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2021年8月

2021年8月31日 (火)

豊かな戦前のポピュラーミュージック文化を垣間見る

Title:ニッポン・スウィングタイム 戦前のジャズ音楽 vol.1

今回取り上げるのは、タイトル通り、戦前のSP盤での録音音源を集めたオムニバス盤です。戦前SP盤の録音音源といえば、当サイトで過去に何度か、戦前SP盤復刻の専門レーベル、ぐらもくらぶのCDを紹介してきましたが、本作はそのぐらもくらぶの保利透がプロデュースを担当。監修・解説もぐらもくらぶのCDの選曲を数多く手がけている音楽評論家の毛利眞人しており、そういう意味で、実質的にぐらもくらぶの新作と言っていいのかもしれません。

ただ、ぐらもくらぶのCDが、いつもいい意味で個性的な選曲をしており、若干マニア向けの興味深い選曲で攻めてくるのに対して、本作はあくまでも戦前の日本のヒットシーンをリードしたような歌手たちの曲を並べた作品。藤山一郎や田谷力三、灰田勝彦や二村定一といった大物の名前がズラリと並んでおり、戦前日本のジャズ音楽シーンを俯瞰できるような内容になっています。

もっとも、ここで言う「ジャズ」とは(これは以前もこのサイトで書いたようにも記憶しているのですが)、必ずしも私たちが想像するようなジャズとは少々異なります。もちろん、このアルバムに収録されている曲でもジャズの曲も少なくありません。「ジャズ」といっても、いわゆるモダンジャズではなく、アルバムタイトル通りのスウィングになるのですが、例えば作間毅「月夜の晩に(月光値千金)」は陽気で軽快なスウィングに、伸びやかな男性ボーカルもとても明るく聴いていて楽しくなりますし、徳山璉の「あの子」も、歌の部分よりも陽気な演奏の部分の方が長く、しっかりとスウィングの演奏を聴かせようとする意気込みを感じます。

しかし、この戦前において「ジャズ」という言葉の概念はもうちょっと広く、戦前のポピュラーミュージックのうち、洋楽からの影響が強いようなタイプの音楽を、その当時、もっとも人気があったジャンルである「ジャズ」という名称で呼んでいたようです。一昔前まで、J-POPも洋楽の影響が強い音楽を、すべからく「ロック」みたいに言っていた時期がありましたが(今も若干、そのような呼ばれ方をすることがありますが)、それに似ているのかもしれません。

特に戦前の音楽において「ジャズ」以上に海外からの強い影響を感じるのがハワイアン。藤澤五郎の「ウクレレ・ママちゃん」など、タイトル通り、ウクレレを鳴らしつつ聴かせる、王道とも言えるハワイアン。立石智枝子の「甘き想ひ」もハワイアンなメロウなサウンドが楽しめますし、本作のラストを締めくくる灰田勝彦/灰田晴彦とモアナ・グリー・クラブの「お玉杓子は蛙の子」も軽快なハワイアン。この時期、ハワイアンが非常に世間で親しまれていたことが垣間見れます。ちなみにこの曲、今では童謡では「ごんべさんの赤ちゃん」の替え歌として親しまれていますが、原曲はこちらだそうで、こういう戦前のヒット曲がスタイルを変えつつ今まで歌い継がれている事実に興味深さを感じます。

ちなみに他に印象的だったのは、まず岸井明の「世紀の楽団」「スーちゃん(スイート・スー)」。どちらもちょっととぼけた感じのボーカルがコミカルで非常に楽しい感じのスウィングが楽しめます。同じく、ここのサイトでも何度か紹介している二村定一も今回「昇る朝日」で登場。彼もどこかコミカルで、どこか色気を感じさせるボーカルが魅力的です。

他にも小山きよ子の「虹の歌」も魅力的。ちょっと舌ったらずなボーカルながらも、色っぽさを感じさせるボーカルが魅力的。色っぽさというと、低音を聴かせつつ色っぽさを感じるボーカルを聴かせるヘレン隅田にも非常に魅力を感じます。また、藤山一郎の楽曲も2曲収録されているのですが、ボーカルの端正さはこのアルバムの中でピカ一。基本に忠実で歌詞を明瞭に歌うことを重要視したそうですが、確かにこのアルバムの中でも圧倒的に明瞭な歌声を聴かせてくれています。

他にもトライバルなサウンドが入りつつ妖艶な雰囲気が魅力の江戸川蘭子「コンガ」や(歌手名からは、某大人気推理漫画を想像してしまいますが・・・)、クラシック曲のカバーになる小林千代子「碧きドナウ」、ラテン風のリズムが軽快な鐵仮面(作間 毅)/小関ローイ・ジャズ・バンド「南京豆売り」などなど、楽曲はバリエーション豊富。戦前の日本はどこか暗い社会で、日本においてポピュラーミュージックが花開いたのは戦後になってから・・・というイメージをともすれば持ちがちですが、本作を聴くと、戦前でも非常に幅広い洋楽からの影響を受け、バリエーションあるポピュラーミュージック文化が花開いていたんだな、ということをあらためて実感することが出来ます。ぐらもくらぶの作品だと、企画的にちょっとマニアックな部分があって、戦前のポップスを聴く最初の入り口としては取っつきにくい部分があるのですが、そういう方にぜひともお勧めしたい作品。今の耳でも十分楽しめるポップチューンが並んでいました。

評価:★★★★★

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2021年8月30日 (月)

人気ミュージシャンとしての余裕と勢いを感じる

Title:Editorial
Musician:Official髭男dism

「Pretender」の大ヒットにより、一躍、人気ミュージシャンの仲間入りを果たしたヒゲダンことOfficial髭男dism。その後も「宿命」「イエスタディ」とヒットを飛ばし、本作にも収録されている「I LOVE...」も大ヒット。ここに来て「Cry Baby」もヒットを果たしており、その勢いは止まりません。名実ともに、米津玄師と並び2020年代を代表するミュージシャンになりそう・・・そんな予感がする彼ら。大ヒットとなった前作「Traveler」から約1年10ヶ月。待望のニューアルバムがリリースされました。

「時代の寵児」となり勢いにのる彼らの新作ですが、まさにそんな彼らの今の立場を反映するような、人気ミュージシャンとしての余裕と勢いを感じさせるアルバムになっていました。なんといってもアルバムの「顔」とも言うべき冒頭の1曲目、タイトルチューンでもある「Editorial」からいきなりアカペラという挑戦的な試みをしているあたり、まずは一種の余裕のようなものを感じさせます。そしてそれに続く「アポトーシス」はまさに、ヒゲダンの大物ミュージシャンとしてのスケール感を覚える作品。シンセを中心とする分厚いサウンドでスケール感を醸し出している作品に。そしてそこから一気に大ヒット曲「I LOVE...」になだれ込み、まさに勢いある曲を連続して聴かせる展開となっています。

その後の「フィラメント」や先行EPとなった「HELLO」も同じくシンセの分厚いサウンドでスケール感を覚える作品に続き、さらに現在ヒット中の「Cry Baby」へ。目くるめく展開で、複雑な構成となっているメロディーラインながらも、聴いていてサラッとポップにまとめあげられているヒゲダンのメロディーメイカーとしての実力を感じさせる傑作。前半はこのように、圧巻なスケール感を持って聴かせる曲が並び、まさに人気ミュージシャンとして大物然とした雰囲気を備えてきたな、ということが感じられる展開になっており、特にブレイク前から彼らのことを知っている身としては、感慨深さも覚える構成になっています。

中盤は一転、比較的シンプルな「Shower」にアコースティックな「みどりの雨避け」と新たなバリエーションを展開。再びインパクトあるメロでポップに聴かせる「パラボラ」を挟んで「ペンディング・マシーン」はシティポップ風の作品に、さらに「Bedroom Talk」はメロウな作風に、と、バラエティーに富む構成になっており、彼らの音楽性の広さを感じさせます。特に「ペンディング・マシーン」「Bedroom Talk」はソウル、R&Bの影響も強く、もともとブラックミュージックからの影響を強く感じるヒゲダンらしいと言える作品になっていました。

そして終盤は、再びインパクトあるメロディーラインを聴かせるミディアムチューン「Laughter」「Universe」へと続き、ラストの「Lost In My Room」もファルセットボーカルを入れつつ、分厚いシンセでスケール感を持って聴かせるナンバー。人気ミュージシャンとしての余裕や勢いを最後まで維持したまま、1時間強にも及ぶボリューミーな作品は幕を下ろします。

そんな感じで最初から最後まで、ソウルやR&Bからの影響も垣間見せつつ、人気バンドらしい余裕と勢いを最後まで感じさせる作品になっており、名実ともに大物ミュージシャン然とした雰囲気を感じさせるアルバムに仕上がっていました。そんな訳で、「傑作」であることは間違いないと思うのですが・・・直近のEP「HELLO EP」の感想では、来るべきアルバムはすごい内容になっているのでは?と期待を持って感想を書いたのですが、正直言うと、期待していたほどではなかったかも、とも思ってしまいました。

ちょっと期待はずれだった要因としては2つほど考えられ、1つはバンドとしてのスケール感を出すのに、シンセにちょっと安易に頼りすぎでは?と感じてしまった点。サウンドのスケールを出すのに、シンセでサウンドを厚くする、という若干一本調子の構成となっており、その点が気になってしまいました。もう1点は、メロディーラインに関して、前作「Traveler」の収録曲「Pretender」や「宿命」「イエスタディ」を超えられなかったかなぁ、という点。いや、今回ももちろん「HELLO」や「Cry Baby」「パラボラ」などインパクトある名曲が少なくなかったのですが、複雑な構成ながらも耳障りのよいポップな作風に仕上げるという妙味を感じさせるのが「Cry Baby」くらいで、その点、前作に比べるとちょっと物足りなかったかなぁ、とも感じてしまいました。

そんな訳で、残念ながらバンドが最も勢いのある時に生み出すような「奇跡の傑作」といった感じにはなれず、出来としても「Traveler」の方がよかったかなぁ・・・とも思うのですが、その点を差し引いてもやはり「傑作」であることは間違いないと思います。名実ともに人気バンドの仲間入りを果たした彼ら。もちろん次の作品にも期待できそう。まだまだ次々とヒット曲を生み出してくれそうです。

評価:★★★★★

Official髭男dism 過去の作品
エスカパレード
Traveler
TSUTAYA RENTAL SELECTION 2015-2018
Official髭男dism one-man tour 2019@日本武道館
Traveler-Instrumentals-
HELLO EP

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2021年8月29日 (日)

夢のコラボ!

Title:RESPECT (Original Motion Picture Soundtrack)
Musician:Jennifer Hudson

2018年に惜しまれつつこの世を去ったソウルの女王、アレサ・フランクリン。おそらくその直後から、彼女の死を悼むべく、様々なプロジェクトが立ち上がっていたのでしょう。当サイトでも紹介しましたが、5月には映画「アメイジンググレイス」も公開されて大きな話題となりました。そして今年8月に全米公開となった映画が彼女の伝記映画「RESPECT」。日本でも11月に公開を予定していますが、その主演、ジェニファー・ハドソンが歌う映画のサントラ集が先行リリースされました。映画のサントラ、といっても事実上、ジェニファー・ハドソンがアレサの名曲の数々のカバーしているカバーアルバムとなっています。

ジェニファー・ハドソンといえば、ご承知の通り、映画「ドリームガールズ」で映画デビュー。類まれなる歌唱力と演技力が話題になり、主演のビヨンセを食ったともいわれるほどの名演技で、アカデミー賞の助演女優賞を受賞。さらにその後はシンガーとしても活躍を続け、グラミー賞を受賞するなど、アカデミー賞、グラミー賞を両方受賞するという快挙を達成しています。

今回、アレサの伝記映画において、アレサ役として彼女が抜擢されたというのは、アレサ本人が生前に彼女を指名したとか。その話も十分納得ですし、また、アレサの映画で、歌唱シーン込みで主演をはれるのは彼女しかいないのではないでしょうか。それだけ納得のいく人選のように思います。

とはいうものの、カバーの相手はかのソウルの女王、アレサ・フランクリン。歌唱力に定評のあるジェニファー・ハドソンといっても苦戦するのでは?というのは聴き始める前の予想としてありました。実際、アルバムの冒頭「There Is A Fountain Filled With Blood」「Ac-cent-tchu-ate The Positive」は、聴いていると正直、どこか線の細さも感じて、さすがにジェニファー・ハドソンでもアレサの前では物足りなさを感じてしまうのか・・・と感じてしまいました。

しかし、そんな印象が変わっていくのも中盤以降。ムーディーに歌い上げる「Do Right Woman,Do Right Man」もアレサに負けず劣らずのボーカルを聴かせてくれるのですが、映画の表題曲ともいえる「Respect」も耳を惹くものがあります。もともとオーティス・レディングの曲として有名だった同曲をアレサがカバー。もともと単なるラブソングだったこの曲を、女性に対する敬意を求める歌へと変貌させ、原曲以上にアレサのバージョンがスタンダードナンバーとなりました。その曲をジェニファーは見事に歌いこなしており、実に素晴らしいカバーに仕上げています。

映画「ブルース・ブラザーズ」の中で歌われていることでも有名な「Think」も、アレサに負けず劣らずのパワフルなカバーに仕上げていますし、「I Say A Little Prayer」も感情たっぷりのボーカルが胸をうちます。今年公開された映画での、アレサのボーカルに思わず涙してしまった「Amazing Grace」も、決して負けていません。聴いていてグッと胸に響いてきました。最初は少々不安に感じた同作でしたが、聴き終わった頃には、アレサの歌に決して負けていないジェニファーの歌声に聴き惚れる作品になっていました。

もっとも、基本的にアレサの自伝映画で使われたカバーなだけに、ジェニファー自身の解釈はほとんどなく、アレサのボーカルスタイルに沿った形でのカバー。そういう意味では、当たり前といえば当たり前ですが目新しいものはありません。ただ、それでもやはりジェニファーのボーカリストとしてのすごみすら感じさせる作品になっており、その内容は圧巻の一言。ジェニファーのアルバムとして考えても、実に素晴らしい傑作に仕上がっていました。

これは是非とも映画も見てみたいですね!11月公開予定なので、そのころにはもうちょっとコロナもおさまっていればよいのですが・・・まあ、映画館はよっぽどのことがないと大丈夫だとは思うのですが・・・。ジェニファーのファンはもちろん、アレサのファンも文句なしにお勧めできる傑作でした。

評価:★★★★★

JENNIFER HUDSON 過去の作品
JENNIFER HUDSON
I REMEMBER ME
JHUD

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2021年8月28日 (土)

当然の如く、全英1位

Title:Pressure Machine
Musician:The Killers

欧米では(特にイギリスでは)絶大な人気を誇りつつ、なぜか日本ではいまひとつブレイクに至らないThe Killers。本作では、ついに7作連続の1位を獲得しました。これがどのくらいすごい記録かというと、かのoasisが1994年のアルバム「oasis」から、ラスト作となる2008年「Dig Out Your Soul」までの14年間で記録したのが7作連続1位。彼らはそれを2004年の「Hot Fuss」から本作までも17年間で達成しています。確かに彼らの作品は売上は最高でも「Hot Fuss」の全世界規模で7百万枚であり、oasisが「(What's the story)Morning Glory」で記録した23百万枚に及ぶべくもありませんが、それでも正直、oasisの7作連続は一時期の熱狂的な人気の余波をかっての感はありますが、一方、彼らの場合は持続的に人気を維持しており、その人気のほどを感じさせます。

そんな彼らの作品は、特にここ最近、ポップなメロのインパクトとスケール感が増し、名実ともにイギリスの国民的バンドとしての風格が備わっていた感があります。そんな中で前回のアルバムはニューウェーブ風なサウンドも加わり、いい意味でより耳なじみやすいポップなアルバムに仕上がっていた感もあります。それに続く今回のアルバムもまた、非常にポップでスケール感あるメロがいい意味でインパクトがありました。特に前半「Sleepwalker」はスケール感あるポップなメロディーラインがU2を彷彿とさせる作品。国民的バンドとしての彼らの実力を感じさせます。

ただ、今回のアルバムについては、メランコリックなメロに、より泥臭さやフォーキーな雰囲気を感じせる作風になっていたように感じます。1曲目「West Hills」から哀愁たっぷりのピアノやストリングスをバックに哀しげなメロディーを歌い上げる作品になっていますし、「Terrible Things」もアコギで哀愁たっぷりに聴かせるフォーキーな作品に。その後も同じくアコギを爪弾きながらフォーキーに聴かせる「Runaway Horses」やファルセットボイスを交えて感情たっぷりに聴かせる「Pressure Machine」など、メランコリックなメロディーラインを聴かせるフォーキーな作品が目立ちます。

ポップなメロで比較的広いリスナー層を狙ったような前作に対して、今回のアルバムは郷愁感を覚える曲調も多く、どちらかというとノスタルジーな要素を狙ったのかもしれません。実際に、彼らのふるさとであるアメリカはユタ州のネフィにインスパイアされた曲も多く、さらにボーカルでありバンドの作詞作曲を担当するブランドン・フラワーズの故郷の人々の声を取ったテープを楽曲の冒頭に挟んでくるなど、よりノスタルジーな印象を与えるような作風に仕上がっています。

そういう意味では前作に比べると若干「内向き」な要素も強いのかもしれません。また逆に欧米のリスナーにとっては、むしろこのノスタルジックな要素が、日本人にとって民謡を聴くような感じで、心の琴線に触れるのかもしれません。そういう意味では日本人にとって若干の違和感を覚える部分はあるかもしれませんが、今回のアルバムに関してもメロディーラインについてはしっかりとしたインパクトがあり、決して日本人にとっても取っつきにくさはありません。むしろ、スケール感を備えつつも、比較的シンプルなメロディーが多く、彼らのメロディーメイカーとしての才がより発揮されたアルバムと言えるかもしれません。

前作以上に泥臭さは感じられ、確かに決してRADIOHEADのような先駆的な作風も、oasisのような誰もが一度で歌を口ずさむくらいのわかりやすいメロディーもないため、日本人受けしないというのは理解できなくはありません。ただ、そういった部分を差し引いても、日本でももっと受け入れられるべき歌を奏でているバンドであることは間違いないと思います。個人的には前作の方がお勧めなのですが、是非もっと聴かれるべきという意味を込めて、下の評価に。ロケノンやミューマガ近辺も、もうちょっと取り上げていいんじゃない?

