維持したまま、1時間強にも及ぶボリューミーな作品は幕を下ろします。
そんな感じで最初から最後まで、ソウルやR&Bからの影響も垣間見せつつ、人気バンドらしい余裕と勢いを最後まで感じさせる作品になっており、名実ともに大物ミュージシャン然とした雰囲気を感じさせるアルバムに仕上がっていました。そんな訳で、「傑作」であることは間違いないと思うのですが・・・直近のEP「HELLO EP」の感想では、来るべきアルバムはすごい内容になっているのでは?と期待を持って感想を書いたのですが、正直言うと、期待していたほどではなかったかも、とも思ってしまいました。
ちょっと期待はずれだった要因としては2つほど考えられ、1つはバンドとしてのスケール感を出すのに、シンセにちょっと安易に頼りすぎでは?と感じてしまった点。サウンドのスケールを出すのに、シンセでサウンドを厚くする、という若干一本調子の構成となっており、その点が気になってしまいました。もう1点は、メロディーラインに関して、前作「Traveler」の収録曲「Pretender」や「宿命」「イエスタディ」を超えられなかったかなぁ、という点。いや、今回ももちろん「HELLO」や「Cry Baby」「パラボラ」などインパクトある名曲が少なくなかったのですが、複雑な構成ながらも耳障りのよいポップな作風に仕上げるという妙味を感じさせるのが「Cry Baby」くらいで、その点、前作に比べるとちょっと物足りなかったかなぁ、とも感じてしまいました。
そんな訳で、残念ながらバンドが最も勢いのある時に生み出すような「奇跡の傑作」といった感じにはなれず、出来としても「Traveler」の方がよかったかなぁ・・・とも思うのですが、その点を差し引いてもやはり「傑作」であることは間違いないと思います。名実ともに人気バンドの仲間入りを果たした彼ら。もちろん次の作品にも期待できそう。まだまだ次々とヒット曲を生み出してくれそうです。
評価:★★★★★
Official髭男dism 過去の作品
エスカパレード
Traveler
TSUTAYA RENTAL SELECTION 2015-2018
Official髭男dism one-man tour 2019@日本武道館
Traveler-Instrumentals-
HELLO EP
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