評価:★★★★★

The Killers 過去の作品
Day&Age
Wonderful Wonderful
Imploding the Mirage

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2021年8月27日 (金)

30周年の企画盤

Title:ウル盤
Musician:ウルフルズ

2022年にデビューから30周年を迎えるウルフルズ。30周年の年は来年なのですが、その記念すべき年を控えて、30周年30曲のセルフカバーを行うことを発表。その第1弾となるのがこのアルバムです。1996年にリリースした大ヒット作「バンザイ~好きでよかった~」「それが答えだ!」「かわいいひと」などのシングルヒット曲を中心に、ウルフルズの代表曲が収録されています。

デビュー30周年の記念リリースというと、オールタイムベスト、という企画がすぐに思い浮かびそうです。ただ、そんな中、あえてセルフカバーを、それも30曲もリリースするというあたりに、彼らのこだわりを感じさせます。まあ、ベスト盤としては2014年に「赤盤だぜ!!」がリリースされており、同作を含めてすでに4枚のベスト盤がリリースされている、という事情はあるのでしょうが・・・。しかし、〇周年毎にベスト盤をリリースしたり、ベスト盤の間のスパンがわずか5年程度というケースもあったりする中、このタイミングでのオールタイムベストリリースとなってもおかしくない中での、あえてセルフカバーリリースというあたりがこだわりといった感じでしょうか(・・・って言っていて、その後、オールタイムベストのリリースがあったりして)。

さて、そんな今回のセルフカバーですが、オリジナルからアレンジ的に大きな変化はありません。原曲のイメージがガラリと変わるようなアレンジもなく、そういう意味でも「30周年のベストアルバム」としても十分機能しそうな内容になっています。

しかし、そんな中でもあえてセルフカバーにするという点、バンドとして30年活動を行っていた中での成長を、しっかり曲に残したいということなのでしょう。若さゆえの勢いを重視することが多いロックと比べて、特に彼らが敬愛するソウルやブルースのジャンルでは、年齢を重ねることによるボーカルの深みが、より大きな魅力となることは少なくありません(もちろん、ロックでもそういう魅力を出しているミュージシャンはたくさんいますが)。また、バンドとして30年を経過したことにより、メンバーの一体感もより増して、迫力のある演奏を聴かせてくれています。

実際に、例えば「バンザイ~好きでよかった~」も、特にトータス松本のボーカルのより感情をこもったボーカルが魅力的なセルフカバーになっていますし、「それが答えだ」もよりファンキーな演奏を楽しませてくれます。デビューから30年が経過し、ベテランバンドとなった彼ら。より年齢を重ねることによるバンドのすごみを曲からしっかりと感じ取ることが出来ました。

ちなみに本作、カバーアルバムの第1弾ということですが、大ヒットした「ガッツだぜ!」や「明日があるさ」は収録されていません。こちらは第2弾以降ということになるのでしょうか。それはそれで楽しみ。第2弾以降で、どのような彼らの演奏が聴けるのか、楽しみにしたいです。

評価:★★★★★

ウルフルズ 過去の作品
KEEP ON,MOVING ON
ONE MIND
赤盤だぜ!
ボンツビワイワイ
人生
ウ!!!

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2021年8月26日 (木)

やはりヒゲダン強し!

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

最近はアイドル系の1位獲得が続きましたが、久々に非アイドル系が1位を獲得。やはりヒゲダン強し!

今週1位初登場はOfficial髭男dism「Editorial」が獲得しました。今週のHot100で彼らの曲が2曲同時ランクインするなど、その人気のほどを見せつけている彼らですが、Hot AlbumsでもCD販売数、ダウンロード数、PCによるCD読取数全部門で1位を獲得し、その強さを見せつけました。オリコン週間アルバムランキングでは初動売上10万8千枚で1位初登場。前作「Traveler」の8万4千枚(1位)を上回る結果となっています。

2位初登場は韓国の男性アイドルグループTOMORROW×TOGETHER「The Chaos Chapter:FREEZE」がランクイン。CD販売数2位、そのほかは圏外となっています。もともと6月16日付チャートで1位にランクインしていましたが、11週ぶりのベスト10返り咲きとなります。これは同作のリパッケージアルバム「The Chaos Chapter:FIGHT OR ESCAPE」がリリースされた影響で、オリコンでも2位にランクインしていますが、オリコンはともかく、ビルボードではなぜか「FREEZE」の方で集計されています。ここらへんもビルボードの集計方針が謎に感じる部分が多いのですが・・・。

3位には山下達郎「ARTISAN」がランクイン。CD販売数3位、PCによるCD読取数9位。1991年にリリースされた、彼の10枚目のオリジナルアルバムの30周年記念盤がリリースされた影響で、オリコンでも初動売上2万4千枚で3位初登場です。個人的に山下達郎のアルバムをリアルタイムではじめて聴いたのは本作なので、かなり懐かしさを感じるとともに、あれからもう30年も経ってしまうのか・・・と感慨深くもあります。リイシュー盤は昨年11月にリリースされた「僕の中の少年」「POCKET MUSIC」以来で、それぞれの初動売上1万7千枚(8位)、1万6千枚(9位)からアップしています。

続いて4位以下の初登場盤ですが、まず5位に夏組「MANKAI STAGE『A3!』Summer Troupe ひまわりと太陽」がランクイン。CD販売数4位、ダウンロード数17位、PCによるCD読取数30位。スマートフォン向けイケメン役者育成ゲーム「A3!」から派生した舞台に使われた曲をまとめたアルバム。オリコンでは初動売上1万3千枚で7位初登場。同シリーズの前作「MANKAI STAGE『A3!』Spring Troupe 満開の桜の下で」の1万6千枚(5位)からダウン。

6位にはユニコーンのニューアルバム「ツイス島&シャウ島」がランクイン。CD販売数4位、ダウンロード数17位、PCによるCD読取数30位。ご存じロックンロールのスタンダードナンバー「Twist And Shout」から命名されたユニークなタイトルが彼ららしい感じ。一時期、90年代のバンドブームで人気を博したバンドが次々と再結成しましたが、そのほとんどがアルバムを1枚つくるかつくらないかするうちに、活動が縮小してしまう中、彼らはコンスタントにアルバムをリリースし続け、ついに再結成後9枚目(ミニアルバムを含む)のアルバムとなり、当初の解散以前にリリースされたアルバム枚数を上回りました!オリコンでは初動売上1万4千枚で6位初登場。前作「UC100W」の1万3千枚(8位)から微増。

7位は女性アイドルグループ私立恵比寿中学「FAMIEN'21 L.P.」が初登場。CD販売数6位、PCによるCD読取数20位。彼女たちが毎年夏に開催している野外ライブ「ファミえん」のテーマ曲をまとめて収録したベスト盤的なアルバム。オリコンでは初動売上1万4千枚で5位初登場。直近作はオリジナルアルバムの「playlist」で、同作の3万3千枚(2位)からはダウンしています。

8位にはEXILEの弟分的なボーカルグループFANTASTICS from EXILE TRIBE「FANTASTIC VOYAGE」が入ってきました。CD販売数8位、ダウンロード数52位、PCによるCD読取数50位。オリコンでは初動売上1万2千枚で8位初登場。前作「FANTASTIC9」の1万8千枚(4位)からダウンしています。

初登場最後、10位にはPoppin'Party「Live Beyond!!」がランクイン。CD販売数10位、ダウンロード数5位、PCによるCD読取数19位。メディアミックスプロジェクトBanG Dream!から生まれた架空のガールズバンド。本作は5曲入りのミニアルバムとなります。オリコンでは初動売上6千枚で10位初登場。前作「Breakthrough!」の2万1千枚(3位)からダウンしています。

今週は初登場盤は以上ですが、ベスト10返り咲きも1枚。それが今週13位から4位にランクアップした「竜とそばかすの姫 オリジナル・サウンドトラック」。CDリリースに合わせて3週ぶりのベスト10返り咲きとなりました。オリコンでも初動売上1万5千枚を獲得して4位に初登場しています。

そんな訳で、Hot100と同様、初登場盤が多かった今週のHot Albums。その新譜に追い出される形で先週まで9週連続ベスト10ヒットを続けていたBTS「BTS,THE BEST」が11位にダウン。同作の連続ベスト10入りもストップとなりました。

今週のHot Albumsは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2021年8月25日 (水)

新譜が比較的多めのチャートに

今週のHot100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

ここ最近、上位の曲がほぼ固定されていて停滞感のあったHot100ですが、今週は比較的新譜が多めのチャートに。ベスト10のうち4曲が初登場、1曲がCDリリースに伴う返り咲きというチャートとなりました。

1位は、韓国の人気オーディション番組「PRODUCE 101」の日本版「PRODUCE 101 JAPAN」の合格者から結成されたアイドルグループJO1「REAL」が獲得。CD販売数及びTwitterつぶやき数で1位、PCによるCD読取数で2位。ダウンロード数65位、ストリーミング数48位、ラジオオンエア数49位、You Tube再生回数32位とそのほかのランキングは伸び悩みましたが、総合順位で見事1位獲得となっています。オリコン週間シングルランキングでは同曲が収録された「STRANGER」が初動28万2千枚で1位を獲得。前作「CHALLENGER」の25万4千枚(1位)からアップしています。

2位初登場はBE:FIRST「Shining One」。こちらはかのSKY-HIが、「世界で活躍するボーイズグループを作りたい」という意気込みから自腹で1億円出資してスタートしたオーディション番組「THE FIRST」から誕生したアイドルグループ。1位のJO1とは似ているものの、JO1は吉本興業と韓国のCJ ENMによる合弁会社LAPONEエンタテイメント所属と、「和製K-POP」であるのに対して、こちらは正真正銘の純国産グループ。その心意気や良し、といった感じなのですが、ある意味、「今どきの売れ線」を狙ったため、K-POPに近い音になってしまっているため、もっと違う方向性は目指せなかったのか・・・とも思うのですが、「世界で活躍」というコンセプト上、これが今の「売れ線」になってしまうんでしょうね・・・。JO1に敗れて2位となったものの、ダウンロード数1位、ストリーミング数2位、You Tube再生回数1位とロングヒットの指標となりそうなチャートで軒並み上位にランクインし、今後のロングヒットが狙えそうです。

3位は先週1位のSixTONES「マスカラ」が2ランクダウンの3位となっています。

さらに4位以下も初登場が並びます。まず4位にback number「水平線」がランクイン。ダウンロード数2位、ストリーミング数5位、ラジオオンエア数6位、You Tube再生回数21位、カラオケ歌唱回数13位。本作は、昨年、コロナ禍の影響でインターハイが中止になったことをきっかけに制作され、その開会式が行われるはずだった2020年8月10日0時にYou Tubeで公開された作品。その後1年たち、今年、実施されることになったインターハイの開会式8月13日に各種配信フォーマットでリリースされ、見事ベスト10入りしました。オリンピックの影でほとんど注目されなかったのですが、インターハイも実施されたんですね・・・。ちなみにYou Tubeでは既に昨年公開済ということもあり、昨年9月2付ランキングで56位にランクイン。一度圏外に落ちたものの、10月14日付で99位にランクインして以降、46週連続チャートインしており、なにげにロングヒットとなっています。総合チャートでも今後ロングヒットするのでしょうか?注目されます。

そして今週9位にofficial髭男dism「アポトーシス」が先週の23位からランクアップし、ベスト10初登場を果たしています。現在ヒット中のアルバム「Editorial」収録曲。ダウンロード数4位、ストリーミング数20位、ラジオオンエア数2位、Twitterつぶやき数63位、You Tube再生回数11位を記録し、総合順位で見事ベスト10入りを果たしました。

今週はベスト10返り咲きも1曲。millennium parade×Belle「U」が先週の12位からランクアップし8位にランクイン。2週ぶりのベスト10返り咲きを果たしています。これは今週、CDがリリースされた影響で、CD販売数は初登場4位を記録。それに伴うダウンロード数も10位から6位、You Tube再生回数も10位から9位とランクアップしています。オリコンでは初登場1万8千枚で3位初登場。前作「Fly with me」の7千6百枚(1位)からアップしています。

今週は、計5曲のニューエントリーに追い出される形で、なんと、YOASOBI「夜に駆ける」とBTS「Dynamite」がついにベスト10陥落!!「夜に駆ける」は通算66週、「Dynamite」は52週連続のベスト10入りが一度ストップとなりました。YOASOBIは今週「怪物」も11位にランクダウン。こちらもベスト10ヒットは通算28週でストップ。この結果、ベスト10からYOASOBIが消えるという結果になっています。

一方BTSは、ついにベスト3から陥落となったものの、5位に「Permission to Dance」、7位に「Butter」がそれぞれランクイン。ストリーミング数は前者が1位、後者が3位とまだ上位につけており、上位返り咲きもありえそう。「Butter」はこれで14週連続のベスト10ヒットとなりました。

ロングヒット曲はほかに藤井風「きらり」が今週15位にダウン。残念ながらベスト10返り咲きは1週でストップとなりました。

Official髭男dism「Cry Baby」も、新譜勢に押し出される形で6位から10位にランクダウン。ただ、これで通算9週目のベスト10ヒット。ヒゲダンは2曲同時ベスト10入りに。こちらもストリーミング数4位、You Tube再生回数6位と上位にランクインしているだけに、来週以降の盛り返しもありそう。

一方、これだけ新譜勢が並びつつ根強い人気を見せたのが優里「ドライフラワー」。5位からワンランクダウンの6位をキープ。これで40週連続のベスト10入り。カラオケ歌唱回数は29週連続の1位と圧倒的な強さを見せつけました。

今週のHot100は以上。ロングヒット曲ばかりが並んで停滞感があった最近のチャートから一転、新顔が多くランクインしたチャートになりました。もっとも、新顔勢がロングヒットに移行するかどうかはかなり微妙で、来週以降、再びロングヒット勢が返り咲く可能性も高そう。ただ、同じ顔触ればかりが並ぶよりも、今週みたいにそれなりに入れ替わりがあった方がチャートに活気があって楽しいですよね。

そんな訳で、明日はHot Albums!

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2021年8月24日 (火)

「アフリカ」を前面に

Title:Mother Nature
Musician:Angelique Kidjo

今年開催された東京オリンピック。いろいろ物議をかもした開会式の中で、一番驚いたことがありました。それは彼女、アンジェリーク・キジョーの登場。ジョン・レジェンドやキース・アーバンといった大物ミュージシャンと共に登場し、「イマジン」を熱唱し、大きな話題に・・・という感じではなく、正直なところ「誰?」のような感覚だったようです。確かに彼女は、グラミー賞を4度受賞していたり、ユニセフの親善大使を務めるなど、間違いなく「世界的なミュージシャン」ではあるものの、日本と特に縁のあるミュージシャンではなく、彼女を選ぶセンスの良さはともかくとして、あえて日本のオリンピックの開会式に登場させる意味については、疑問符が残ってしまうのは間違いないでしょう。

さて、もともとユニセフの親善大使だったり、アフリカの女子教育を支援するNPO団体「バトンが・ファンデーション」を設立したりと、社会的な活動も目立つ彼女。そんな中リリースされた今回のアルバムは、積極的に「アフリカ」を意識したアルバムになっており、なおかつ、数多くのアフリカ出身のミュージシャンたちとのコラボが大きな特徴となっています。「Africa,One Of A Kind」では、アフリカ音楽を代表する大御所ミュージシャン、Salif Keitaと共演。当サイトでも取り上げたことのあるナイジェリア人のシンガーソングライターBurna Boyや、Beyonceのアルバムにも参加したことのあるナイジェリアのシンガーソングライターYemi Aladeなどなど、数多くのアフリカ系のミュージシャンが参加しています。

そんなアルバムなだけに楽曲的にもトライバルな作風の曲が目立ちます。例えば前述のSalif Keitaが参加した「Africa,One Of A Kind」では、トライバルで軽快なパーカッションのサウンドがいかにもアフリカ的。爽快でスケール感も覚える作品に。"You are Africa/We are Africa"と歌いこの曲は、人類みなアフリカの血が流れているという、アフリカ讃歌となっています。また「One Africa(Independance Cha-Cha)」も印象的。「アフリカの年」と言われた1960年にリリースされた、「コンゴ音楽の父」とも言われるル・グラン・カレによる楽曲のリメイク。アフリカの国々の名前も読み込まれた歌詞も印象的な、軽快でリズミカルな楽曲を聴かせてくれます。

このように、明確にアフリカを意識した1枚ではあるのですが、ただ、実はアルバム全体としては必ずしもアフリカ音楽らしいトライバルな要素ばかりが前に出ている訳ではなく、むしろ良い意味であか抜けた感のある、明るいポップという印象を受ける作品になっています。1曲目の「Choose Love」などはまさにそんなナンバーで、伸びやかなボーカルを爽やかに聴かせるR&B的なポップスに仕上がっていますし、Burna Boyをゲストに迎えた「Do Yourself」も、トライバルなリズムで軽快に聴かせつつ、軽快でポップな作風の曲調はかなりあか抜けたものとなっています。「Mycelium」もムーディーでドラマチックなナンバー。哀愁たっぷりのメロディーラインは日本人の琴線に触れそう。ラストの「Flying High」も、リズムにはトライバルな要素も見え隠れするのですが、メロディーは爽快なポップスにまとまっており、広い層にアピールできそうな楽曲に仕上がっています。

「アフリカ」という点を前面に出しつつ、ただ一方では決してトライバルな方向に行き過ぎない、いい意味でのポップな要素を感じられるアルバムになっていたと思います。東京オリンピックの開会式に出場し、日本でも注目・・・と行きたいところなのですが、残念ながらほとんど話題になっていないのが残念なところ・・・。ただ、開会式を見ていた方で少しでも気になった方がいたら、是非とも聴いてほしい1枚だと思います。日本でももっと知名度が高まればうれしいのですが。

評価:★★★★★

Angelique Kidjo 過去の作品
Remain in Light
Celia

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2021年8月23日 (月)

話題のインディーミュージシャンが数多く参加

Title:Bills&Aches&Blues

インディー・レーベル・・・と言われて、おそらくラフ・トレードなどと共に真っ先に名前をあげられるであろうイギリスの老舗インディーレーベル、4AD。もともとは70年代にコクトー・ツインズなどの活躍でその名を知られるようになり、その後、かのPixiesも所属。The BreedersやBon Iver、さらにDeerhunterやGrimesなど、現在に至るまで途切れることなく話題のミュージシャンを輩出し続けているインディーレーベルです。そんなレーベルも設立40周年を迎え、その記念としてリリースされたのが本作。現在、所属する18組のミュージシャンが、4ADの過去の名曲をカバーするオムニバスアルバム。個性派揃いの18組のミュージシャンが、それぞれ思い思いのスタイルで4ADの名曲の数々をカバーしています。

この18組のミュージシャンは、まさに今を時めく話題のミュージシャンも目立ちます。U.S.GirlsやDry Cleaning、Helado Negro、Jenny HvalにBig Thiefなど、当サイトでも紹介したことのあるミュージシャンたちもズラリと並んでいます。その中でも目を惹くのが、4ADの大御所中の大御所、The Breeders。現在でも現役の4ADの看板ミュージシャンである彼女たちは、今回のアルバムにカバーされる側でもカバーする側での名前を連ねているのが非常にユニークです。

そんなThe BreedersがカバーするのはHis Name Is Aliveの「Dirt Eaters」。静かなギターサウンドをバックに静かに聴かせるカバー。決して派手なスタイルではないものの、原曲の雰囲気に沿った形で、しっかりとベテランらしい卒のないカバーに仕上げています。

さてそんなアルバムがスタートしてまず耳を惹くのが1曲目。ジンバブエ出身オーストラリア育ちの女性ラッパーTkay MaidzaによるPixiesの代表曲「Where Is My Mind?」のカバー。エレクトロサウンドをバックにしつつ、ゆっくりと歌い上げるスタイルのカバーで、原曲のポップな側面をより強調したカバーに仕上げています。まさに冒頭を飾るにふわさしいPixiesの魅力をしっかりと伝えるカバーになっています。

続くU.S.GirlsによるThe Birthday Partyの「Junkyard」のカバーも秀逸。こちらの原曲は今回、これを機にはじめて聴いてみたのですが、非常にダークな雰囲気の原曲をU.S.Girlsは見事に自己流に調理。トライバルなリズムを入れることにより、ダークで妖艶という原曲の持つ雰囲気とポップな要素を見事に融合させたカバーに仕上げています。

Dry CleaningによるGrimesの「Oblivion」のカバーも個人的にはお気に入りのカバー。エレクトロアレンジだった原曲の雰囲気が一転、ノイジーなギターと気だるいボーカルによるシューゲイザー的なカバーに生まれ変わっており、個人的にはこちらもかなり好みなアレンジ。もっとも原曲の持ちポピュラリティーは本作でもしっかりと健在です。

原曲のイメージをガラリと変えているという点ではDeerhunterのリードシンガー、Bradford CoxによるThe Breedersの「Mountain Battles」も耳を惹きます。中盤にメロディアスな歌は登場するものの、最初と最後は、サイケな音の塊が襲ってくるアバンギャルドなアレンジに。原曲の雰囲気を完全に解体しつつ、彼らしいカバーに仕上げています。

そしてアルバムのトリを飾るのはBig Theifの、これまたThe Breedersのカバー「Off You」。彼女たちらしいアコースティックなサウンドでのフォーキーなカバーに仕上げており、完全にBig Theifらしい楽曲に仕上がっている本作。The Breedersの本来持っていたポップなメロの魅力を存分に生かしたカバーに仕上がっています。

そんな訳で、どのカバーも、原曲の雰囲気をそのまま残したようなカバーもあれば、完全に自分たちのフィールドに引きずり込んだカバー、さらには原曲を完全に解体したようなカバーもありつつ、しかし、どのミュージシャンもしっかり自らの個性をカバーに付与している作品ばかりとなっていました。それだけ所属しているミュージシャンがみんな、非常に力を持ったミュージシャンばかりということなのでしょう。偉大な先輩たちの楽曲に、まったく引けを取らないカバーを聴かせてくれています。まだまだこれからも4ADのミュージシャンたちの活躍が続きそう・・・そう確信できるオムニバスアルバムでした。

評価:★★★★★

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2021年8月22日 (日)

これを「教養」というのはちょっと厳しいような・・・

今回は最近読んだ音楽関連の書籍の感想

音楽評論家の川﨑大助氏によるロック名曲集「教養としてのロック名曲ベスト100」。彼はいままでもこの手の書籍を何点か記しており、「日本のロック名盤ベスト100」「教養としてのロック名盤ベスト100」をこのサイトでも紹介してきました。今回はそのリリースの第3弾・・・というより、「教養としてのロック名盤ベスト100」に連なる作品となります。この「ロック名盤」ではアメリカの音楽雑誌、ローリング・ストーン誌と、イギリスの音楽雑誌NMEの「Greatest Albums」にランクインしたアルバムをピックアップし、集計した結果を紹介していますが今回も同様。ローリング・ストーン誌が2010年に発表した"The 500 Greatest Songs of All Time"と、NMEが2014年に発表した"The 500 Greatest Songs of All Time"を使用。両者に共通してランクインした曲をピックアップした上で、順位に従ったポイントを付け、両者を合計した結果を並べた結果を紹介しています。

その前作「ロック名盤」でも、ローリング・ストーン誌及びNMEでそれぞれ主張のあるリストになっていたために、結果は少々いびつな結果になっていますが、正直言って、今回の「ロック名曲」については、そのいびつさがさらに際立った結果となっています。それについては川﨑氏もかなり自覚しているようで、その旨のコメントは本誌に繰り返し登場してきています。

ただ、そういう「偏り」をわかった上で、単純合算の結果を単なるベスト100に並べるというスタイルは、さすがにちょっと無理があるようにも思いました。これを例えばブログ記事とかで紹介するのならおもしろいといえばおもしろいのですが、新書として発刊し、かつこれをロックの「教養」と言い切るのはかなり辛いのでは・・・?まあ、確かに基本的には並んだ100曲は、偏りがあるとはいえ「スタンダードナンバー」として通用する曲がほとんどなので、おそらくほぼ全曲、SpotifyやApple Musicなどのストリーミングサービスで聴けると思うので、このリストを頼りに聴いていってみるのもおもしろいとは思うのですが・・・ただそれをやるのなら、単純にローリング・ストーン誌の上位50曲と、NMEの上位50曲を聴けばいいだけのような気もします・・・。

また今回「ロック名曲」と書いているのですが、原題を見ればわかるように、両者とも必ずしもロックのベスト500を選んでいるわけではありません。確かにここ50年以上、最近はHIP HOPにとってかわられつつあるものの、基本的にロックミュージックがヒットの中心として君臨してきただけに、結果として上位にランクインしてきたのはロックがメインとなっています。ただ、特にローリング・ストーン誌ではR&B/Soulの名曲もロックと同じくらいランクインしているなど、必ずしもロックのみの名曲集ではありません。

以前の川﨑氏の著書の感想でも書いた通り、彼はどうも、今となっては若干時代遅れになった感もある「ロック至上主義」的な史観の持ち主のようで、それなりの割合でR&B/Soulの曲が混じっているにも関わらず「ロック名曲」という題名になったのもその表れでしょう。また、前作「ロック名盤」でも感じたのですが、ロックとそれ以外の曲に、記述の熱量にかなりの差が見られます。

ロックの名曲に関しては、これでもかというほどの熱量を感じる記述が目立つのに対して、R&B/Soulの曲に関しては、それなりの熱量のある曲もあるものの、Wikipediaあたりから引っ張れる情報を羅列しただけでは?という程度の記述も少なくなく、ここらへんは以前の彼の著書と同様、癖のある記述も目立ちました。

そういう点からも、偏りのあるランキングからも、若干癖のある1冊であり、「ロック名盤」同様、これを「教養」として盲信するにはかなり危険な感のある1冊のようにも思います。ただ、そこらへんの要素を加味しつつ読む分には、ある意味、アメリカとイギリスのそれぞれのポピュラーミュージック観もわかり、興味深いといえば興味深いランキングと言えるかもしれません。もろ手をあげてお勧めできるような名曲集ではありませんが、興味ある方は手にとって損はない1冊です。

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2021年8月21日 (土)

RCサクセションの本質が伝わる名盤

Title:RHAPSODY NAKED Deluxe Edition
Musician:RCサクセション

昨年から、忌野清志郎デビュー50周年としてRCサクセションあるは忌野清志郎ソロ作に関して、様々な企画が立ち上がっていますが、本作はその第4弾企画となります。もともと1980年にリリースされ、RCサクセションを代表する名盤として知られるライブアルバム「RHAPSODY」。その後、未発表音源を加えた完全版として2005年に「RHAPSODY NAKED」がリリースされていますが、本作は、その「RHAPSODY NAKED」をリマスター。さらにはオフィシャルブートレグとして、1980年前後のライブ音源を収録したCDを追加。限定版にはさらにLPにライブ映像作品も加えた豪華内容になっています。

RCサクセションといえば数多くの傑作アルバムを世に送り出し、セールス的には1988年にリリースし、東芝EMIからのリリースが直前に中止になったことでも話題となった「COVERS」が、彼らのアルバムとしては唯一のチャート1位を記録しています。本作はリリース時にチャート最高位47位と決してヒットしたとは言い難く、かつオリジナルアルバムではなくライブアルバム。それでもRCサクセションを代表する名盤というと、本作が取り上げられるケースが少なくありません。

しかし、あらためてこのアルバムを聴くと、なぜ本作が彼らを代表する傑作と言われるのか、その理由はよくわかるように思います。まず、このライブ音源から伝わってくる熱量が半端ありません。当時のメインメンバーは29歳。すっかりアラフィフ、アラカンのロッカーも少なくなくなった現在と異なり、当時はそろそろベテランの領域に入ってくる年代でしょう。しかし、このアルバムから感じる攻撃性は、年齢なりの衰えは全くありませんし、むしろそこにそれなりのキャリアに伴う技量が加わったことにより、一方ではある種の余裕とそれにともなうユーモラスさがライブパフォーマンスに加わっています。それだけに今聴いても、非常に迫力のあり、かつ魅力的なパフォーマンスがCDを通じてもしっかりと伝わってきます。

さらに一番大きいのは、RCサクセションの音楽的なルーツが、ライブ音源ではより伝わってくる、ということではないでしょうか。例えばオリジナルの「RHAPSODY」にも収録されている「上を向いて歩こう」のカバーなどが典型的なのですが、オーティスレディングの影響を強く受けているボーカルスタイルで、ソウルの要素を強く取り入れていますし、梅津和時のサックスにより、全体的にもよりソウルからの影響が顕著な音楽性を感じます。

特にオリジナルの方ではカットされていたものの「NAKED」に収録されている「まりんブルース」「たとえばこんなラヴ・ソング」ではゲストに金子マリが登場。彼女のボーカルによって、よりソウルやブルース的な要素も強めていますし、「Sweet Soul Music~The Dock Of The Bay」では、まさにオーティスレディングの名曲もカバーとして取り上げるなど、さらにブルースやソウルからの影響を顕著に感じる構成となっています。

オリジナル音源以上に迫力のあるロックバンドとしての彼らの要素や、さらにソウルやブルースに強い影響を受けているルーツ志向という彼らの要素をより強く感じるこのライブ音源。確かにRCサクセションのよりコアな部分を出している名盤であることは間違いなく、そういう意味でもRCサクセションを代表する1枚として本作が取り上げられているのでしょう。あらためて本作が名盤名高い理由がはっきりとわかりました。

そしてこのデラックスエディションの特徴としてのDisc3。当時のライブ音源が収録されています。「ブートレグ」というサブタイトルの通り、音質としてはさほど良くないのですが、ただそれだけに逆にライブとして現場の空気感をよりとらえられており、ある種のリアリティーも感じられます。「ボスしけてるぜ」のMCでは、この曲が「勤労青年の勤労意欲を削ぐ」という理由で有線放送の放送禁止になった、というMCがあるのですが、本当でしょうか?(笑)ちなみに銀座のことを「粋がった田舎者の街」とけなしているのもキヨシローらしい感じがします。

とにかく、全ロックリスナーが聴くべき、日本のロック史を代表する名盤ということは間違いないでしょう。個人的にはオリジナル音源よりも、より彼らの本質がわかる「NAKED」の方がより優れているように感じます。オフィシャルブートレグも聴きどころが多いですし、これを機に、是非とも聴いてほしい名盤です。

評価:★★★★★

RCサクセション 過去の作品
悲しいことばっかり
シングル・マン+4
SUMMER TOUR '83 渋谷公会堂~KING OF LIVE COMPLETE~
COMPLETE EPLP~ALL TIME SINGLE COLLECTION~

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2021年8月20日 (金)

良くも悪くもベテランらしい作品

Title:LOVE PERSON
Musician:徳永英明

今年、デビューから35周年を迎える徳永英明。2010年代に入って「VOCALIST」シリーズのヒットもあり、再び人気が吹き返してきた感もあり、本作もビルボード及びオリコンチャートで3位にランクインされるなど、デビューから30年以上を経てなお、その人気ぶりをうかがわせます。本作はそんな彼の4年ぶりとなるニューアルバム。「身近な人への愛と感謝」をテーマとしている作品だそうで、このコロナ禍だからこそ、あえて身近な人に対して思いをはせる、そんなアルバムと言えるかもしれません。

ただ「LOVE PERSON」というそのままなタイトルもベタですし、ここに来て「身近な人への愛と感謝」というテーマもある意味、ベタ。ある意味、非常にわかりやすいアルバムといった感もあるのですが、楽曲の内容に関しても、いかにも歌謡曲的とも言えるメランコリックなメロディーライン主導の良くも悪くも「わかりやすい」内容になっています。聴いていて安定感もありますし、ベテランの仕事といった感じでしょうか。よく言えば、しっかり壺をついたメロディーラインで安心して楽しむことが出来るアルバムになっていますし、悪く言ってしまうと、目新しさもなく、過去の作品の焼き直し、とも言えるアルバムと言えるかもしれません。

もっともこの傾向は、前作「BATON」もそうでしたし、ここ数作、ずっとこのような傾向が続いています。結果、非常にマンネリ気味のアルバムが続いており、作品としての出来も決して褒められたものではありませんでした。ただそんな中で今回のアルバム、ここ数作の中ではメロディーラインをグッと聴かせる曲も増えて、出来としても比較的よく出来たアルバムに仕上がっていたように思います。

例えば「You and me」など切なくも爽やかさを感じるメロディーラインが印象に残りますし、「ゆずり葉の夢」なども泣きメロとも言えるメロディーラインがインパクト。ラストを締めくくる「tomorrow」も哀愁たっぷりのメロディーラインが耳に残ります。歌謡曲的で保守的という点はここ数作のアルバムと同様であり、残念ながら「新たな挑戦」のようなものは皆無なのですが、そのような中でも比較的今回のアルバムはしっかりとしたインパクトを持った楽曲が並ぶ作品に仕上がっていたように感じました。

ちなみに本作は初回盤のパターンが多くて、写真集付き、MTV unpluggedライブの映像付き、ベスト盤付き、「VOCALIST」シリーズからのセレクト盤付きと5パターン。まあ、ファン層的にはそれなりの年齢となっており、お金に余裕がある方も少なくないのでしょうが、さすがにちょっと露骨すぎるような・・・。ベスト盤にしても何枚目だろう、といった感は否めませんし・・・。その点はちょっと残念でした。

そんな訳で、全体的にデビュー35周年というベテランらしさが出ていたアルバムに。良い意味では安定感ありしっかりとリスナーの壺をついた作品が魅力的でしたし、悪い意味では過去の栄光に留まっており、ミュージシャンとしての挑戦心が皆無だった点がマイナスポイント。ただ、ここ最近、同じような傾向のアルバムが続く中では比較的、良くできた作品だったように感じます。今後もこういう路線が続くんだろうなぁ。

評価:★★★★

徳永英明 過去の作品
SINGLES BEST
SINGLES B-Side BEST

WE ALL
VOCALIST4
VOCALIST&BALLADE BEST
VOCALIST VINTAGE
STATEMENT
VOCALIST 6
ALL TIME BEST Presence
Concert Tour 2015 VOCALIST&SONGS 3 FINAL at ORIX THEATER
ALL TIME BEST VOCALIST
BATON
永遠の果てに~セルフカヴァー・ベストI~
太陽がいっぱいPlein Soleil~セルフカヴァー・ベストII/徳永英明

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2021年8月19日 (木)

こちらもジャニーズ系が1位

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

Hot100に続き、Hot Albumsもジャニーズ系が1位。どうも最近、アイドル系以外に大型新譜がリリースされていないような感があります。コロナ禍でミュージシャンの創作意欲が落ちているのでしょうか?

今週1位を獲得したのはジャニーズ系男性アイドルグループKis-My-Ft2「BEST of Kis-My-Ft2」。CD販売数及びPCによるCD読取数1位で総合順位も1位獲得。デビュー10周年を記念したベストアルバムで、2014年の「HIT!HIT!HIT!」以来2作目のベスト盤。オリコン週間アルバムランキングでも初動売上24万7千枚で1位を獲得。これは直近のベストアルバム「To-y2」の初動19万1千枚(1位)よりもアップしていますし、ベスト盤としての前作「HIT!HIT!HIT!」の初動21万8千枚(1位)からもアップしています。

2位初登場はKnight A-騎士 A-「The Night」。CD販売数2位、ダウンロード数12位、PCによるCD読取数19位。You Tubeなどで活躍する6人組グループで本作が初のミニアルバム。オリコンでは初動売上3万3千枚で3位初登場。

3位はBTS「BTS,THE BEST」が先週の8位からランクアップし、ベスト3返り咲き。5週ぶりのベスト3入りに。特にCD販売数が13位から5位に大きくアップしています。これで9週連続のベスト10ヒット。なぜここに来てランクアップしてきたのはいまひとつ不明なのですが・・・。

続いて4位以下の初登場盤です。まず4位にSHINJIRO ATAE(from AAA)「THIS IS WHERE WE PROMISE」がランクイン。avexのダンスグループAAAのメンバー、與真司郎によるソロアルバム。CD販売数は3位でしたが、ダウンロード数62位、PCによるCD読取数は圏外となり、総合順位はこの位置に。オリコンでは初動売上9千枚で4位初登場。

5位初登場はロックバンドSPYAIRのベストアルバム「BEST OF THE BEST」。CD販売数4位、ダウンロード数28位、PCによるCD読取数47位。もともと昨年、結成15周年、デビュー10周年を記念してプロジェクトが企画されていたのですが、コロナ禍のため断念。1年を経て、あらためて企画されリリースされたのが本作。2014年にベスト盤をリリースしているので、それに続くベスト盤となります。オリコンでは初動売上8千枚で5位初登場。直近のオリジナルアルバム「UNITE」の7千枚(9位)からは若干のアップ。ただ、前回のベスト盤「BEST」の初動2万6千枚(3位)からは大きくダウンしています。

初登場最後は6位にランクインした月ノ美兎「月の兎はヴァーチュアルの夢をみる」でした。CD販売数8位、ダウンロード数4位、PCによるCD読取数63位。VTuber集団「にじさんじ」の中のキャラクターの一人。本作がデビューアルバムとなるのですが、楽曲を提供しているのが、ASA-CHANG&巡礼、長谷川白紙、堀込泰行、大槻ケンジと音楽ファン的にかなり豪華。さらにはNARASAKIやいとうせいこうといったメンバーも参加しています。この手のネット初ミュージシャンのアルバムというと、ボカロPのような同じネット系のミュージシャンが楽曲提供するケースが多い中、少々異色な感じもします。オリコンでは初動売上5千枚で9位初登場。

今週のHot Albumsは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2021年8月18日 (水)

3週連続ジャニーズ系

今週のHot100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

これで3週連続で1位がジャニーズ系、2位3位がBTSというチャートとなりました。

今週1位初登場はSixTONES「マスカラ」。CD販売数、PCによるCD読取数及びTwitterつぶやき数1位、ラジオオンエア数2位、You Tube再生回数4位。先週の55位からCDリリースに合わせてランクアップし、1位を獲得しています。King Gnuの常田大希作詞作曲によるナンバーは、彼らしさが前面に出ているナンバーに。オリコンでは初動売上49万6千枚で1位初登場。前作「僕が僕じゃないみたいだ」の43万1千枚(1位)よりアップしています。

常田大希といえば、millennium parede×Belle「U」が健闘していたのですが、今週、残念ながら12位にダウン。残念ながらロングヒットには至りませんでした。

2位3位はBTS。先週同様、「Permission to Dance」が2位、「Butter」が3位という結果に。ストリーミング数及びYou Tube再生回数が1位2位に並んでいるという結果も先週と同様。これで「Butter」は13週連続のベスト10ヒット&ベスト3入り。BTSは「Dynamite」も先週からワンランクダウンながらも8位にランクイン。これで52週連続のベスト10ヒットとなりました。

4位以下の初登場曲ですが、今週は4位にYOASOBI「ラブレター」が初登場。ダウンロード数1位、ストリーミング数17位、ラジオオンエア数16位、Twitterつぶやき数45位、You Tube再生回数47位。JFN系ラジオ局で放送中の"日本郵便 SUNDAY'S POST"との共同企画で実施している"レターソングプロジェクト"から生まれた楽曲。ラジオ発の楽曲の割りにラジオオンエア数がいまひとつなのは、逆にJFN系に紐づいた曲のため、他のラジオ局ではかからない影響でしょうか?ホーンセッションなども入って、賑やかで祝祭色の強いナンバーになっています。

ちなみにYOASOBIは今週「怪物」がワンランクダウンの7位に、「夜に駆ける」も同じくワンランクダウンの9位にランクイン。「怪物」は通算28週目、「夜に駆ける」も通算66週目のベスト10ヒットとなっています。一方、先週10位だった「三原色」は11位にダウン。こちらはロングヒットは難しそうです。

そして今週はベスト10返り咲きも1曲。藤井風「きらり」が先週の11位からワンランクアップ。6月23日付けチャート以来、8週ぶりのベスト10返り咲きとなりました。Honda「VEZEL」CMソング。5月12日付けチャートで2位にランクインした後、7週連続ベスト10ヒットを記録していたものの、その後、残念ながらベスト10からダウン。ただそれ以降も常にベスト20はキープしており、今週、ついにベスト10に返り咲きました。これで通算8週目のベスト10ヒットを記録しています。今後、さらなるロングヒットが期待できそう。

さらに徐々に人気を伸ばしているのがOfficial髭男dism「Cry Baby」。今週は6位と残念ながら先週からワンランクダウンとなりましたが、これでベスト10ヒットは通算8週目に。今後のさらなるヒットも期待できそう。かなり分厚いサウンドのゴシック調でダイナミックなアレンジが耳を惹きつつ、メロディーラインが複雑に展開しつつもポップにまとめあげているのが彼らの実力を感じさせます。BTSの牙城を切り崩すことが出来るのでしょうか?

さて、その他のロングヒット曲といえば優里「ドライフラワー」。今週は先週の4位からワンランクダウンの5位。これで39週連続のベスト10ヒットに。カラオケ歌唱回数も28週連続の1位となりました。

そろそろベスト3のジャニーズ系&BTSの牙城が崩れてくれないかなぁ、と思いつつ、明日はHot Albums!

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2021年8月17日 (火)

待望(?)のニューアルバム

Title:Welcome 2 America
Musician:PRINCE

2016年にわずか57歳という若さでプリンスがこの世を去ってから、早くも5年の月日が経過しました。もともと生前から非常に多作であった彼ですが、その逝去直後に金庫からアルバム約100枚分という未発表音源が発見されるなど、大きな話題となり、当然、未発表曲のリリースも期待されていました。そんな中、ついにリリースされた未発表曲集からなるニューアルバムが本作。もともと本作は2010年のリリースが予定されており、同タイトルのツアーまで行ったものの、なぜかリリースされることのなかった作品。The Beach Boysの「Smile」しかり、この手の「幻のアルバム」は少なくありませんが、本作はそんな「幻のアルバム」がついにリリースされた作品と言えるかもしれません。

本作はそんな表題曲が1曲目に収録されています。タイトルとは異なり、ダウナーにスタートするその作品は、「アメリカへようこそ」というタイトルが、むしろ皮肉として使用されていることは、歌詞の内容がわからなくても容易に想像できます。本作ではアメリカの教育、雇用、社会問題が皮肉たっぷりに語られており、さらにはGoogleに対して批判する一節すら登場します。

さらに続く「Running Game(Son Of A Slave Master)」では音楽業界にはびこる黒人差別を取り上げた作品。1曲目に続き、アメリカの現状の問題を全面的に取り上げた作品となっています。しかし、これらの曲は、リリース予定だった2010年から10年以上の月日が経過した現在でも残念ながら間違いなく有効な題材。なぜ、彼が2010年にこのアルバムのリリースを取りやめたのか、今となってはわかりません。ひょっとしたらその主張の切り込みが甘すぎると感じたのかもしれません。しかし、それから10年以上たった現在においても、いやむしろ今だからこそ、彼の主張はより私たちの心に響いていきます。

そんな作風の曲が続くため、序盤は比較的ダウナーに、ちょっと暗い雰囲気でスタートする本作。ただ、中盤以降はファンキーでポップな、明るい作風の曲も目立ちます。「Hot Summer」などはまさにテンポよく、タイトル通り、明るい爽快な夏場を彷彿とさせる楽曲。「Check The Record」もファンキーなギターサウンドが軽快で印象に残りますし、「Same Page,Different Book」も明るくファンキーでポップな作品。終盤の「Yes」もライブなら盛り上がっただろうなぁ・・・ということを感じさせる陽気な楽曲ですし、ラストの「One Day We Will All B Free」も爽快なポップチューンで締めくくられています。

冒頭こそ、若干暗い雰囲気でスタートするものの、アルバム全体としては明るいポップな作品が目立ち、最後も爽快な雰囲気で締めくくる本作。正直、作品としては目新しさはなかったのですが、プリンスらしさは随所に感じられる、非常に良くできたアルバムになっており、これが発表されず「幻のアルバム」となっていたのは不思議に感じられます。

もっとも一方、このようなミュージシャン本人が封印した未発表音源を世に出すという方針には、反対意見も少なくありません。確かに発表できずにボツした音源を後の人が勝手にリリースしていいのか、というのは難しい問題ではあります。ただ一方、未発表音源を大量に倉庫に保存していたということは、今後、どのような形かで、世に出そうとは考えていた、ということも言えなくはないので・・・そういう意味では難しい問題ではあるのですが・・・。ただ、やはり純粋にリスナーとしては、プリンスの未発表曲が聴ける、というのは素直にうれしい、というのが正直なところ。「未発表曲がアルバム100枚分」ということが発表されている以上、今後もプリンスのアルバムはコンスタントに続きそうな予感もします。もちろん、ある程度厳選してほしいのですが、ここは素直に今後のリリースも期待したいところでしょうか。プリンスはまだまだ私たちの心の中で生き続けてくれそうです。

評価:★★★★★

PRINCE 過去の作品
PLANET EARTH

ART OFFICIAL AGE
PLECTRUMELECTRUM

HITnRUN Phase One
HITnRUN Phase Two
4EVER
Piano&A Microphone 1983
Originals

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2021年8月16日 (月)

全世界注目の2枚目

Title:Happier Than Ever
Musician:Billie Eilish

今、世界でもっとも注目を集めているミュージシャンといえば、間違いなく彼女、ビリー・アイリッシュではないでしょうか。前作「WHEN WE ALL FALL ASLEEP,WHERE DO WE GO?」は世界中で大きな注目を集め、昨年1月に行われたグラミー賞では、主要四部門を独占するなど、名実ともに、世界を代表するポップミュージシャン、といっても過言ではないでしょう。

そんな中、ついにリリースされた、前作から約2年4か月ぶりにリリースされた2枚目のオリジナルアルバムが本作。文句なしに本国アメリカやイギリスをはじめ、世界各国のチャートで1位を獲得し、新作に対しての期待の大きさを感じさせます。そうしてリリースされたニューアルバムですが、まずはそのジャケットが目を惹きます。典型的な「白人女性」のスタイルに、肩もあらわにし、「女性性」を前面に出したセクシーなポーズが印象的。まるで精神病患者のように、暗い部屋の中でベットの端に座り、白目をむいていた前作のジャケットとはあまりに対照的。彼女自体は、普段から白人ミュージシャンとして珍しいほど積極的にBLMに対しても発言するなどの姿勢も目立つため、このいかにも白人女性的なジャケット写真の姿は、ある意味「皮肉」ともとれるかもしれませんし、前作とは異なる姿に、固定的な彼女に対するイメージを拒否するスタンスもあったのかもしれません。

そして肝心の楽曲ですが、前作よりもよりポップにまとまっている作品になっていました。前作でも、抑え目のサウンドで淡々と表現するような楽曲が目立ったのですが、今回も基本的には同じ方向性。必要以上に盛り上がることのない作風で淡々としたポップスが続いていきます。ただ、前作で「ダークポップ」なるいわれ方をしたような暗い雰囲気の楽曲は少なく、全体としてはむしろメロディアスでポップという印象を抱くような作品が並んでいたように感じます。

サウンド的にも「Oxytocin」のようなエレクトロチューンや、「Not My Responsibility」のようにドリーミーなサウンドをバックに淡々と語るような作品もありつつ、「Billie Bossa Nova」「Halley's Comet」のようなメランコリックなメロディーラインでムーディーに聴かせる曲が目立ったように思います。タイトルチューンとなっている「Happier Than Ever」も序盤はアコギでフォーキーに聴かせる曲調からスタート。後半はダイナミックなバンドサウンドで盛り上がるのですが、続くラストチューンの「Male Fantasy」も再びアコギでしんみりフォーキーに聴かせる楽曲でアルバムは締めくくられています。

前作同様、エレクトロやHIP HOP、フォーク、ロック、ポップスなどの音楽性を感じるのですが、今回はその中でもポップスやフォークなどの要素がより強かったように感じます。淡々としたメロディーラインで決してインパクトの強い楽曲ではないものの、しっかりと耳に残り、最後まで飽きずに聴けることが出来る作品になっていました。そういう点、彼女のソングライターとしての実力を感じます。

また、歌詞については、ここ最近、一気に注目され大きく変化した彼女の身の回りに対しての彼女なりのスタンスを示した歌詞が目立ちます。特にドリーミーなサウンドにのせて淡々とした語りを綴る「Not My Responsibility」では「Do you know me?/Really know me?」と世間の批判に対しての彼女の反抗心を感じさせる歌詞になっており、彼女なりの強いメッセージを感じさせます。

ただ、それでも世間に対しての反発心がかなり強かった前作に対すると、良くも悪くも「まとまった」という感のあるアルバム。それがデビュー作のような勢いを失ったとみるか、一流のポップシンガーとしての安定感を手に入れたとみるか意見はわかれそうですが、個人的には単なるハイプではない、一流のポップシンガーとしての階段を間違いなく大きく上ったアルバムだと思います。このアルバムも大きく注目されそうですし、まだまだ彼女の活躍は止まらなさそう。2枚目の作品ですが、彼女はまだ19歳。まさに末恐ろしさも感じさせる1枚でした。

評価:★★★★★

Billie Eilish 過去の作品
When We All Fall Asleep, Where Do We Go?

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2021年8月15日 (日)

安定のカッコよさ

Title:サンバースト
Musician:The Birthday

前作から約3年4か月ぶりとなるThe Birthdayのニューアルバム。今年で結成15年目。さらにギターにフジイケンジが加入してから早くも10年目を迎えた彼ら。もう、いまさら話を出す必要がなくなってきているのかもしれないのですが、ミッシェル・ガン・エレファントは活動開始から解散まで12年だったので、ついにミッシェルの活動歴を超えてしまったんですね・・・。それだけのキャリアを重ねたからこそ、間違いなくバンドとして成熟期、いい意味での安定期を迎えた感があります。

このジャケット写真の黒をベースに4人並んだ写真も非常にカッコいいのですが、楽曲も問答無用のカッコよさを感じます。1曲目「12月2日」も最初、静寂の中、静かにギターの音が入ると、ギターとドラムスの音で一気に切り込んでくるイントロのカッコよさにまずは震えますし、ヘヴィーなギターリフをバックに、メランコリックに歌い上げるチバのボーカルも文句なしにカッコいい。まずはリスナーの耳をグッとつかむオープニングになります。

続く2曲目「息もできない」は悲しげなメロディーラインが印象的な作品。メランコリックなメロがサビにいくにつれグッと盛り上がる構成がいい意味でポップながらもしびれますし、語るようなボーカルとギターのリフの相性が抜群の「月光」も非常に印象に残るガレージロックのナンバーとなっています。

その後も、ちょっとユーモラスな歌詞も彼ららしい「ラドロックのキャデラックさ」も、雰囲気も含めてThe Birthdayらしいですし、またサビの部分はライブでもみんなで合唱して盛り上がりそう。強いビートで疾走感ある「レボルバー」から、「アンチェイン」「晴れた午後」は疾走感あるギターロックといった感じ。さらにミディアムテンポで「歌」を聴かせる「スイセンカ」へと続きます。ここらへんはThe Birthdayのポップな側面が強く感じさせる楽曲が並びます。

後半は再びヘヴィーなバンドサウンドを前に押し出した曲が。「ショートカットのあの娘」はダイナミックでパンキッシュなバンドサウンドが魅力的。さらにアルバムの中で強く印象に残ったのが「ギムレット」で、こちらもヘヴィーなバンドサウンドをバックにチバの語りが印象的。サビで繰り返される「小さな愛だ!」のフレーズが強く印象に残ります。そしてラストはミディアムチューンでメロディアスにメランコリックなメロを聴かせる「バタフライ」で締めくくりとなります。

全11曲46分強。1曲あたり3~4分程度の長さで、メロディアスな作品も多く、いい意味でポップな内容に。一方ではヘヴィーなギターリフとヘヴィーなバンドサウンドが印象的な作品も多く、ポップな側面とガレージロックバンドとしての側面がいい意味でバランスされている作品に仕上がっていたと思います。全体的には、いつものThe Birthdayという印象も強く、正直、目新しさはないのですが、安定したカッコよさは健在で、数多くのガレージロックバンドとは格の違いも感じさせてくれた作品でした。文句なしの傑作作品。冒頭にも書いた通り、結成から15年。いい意味での成熟期、安定期を感じさせてくれる作品でした。

評価:★★★★★

The Birthday 過去の作品
TEAR DROP
MOTEL RADIO SiXTY SiX
NIGHT ON FOOL
WATCH YOUR BLINDSIDE
I'M JUST A DOG
VISION
GOLD TRASH
BLOOD AND LOVE CIRCUS

NOMAD
LIVE AT XXXX
VIVIAN KILLERS
WATCH YOUR BLINDSIDE 2

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2021年8月14日 (土)

清涼感あふれる歌声は魅力的だが

Title:Simple is best
Musician:手嶌葵

2006年に公開されたスタジオジブリ映画「ゲド戦記」のヒロイン、テルー役として抜擢され、主題歌「テルーの唄」も大ヒットを記録し、一躍注目を集めたシンガー手嶌葵。さらに2011年公開のジブリ映画「コクリコ坂」からでも主題歌を歌い、声優としても参加。すっかりスタジオジブリ御用達・・・というよりも宮崎吾郎監督御用達シンガーとなった彼女。ただ、その後はシングル「明日への手紙」「ただいま」がそれぞれドラマ主題歌にも抜擢されるなど、シンガーとして着実にその地位を固めています。

本作は、そんな彼女のオールタイムベスト。2016年及び2019年にもベスト盤をリリースしていますので、ベスト盤リリースの頻度がちょっと多いのが気になりますが、オールタイムベストという宣伝が功を奏したのか、彼女としては(意外なことに)アルバムとしては初のベスト10ヒットを記録しています。それだけシングルヒット以上に、手嶌葵のボーカリストとしての印象が強かった、ということもあるのでしょうか。

ただ、ベスト盤で彼女の曲をあらためてまとめて聴いてみると、確かにボーカリストとしては非常に清涼感ある声が魅力的ではあるものの、良くも悪くも癖のない声色はボーカリストとしてのひっかかりが弱く感じてしまいます。また、今回「Simple is best」というあまりにストレートなタイトルになっているのですが、楽曲のバリエーションとして似たようなタイプの曲が多く、ピアノとストリングスのアコースティックなサウンドでウィスパーボイス気味のボーカルを聴かせつつ、聴かせる曲がメイン。基本的に「テルーの唄」の延長線上といった雰囲気の曲は多く、もうちょっとバリエーションを増やした方がいいのでは??ということを強く感じてしまいました。

もっともそんな中、秀逸だったのがカバー曲で、おなじジブリ作品主題歌の「風の谷のナウシカ」も、ちょっとジャジーなアレンジをバックに、清涼感あるボーカルでしっかりと聴かせています。彼女の澄んだ美しいボーカルは、ジブリ作品のイメージにもピッタリマッチするんですね。ともすれば原曲以上の名カバーに仕上がっていました。また「瑠璃色の地球」も秀逸。ウィスパー気味のボーカルでしんみり聴かせるボーカルは松田聖子の歌う雰囲気とはちょっと異なるのですが、幻想的な雰囲気で仕上げられた曲調は、原曲のまた異なる良さを引き出しています。

正直なところ、手嶌葵はボーカリストとして一度聴いたら耳にこびりつくような癖のある声をしている訳ではないだけに、もうちょっと曲自体にパンチがないと厳しいのではないか、ということを今回のベスト盤から感じてしまいましたし、だからこそ、このベスト盤こそヒットはしたものの「テルーの唄」以降、それなりにスマッシュヒットは出しているものの、大きくブレイクすることが出来ていないのではないか、とも思ってしまいました。

もっとも今回、初回盤に収録されていた、さらに選りすぐったベストコレクションのDisc2では、キャバレー風の作品で、色っぽいボーカルを聴かせてくれる「Baritone」や、エキゾチックな雰囲気の「1000の国と旅した少年」など、本編よりもバリエーションに富んだ曲もあったりして、手嶌葵の異なる魅力も感じさせます。ひょっとしてオリジナルアルバムでは、こういう異なる雰囲気の曲も楽しめるのかもしれませんが、手嶌葵のボーカリストとしてのさらなる広がりも感じさせますし、異なる曲調の曲ももっと前面に出していった方がおもしろいのでは?「Simple is best」というタイトルですが、むしろシンプルではない曲調の曲も聴いてみたいかも・・・。そんなことすら感じてしまいました。

そんな訳でボーカリストとしての魅力を感じる一方、物足りなさも同時に感じてしまったベストアルバム。そういう意味では今後、あらたな一歩に踏み出すことを期待したいところなのですが。次もまた、ジブリ映画主題歌になるのかなぁ?

評価:★★★★

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2021年8月13日 (金)

名古屋発期待のガレージロックバンド

Title:愛とヘイト
Musician:ビレッジマンズストア

名古屋を拠点に活動するガレージロックバンド、ビレッジマンズストアのフルアルバムとしては2枚目となるアルバム。「ヘイト」という単語を使うあたりは、「今風」という感じがする一方、「愛とヘイト」というタイトルは、非常にシンプルであり、なおかつ、直訳すると「愛と憎しみ」というある種ベタなタイトルとも言えます。ただ、彼らの奏でるロックンロールは、シンプルなガレージロックという、シンプルかつ、見方によっては「ベタ」なもの。そういう意味では今回のアルバムタイトルは彼ららしい、とも言えるかもしれません。

ただ、アルバム全体としてはシンプルなガレージロック路線を主軸として、バラエティーに富んだ幅のあるサウンドを聴かせてくれています。イントロ的な1曲目「ラブソングだった」ではミディアムテンポのバラードナンバーからのいきなりのスタートとなるのですが、序盤はシャウト気味のボーカルに疾走感あるリズムが特徴的なガレージロックナンバーが続きます。「猫騙し人攫い」「クロックワーク・パインアップル」「Poeple Get Lady」と迫力あるガレージロックが続き、本作の中でもっともロックバンドとしての神髄を感じられたのがこの前半でした。

一方、中盤は比較的ポップな路線の楽曲が続きます。ヘヴィーなバンドサウンドやギターリフが入ってくるあたり、しっかりロックバンドとしての矜持を感じさせてくれるのですが、「アダルト」「名前しか無い怪物」など、ある意味J-POP的なポップなメロが流れる曲があったり、「御礼参り」などはメランコリックなメロがちょっとビジュアル系(?)っぽさを感じたり。前半の硬派な路線と比べると、ポップな彼らの側面を感じられるのが中盤でした。

さらに後半は、よりメロコアやパンクロックからの影響を感じさせるような曲が並びます。「黙らせないで」「Love me tender」などはよりメロコア的な色合いが強く、良くも悪くも、ここ最近の「夏フェス向け」といった感じの曲になっています。ライブでは盛り上がりそうな感じもするのですが、序盤と比べると、ちょっと軟派なイメージもする終盤になっていました。

このバラエティー富んだ振れ幅のある作風については、良い意味では彼らの音楽性の広さと言えるかもしれません。ただ一方で個人的にはちょっと統一感のなさも感じました。特に前半の硬派なガレージロック路線が非常にかっこよかっただけに、後半ももっとこの路線を貫いてほしかった感もあります。前作「YOURS」でも感じたのですが、ちょっとポップ寄りに傾きすぎている感が・・・。いや、ポップなメロを奏でられるというのも彼らの魅力ではあるとは思うのですが、そのバランスがちょっと悪かったように感じます。

とはいえ、全体的には非常にかっこよいバンドであることは間違いなく、個人的に地元名古屋のバンドという点も含めて、より応援したくなるバンドであることは間違いありません。ちなみに時折、「名古屋のバンド」であることを主張する固有名詞が登場するのも特徴的で、本作でも「ラブソングだった」の中に

「消えていく後ろ姿は桜通の
地下に消えていく」
(「ラブソングだった」より 作詞 水野ギイ)

という歌詞が登場。ここで言う「桜通」というのは、名古屋の中心部を東西に貫く大通りのうちの1本。こういうふとした地元描写はやはりうれしくなりますね。

評価:★★★★

ビレッジマンズストア 過去の作品
正しい夜明け
YOURS


ほかに聴いたアルバム

貴方を不幸に誘いますね/ツユ

ボカロPなどで活躍していたぷすを中心として結成した、イラストや動画担当も含めて5人組となる音楽ユニット。アルバムタイトルからもわかるように、自意識肥大的な「中2病」的な要素も強い歌詞がインパクト。サウンドは過剰気味な部分やマイナーコード主体の節回しはいかにもボカロ出身といった感じなのですが、爽やかな感じにちょっとシティポップ的な要素も感じられるメロディーラインは悪くはなく、さらなる成長も期待できそう。「中2病」的な歌詞はちょっと痛さも感じるのですが、変に日和ることなく、このまま突き進めばおもしろいかも。

評価:★★★★

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2021年8月12日 (木)

女性アイドル勢が1位2位

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

Hot100は男性アイドル勢の1位が続いていますが、こちらは先週に続き女性アイドル勢が1位獲得です。

今週1位を獲得したのは女性アイドルグループBiSH「GOiNG TO DESTRUCTiON」。CD販売数1位、ダウンロード数2位、PCによるCD読取数3位。オリコン週間アルバムランキングでは初動売上4万5千枚で1位初登場。前作「LETTERS」の初動5万4千枚(1位)からダウンしています。

一方、2位は韓国の女性アイドルグループBLACKPINK「THE ALBUM」が獲得。ただ、初登場ではなく、2020年10月21日付チャートで4位を獲得しており、それ以来43週ぶりのベスト10返り咲き。これは同作はもともと昨年の10月2日にリリースしていたのですが、8月3日で日本語版がリリースされた影響。先日のHot100のYOASOBIもそうですが、Billboardでは言語違いは「同一の作品」と扱われているようですが、ただ、さすがに無理がないか??オリコンでは「新譜」と扱われ、初動売上2万4千枚で3位初登場。同作のオリジナル版の初動2万2千枚(4位)から若干のアップとなっています。

3位はラッパーZORNのニューアルバム「925」が獲得。ダウンロード数では見事1位を獲得し、上位ランクインの主要因となっていますが、一方、CD販売数は32位、PCによるCD読取数も82位に留まっており、極端な配信偏向型となっています。前作「新小岩」も同じようにダウンロード数が1位に対してCD販売数が20位に留まりつつ、総合チャートで見事1位となりましたが、もうHIP HOPのリスナー層はCDなんて過去の遺物に成り下がったというころなのでしょう。オリコンでは初動売上1千枚で38位初登場で、前作(36位)から横ばいとなっています。

続いて4位以下の初登場盤です。まず4位に3ピースガールズロックバンドHump Back「ACHATTER」がランクイン。CD販売数及びダウンロード数5位、PCによるCD読取数8位。オリコンでは初動売上9千枚で7位初登場。前作「人間なのさ」の1万5千枚(6位)からはダウンしてしまいました。

5位にはオリンピックの開会式にも出演し、話題を呼んだ女性シンガーmiletの7枚目となるEP「Ordinary days」がランクイン。CD販売数7位、ダウンロード数4位、PCによるCD読取数25位。EPといっても、日テレ系ドラマ「ハツゴメ~たたかう!交番女子~」を含む4曲入りなので、実質的にはシングルといった感じでしょう。オリコンでは初動売上8千枚で8位初登場。前作は同じくEPの「Who I Am」で初動売上は横バイ(10位)。

6位初登場はコブクロ「Star Made」。CD販売数4位、ダウンロード数10位、PCによるCD読取数7位。途中、ベスト盤を挟みつつ、約5年2ヶ月ぶりの、かなり久々のニューアルバムとなります。ただこの5年の間に、メンバーの2人とも、不倫騒動で話題になるなど、ミュージシャンイメージはかなり低下してしまった彼ら。オリコンでは初動売上3万1千枚で2位にランクインしましたが、直近のベスト盤「ALL TIME BEST 1998-2018」の16万1千枚(1位)からも、オリジナルアルバムとしての前作「TIMELESS WORLD」の11万3千枚(2位)からも大きくダウン。5年前とはストリーミングの普及など、CDをめぐる環境もかなり変わったとはいえ、厳しい結果となっています。

8位には男性ボーカル3人+DJによる4人組グループTHE BEAT GARDEN「余光」がランクイン。CD販売数は3位だったものの、その他はランク圏外となり総合順位もこの位置に留まりました。オリコンでは初動売上1万枚で6位初登場。前作「メッセージ」の9千枚(7位)から若干のアップ。

最後10位にはD.O.「共感(Empathy):1st Mini Album」が先週の13位からランクアップし、ベスト10初登場。韓国の男性アイドルグループEXOメンバーによるソロデビュー作。韓国盤なのですが、なぜかビルボードチャートでCD販売数が8位にランクインし、総合順位でベスト10入りしてきました。オリコンでは発売日の関係で先週からランクアップし、1万4千枚を売り上げて4位にランクインしています。

一方、ロングヒット盤ですが、今週7位にランクインしているBTS「BTS,THE BEST」が今週で8週連続のベスト10ヒットを記録しています。ただ、Hot100でのヒットのような勢いはなく、CD販売数は13位、ダウンロード数も14位に留まる厳しい状況になっています。

今週のHot Albumsは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2021年8月11日 (水)

2週連続ジャニーズ系

今週のHot100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今週も先週に続きジャニーズ系が1位獲得です。

まず今週1位を獲得したのはSexy Zone「夏のハイドレンジア」。CD販売数及びPCによるCD読取数1位、ラジオオンエア数10位、Twitterつぶやき数4位、You Tube再生回数18位。フジテレビ系ドラマ「彼女はキレイだった」主題歌。秦基博作詞作曲によるミディアムチューン。オリコン週間シングルランキングでは初動売上24万9千枚で1位初登場。前作「LET'S MUSIC」の17万3千枚(1位)よりアップ。

2位3位は今週もBTSが並びました。2位「Permission to Dance」、3位「Butter」は先週から変わらず。ストリーミング数及びYou Tube再生回数も、今週も1位2位と並んでいます。「Butter」は12週連続のベスト10&ベスト3入り。また「Dynamite」も先週の9位から7位にアップし、これで3曲同時ランクイン。「Dynamite」は51週連続のベスト10入りとなっています。

続いて4位以下ですが、今週は初登場も1位を除いてゼロ。正直言って、ロングヒットが並ぶ、変わり映えのないランキングとなっています・・・。

まず4位に優里「ドライフラワー」が先週と同順位をキープ。これで38週連続のベスト10入り。カラオケ歌唱回数も27週連続の1位となっています。You Tube再生回数5位及びストリーミング数7位は先週から同順位をキープ。ダウンロード数は14位から11位と若干のアップとなっています。

5位にはYOASOBI「怪物」が6位からワンランクアップ。これで通算27週目のベスト10入り。ダウンロード数は7位から10位にダウンしているものの、ストリーミング数が8位から5位に、You Tube再生回数が7位から4位にアップしています。YOASOBIは「夜に駆ける」が今週、10位から8位にアップ。これでベスト10ヒットを通算65週に伸ばしています。一方「三原色」は7位から10位にダウン。こちらはこれまでか??

そんな訳で今週もほぼ同じ曲が並ぶチャートになり、正直そろそろうんざりしてきています。そんな中、先週奮闘し上位に食い込んできたmillennium parede×Belle「U」は今週9位にダウン。ダウンロード数2位は健闘しているのですが、ストリーミング数は11位といまひとつ伸び悩んでいます。ロングヒットは厳しそう。

一方、今週健闘したのがOfficial髭男dism「CryBaby」で今週8位から5位にアップし、自己最高位を更新しています。特にストリーミング数は5位から3位にアップ。ここ3週、BTSがストリーミング数のベスト3を独占していたのですが、そこに見事切り込んできました。来週以降、さらに伸びて、ロングヒットになるのでしょうか?

もっとも、この2曲を含めても、顔ぶれに新しさがなく、全体的にチャートが淀んでいるような印象が否めません。個人的にはここ最近のヒット傾向に疑問を抱きつつ、上位勢を蹴散らしてくれる新顔の登場を期待したいなのですが。

明日はHot Albums!

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2021年8月10日 (火)

とにかく楽しいベスト盤

Title:XXV
Musician:及川光博

今年、デビュー25周年を迎えた及川光博のベスト盤。最近はすっかり役者としてその地位を確立し、高い人気を誇るミッチーですが、もちろん歌手としても相変わらず毎年ツアーを実施し、コンスタントにアルバムもリリースするなど、そのペースは全く衰えることもありません。齢51歳(!)ということが信じらない相変わらずのお美しさなのですが、今回リリースされたベスト盤も、25年を経て衰えることの知らない、ミッチーらしさがつまった作品になっていました。

まず今回のベスト盤は基本的に初回限定のボックス版とアナログのみでのリリースとなっています。そういう意味ではファンズアイテム的な要素も強いのですが、ただ配信でのリリースもされており、熱心なファン以外はそちらで、ということなのでしょうか。最近は基本的にリリースは配信+アナログ盤で、CDは初回限定版のみ、というリリース形態も目立つので、今回のアルバムもそんな最近の傾向に沿ったのでしょう。ただなぜか「今夜、桃色クラブで。」「バラ色の人生」は「XXV」からのページからは直接聴くことが出来ません。両曲とも配信はされているようなんですが・・・なぜでしょうか?

さてそんな今回のベストアルバム。25周年ということでタイトルは「XXV」。こちらフランス語読みで「ヴァンサンカン」と読むそうです。彼のベスト盤は、いままで何作かリリースされており、20周年の時にも「20-TWENTY-」というタイトルでベスト盤がリリースされています。前回のベスト盤は全3枚組のオールタイムベスト的な要素が強かったのですが、今回のアルバムは2015年以降、ビクター移籍後の作品を中心に彼がセレクトしたベスト盤。そういう意味では5年前のベスト盤との被りをできるだけ避けた結果と言えるのかもしれません。

デビューからの区切り毎にベスト盤をリリースした結果、5年毎にベスト盤をリリースしてしまう、という傾向はここ最近、よく見られます。結果といて、前のベスト盤から次のベスト盤の間にリリースされたオリジナルアルバムが1枚しかない、もっとひどい場合だと1枚もリリースされていない、というケースも少なくありません。ただ彼の場合、前回のベスト盤から5年間で4枚ものアルバムがリリースされています。今回のベスト盤はその4枚+2015年リリースのアルバム「男心 DANCIN'」からの曲を中心としたセレクトになるのですが、このリリースペースの短さも、彼の音楽に対する活動の積極性をうかがわせます。

そうしてセレクトされた今回のベスト盤なのですが、先にも書いた通り、とにかく楽しいポップチューンがつまったアルバムとなっています。彼の代表曲「今夜、桃色クラブで。」をはじめ「Lazy」「炎上!バーニング・ラブ」「Shake me, darlin'」などといったファンク的な要素を取り込みつつポップにまとめた、いわば「歌謡ファンク」的な楽曲が彼の持ち味なのですが、とにかくライブ感あふれたアップテンポで、非常に陽気で楽しい楽曲ばかり。アルバムリリース後、コロナで中止となった2020年以外はほぼ毎年のようにライブツアーを行っている彼ですが、まさにそんなライブ中心の活動だからこそ生まれた楽曲で、まずはファンを楽しませようとする彼のスタンスが楽しい楽曲からも強く感じることが出来ます。

ちなみに残念ながら配信ではリリースされていないのですが、彼のカバー曲を収録した「COVERS ONLY」も秀逸。米米CLUBの「sure danse」なども、同じ歌謡ファンク系のミュージシャンとして相性の良さも感じますし、「愛のメモリー」もしっかりと色っぽく歌い上げ、ミッチー節を聴かせてくれます。さらに今回、オリジナル・ラヴの「月の裏で会いましょう」を新たに収録しているのですが、こちらもしっかりとミッチーの作品として仕上げてくれています。

そんな訳で、聴いていて素直に笑顔になれる、そんなミッチーらしい楽しさのあふれたベスト盤でした。比較的最近の曲が多い選曲でも、これだけ楽しい楽曲がつまっているという点、デビューから25年を経てなお、彼らしさを失わず、ミュージシャンとしての勢いすら感じさせてくれる内容になっていました。歌手に役者に多方面での活躍が目立つ彼ですが、その勢いはまだまだ止まらなさそうです。

評価:★★★★★

及川光博 過去の作品
RAINBOW-MAN
美しき僕らの世界
喝采
銀河伝説
ファンタスティック城の怪人
さらば!!青春のファンタスティックス
男心DANCIN'
20 -TWENTY-
パンチドランク・ラヴ
FUNK A LA MODE
BEAT&ROSES
BE MY ONE

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2021年8月 9日 (月)

いろいろな挑戦を感じるが

Title:scent of memory
Musician:SEKAI NO OWARI

昨年11月にはEnd of the World名義のアルバム「Chameleon」が、さらに今年2月にはベスト盤がリリースと、アイテムのリリースが続いたためちょっと意外な感もあるのですが、SEKAI NO OWARI名義のオリジナルアルバムとしては2枚同時リリースとなった「Eye」「Lip」以来、約2年5か月ぶりのニューアルバムとなります。まあ、その前のオリジナルアルバム「Tree」からは4年のインターバルがありましたので、それに比べると、今回のインターバルはさほど長くない、とも言えるのですが。

今回のニューアルバムは、ベスト盤リリース後初のアルバムということもあり、彼らにとってひとつの区切りをつけた後のアルバムと言えるかもしれません。今回、レコード会社もTOY'S FACTORYからVirgin Musicに移籍。このレコード会社移籍もあり、まさに心機一転のアルバムと言ったところでしょうか。

その心機一転の心意気を感じられるかのように、今回のアルバムは彼らの挑戦が感じられるアルバムとなっています。2曲目「Like a scent」はなんとHIP HOPに挑戦。トラップ風のトラックに坂本龍一の楽曲のフレーズを重ねた、いかにもHIP HOP的なつくりの作品になっているほか、「陽炎」でははじめてSaoriがボーカルに挑戦。「family」ではFukaseの2人の妹がボーカルとして参加している楽曲になっているなど、新しい試みが要所要所に感じられます。

ただ、そういった試みが功を奏していたか、と言われると、ちょっと微妙な部分も。「Like a scent」は、精神病院に入院していたこともあるFukaseの、その当時の心境も語られているなど、彼らにしてはかなりダークでどぎつさもある描写が大きなインパクトになっているのですが・・・・・・しかし、どうも聴いていると「いきがっていて吹かしている」という印象を受けてしまいます。ひとつはその歌詞の描写に対してサウンドがあまりに清涼感がありすぎる、という点もありますし、歌詞にしてもいかにもどぎつさを狙ったような感があり、どこか浮いてしまっているチグハグ感が否めませんでした。Saoriボーカルにしてもアルバムの中ではインパクトにはなっているのですが・・・うん、ボーカリストとしては、あれだよね・・・・。

また、新たな一歩ということもあるのでしょうし、メンバー全員、それなりの年齢になってきた、ということもあるのでしょうが、全体的にいままでのようなファンタジックな雰囲気は薄め。いかにもキラキラしたサウンドでドリーミーな雰囲気の、といった曲はあまり聴かれませんでした。もっとも一方で、ピアノやストリングスを多用した美しいサウンドは健在、というよりも今回のアルバムではそのサウンドをより積極的に前面に出して用いているような感もあります。

もっともなんだかんだいっても耳を惹くのはメランコリックさも感じられるポップなメロディーラインで、切ないメロディーラインが胸をうつ「umbrella」や、ベルの音色が美しい、少々ベタさも感じられるクリスマスソング「silent」、おそらく亡くなった友人へ捧げる悲しい歌詞ながらも明るいポップなメロというアンバランスさが耳を惹く「tears」など、前々から思っていることなのですが、やはりメロディーラインの良さがセカオワの大きな魅力だよな、ということをあらためて感じました。また、このメロディーラインの良さという土台があるからこそ、若干痛々しさも感じる挑戦も、作品として成り立つのでしょうね。

そんな訳で、挑戦の結果としては若干微妙な点は否めないのですが、なんだかんだいっても美しいメロディーラインに惹かれる、セカオワらしいアルバムに仕上がっていたと思います。今回の挑戦が、今後、実を結べばよいと思うのですが、さてさて・・・。ただ、あらたな一歩を踏み出した彼ら。今後の活動も楽しみです。

評価:★★★★

SEKAI NO OWARI 過去の作品
EARTH
ENTERTAINMENT
Tree
Lip
Eye
Chameleon(End of the World)
SEKAI NO OWARI 2010-2019

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2021年8月 8日 (日)

とにかく楽しい企画盤

Title:Hail Satin
Musician:The Dee Gees/Foo Fighters

Bee GeesならぬThe Dee Geesなるバンドが、非常に陽気なダンスチューンをリリースしてきました!The Dee GeesなるBee Geesのカバーバンドが突如リリースしたアルバムが本作。Bee Geesの著名な代表曲の数々を、Bee Gees顔負けの陽気さを持って見事にカバーしています。

・・・で、このThe Dee Geesなるバンドは、実はFoo Fightersの「分身グループ」。もともと、ライブ配信などでBee Geesのカバーを取り上げたことはあるそうですが、今回はBee Geesの代表曲4曲と、Bee Geesメンバーの弟であり、70年代から80年代にかけて一世を風靡したものの1988年にわずか30歳という若さで急逝したアンディ・ギブの「Shadow Dancing」の全5曲が収録されています。

さて、この5曲のカバーですが、これがもう笑ってしまうほどそのままのカバーになっています。デイヴ・クロールは、完全にファルセットボイスでバリー・ギブになりきっています。バンドサウンドもフーファイらしい泥臭いサウンドは鳴りを潜め、軽快なディスコチューンを奏でています。あえて言えば「Tragedy」が原曲に比べて若干泥臭さを感じさせるアレンジとなっており、隠しきれないフーファイらしさがちょこっと表に出た、といった感じなのですが、この曲にしても基本的には原曲から大きく逸脱することはありません。正直、「カバー」というより「コピー」といった感じのアルバムになっており、そういう意味ではフーファイらしさという面は薄いのですが、ただ、フーファイのBee Geesへの敬愛ぶりがよくわかりますし、何よりも聴いていて難しいこと抜きに純粋に楽しいアルバムに仕上がっていました。

あえていえば個人的には「メロディーフェア」や「愛はきらめきの中に」のように聴かせるタイプのBee Geesの曲も好きなので、そこらへんの曲も1曲カバーしてほしかったかも、という感じはするのですが。まあ、全体的にはディスコチューンで統一した、ということなのでしょうか。普段のフーファイでは聴くことの出来ない、陽気なディスコチューンの楽しめるアルバムでした。

ちなみに本作はレコードストアデイの企画によりリリースされた作品で、フィジカルはレコードのみでのリリース。ただし、ストリーミングでは普通に配信されているので、ストリーミングで手軽に楽しめます。なお、レコード盤ではA面、B面とわかれており、A面はこのThe Dee Geesとしての作品5曲が収録。B面には彼らの最新アルバム「Medicine at Midnight」からのライブ音源が収録されています。ストリーミングだと、途中から急に曲調がガラッと変わってしまうため、ちょっと違和感があるかもしれません。

そのFoo Fightersとしてのライブ音源5曲も申し分ない傑作ぞろい。ライブ音源らしく、より迫力ある緊迫感ある演奏が楽しめます。ここらへん、王道のロックバンドとしてはここ最近、最も安心して楽曲を楽しめるバンドなだけに、ライブ音源も文句なしの出来栄えとなっていました。また、この前作「Medicine at Midnight」はフーファイ流パーティーロックともいえる楽しいアルバムに仕上がっていましたが、ひょっとして今回のBee Geesのカバーは、そんな前作の流れを引き継いでいるのかもしれません。そういう意味でも、本作のB面に「Medicine at Midnight」のライブ音源を入れてきたというのは、両者の聴き比べを狙ったのかもしれません(が、聴き比べると、さすがに全くタイプが違う曲調なのですが・・・)。

そんな訳で、ある意味「お遊び企画」ではあるものの、彼らのBee Geesへの敬愛ぶりと、その本気度を強く感じることの出来たアルバム。また、このBee Geesへの敬愛ぶりと直近のアルバムの方向性から考えて、ひょっとしたら次作はフーファイ流ディスコアルバムになるかも??なんてことを思ったり思わなかったり。ただ、そんな思惑を差し引いても、まずは純粋に音楽の楽しさを味わえる、そんなアルバムでした。

評価:★★★★★

FOO FIGHTERS 過去の作品
ECHOES,SILENCE,PATIENCE&GRACE
GREATEST HITS
WASTING LIGHT
Saint Cecilia EP
SONIC HIGHWAYS

Concrete and Glod
02050525
00959525
Medicine at Midnight


ほかに聴いたアルバム

The Soft Bulletin Companion/The Flaming Lips

こちらもレコードストアデイでLPリリースされたアルバム。もともと1999年にリリースされたアルバム「THE SOFT BULLETIN」リリース時に、プロモーション目的で制作された作品で、未発表曲やアウトテイク、シングルのB面などを収録したアルバム。プロモーション用だったのでメディア等にしか配布されていない「幻のアルバム」だったのですが、この度、20年以上の月日を経て、LPリリース。配信でもリリースされているほか、CDでもリリースされました。

内容的には非常に祝祭色あふれる作風にサイケなサウンドが特徴的という、The Flaming Lipsらしさがつまったアルバム。明らかなデモ音源のような、ファン向けの曲もあるのですが、アルバム全体としてはこれでひとつの作品として成り立つような楽曲が並んでおり、The Flaming Lipsのアルバムとして十分楽しめる内容になっていました。The Flaming Lipsが好きなら、間違いなくチェックして損のない1枚です。

評価:★★★★★

THE FLAMING LIPS 過去の作品
EMBRYONIC
The Dark Side Of The Moon
THE FLAMING LIPS AND HEADY FWENDS(ザ・フレーミング・リップスと愉快な仲間たち)
THE TERROR
With a Little Help From My Fwends
Oczy Mlody
GREATEST HITS VOL.1
King's Mouth:Music and Songs
The Soft Bulletin: Live at Red Rocks (feat. The Colorado Symphony & André de Ridder
American Head

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シンプルな歌モノを聴かせる

Title:HOPE
Musician:清水翔太

ミニアルバムだった前作「period」からはわずか8ヶ月というインターバルでリリースされた清水翔太のニューアルバム。ただし、フルアルバムとしては前作「WHITE」から約3年ぶり。少々久しぶりとなった清水翔太のフルアルバムです。

ここ最近、清水翔太の方向性としては、今風のR&B路線にシフトした作品が目立ちました。そのきっかけとなった2016年のアルバム「PROUD」は非常にカッコいい傑作アルバムで、その後の彼の活動に期待していたのですが、残念ながらその後の彼のアルバムは、今どきのR&Bの流行路線をなぞっただけという作品が続いてしまい、正直、清水翔太というシンガーソングライターの良さがあまり出ていない「凡作」が続いていたように感じました。

しかし、今回久々となったニューアルバムでは、ここ最近のR&B路線から脱却。シンプルに「歌」を聴かせる曲が並んでいます。もともとR&B系のシンガーとしてデビューした彼ですが、過去のアルバムを聴く限り、彼自身は必ずしもR&Bのみのシンガーという志向性はなく、むしろ幅広いポップシンガーとしての方向性を感じていました。そういう意味では今回のアルバムは、シンガーソングライター清水翔太の本来の持ち味に取り戻したアルバムと言えるかもしれません。

まずアルバムの中で耳を惹くのはイントロに続く2曲目「Curtain Call」でしょう。この作品ではONE OK ROCKのTakaをフューチャー。非常に前向きのメッセージを込められた力強いナンバーで、R&B系の路線を感じさせつつ、ギターサウンドを取り入れたロック系のサウンドも重なり、なんといってもメランコリックなメロディーラインが耳を惹く、しっかり2人のボーカリストの「歌」を聴かせる曲となっています。

続く「恋唄」も、シンプルに「歌」を聴かせるこのアルバムの方向性を代表する1曲と言えるでしょう。アコギやピアノといったアコースティックなサウンドを主軸に切ない歌を聴かせるラブソング。シンプルでフォーキーな作風な曲は、ここ最近のR&B路線とも異なるポップソングに仕上がっています。

また、「Curtain Call」のTakaをはじめ、今回、様々なミュージシャンとのコラボ作が収録されているのも特徴的。「プロローグ」では女性シンガーのAimerとコラボ。ピアノとストリングスをバックに力強い歌声を聴かせるバラードナンバーになっています。また「Lazy」ではSNSでプロアマ問わずコラボ相手を募集。結果、ASOBiSMとKouichi Arakawaという2人のミュージシャンとのコラボとなっています。

そんな訳で、様々なミュージシャンとコラボしつつ、シンプルな歌モノメインのアルバムとなっており、シンガーソングライターとしての清水翔太の魅力をしっかり出していたアルバムに仕上がっていました。もっとも「Lazy」ではラップやトラップ的なリズムも取り入れたりと、前作までで見せた今どきのR&B路線もいい意味で生かされており、前作以前の路線もしっかりと清水翔太のキャリアとして生かされていることも感じさせます。個人的には「PROUD」以来久々に傑作と言えるアルバムだった本作。あらためて彼の魅力を実感できた1枚でした。

評価:★★★★★

清水翔太 過去の作品
Umbrella
Journey
COLORS
NATURALLY
MELODY
ENCORE
ALL SINGLES BEST
PROUD
FLY
WHITE
period

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2021年8月 7日 (土)

超豪華なトリビュートアルバム

Title:松本隆 作詞活動50周年トリビュートアルバム「風街に連れてって! 」

伝説のバンド、はっぴいえんどの元ドラマーにして、特に70年代から80年代を中心に、作詞家として数多くのヒット曲を手掛け、いまや「日本を代表する作詞家」とも言える松本隆。今年は、そんな彼の作家活動50周年という節目の年となり、彼が手掛けた数多くのヒット曲を、様々なミュージシャンがカバーしたトリビュートアルバムがリリースされました。

もっとも、松本隆へのトリビュートアルバムは10年前も「松本隆に捧ぐ-風街DNA-」というトリビュートアルバムがリリースされ、さらに5年前にも「松本隆 作詞活動四十五周年トリビュート 『風街であひませう』」というトリビュートアルバムがリリース。5年前にトリビュートアルバムがリリース。まさに5年毎にトリビュートアルバムのリリースが続いており、今回のアルバムは二番煎じどころか三番煎じのアルバムとなってしまっています。

ただ、今回のアルバムはその参加メンバーがかなり豪華。いきものがかりの吉岡聖恵からはじまり、宮本浩次、GLIM SPANKEY、クレイジーケンバンドの横山剣、三浦大知などが参加。さらに幾田りらという名前はあまり聞きなれない名前ですが、今を時めくYOASOBIのボーカル。そして一番驚いたのは、なんとB'zが参加している点。あまりこの手のアルバムに参加したことのない彼らが参加していることにはかなり驚かされました。

そんな豪華なメンバーが参加したアルバムですが、正直言って、前半に関しては、悪くはないけどかなり無難かな・・・という印象を受けました。川崎鷹也が参加した「君は天然色」は、大瀧詠一アレンジそのままといった感じで、カバーというよりもコピーといっていいくらいの内容でしたし、宮本浩次の「SEPTEMBER」も、彼にしては癖がない歌い方で、無難なカバーにまとめていた、といった印象を受けました。

注目のB'zのカバー「セクシャルバイオレットNo.1」も、一発で稲葉浩志とわかるボーカルや、いかにも松本孝弘なギターで、しっかりとB'zの色をつけてきているのはさすがなのですが、それ以上でも以下でもなく、予想した通りのカバーにまとまっていました。

そんな中、前半で耳を惹いたのは、YOASOBIのボーカル、幾田りらがカバーした「SWEET MEMORIES」。YOASOBIではともすればボカロを彷彿とさせるような無機質な歌い方をする印象があるのですが、同作では、ちょっとスモーキーさも感じられる味のあるボーカルを聴かせてくれています。ジャジーな雰囲気のカバーは原曲とも若干異なった印象を受け、より「大人」な感のあるアレンジに。彼女のボーカリストとしての実力を感じさせるカバーになっていました。

もっとも、そんな前半に比べて、グッと素晴らしくなったのが後半。このアルバムの中で最も耳を惹いたのが三浦大知の「キャンディー」でしょう。もともとボーカリストとしての実力は折り紙付きの彼ですが、その彼が哀愁感たっぷりに歌い上げるカバーは、聴いていてもゾクゾクとさせられます。それに続くDaoko「風の谷のナウシカ」も、彼女のキュートな感のあるボーカルが曲の印象にマッチ。クレイジーケンバンド横山剣が大人の魅力たっぷりで歌い上げる「ルビーの指環」もさすがの一言ですし、ラストを飾るLittle Glee MonsterのMAYU・manaka・アサヒによる「風をあつめて」も非常に秀逸。Little Glee Monsterについては、歌唱力はあったのですが、若さゆえの表現力の不足がマイナスポイントでしたが、このカバーに関しては、表現力もグッと増した名カバーに。彼女たちの着実な成長を感じられるカバーになっていました。

そんな訳で、前半は悪くはないけど平凡、後半はグッと名カバーが増えた作品というのが本作の印象。もっとも全体的には決して悪くはなく、十分な傑作アルバムに仕上がっていたと思います。次はまた5年後、同じようなトリビュートがリリースされるのかな?まあ、まだまだ松本隆の曲を魅力的にカバーしてくれるミュージシャンは続々と現れそうですが。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

死に損ないのパレード/黒木渚

もともと「黒木渚」がバンドだった頃に、1度、インストアライブを見たことはあるのですが、音源を聴くのは今回がはじめて。今はソロ女性シンガーソングライターとなった黒木渚のニューアルバム。タイトルがなかなか刺激的ですが、タイトル曲を含め、全体的には「死に損ない」というよりも「生きる」ということへの賛歌が目立つ内容に。楽曲もピアノにギターロックを重ねた賑やかなサウンドが多く、ポップなメロディーラインも含めて、全体的にはメロディアスで聴きやすい内容になっています。ただ、歌詞を含めてもう一歩、インパクトは欲しい感はあるのですが。

評価:★★★★

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2021年8月 6日 (金)

困難を乗り越えて

Title:マリアンヌの密会
Musician:キノコホテル

前作から約2年、コロナ禍以降においてはじめて作成されたキノコホテルのニューアルバムは、完成まで困難の道のりだったそうです。実演会(=ライブ)の機会が奪われただけではなく、ベーシストのジュリエッタ霧島が長年の蓄積疲労による頚椎症性神経根症の発症により無期限休職という事態に。さらにギターのイザベル=ケメ鴨川が左手首のTFCC損傷という事態となり、まさに大きな困難がのりかかってくる事態となりました。

そんな困難を乗り越えてリリースされた本作は、支配人マリアンヌ東雲のセルフプロデュースという、キノコホテル本来の姿に立ち返ったアルバム。さらにタイトルも「マリアンヌの密会」というタイトルも、このコロナ禍の中で人と会うこともままならない状態を逆手にとったようなタイトルがユニーク。まずこの段階で、キノコホテルらしい魅力をしっかりと感じることが出来る内容となっています。

また、楽曲自体も、ここ最近のキノコホテルのアルバムの中では、よりアグレッシブな内容が目立ったように感じました。ダイナミックなイントロナンバー「海へ…」に続く事実上の1曲目「愛してあげない」は、公式サイトでも「初期キノコホテルを彷彿」と書かれているようなオルガンを中心にアグレッシブなバンドサウンドで押してくる、哀愁感たっぷりの、まさにキノコホテルの王道とも言えるようなガレージナンバーに。「キマイラ」も、歌謡曲テイストの強いメランコリックな楽曲ですが、ワウワウギターを前面に押し出したガレージサウンドが大きな魅力に仕上がっています。

中盤に入るナレーションで、より楽曲の怪しげな雰囲気に磨きがかかっている「断罪ヴィーナス」も魅力的ですし、さらに「カモミール」はアルバム随一のポップチューン。アップテンポで軽快なバンドサウンドをバックに、シングルカットされても違和感ないようなポピュラリティーある作風に、楽曲に対するアグレッシブな姿勢を見て取れます。さらに、ヘヴィーなバンドサウンドという意味で耳を惹くのが「莫連注意報」でしょう。かなりヘヴィーなギターサウンドを前に押し出した楽曲となっており、ロックバンドとして迫力ある演奏が大きな魅力となっています。

終盤の「エレクトロ・デリケイト」もタイトル通り、レトロなガレージサウンドの中にエレクトロサウンドを取り込んだという、非常にアグレッシブな作風の曲になっていますし、さらにラストの「麗しの醜聞」も、ダイナミックなバンドサウンドを聴かせるインストナンバー。このような曲をラストに配することにより、キノコホテルが紛うことなきロックバンドである、ということを非常に強く主張しているように感じました。

コロナ禍やメンバーの無期限活動休止という危機的自体を乗り越えてきたからこそ、バンドとしての原点に帰ったような作品や、ロックバンドとしてのキノコホテルをあらためて強調したような作品も目立ち、非常にバンドとして前向きな姿勢を感じさせる傑作アルバムに仕上がっていました。この危機を乗り越えてきた彼女たち。これからの活躍も楽しみです。

評価:★★★★★

キノコホテル 過去の作品
マリアンヌの憂鬱
マリアンヌの休日
クラダ・シ・キノコ
マリアンヌの恍惚
マリアンヌの誘惑
キノコホテルの逆襲
マリアンヌの呪縛
マリアンヌの革命
プレイガール大魔境
マリアンヌの奥義


ほかに聴いたアルバム

SHISHAMO 7/SHISHAMO

タイトル通り、7枚目となるガールズロックバンドSHISHAMOの新作。前作「SHISHAMO 6」はギターロックバンドとしてのいい意味で安定感を覚えつつ、ロックリスナーの壺をしっかりとついた傑作に仕上がっていましたが、今回のアルバムは、良くも悪くもシンプルなギターロックといったイメージで、ロック寄りだった前作からポップ寄りにシフトした印象が。ただその結果、アルバム全体としては若干薄味になってしまった感も。安定感はしっかりと覚えるのですが。

評価:★★★★

SHISHAMO 過去の作品
SHISHAMO 3
SHISHAMO 4
SHISHAMO 5
SHISHAMO BEST
SHISHAMO 6

HEY/ビッケブランカ

9月リリース予定のアルバムに先行してリリースされた4曲入りのEP。ただし、表題曲「HEY」はアルバム未収録となる模様。「出会い/高揚感」をテーマに制作されたアルバムのようで、アップテンポなエレクトロチューン4曲が並ぶ構成に。いずれも爽やかなポップチューンながらも、ただビッケブランカとしては楽曲のインパクトはちょっと弱め。悪くはないけど、彼にしてはちょっとフックが足らないな、というのが率直な感想。アルバムは楽しみにしているのですが。

評価:★★★★

ビッケブランカ 過去の作品
FEARLESS
wizard
Devil

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2021年8月 5日 (木)

こちらはK-POP勢が1位

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

こちらもHot100同様、日本のアイドルと韓国のアイドルが交互に1位を獲得している週が続いていますが、今週はK-POPのアイドルが1位獲得です。

今週1位を獲得したのはTWICEのニューアルバム「Perfect World」が獲得。CD販売数2位、ダウンロード数3位、PCによるCD読取数7位といずれも1位獲得はなりませんでしたが、総合順位では見事1位獲得となりました。オリコン週間アルバムランキングでは初動売上6万5千枚で2位初登場。直近作は韓国盤のミニアルバム「Taste of Love:10th Mini Album」で同作の初動2万7千枚(4位)からはアップしていますが、日本盤の前作「&TWICE」の13万3千枚(1位)からは大幅ダウンという厳しい結果となりました。一時期は中高生を中心にブームとも言えるような人気を誇った彼女たちですが、似たようなファン層と思われるNiziUにお株を奪われたような形でしょうか?

2位もK-POPの男性アイドルグループ。SHINee「SUPERSTAR」が4週ぶり、先週のランク圏外から一気にベスト10返り咲きとなりました。これは今週、CDがリリースされた影響で、CD販売数では見事1位を獲得。ただダウンロード数は27位、PCによるCD読取数は19位に留まり、総合順位では2位に留まりました。オリコンでは初動売上7万3千枚で1位初登場。直近作は韓国盤の「Don't Call Me:SHINee Vol.7」で、同作の7千枚(13位)からはアップ。日本盤の前作「FIVE」の6万8千枚(3位)からもアップしています。

3位初登場はGuilty Kiss「Shooting Star Warrior」。CD販売数4位、ダウンロード数6位、PCによるCD読取数6位。アニメキャラによるアイドルプロジェクト「ラブライブ!サンシャイン!!」に登場するアイドルグループによる1stフルアルバム。オリコンでは初動売上2万1千枚で3位初登場となっています。

続いて4位以下の初登場盤です。まず今週9位にTHE BIRTHDAY「サンバースト」がランクイン。CD販売数8位、ダウンロード数16位、PCによるCD読取数12位。バンドとして今年で早くも15年目というのも驚きなのですが、フジイケンジ加入後、早くも10年というのも驚きです・・・。オリコンでは初動売上9千枚で7位初登場。直近作はB面集「WATCH YOUR BLINDSIDE 2」で、同作の初動4千枚(16位)からは大きくアップ。前作「VIVIAN KILLERS」の1万枚(6位)からは若干のダウンとなりました。

最後10位には「竜とそばかすの姫 オリジナルサウンドトラック」がランクイン。細田守監督によるアニメ映画のサントラ盤。8月18日CDリリース予定からの先行配信。ダウンロード数で1位を獲得し、ベスト10入りとなりました。現在、メインテーマの「U」がHot100でヒット中ですが、残念ながら同作は収録されていません。ただ、先行配信のみでのベスト10入りで、CDリリース時にはさらに上位へのランクインが期待できそうです。

今週のHot Albumsは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2021年8月 4日 (水)

今週はジャニーズ系

今週のHot100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

ここ最近、日本のアイドル系とBTSが交互に1位を獲得する週が続いていますが、今週は日本のジャニーズ系アイドルグループが1位獲得です。

今週の1位初登場はジャニーズWEST「でっかい愛」が獲得です。CD販売数及びPCによるCD読取数で1位獲得。ラジオオンエア数81位、Twitterつぶやき数14位で総合順位で1位獲得。TBS系ドラマ「#家族募集します」主題歌。オリコン週間シングルランキングでは初動売上20万2千枚で1位初登場。前作「サムシング・ニュー」の21万8千枚(1位)からダウンしています。

そして2位3位はBTSが獲得。先週1位の「Permission to Dance」が2位、「Butter」が先週から変わらず3位となっています。「Permission to Dance」はストリーミング数、ラジオオンエア数及びYou Tube再生回数が先週から変わらず1位、ダウンロード数は2位から4位にダウン。「Butter」はダウンロード数が10位から12位にダウンしていますが、ストリーミング数及びYou Tube再生回数は2位。これで11週連続のベスト10&ベスト3入りとなっています。また「Dynamite」も今週、先週から変わらず9位をキープ。これで50週連続のベスト10ヒットとなっています。

続いて4位以下の初登場曲ですが、今週は残念ながら初登場は1位のジャニーズWESTのみ。相変わらずロングヒット曲が目立つチャートとなっています。そんな中、ベスト10返り咲きが1曲。YOASOBI「怪物」が11位から6位にランクアップ。3週ぶりのベスト10返り咲きで、通算26週目のベスト10入りとなりました。特にダウンロード数が21位から7位に大幅ランクアップしています。これは主に7月30日に同曲の英語版が配信開始になった影響と思われます。ただ、英語版は別集計じゃないの?ここらへん、別集計にしないと、バージョン違いでCDの売上を水増しするようなアイドル系の手法と同じ穴の狢になってしまうような感があるのですが・・・。ちなみにYOASOBIは「三原色」が6位から7位にワンランクながらもベスト10をキープ。「夜に駆ける」も先週から同順位の10位をキープし、3曲同時ランクインとなっています。

一方ロングヒット曲は4位に優里「ドライフラワー」が先週の5位からアップ。これで37週連続のベスト10ヒットに。またカラオケ歌唱回数も26週連続の1位となっています。ただYou Tube再生回数は5位をキープしているものの、ダウンロード数は9位から14位にダウン。ストリーミング数も6位から7位にジワリとダウンしており、全体的には下落傾向になっています。

今週の初登場&返り咲き&ロングヒットは以上ですが、ここ最近、やたらめったらBTSや優里、YOASOBIばかりが目立ち、新しいヒット曲がいまひとつ不在な感があります。特にBTSや「夜に駆ける」以外のYOASOBIに関しては、以前のような「誰もが知っているヒット曲」といった感じがなく、個人的にはある種の閉塞感すら感じてしまいます。

そんな中、次のロングヒットとして注目したいのがmillennium parade×Belle「U」で今週は4位から5位にダウンしたものの、ダウンロード数で3週連続の1位、You Tube再生回数でも先週の3位からダウンしたものの4位を獲得。ストリーミング数10位が若干奮わないのですが、今後のロングヒットが期待できそう。またOfficial髭男dism「Cry Baby」も先週から変わらず8位をキープ。こちらはストリーミング数が先週の7位から5位、You Tube再生回数が10位から8位とアップしており、さらなるヒットも期待できそう。そろそろBTS&YOASOBI&優里一色のチャートに変化が欲しいところなのですが・・・この2曲がさらに伸びるのか、次なるヒット曲があらわれるのか、期待したいところです。

今週のHot100は以上。明日はHot Albums!

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2021年8月 3日 (火)

セルフカバーゆえに狂気は抑え気味?

Title:PERSONA#1
Musician:大森靖子

特にデビュー当初は「激情派」と称されるほど、女性の本音を生々しく描いた歌詞が大きな特徴となっているシンガーソングライター大森靖子。ただ、自らがシンガーとして活動を続けるほか、数多くのシンガーへの楽曲提供を手掛ける彼女。本作は、そんな彼女が、他のシンガーに提供した楽曲を自らがカバーしたセルフカバーアルバムとなります。

自らハロプロ系をはじめとするアイドルのファンであることを公言している彼女ですが、そのこともあって、基本的に楽曲提供の相手先はアイドル勢がメイン。そのこともあって、個人的にオリジナルの音源の方は聴いたことなく、全曲、今回が初耳の楽曲となります。ただ、アイドルへの提供曲といっても、よくありがちな「アイドルポップ」的な楽曲は皆無。彼女のボーカルが載っていることもあるのですが、基本路線はいつもの大森靖子の曲と同様のパンキッシュな曲調のポップソングがメインであり、完全に大森靖子の曲として成立している曲ばかりとなっています。

とはいえ、やはり他人に提供している曲ということになるからでしょうか、いつもの大森靖子の作品に比べると、よりポップな曲調の楽曲が並んでいました。例えば「LADY BABY BLUE」は、サビの部分にインパクトがあるJ-POP的なナンバーとなっており、ある意味、「売れ線」的な様相のあるポップチューンに。「゜*。:゜(*'∀'*)゜:。*ぴかりんFUTURE゜*。:゜(*'∀'*)゜:。*」はタイトルこそ異質ですが、楽曲自体はいたってポップなトランスチューンになっていますし、「夢幻クライマックス」も、怪しげな雰囲気のゴシック調の曲調に仕上がっていますが、ある意味、その「怪しげな雰囲気」も含めてわかりやすさのあるポップスに仕上がっています。

歌詞の世界にしても、大森靖子らしい狂気に秘めた世界観が随所に感じられるものの、どこか表現的には抑えがち。もっとも前述のJ-POP的なメロディーの「LADY BABY BLUE」にしても、いきなり

「生命線 剃刀で描き伸ばした
運命は私だけが傷だからで決める」
(「LADY BABY BLUE」より 作詞 大森靖子)

なんていう、よくアイドルに、というか、他のシンガーに歌わせたな、という歌詞もあったりもして、大森靖子の世界観はしっかりと健在。抑えがちな表現の中でも、表ににじみ出てくるような狂気は様々なところで感じられ、そこらへんのバランス感覚もまた、ユニークだったりします。

アレンジは全体的にトランシーなサウンドを取り入れた曲がメイン。この部分に関しては、正直なところ若干安直では?と感じる点はなきにしもあらず。オリジナルを聴いたことがないのでよくわからないのですが、オリジナルの曲調に準拠しているんだとしたら、ここらへんは悪い意味で、いかにも安直なアイドルポップ的、とも感じてしまいます。一方で、そんなトランシーなアレンジの中でもパンキッシュな要素を強く感じる曲も少なくなく、特に印象的だったのは「瞬間最大me」。こちら神聖かまってちゃんのの子が参加しているのですが、パンキッシュな曲調といい、歌詞の雰囲気といい、の子のボーカルにピッタリとマッチ。なにげに神聖かまってちゃんとの相性の良さも感じます。この両者、タイプ的にはかなり近いよなぁ・・・。

他のシンガーへの提供楽曲ということもあり、彼女がその魅力を最大限に発揮できない、という部分はありつつも、一方、そんな抑えめの作風だからこそ、逆により大森靖子の「ポップ」な側面が強調された感のあるセルフカバー。若干過剰気味かつトランスというわかりやすい表現に安易に走りがちなのも、良くも悪くも彼女らしいといった感じもあるのですが。その点は気になりつつも、よりポップな大森靖子の魅力を楽しめた作品でした。

評価:★★★★

大森靖子 過去の作品
洗脳
トカレフ(大森靖子&THEピンクトカレフ)
TOKYO BLACK HOLE
kitixxxgaia
MUTEKI
クソカワPARTY
大森靖子
Kintsugi

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2021年8月 2日 (月)

2021年上半期 邦楽ベスト5

昨日に引き続き、上半期私的ベストアルバム。本日は邦楽編です。

5位 天才の愛/くるり

聴いた当時の感想は、こちら

このアルバムを最後に、トランペットのファンファンが脱退し、再び2人組バンドとなったくるりの新作。かなりバラエティー富んだ作風で、挑戦的な作品にも挑んだ作品といった印象。若干岸田繁暴走気味か?という部分もあるのですが、確かにファンファンの影は薄くなり、脱退やむなしだったのかなぁ、という感じもします。そんな意欲的な挑戦作を含めて、相変わらずくるりのすごさを感じさせる傑作アルバム・・・なのですが、若干頭でっかちという印象も受けてしまいました。それでも年間ベストクラスの傑作なのは間違いありませんが。

4位 FRUITFUL/堀込泰行

聴いた当時の感想は、こちら

兄堀込高樹率いるKIRINJIが次々と傑作をリリースする中、弟堀込泰行はなかなか「文句なしの傑作」に出会えずにいましたが、キリンジ脱退後ソロ3枚目にして文句なしの傑作アルバムがようやくリリースされました。清涼感あふれるシティポップ、AORの楽曲が並ぶ魅力的なポップチューンの連続。メロディーラインも素晴らしいですが、シンプルな優しい言葉を使いつつ、独特な言い回しでその世界観を作り上げている歌詞の世界も実に魅力的。堀込泰行の才能がフルに発揮された傑作アルバムに仕上がっていました。

3位 NOISE CANCEL/ANARCHY

Anarchy

聴いた当時の感想は、こちら

もともとアンダーグラウンドシーンで「下流社会」のリアルをつづっていた彼が2014年になんとavexに移籍。一気に知名度が増したものの、ただavex時代の作品は、決して駄作ではないものの、中途半端にマスを狙いすぎて、それまでの作品に比べると今一つ感のある作品が続いていました。しかし、今回、avexを離れ、配信オンリーでリリースしたのが本作。それがまさに、かつてのANARCHYが戻ってきた!と叫びたくなるような、彼の身の回りのリアルをストレートに表現したラップが魅力的な作品に。かなり胸に突き刺さるようなリリックが連続するような傑作アルバムに仕上がっていました。

2位 よすが/カネコアヤノ

聴いた当時の感想は、こちら

個人的に、今、もっとも注目している女性シンガーソングライター、カネコアヤノの新作。前作「燦々」も傑作でしたが、それに続く本作は、前作を上回る文句なしの傑作に。暖かさを感じる郷愁感あふれるフォーキーなメロに、人のぬくもりを感じさせるような、ある意味、「肉感」とても表現できそうな生々しさを感じる歌詞の世界も独特。そんな中でも本作は、サイケやロック、さらにカントリーやハワイアン、トラッドとサウンドのバリエーションもグッと増し、彼女の音楽性の広がりをより感じさせる傑作に仕上がっていました。注目度も現在上昇中の彼女ですが、その勢いはまだまだ続きそうです。

1位 MOOD/本日休演

聴いた当時の感想は、こちら

今年の上半期邦楽1位は、京都在住のロックバンド、本日休演のニューアルバム。本作ではじめて彼らのサウンドを聴いたのですが、アングラ系フォークロックバンドというイメージがピッタリくるような、フォーキーな雰囲気を感じさせるサウンドながらも、そこにガツンとヘヴィーなバンドサウンドが加わる独特のスタイル。どこかゆらゆら帝国やORGE YOU ASSHOLEと同じ方向性を感じさせる空間を生かしたサウンドメイキングも大きな魅力。意外とポップなメロディーラインも大きな魅力ですが、それと同時に感じる、ある種の「やばさ」が大きな魅力である傑作アルバムでした。

ほかのベスト盤候補としては・・・

THE MILLENNIUM PARADE/millennium parade
朝顔/折坂悠太
接続/AJICO
FREAK/ネクライトーキー
新しい果実/GRAPEVINE

正直なところ、邦楽シーンも、洋楽と同様、際立った傑作もなく、全体的には不作気味だったような感じも・・・。ライブ活動が制限され、通常の活動がままならなくなったコロナ禍の影響・・・なのかなぁ??くるりのアルバムもベスト5には入れたものの、正直、期待していたほどではなかったし、期待のCHAIの新作もいまひとつだったし・・・。物足りなさを感じてしまった上期ベストアルバムでした。

あらためてベスト5を振り返ると

1位 MOOD/本日休演
2位 よすが/カネコアヤノ
3位 NOISE CANCEL/ANARCHY
4位 FRUITFUL/堀込泰行
5位 天才の愛/くるり

下期は文句なしの傑作アルバムを期待したいところです。そして、このコロナ禍が少しでも落ち着きますように。

ちなみに過去のベストアルバムは

2007年 年間1 
2008年 年間1  上半期
2009年 年間1  上半期
2010年 年間1  上半期
2011年 年間1  上半期
2012年 年間1  上半期
2013年 年間1  上半期
2014年 年間1  上半期
2015年 年間1  上半期
2016年 年間1  上半期
2017年 年間1  上半期
2018年 年間1  上半期
2019年 年間1  上半期
2020年 年間1  
上半期

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2021年8月 1日 (日)

2021年上半期 洋楽ベスト5

毎年恒例の私的ベストアルバム上半期ベスト5。まずは洋楽編です。

5位 Vulture Prince/Arooj Aftab

聴いた当時の感想は、こちら

日本ではまだほとんど無名に近い、ニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動するパキスタン出身の女性シンガーソングライター。ストリングスやアコギを用いたサウンドにトライバルな要素が加わった独特のサウンドが魅力的。そこに載る、彼女の伸びやかで美しいエキゾチックなボーカルがマッチし、その歌声とサウンドに一気にはまってしまいました。ワールドミュージック的な要素を感じつつ、一方では幅広い層にもアピールできるようなポピュラリティーも感じさせる傑作。今後は日本でもその名前を聴く機会が増える、かも。

4位 ENTERTAINMENT,DEATH/SPIRIT OF THE BEEHIVE

聴いた当時の感想は、こちら

なんともいえない馬鹿ジャケのようなジャケ写も印象に残る彼らは、アメリカ・フィラデルフィア出身のインディーロックバンド。ノイズなども取り入れたアバンギャルドなサウンドを繰り広げつつ、一方ではメロディーラインは至ってポップでキュートという点が大きな特徴的。アバンギャルドなサウンドとキュートなメロというアンバランスさはかつてのシューゲイザー系を彷彿とさせる構成でもあり、個人的にはかなりはまってしまいました。

3位 Seek Shelter/Iceage

聴いた当時の感想は、こちら

正直なところ、彼らのアルバムを聴くのは本作がはじめてとなるのですが、既にデビューから13年目を迎え、中堅の域に入るデンマークのポストロックバンドによる新作。マンチェスタームーブメントやブリットポップからの影響を感じさせる前半のグルーヴィーでサイケなサウンドもたまりませんが、後半はフォーキーだったりグラムロックの影響を感じさせる曲もあったりとバラエティー豊富な構成に。ただ全体的に流れるサウンドのグルーヴ感が非常にかっこよく、アルバムをリリースする毎に高い評価を受けているのも納得の、彼らの実力がわかる傑作アルバムでした。

2位 NINE/SAULT

Nine

聴いた当時の感想は、こちら

2020年にリリースされた2枚のアルバム「Untitled(Black is)」「Untitiled(Rise)」が2枚同時に2020年の私的ベストアルバムベスト10にランクインするなど、すっかりその魅力にはまった、イギリスの「謎」のユニット、SAULTの新作。なんと本作は、リリース及び配信期間がわずか99日という期間限定リリースの作品に。しかし本作も、前作同様、ループするサウンドやサンプリング、HIP HOPなどの今どきな要素を取り入れ、かつファンク、エレクトロ、ポップ、ソウル、ゴスペルなど多彩な音楽性を上手く楽曲の中に取り入れている文句なしにカッコいい傑作に仕上がっていました。年間ベストでも上位に食い込むこと間違いなしなのですが、その時はもう、聴けなくなってしまっているんだよなぁ・・・。

1位 ULTRAPOP/The Armed

聴いた当時の感想は、こちら

そして、上半期1位を獲得したのは、アメリカはデトロイト出身のハードコアバンドThe Armedのニューアルバム。彼らも2009年デビューという中堅バンドなのですが、今なおその勢いを感じさせます。そんな彼らの新作は、ヘヴィーでノイジーなハードコアサウンドにエレクトロのサウンドを加えてくるというカオスなサウンドが耳を惹くのですが、ところどころ、狂おしいほどポップなメロディーを入れてきている点が大きな魅力。「ULTRAPOP」というタイトルが皮肉でもなんでもない、非常に魅力的なポップのアルバムになっている作品。サウンドは狂暴なサウンドでありながらも、聴き終わった後は、ポップだったな・・・と感じてしまうような、そんな不思議な魅力あふれる傑作でした。

ほかのベスト盤候補は・・・

Chemtrails Over The Country Club/Lana Del Rey
Deacon/serpentiwithfeet
Menneskekollektivet/Lost Girls
New Long Leg/Dry Cleaning
ENDLESS ARCADE/TEENAGE FANCLUB
Afrique Victime/Mdou Moctar
Cavalcade/black midi

うーん、正直言うと、今年上半期、全体的に「これ」といった傑作は少なかったように思います。上位5枚にしても、その次のベスト盤候補にしても、確かに年間ベストに十分食い込むことが出来そうな傑作であることは間違いないのですが、ただ、これといってずば抜けた傑作は出会えなかったような・・・。率直なところ、全体的にちょっと物足りなさすら感じてしまう今年の上半期でした。

さて、あらためて上半期ベスト5を並べると

1位 ULTRAPOP/The Armed
2位 NINE/SAULT
3位 Seek Shelter/Iceage
4位 ENTERTAINMENT,DEATH/SPIRIT OF THE BEEHIVE
5位 Vulture Prince/Arooj Aftab

コロナ禍の厳しい状況はまだ続いてしますが、そんな閉塞感ある毎日の中、これらの傑作が、少なからずみなさまの心の癒しとなりますように。

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